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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる

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12 ただいま

 カケル達が空戦を実施したのは、週末のことだった。
 週が明けた日の夜、3年の学年主任のパレアナ女史は職員会議に出席していた。

 エファランは別に男尊女卑というわけではない。しかし教師は男性の方が多く、女性で役職のパレアナは目立っていた。輪になるように並んで座っている大多数は、壮年の男性だ。
 パレアナはトントンとペン先で紙をつつく。
 定例会議はお定まりの事項を確認するだけの集まりだ。目立って新しい議題はない。それなのに男共は無駄話をして会議を長引かせる。
 要点だけ話してさっさと終わって欲しいものだ。

 しばらくして、会議が終わりに近付いたのを感じて、眉を寄せる。ちらりと横目で冬寮の管理をしている男性教師を見た。
 彼は黙り込んで発言しようとしない。
 これはやはり援護射撃が必要か。

「…他に議題は無いですか。無ければこれで…」
「ちょっと待ってください」

 パレアナ女史は終了しようとしている会議に待ったを掛けた。

「冬寮の寮生で、他寮に移りたいと言っている生徒がいると聞いたんですが」

 そう言って冬寮の担当教師を見ると、彼はぎくりとした表情で慌てている。
 彼はおそらく、カケルの件を報告せずに握り潰すつもりだったのだ。
 放っておけば素知らぬ顔で平然とカケルに「君を夏寮に戻そうと努力したが駄目だった」と嘘を言っただろう。そして普通の生徒ならそこで諦めるか絶望する。
 しかしカケルは残念ながら普通の生徒ではない。
 あれは七司書家が生み出した天才。口八丁で大人と渡り合う百戦錬磨の強者。
 羊の皮を被った狼だ。

「え、ええ…しかし、会議で報告することでもありません。私の方で説得します」

 冬寮の担当教師はしどろもどろに弁解する。
 彼を横目に見ながらパレアナは淡々と言った。

「前回の寮対抗戦では冬寮の圧勝でした。その他寮に移りたいという生徒は、魔力レベルAの風竜なんですよ。冬寮には魔力レベルAの竜が二頭。これでは余りに不公平ではありませんか」

 パレアナの発言に、冬寮以外の寮を担当している教師が反応する。

「それは本当ですか?」
「う…」

 もはやこの話題は避けて通れない。冬寮の男性教師は渋い顔をして、あれこれ言い訳を始める。夏寮にはセファンという魔力レベルAの竜もいる。本来は戦力を分散して春寮や秋寮に入れたいところだが、春寮は既に魔力レベルAの地竜がいて、秋寮は施設老朽化のため生徒数を減らしているところだ。
 結局、激論の末、カケルを元の寮に戻すことが決定された。






「ただいまー」

 カケルは誰もいないと分かっていたが、久しぶりの夏寮の自室を見回して思わず呟いた。

 やっと本当に帰ってきたんだ。長かったな。
 三カ月ぶりくらいか。

 ルームメイトはそこそこ勝手に散らかしたらしく、共用の居間には雑誌やら菓子袋やらが散らかっている。
 夕日の射し込んだ部屋はがらんとしているが、人が住んでいる気配があって寂しくなかった。ルームメイトのオルタナはどこかに出掛けているのか、まだ帰ってこない。

 持ってきた荷物をその辺に放り出し、散らかっている雑貨を脇にのけて、居間のソファーに転がる。めんどい。疲れた。このまま寝たいなー。

「……片付けてから寝なさいよ」
「イヴ」

 うとうとしていたカケルは、薄く目を開けた。
 玄関口の開いた扉からストロベリーブロンドの女子生徒が顔を覗かせている。夕日に照らされて金髪が柔らかい茜色に染まっていた。

「動きたくなーい」

 起き上がるのも面倒だと、動かずに告げる。
 軽い足音がして、彼女が部屋の中に入って来た気配がした。
 ソファーの上に影が落ちる。

「辞書を上から落とすわよ」

 重そうな辞書を掲げた彼女の姿にカケルは頬を引きつらせた。
 あれが落ちて角っこが当たったら痛いだろうなあ。
 そうだ。

「ちょっ、カケル?!」

 君がいけないんだよ。男子の部屋に入って来るから。
 カケルは素早く彼女の腕を捕まえて辞書を取り上げ、腰を引き寄せると、体勢を入れ替えた。
 ドサッと辞書が床に落ちる。
 ソファーに横たわって目を丸くした彼女の上に跨がる。

