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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.09 仲間と共に挑む昇級をかけた寮対抗戦!

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07 陸のソレル

 一方の地上のスルトとオルタナは地上で冬寮の襲撃部隊と相対していた。
 ロンド逹が竜に乗って飛び立った後、木陰からわらわらと冬寮の面々が現れる。もうバレているのだから身を隠す必要は無い訳だ。
 敵の数は十数人で、対するこっちで戦えるのはスルトとオルタナだけ。

「けっ、決闘にしなさいっ、決闘に!」

 研究科のウィル先輩が張った守護結界の中で、へっぴり腰のヅラ先生が喚いた。
 大人数とそのまま戦えば、負けるのは目に見えている。ヅラ先生の言う通り、決闘方式で1対1で戦えば、こちらの不利にはならないだろう。しかし、相手が決闘をさせてくれるかどうか。
 寮対抗戦は一応ルールもあるし、戦いには教師が立ち会って採点することになっている。けれど実際は、そんなお行儀良く戦うばかりではない。不意打ちやルールを無視して相手を物理的に戦闘不能にする戦いもあって、教師は重傷者が出ない限りはそれを見逃している。
 敵さんには、わざわざ自分たちに不利な決闘をする理由が無い。
 スルトはオルタナと視線を交わした。

「どうする?」
「……先輩は後ろをお願いできますか」

 オルタナが前に進み出ながら、腰の二本の鋼牙ファングを抜く。
 形と長さの違う二本の短剣を両手にそれぞれ構えた。
 スルトも携帯している鋼牙ファングを手に取った。長い柄で先端に鎌のような刃が付いたそれは扱いが難しい折り畳み式だ。手慣れた動作で瞬時に組み立てて構える。
 武器を構えたこちらの様子を見て、冬寮の生徒も臨戦態勢に入る。

「お前が噂のソレルか。ちょっとばっかし腕が立つからって3年生の分際でいきがるなよ。今日は陸戦について俺が早めに教育してやるよ」

 残った冬寮の面々でリーダー格と思われる体格の大きな男子生徒が、幅広な刃の長剣を担いでニヤニヤ笑う。見覚えのある顔だ。確か陸戦科の5年生だったか。
 スルトは彼の台詞を聞いて吹き出しそうになった。
 彼はオルタナを井の中の蛙だと考えているらしい。しかし、実際は逆だと言うことを、彼はすぐに思い知ることになるだろう。
 冬寮の面々を見回すと無表情のハノイを見つけた。
 視線が絡み合う。
 スルトは何も言わない。向こうも特別、何か言ってくる気配は無い。

「っ!」

 じりじりと距離を詰めてくる冬寮の面々を前に、オルタナが鋭い呼気を吐いて地を蹴った。そのまま真っ直ぐに長剣を持ったリーダー格の5年生に剣を突き出す。

「それで不意打ちのつもりか……何?!」

 幅広い長剣で剣先を弾こうとした5年生は驚愕の声を上げた。
 細く短めの剣は、一見軽く、攻撃力が低いように見える。
 だから簡単に弾き返せると思っていたのに、オルタナの剣は倍以上ある長剣を逆に押しのけた。驚いた5年生は本能的に一歩下がる。
 続けて放たれた第二撃が肩の首に近い部分をかすって、彼はぞっとした。
 後輩の剣には殺意のようなものが混じっていたからだ。
 オルタナの真紅の瞳は冷たさと熱さの両方があった。
 剣が重い。

「おい、殺す気かっ」

 思わず口走る冬寮の5年生。
 叫びを聞いたスルトは口角を上げる。何を今更。模擬戦といえど、勝負は常に実戦を想定してやるものだ。オルタナは実戦を想定しているだけなのである。
 数週間前の基地占領事件で、オルタナは実際に敵国の兵士と戦い、その命を奪った。その戦いの経験が彼の剣に影響を与えている。
 命のやり取りをする覚悟と気迫。
 以前も鋭かった剣先は、今や触れれば切れそうな威圧感を持っていた。

「糞っ」

 冬寮の5年生は後輩を侮っていたことに気付き、真剣に戦いに集中しようとしていた。長剣を振り回して、オルタナを間合いの外へ押し出そうとする。冬寮の他の生徒も彼を援護しようとしていたが、あまりに速い斬り合いの最中に入っていくことが出来ず、手をこまねいている。
 数合の剣戟の後にオルタナは彼の懐に潜り込んだ。
 片方の剣で敵の長剣を逸らして、もう片方の剣で胸を突く。模擬戦で機能制限されている鋼牙ファングだが、全く切れ味が無い訳ではない。
 鋭い剣が脇腹に突き刺さる。
 急所は避けていても腹に穴が空き、血が吹き出した。
 戦意を失った5年生は腹を抱えて後ずさる。

「……かかってこいよ」

 それまで無言だったオルタナが居並ぶ冬寮の生徒達を見回して宣言する。
 血濡れの剣を提げた彼の姿に、何人かは息を呑んで動きを止めた。

「来ないなら、こっちから行くぞ」

 オルタナは冷笑する。
 唇の端から鋭い犬歯がちらりと覗いた。

 そのままオルタナは無造作に踏み込んで、冬寮の他の生徒に斬りかかっていく。
 リーダー格の5年生が無惨に敗れて血を流しているのを見て、自分は痛い思いをしたくないと思った生徒達は後ろに下がる。
 また、彼等は猛獣のような気配を漂わせるオルタナに気圧されていた。
 前線はオルタナによって崩れ始めている。リーダー不在で統率を失った冬寮の生徒達は、次々とオルタナの二刀の餌食になっていく。

 だが、そもそも冬寮の生徒達の目的は、オルタナを倒すことではなく、夏寮の旗の奪取だ。
 冷静な一部の生徒達はそれを思い出していた。
 彼等は猛烈に暴れるオルタナを遠巻きに回り込んで、後ろにいるスルトに接近している。
 その中にはハノイの姿もあった。

「一人で大丈夫、スルト?」

 ハノイが声を掛けてくる。
 その声には微かな愉悦が漂っている。

「新しいチームでも、一人なんだね。強がってないで、戻っておいでよ。また僕と一緒に戦おう」
「いらねえよ、糞ったれ」
「いい加減、僕の言うことを聞いて欲しいな。一人で頑張っても何にもならないよ」
「……うるせえ、もう黙れよ。それに勘違いしてるようだが」

 スルトは笑って空を見上げた。

「俺は一人じゃない」

 ざあっと風が吹く。
 空より蒼い竜が低空飛行して上空を駆け抜けた。
 その瞬間に強い突風が巻き起こる。
 強風は器用に冬寮の面々だけを吹き飛ばしてのけた。
 近寄ってきていた冬寮の生徒達は風に体勢を崩したり、木々に叩きつけられたりする。あっという間に、そこに立っているのはスルトとハノイだけになった。

「ハノイ。俺は正直、独りだろうがチームだろうが、どっちだって良いんだよ。それにこだわってるのは、お前の方じゃねえか」

 指摘してやると、ハノイは虚を突かれたように目を見開いた。
 その表情が歪んでいく。


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