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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.09 仲間と共に挑む昇級をかけた寮対抗戦!

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01 スルトの過去

 善意が人を傷付けることがある。
 だからスルトは、下手な同情や慰めは真っ平御免だと思っている。

 あれは、一年前の冬の終わり。
 寮対抗戦の時だった。

 当時のスルトは冬寮に属していた。
 冬寮は強烈な個性を持つルルキスという魔力レベルAの竜のもと、一丸となっていたが、集団行動の苦手なスルトはその雰囲気に馴染めずにいた。

 スルトは大柄な体格の者が多い獣人の中では目立つ華奢な体格で、背も低く、顔も童顔でよく女子に間違えられる。さらさらと癖のない白銀の髪も、澄んだ湖の色の瞳もそれに拍車を掛けている。
 散々女子に間違えられるスルトは、それを自分の武器だと受け入れつつも、外見に騙される他者を嘲笑う、ひねくれた難儀な性格に育っていた。
 だからスルトは集団行動が大の苦手だ。

 冬寮では一応、適当なチームに入っていたが、チームの中でもどうにも浮いた感じが拭えなかった。
 ただ、チームメイトで人間の癖に陸戦科に所属する、ある男子生徒だけはやたらスルトに好意的だった。

「お前は優しい良い奴だよ。皆、分かってないんだ」

 彼はハノイという名前だった。
 穏やかな性格でいつも困ったように微笑んで、スルトに付きまとう。本音を言えば鬱陶しかった。お前は俺の何を知っているのかと言いたかった。
 けれど振り払う理由もなくて、ずるずると惰性で付き合いを続けていた。
 それがいけなかったのか。

 去年の寮対抗戦の最中、白兵戦でスルトは一学年上の獣人の生徒と戦った。
 相手は学内でも有数の使い手で、腕に自信があるスルトでも荷が重かった。
 寮対抗戦は実戦形式なので、機能制限した鋼牙ファングを使うことが認められている。スルトは小柄な身体なので相手とのリーチ差を補うため、槍に似た柄の長い武器を愛用している。先端に特徴のある曲がった刃が付いている形状は、死神の鎌のようにも見えた。
 これを勢いよく振り回している、スルトの半径1~2メートル範囲に入るのは大変危険だ。
 しかし愚かな友人は、よりによって格上の相手と戦闘中で余裕が無いスルトの間合いにのこのこ入ってきてしまった。援護してくれるつもりだったらしい。大した腕もない癖に、本当に余計なお世話だ。

 一瞬のことだった。
 湾曲する刃は友人を切り裂き、鮮血が飛び散った。

 戦っていた相手も、自分も、びっくりして動きを止める。
 ハノイは血が溢れる腕と腹を押さえ、やっぱり困ったように微笑んだ。

「……お前は悪くないよ。俺が悪いんだ。余計なことをしたから」

 その通りだ。
 どこまでも善意溢れる友人面したこの男を、スルトは心底嫌いだと思った。
 ハノイを罵りたかったが、状況はそれを許さなかった。孤立していたスルトより、協調性のあるハノイの方に同情票が集中しているようで。同級生達の冷たい視線に背を向けて、スルトは歩き出した。
 彼はそのまま入院し、学校に戻って来ていない。
 見舞いに行こうとは思わなかった。
 不慮の事故とは言え仲間を傷付けたスルトは、マイナス評価を受け、一年留年して4年生を続けることになった。




 あれから一年経つ。




 事故がきっかけで、スルトは冬寮から夏寮へ移った。
 どうせ孤立するのだからと開き直ってチームに属さず、独りでいたのだが、夏寮の寮長セファンはルルキスと違ってスルトにそれほど協調性を求めない。おかげで予想外に居心地が良い。
 しかし、そろそろ因縁の寮対抗戦の時期だ。
 去年の事件のこともあるし、形だけでもチームに属していないと、昇級を認めて貰えないだろう。二年連続の留年はさすがにまずい。

 問題が起きなそうなら、どこのチームでも良いかと思っていたのだが、やっぱり良く考えて所属するチームを決めた方が良いのかもしれない。
 目の前の光景は非常に平和なのだが、突っ込みどころが多すぎる。

「お座り……伏せ!」

 ストロベリーブロンドの美少女が腕を振り下ろして合図する。
 合図に合わせて空色の竜が座ったり、腹這いになったりしている。
 竜の長いコバルトブルーの尻尾が左右に揺れている。
 どうやらこの状況が楽しいらしい。

「イヴ……何やってるの?」

 あまりにも馬鹿らしくてスルトには出来なかった質問を、前で見ていた緑の髪の大人しそうな女子生徒がしてくれた。彼女は確か、リリーナと言う名前だった。
 イヴと呼ばれた女子生徒が振り返って、腰に手を当てて偉そうなポーズを取った。

「良い質問ね、リリーナ。今この馬鹿を躾けてる真っ最中よ。見て分からない?」

 分かる訳ねー。
 ここから見えるのはリリーナの後ろ姿だけで、その表情は分からないが、彼女が答えに困っている事だけは分かる。

「ええと、イヴ、私達は寮対抗戦でチームとしてどう戦うか話し合うために集まったんじゃ?」

 これまた良い質問だ。
 そう、俺達は別に阿呆の大道芸を見物するために集まった訳ではない。

「チーム戦だから、特に暴走しそうなこの馬鹿を先に調教しとこうと思って」

 恐ろしい回答だ。
 なぜサーフェスは嬉々としてこいつの暴走に付き合ってるんだ。
 隣で黙り込んでいた同じ獣人の男子生徒、オルタナが面倒くさそうに口を開いた。

「……おい、アラクサラ。お前、阿呆に毒されてるんじゃねえか。カケルの奴、喜んでるようにしか見えねえぞ」
「おかしいわね……」

 一同の視線の先で、蒼い竜は金色の瞳をキラキラさせて尻尾をぶんぶん振った。
 無言の声が聞こえてくるようだ。

 構って!僕に構って!

 頭痛がしてくる。

「あー。用が無いなら俺は帰らせて貰うぞ」

 スルトは音を上げた。
 今までもチーム戦の打ち合わせに参加することがあったが、これは経験した中で一番訳の分からない打ち合わせだ。何しろリーダーの竜は女子に尻尾を振っているだけで、会議を始める気配すらない。

「はあ。俺もそろそろバイト行くか」
「ちょっとソレル!」
「アラクサラ、その馬鹿の躾が終わった後に声掛けろよ。時間の無駄だ」

 短い金髪をがしがし掻きながら、オルタナが紅眼を眇めて言い放つ。
 そのまま返事を待たずに背を向けて歩き出した。
 スルトもとっくに別方向に歩き出している。
 背後でイヴがぷりぷり怒って叫んでいる。

「あんたたち、ちょっとは協調性を身に付けなさいよ!」

 言いたかないけど、それはこっちの台詞だぜ。



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