「ふふふ……形勢逆転。どうしちゃおうかなー」

 含み笑いを漏らすと、驚いていた彼女はすぐに我に返った。眉根を寄せて反論してくる。

「馬鹿。出来るもんならしてみなさいよ。これ以上する気があんたにあるんならね」

 うわあ、お見事。読まれちゃってるよ。
 確かに妖しい体勢には持って行ったものの、彼女に不埒な真似をする気はない。まだ彼女の人生を背負う覚悟は無いのだ。帰ってきたものの、本当に契約するかどうかは未だに悩んでいる。
 苦笑すると、イヴが手を伸ばしてきた。

「何?」
「髪の色、暗いから硬いかと思ったけど、案外柔らかいのね」

 細くて白い指がカケルの紺色の毛髪をそっと梳く。
 されるがままになりながらカケルは猫のように目を細めた。

「イヴ…」
「何よ?」
「やっぱヘンドリック先輩とは駄目だったよ。俺はイヴが良いみたい」

 ねえ、俺の竜騎士になってよ。

 自分から断った癖に、図々しくも懇願してみる。
 カケルを見上げる空色の瞳が潤んで、頬がほんのり赤く染まった。
 馬鹿。桜色の唇がそう声にならない言葉を紡ぐ。
 なんだか不思議に褒められたような心地になって、カケルはウキウキした。自分でもどうかしてると思う。

「キスしていい?」
「いっ、一々聞かないでよ!」

 えー、前は許可とれって言った癖に理不尽な。
 しかし、反論を了承だと受け取ったカケルは上半身を屈めてイヴに近付いた。
 ソファーの上で二人の影が重なる。

「……そこまでだ」

 低い声に顔を上げる。良いところだったのになあ。
 部屋の中を覗き込んだ寮長のセファンが苦い顔で告げた。

「うちの寮は不純異性交遊は禁止だ」
「…りょ、寮長っ、これはそのっ」
「ええー、そりゃないよー」

 カケルの身体の下でイヴが焦って赤い顔で慌てている。
 一方のカケルは平然と唇を尖らせて言った。

「酷いですよー無理ですよー。同じ建物の中に好きな女の子がいたら、気になるじゃないですかー」
「なっ?!」

 余りにも明け透けな物言いにイヴは絶句して固まってしまった。

「そうは言ってもな…」
「だいたい寮長はどうなんですか。そういうことしたい時って、どうしてるんですか?」

 後輩の質問にセファンは咳払いした。

「ごほん。あー、そういうことは後でこっそり聞け。というか、今度の寮対抗戦で優勝できたら、その飲み会の時に教えてやるから」
「え、本当ですか?俺頑張っちゃおうかなー」

 ふわふわ笑うカケルの下で、イヴは怒りに震えた。
 なんてデリカシーのない……。

「……いい加減に」
「え?」
「退きなさいっ!!」

 思いっきり上に突き上げた膝が男の急所を直撃する。
 「ぐえっ」と蛙の潰れたような声を出してカケルは悶絶した。
 そのまま彼女はカケルを払いのけて床に落とすと、足音も高く部屋を出て行く。セファンは涙目で睨む少女にぎょっとして道を開けた。
 イヴがいなくなった部屋には、急所を抱えて呻くカケルだけが残される。

「……何やってんすか、寮長。それにカケルお前帰ってきたのかよ」

 ルームメイトのオルタナが、困ったように部屋の出入り口で立ち尽くす寮長を見て不思議そうにする。ちょうど帰ってきたところらしい。

「オルト、おかえりー…」
「お、おう」

 芋虫のように床の上でのた打つカケルを見て、オルタナは顔を引きつらせた。

「オルト……俺、イヴとあーんなことやこーんなことをしたいから頑張るよ」
「……」
「…ソレル、サーフェスはこの部屋でアラクサラを押し倒していた。これはアラクサラの反撃の結果だ」

 オルタナは寮長のセファンと目を見合わせて首を振った。
 馬鹿に付ける薬は無いのだ。








 Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる 完

 Act.09 仲間と共に挑む昇級をかけた寮対抗戦! へ続く

やっと書きたかったいちゃラブに近付いてきた……と思ったら、カケル君の不用意な発言でいつもの結末に。でもちょっとずつ仲良くなっていってます。
次章はカケル君チームがお世話になった冬寮の皆さんとバトルします。
お楽しみに。

【お知らせ】
本編と一緒に並べられない番外編を置く場所をカクヨムに作りました。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882684281
※未来の話などもあるので、注意して読んで下さい

+注意+
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