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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.09 仲間と共に挑む昇級をかけた寮対抗戦!

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10 因縁の対決

 寮対抗戦の2日目。
 3本の旗を有する夏寮は防衛に徹した。
 攻撃する冬寮&春寮にとっては悩ましい限りだ。一カ所に戦力を集中されていて、生半可な攻撃では崩せない。それに相手は守るだけで優勝出来るのだ。

「初手からやられたわね……」

 冬寮の陣地で寮長のルルキスは折り畳み椅子に座り、形の良い脚を組みながら爪を噛んだ。本日は生憎の雨模様で、天幕の外では霧雨が降っている。
 各陣地には休憩用の小屋があるが、生徒の数が多いので入りきらない。そこで寮対抗戦で陣地を守る生徒達は簡単なテントを張って、椅子や机を持ち込んで作戦会議をしていた。
 冬寮はここ数年ずっと寮対抗戦で一位だった。そのため今回の夏寮の思わぬ反撃に、冬寮の生徒達は驚いている。
 天幕の中は浮かない雰囲気だ。
 副寮長のクリストルも険しい顔をしている。

「ロンド、何か手は無いか?」
「そうですね……」

 副寮長に聞かれて、ロンドは腕組みして考え込んだ。
 今のところ、教師立ち会いのもと決闘やチーム戦を挑んで、勝ったら旗を寄越せと言う他ない。籠城されているので不意打ちや乱戦は仕掛けにくい状況だ。実際の戦争なら、夜に仕掛けたり、敵の補給を絶ったりするのだろうが、それは寮対抗戦ではできない。
 寮対抗戦は生徒に団体戦を経験させる主旨であって、戦争のデモンストレーションではないのだ。夜の不意打ちなどを許可すれば、教師も管理できず死者が出る可能性がぐっと高まる。
 そのような訳で夜は寮に帰って寝なさい、という規則になっている。中途半端に生ぬるいが、学校教育なので仕方ない。

「寮長同士の一騎打ちなら、旗を出せと言っても通ると思いますが」
「セファンは受けるかしら」
「そこは流石に受けるのでは。彼にもプライドがありますし」

 受けないと面目が立たないだろう。
 決闘を提案すると、ルルキスは意を決したように立ち上がった。

「そうね、それしかないわ。今日はうってつけに天候は雨……」

 ルルキスは天幕の外を透かしみて微笑んだ。
 彼女とステファンは水竜。
 雨天は彼女達の舞台だ。





 冬寮から寮長同士の一騎打ちの申し込みがあった。
 寮長の面目に掛けてセファンはこの勝負を受けざるえない。
 しかし、以前にカケルと打ち合わせた通り、セファンは勝負に条件を付けた。

 タッグマッチの空戦。

 軍で運用の研究が始まったばかりの、二頭の竜と二人の竜騎士がお互いの死角を補いながら戦う戦術だ。学内の模擬試合では初の試みかもしれない。
 新しいもの好きなルルキスは条件を呑んだ。
 戦うのは互いに魔力レベルAの竜、しかもタッグマッチとあって、見たことのない戦いになるかもしれないと生徒達は期待に胸を踊らせる。教師達も例のない試みなので複数人を張り付けて監視し、重傷者が出てもすぐに治療できるよう、態勢を整える念の入りようだ。

 一方、大空で行われる華やかな空戦と同時進行で、地上でも戦いが始まろうとしていた。

「スルト先輩」

 声を掛けられてスルトは後輩を振り返る。
 後輩のオルタナはぶっきらぼうに言った。

「勝って下さい」
「当たり前だ」

 スルトは後輩に頷いてみせる。
 冬寮は夏寮のメンバーの何人かを名指しで、1対1の陸戦を申し込んできた。その中にはスルトへの対戦申し込みもあったのだ。
 対戦の相手はハノイ。
 ちょうど良い機会だ。ずるずると引きずってきた因縁に、ここらで決着を付けたい。スルトは自身の特徴的な死神の鎌のような鋼牙ファングを手に持って、ハノイと向かい合う。
 対戦の場所は校庭の隅。
 外は霧雨が降っていて、観戦者は合羽を着たり傘をさしていたが、スルトとハノイは雨に打たれるままだ。戦いの邪魔になるので、雨具を使えないのだ。
 後輩のオルタナをはじめとする夏寮、冬寮の観戦者からなるべく距離をとって、スルトは相手にだけ聞こえるよう低く潜めた声で呼び掛ける。

「ハノイ、聞きたいことがある。何でお前は、人間の癖に陸戦科を志望したんだ?」

 それはカケルに指摘されてから、ずっと気になっていたことだった。
 直剣の形をした鋼牙ファングを正眼に構えたハノイは、スルトの問に驚いたように目を見開き、次に怒りの形相になった。

「なんで今更そんな事を聞くんだ」
「いや、お前、昨日アーウィンの怪我にやたらこだわってたから気になって」
「やっとか……知ってる奴は知ってるのに、君は本当に僕に興味が無かったんだね。あれだけ側にいたのに、君はちっとも僕の事を知らない」

 詰るように言われてスルトは困惑した。
 スルトにとって、ハノイはたまたま寮が同じで行動を共にすることが多い、ただの級友だった。相手は自分に執着していることは知っていたが、特別に気が合う訳でもないハノイは単に鬱陶しいだけだった。
 繊細な容姿の割にずぼらで、興味のないことは記憶から抜けるスルトは、ハノイの事情に気付いていなかったし、興味も無かった。
 しかし無関心が級友を傷付けていたのだとしたら。
 何と返そうか迷っている内に、ハノイは言葉を続ける。

「僕の家は代々、獣人で陸軍の軍人だ。君と同じだよ。だから僕は自分は獣人になるのだと当然のように思っていた。だけど、数年前に受けた適性審査で、僕は獣人にはなれないということが分かった……」

 18歳前後の成人の種族選択は、望んだ種族になれない場合もある。
 スルト自身はごく自然に種族を選び、選んだ種族にいつの間にかなっていた。種族の選択でつまづく者もいると、知識では知っていても、今まで身近にいなかったから気付かなかったのだ。

「当然のように獣人になった君には分からないだろう、僕の気持ちは!」

 叫んだハノイが剣を叩きつけてくるのを、スルトは下がりながら自分の鋼牙ファングで受け流そうとした。
 雨でぬかるんだ地面で足が滑る。
 スルトはハノイの気持ちが理解できないまでも、相手の激しい感情のほとばしりを前に動揺していた。集中を欠いた状態で、足元の状態に気付くのが遅れたのだ。

「スルトっ!」

 誰かの叫び。
 懐に踏み込んで剣を振りかぶるハノイ。
 視界が真っ赤に染まる。


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