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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.01 君に出会った時から俺の(昼寝)人生設計が崩れ始めた

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07 作戦会議

 ロンドが連絡をしようとした少し前。
 キャンプ地には大勢の学生が合流し、教師たちが勢揃いしていた。その中には学年主任のパレアナ女史の姿もあった。

「そろそろ3年生が全員揃います。残るは……」
「ロンド君が引率する班か」

 クラス担任の確認に、パレアナ女史は頷く。
 既にユルグの駐留部隊には、羽虫フライが出たという通報をしている。彼等もこちらへ向かっていることだろう。

「あまり生徒を待たせるのもどうかと思うので、先に始めますよ」
「そうだな」

 教師たちは、ロンド達を待たずに、学生を整列させて夕食会を始めようとしていた。

 学生や教師が一箇所に集まったとき、不意にバチっと火花が散り、彼等の周囲を赤い光の線が走る。
 光の線は三次元に展開し、学生や教師を閉じ込める巨大な檻を形成した。

「なっ、設置型の術式か!?」

 自身も呪術師ソーサラーのパレアナ女史は、罠に気付かなかった自分に内心歯がみをしつつ、遅まきながら最低限の防御の術式を最速で組み上げる。

 突然のことに慌てふためく学生や教師の足元から、白い靄が発生した。靄は光の檻の中に充満する。
 靄に巻かれた学生達は次々と気を失って倒れた。

 後に残ったのは、咄嗟に防御の術式を展開した、パレアナを始めとする数人の教師と同行している竜、成人の際に獣人や竜を選択した一部の生徒たちだけだった。
 獣人や竜は、人間の姿でも身体能力が高く、呪術に対する抵抗力がある。

 数分で靄は晴れたが、赤い光の檻はまだ展開されたままだ。
 状況を把握しようと努める教師たちの前に、上空から竜が舞い降りた。

「ソルダートの竜騎兵! そういうことか」

 太陽を喰らう狼の紋章を身につけた竜の上から、軍服を着た男が降りてくる。
 ソルダートの軍人と思われる男は、パレアナ達に向かって告げた。

「エファランの諸君! 無駄な抵抗はするな。逃げたり刃向かったりすれば、足元の術式が起動して火だるまになるぞ!」

 脅しの言葉に、パレアナは周囲で慌てる教師たちを制した。
 軍人の男に向かって声を張り上げる。

「私が責任者だ! お前達の望みは何だ?」
「物分かりが良くて大変結構。我々の望みは優秀な生徒だよ。最近、騎竜の数が足りなくてね」

 ソルダートが影でエファランの子供をさらって、自国の諜報員や軍人に仕立てあげているのは有名な話だった。
 しかし、まさかこんな用意周到な罠を張り、竜騎兵まで動員して堂々と誘拐しにくるとは、パレアナも想像していなかった。

「ふむ。畜生もそこそこいるようだな。ペットとして高く売れるかもしれん」
「なんだと? 野蛮な……獣人も竜も人間だ!」
「見解の相違だな。我々からすれば、野蛮なのはお前達の方だ。わざわざ汚染された遺伝子を選び育て、人間を捨てて獣になるのだからな」

 ソルダートは人間至上主義の国だ。
 彼等は獣人や竜を人間と認めていない。本来なら人間の意識があるので、鞍を付けられることを嫌がる竜を、無理やりただの動物として扱っているのだ。
 ここまで考え方が違うと、竜と人と獣人が共存するエファランと仲良くできる理由がない。向かい合う二国の仲が悪いのは、この認識の違いが原因となっている。

 竜も獣人と同様に、人間の姿と竜の姿を行き来できる。
 学校側に運搬のため雇われた2体の騎竜は、人質を取られた状況から人間の姿のまま竜に変身できず、ソルダートの軍人の言葉に嫌悪感を露にしている。

