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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる

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11 勝っても負けても

 急降下する蒼い竜は、先ほど放った雷攻撃で怯んでいる銀の竜に肉薄する。
 ヘンドリックはインクの入ったボールを手で握って放り投げる。

「そいやっ!」

 間抜けな掛け声だが許して欲しい。
 呪術の補助を受けてボールは綺麗に銀の竜の背に着地するコースで飛んだ。
 クリストルが展開している光盾イージスはちょうど時間切れ。
 防御力が途切れるタイミングの上、銀の竜も雷光で視力が落ちている。
 ベストタイミングに思われたが。

『ふっ』

 銀の竜は瞳を閉じたまま身体を捻って、長い尾でボールを叩き落とす!

「そんな…」
「真に優秀な竜と竜騎士は、決して肉眼には頼らない」

 クリストルが冷静に宣言して呪術を展開する。

氷雨アイスレイン
守護シールドっ!」

 反撃を何とか防御の呪術で防ぐ。しかし、続いて襲いかかる銀の竜の尾の一撃で、守護シールドは粉々に砕け散った。

「チェックメイトだ」

 いつの間に攻撃を受けていたのか。
 頬に飛び散るインクの生暖かい感触。
 上空でクリストルが勝利宣言をした。
 睨み合った二頭の竜は動きを止めている。
 勝負は決した。

「そうか、守護シールドを破られた瞬間に…」
「余力は常に残しておくものだよ。ヘンドリック君」

 クリストルがクールに肩をすくめてみせる。彼は銀の竜の尾による攻撃と同時に、並列で呪術を実行していたのだ。ヘンドリックには同時に2つの呪術を実行することはできない。二級戦務呪術師の面目躍如といったところだ。
 負けてしまったか。
 ヘンドリックは悄然とした。

『ドンマイ、先輩』
「というか、お前が言い出した戦いだろうっ!?」
『そうだっけ?』

 可愛く小首を傾げてみせる蒼い竜。
 いったいこいつは何なんだ。
 対面するクリストルも、蒼い竜の台詞を聞いて微妙な顔だ。

『と、とりあえず校舎に戻るわよ』

 ルルキスが銀色の尻尾を振って、先導して飛び始める。
 蒼い竜も後を追って、校舎の屋上に着地した。

 屋上では、カケルが勝つという大穴に賭けた生徒達が地団駄を踏んで悔しがっていた。だが、生徒の多くはルルキスが勝つ方に賭けたため、特に儲かった生徒も損した生徒もおらず、そこまで騒がしい訳ではない。
 チョコレートの権利云々は、言い出しっぺのシリカが責任を持って全員分作るということで決着したようだ。生産科の彼女は料理が得意なので最初からそのつもりだったのかもしれない。

「……終わりか?なかなか見応えのある戦いだったな」

 パチパチと拍手して、階段を上がって男性教師が顔を出す。
 彼はこの空戦に許可を出した、冬寮の管理担当教師だ。学生同士の対戦は、教師の誰かが必ず監督する事になっている。
 竜への変身を解いたカケルは、ざわめく生徒達の間を通り抜けて教師に近付く。

「先生~!」
「おお、サーフェス。見事な戦いだったぞ。もういっそ冬寮でいいんじゃ…」
「嫌だなあ先生。約束守って下さいよ。」

 にこにこ笑顔で後輩の竜はとんでもない発言をする。


「俺が負けたら夏寮に戻してくれる約束でしょ」


 ……はい?
 お前は勝ったら夏寮に戻りたいって言ってなかったか。


 ヘンドリックは知らなかったが、その教師はカケルに冬寮に移るように言った教師である。
 実はカケルは冬寮に移るにあたって保険を掛けていた。


 --先生、情けないですが突然冬寮へ移ってうまくやってく自信がありません。
   もしうまくいかなかったら夏寮に戻っていいですよね?


 深刻な顔をした生徒にそう訴えられて、教師は「まずは頑張ってみろ。それで駄目なら考えてやる」と答えた。
 実際、ヘンドリックが数日前までカケルを無視していたので、カケルの嘆願は説得力を持つものになった。「頑張ってヘンドリックと飛んでみるが、うまくいかなかったら夏寮に戻してくれ」と再三訴えられた教師は、そのしつこさに負けてつい首を縦に振ってしまったのだ。

 当然ルルキスもその辺の事情を知らない。
 彼女は流麗な眉を釣り上げてカケルを詰問した。

「な?!貴方、私に勝ったら夏寮に戻してくれって言ってたじゃないの」
「そうですね」
「言ってることが逆じゃないの!」
「やだなあ先輩。ヘンドリック先輩と俺のペアでうまくいかないことが、この空戦で証明されましたよね?俺がお願いしたことは見極めで、夏寮云々はついでですよ」

 冬寮の寮長ルルキスはぽかんとした。
 あまりの二枚舌に周囲の生徒も絶句している。
 ヘンドリックは笑った。後輩の竜にここまで振り回されるとは。
 だが不思議と腹は立たない。カケルは真剣に自分を励まし、空戦も手を抜かなかった。そのことが分かっていたからだ。

「先生、こんないい加減な竜は冬寮に要りません。とっとと夏寮に戻してやってください」

 ヘンドリックは男性教師に向かって言う。
 男性教師は戸惑ったように生徒達を見回した。

「それでいいのかね?君の竜は…」
「俺の竜は俺自身で探します。余計な事をしないで下さい」

 強い口調で宣言するヘンドリック。
 睨まれた教師は口をパクパクして答えに困っている。
 その時、冬寮の生徒達を掻き分けて、オレンジ色の髪の背の高い青年が現れた。
 彼は夏寮の寮長のセファンだ。

「先生、この阿呆な竜はうちで再教育するんで、夏寮に戻して下さい。……それでいいな?ルルキス」
「ええ。我が冬寮には彼は必要ありません」

 長い銀髪をふぁさりとかきあげてルルキスが冷たく言った。
 男性教師は顔を引きつらせる。
 ここまで満場一致で頼まれたら、彼としてはこう答えるしかない。

「分かった。次の職員会議で話してみよう」

 ほっと安堵したようなため息の声が聞こえた。
 声の主を探して見回すと、屋上の端にストロベリーブロンドの美少女が立っている。彼女は、ヘンドリックの視線に気付くと、気まずそうにぷいと視線を逸らした。頬が僅かに赤らんでいる。
 もしかしてあれがサーフェスの竜騎士か。
 なるほど、可愛いな。

「ルルキス。次の寮対抗戦は負けねえからな」
「望むところよ」

 夏寮の寮長セファンが宣言する。
 彼はじたばたするカケルの頭を小脇に抱え込んで「お前はちょっと説教が必要だな」と言いながら引きずっていく。
 ヘンドリックはその後ろ姿を黙って見送った。

 こうして、彼等の空戦は一応決着したのだった。


カケル「さて戦いが終わったのでお昼寝をば……」
セファン「待て」
イヴ「待ちなさい。突っ込みどころ満載よ貴方。ちょっとそこに正座しなさい!」
カケル「えーん(泣)俺結構頑張ったのに~」
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