「ついでに優秀な呪術師ソーサラーの卵がいれば、本国に連れ帰ろうと思ってね。今意識が残っている子供たちは優秀なんだろう?」
「くっ!」

 檻の中でどうしようも出来ず、パレアナは呻いた。
 下手に動けば生徒に死傷者がでる。しかし、何もせず指をくわえて生徒が誘拐されるのを見ている訳にもいかない。

 僅かな救いは、あの子供たちがこの中にいないことだ。羽虫フライについて報告してきたロンドと、彼に引率を任せた個性的な面々を思い浮かべる。
 ロンドに引率を任せたのは、エファランの次の時代を担うと各方面から密かに注目されている若者たちだった。ロンド自身も若さに見合わぬ落ち着きから将来有望と見られている。
 それだけに、彼等がソルダートに連れていかれたり、戦いで重傷を負うことは避けたい。しかし、虫に襲われた兄弟を助けに危険な場所に飛び込んでいくような若者たちだ。この事態を知ったらどんな行動に出るか、想像に難くない。

 ――どうか、無事でいてくれ。
   あまり無茶なことはしないでくれよ。

 ソルダートの兵士が数人、竜から降りてきて、意識のある生徒や教師に手錠をかけてまわる。
 自身も呪術を封じる手錠をかけられながら、パレアナは祈りを込めて夜空を仰いだ。






 カケル達は、この峡谷をよく知るラウン青年の先導のもと、近くの洞窟に移動して休んでいた。
 ラウン青年の弟は熱が出たらしく、途中から意識がなくなってしまった。
 病人のために上着などを敷き詰めて簡易の寝床を作り、火を起こして身体が冷えすぎないようにする。

 各自が携帯食料や水を口にしつつ、休憩を取っていると、しばらくして偵察に出ていたロンドとオルタナが帰ってきた。

「キャンプ地は、ソルダートに占領されている」
「まさか……」

 開口一番のロンドの報告に、カケル達はそれぞれ表情を固くした。

「竜が2体に、兵士が10人足らず。人数は大したことねぇが」
「問題は設置されている術式だな」

 敵の戦力を分析するオルタナに、ロンドが補足する。
 ソルダートは人間中心の国なので、呪術師が多く、様々な術式が運用、研究されていた。強力なジャミングに、広範囲に渡る設置型の術式、これらはソルダートならではのものだ。

「キャンプ地の中央に攻撃性の結界が敷かれている。たぶん、術者の意思か、何らかの条件によって、内部の人間に危害を与えるものだろう」
「ロンド先輩、解除出来ないんですか?」

 ロンドはその質問に難しい顔をした。

「出来なくはないと思うが、解除には時間が掛かるし、術式に干渉しようとすれば、敵の術者に気付かれる」

 イヴ達は沈黙した。
 人質が取られているこの状況では、迂闊に殴り込みをかけられない。
 沈黙を破ったのは、カケルの声だった。

「……設置型の術式は、術者本人が近くにいる必要がある。そうだよね、ロンド兄?」
「あ、ああ」

 突然話し出したカケルに、ロンドは戸惑って返事をした。
 何が言いたいのか分からずカケルを見返す。

「設置した術者が、現場で流れ弾にあたって倒れちゃったら、術が解けてしまう。だから設置型の術式の術者は、後方に控えて術式を維持する。つまり……この辺にいるんじゃないかな、術者」

 ロンドをはじめとして、聞いていた面々の顔に理解の色が宿った。

「そうか、お前の言う通りだ。別働隊が付かず離れずの位置で待機している可能性がある」
「それに大人数で潜んでるんじゃなくて、人数を絞ってるんじゃねえか。2人くらいなら倒せるぜ。この辺なら場所も絞れる!」

 オルタナがばさっと地図を広げる。
 キャンプ地の周囲は川と切り立った崖に囲まれている。オルタナの言葉通り、人間が歩ける場所が限られている以上、候補地は絞れそうだ。

「あのぅ」

 後ろからおずおずと、ラウン青年が声をあげる。
 彼は地図のキャンプ地を指して言った。

「このキャンプ地なら、抜け道を通って中に入れますよ」
「何!? どこからだ?」
「水の中を通って。この辺の川は水中に洞窟が出来ていて、繋がってるんです」

 地元に詳しい者ならではの情報に、オルタナは目を輝かせて詳細を催促する。

「ちょっと待って」

 気がつくと、キャンプ地奪還作戦の雰囲気になっている会話に、リリーナが疑問を呈した。

「いつの間にか、私達でキャンプ地を助けようって話になってるけど、本当にそれでいいの? ロンド先輩、良いんですか?」

 冷静な指摘に、一行は我に返った。
 自分達は学生で、相手はソルダートの軍人だ。勝ち目があるかどうかも分からないし、ユルグの駐留部隊やエファラン国軍からの援軍に対応を任せた方がいいのではないか。

「確かにリリーナの言う通りね」
「アラクサラ君」

 イヴは肩をすくめてみせた。

「私たち、無謀で余計なことをしているのかもしれない。けど、ユルグの駐留部隊は本当に動いてるの? 通報が行ってる筈なのに、いまだに反応がない」
「確かに」

 駐留部隊には必ず1体は竜が配属されている。空を飛べば、通報を受けてから通常それ程間を置かずに現場に到達できる。
 しかし、これだけ時間が経つのに、駐留部隊が来る兆しが見受けられない。

「この峡谷を徒歩で抜けるのは相当時間がかかるわ。竜がいなきゃ、話にならない。 どこかの誰かさんが、竜になってくれれば、話は別だけど」

 イヴはちらりとカケルを流し見る。
 カケルはというと…話を聞いているか聞いていないか分からない、ぼうっとした顔で、彼女の皮肉を気にした様子はない。
 彼女は反応がないカケルに一瞬眉をしかめたが、すぐに先をつづける。

「今、私たちに出来るのは、逃げるか、戦うか、二択だけよ。でも、逃げるのも時間が掛かるし、その間に虫に襲われないとも限らない。ラウンの弟君も、熱が上がってるのに長距離を移動させるのは無理だわ」
「状況はアラクサラ君の言う通りだ。今はどの選択肢を選んでも、正解とは言い切れない。どの道を選ぶとしても、僕たちはリスクを受け入れる覚悟で、決断して動く必要がある」

 イヴの状況を整理する言葉に、ロンドは補足しつつチームの面々の顔を見回した。
 決断を促されて、一番に答えたのはオルタナだった。

「俺は勿論、戦うぜ。逃げるなんて性に合わねえ」

 続けてイヴが言う。

「私はこの状況は、消極的な選択肢の方がリスクがあると判断するわ。状況を変えたいなら打って出るべきよ」
「……リリーナ君は、逃げる方に賛成かな?」

 ロンドが黙って聞いていたリリーナに問う。
 聞かれてリリーナは戸惑いながら、ちらりとカケルを見た。

「私は、カケルの判断に従うわ。
 だって、このチームのリーダーはカケルなんでしょ?」
「俺?」

 設置型云々の発言以降、カケルは話に加わらずぼんやりとしていた。
 話題にあがって、我に返ったように目をぱちくりさせる。
 他の面々の視線がカケルに集中した。

「そういや、そうだったな。お前がリーダーだった」
「忘れてたわ」

 オルタナとイヴは今思い出したという顔をする。
 リーダーらしいことをしていないカケルは、自分がリーダーだったことも忘れていたらしい。
 ふわふわ笑って「そうだった、俺も忘れてたよ」と言う。

「そうだなー。俺は昼寝が出来る方がいいなー」
「真面目に答えてよ。それってどっちなの?」
「逃げる方がしんどそうだな。戦う方なら、明日の朝には結果が出て、安心して寝れそう」

 睡眠を基準にした判断だが、イヴやオルタナに反対する訳ではないらしい。
 チームメンバーの結論は出揃った。

「……よし、作戦を立てよう。夜明け前に動いて、キャンプ地を奪還するぞ」

 ロンドの言葉に反対の声は無かった。

ロンド「蒼穹作戦を開始する」
全員「違うだろ!?」
+注意+
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