挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

76/160

07 復活

 カケルの枕で懐柔作戦は全くもって効力が無かった。
 面倒くさがりのカケルにしては珍しく、毎日のようにヘンドリック先輩に話し掛けに行ったのだが、全く相手にされない。
 ヘンドリックは後輩の竜であるカケルに悪い印象を抱いている訳ではない。
 だから嫌われて追い払われているのとは若干違う。
 どちらかと言えば、彼は意固地になってしまっているようだ。

 ヘンドリックは他の竜に乗ればマリアが帰って来なくなると考えているようだった。
 あの事件から二週間ほど経って、周囲は悲劇からそろそろ立ち直ろうとしている。当初はいなくなった同級生のことを話していた生徒達も、今は口をつぐんで目の前の学業に専念していた。
 それがヘンドリックには歯痒いらしい。
 どんどん周囲に取り残されていく自分。俺だけはマリアのことを忘れないと、意地になって、暗い部屋に閉じこもっている。

 しかし、このままではいけないと、カケルは思うのだ。

 あの事件はカケルとしても色々思うところがある。
 ソルダートの軍人の中には、七司書家のササキ・ライブラがいた。七司書家はエファランの敵国ソルダートに強い影響力を持っている。
 七司書家出身のカケルは、捨てた家とは言えど、七司書家はいまだ実家だという気持ちを捨てきれない。温もりが感じられない冷えた家族だったが、妹のフウカを含め、味方がいない訳ではなかった。
 身内が、血のつながった家族が、エファランを侵略している。
 だからこそ、連れ去られた竜マリアと、パートナーとの絆を引き裂かれた竜騎士ヘンドリックに、後ろめたく申し訳なく思う気持ちがある。

 ヘンドリックがこのまま腐ってしまったら、カケルの心の隅にある罪悪感が大きくなる。それは色々面倒くさい。乗り掛かった船だ。
 なんとか先輩に前向きになって貰いたい。

「せんぱーい、サーフェスです~。出て来て下さいよー!」

 放課後、ヘンドリックの部屋の扉を叩くが反応がない。
 冬寮の女王ルルキスとの勝負は明後日に迫っている。
 そろそろ真面目に彼と話さないとまずい。

「むむむ……こうなったら」

 カケルは決心した。
 寮の外に出ると、裏庭で竜の姿に変身する。
 蒼い竜は他の竜と比べると小柄で、胴体より翼の比重が大きい。飛ぶことに最適化している風竜なので、骨格が細く身軽な体型なのだ。
 竜はでかいトカゲに翼が生えた生き物な訳だが、カケルはまるでヤモリのように寮の壁に取り付いて壁を這った。
 ヘンドリックの部屋のベランダを覗き込む。

『ていっ!』

 ベランダの窓の鍵を鋭い牙でむしり取ると、ぺいっと背後に放り投げる。
 鼻先で窓をスライドして開ける。
 狭い窓に蒼い竜の頭部はギリギリ入る大きさだった。
 無理やり頭を押し込んで、部屋の中で唖然としているヘンドリックを加えて引きずり出す。

『お邪魔しまーす』
「こっ、こらサーフェス!何考えて……」

 なんか文句言われてるけど、無視。
 部屋の中から引っ張り出したヘンドリックをぽいと空中に投げ、翼を広げて寮の壁から離れる。
 投げたヘンドリックを背中にキャッチ。うーん俺ってナイスな投球コントロールじゃない?

「サーフェス!戻れっ!」
『嫌ですー。俺はちゃんとした竜騎士の命令しか聞きません』

 背中でヘンドリックが絶句した。
 蒼い竜は翼を羽ばたかせて、寮の上空に舞い上がる。

 ちょうど夕方の刻限。
 空は沈みゆく太陽の光で、ポピーレッドとラヴェンダーの二色に染め分けられていた。春を目前にした冷たく柔らかい風が、カケル達を優しく包み込んだ。

『見て下さい先輩!綺麗な夕焼けですねー』
「……」
『空を飛んだら、嫌な気持ちを忘れられません?胸がすかっとするというか』

 カケルが竜になって良かったと思うのは、やはり空を飛んだ時だ。
 竜だけでなく、竜騎士も空を好きな者が多い。
 そもそも高所恐怖症だと空を飛ぶ竜に乗るなんて、怖くて出来ない訳だが。

「……マリアも」
『え?』
「マリアも同じような事を言っていたな……俺が落ち込んでいる時は、空を飛ぼうと誘ってくれた……」

 ヘンドリックが呆然と呟いた。
 背中に強い感情を感じてカケルはぎょっとする。
 彼は泣いていた。

「糞っ……なんで竜ってやつは、どいつもこいつも……」

 がばっと首筋に抱きつかれてカケルは困惑する。
 涙と鼻水が蒼い鱗の上に流れた。
 先輩……俺、男なんだけど。ビジュアル的に竜の姿なら、むさ苦しい男の先輩が抱き付いて泣いていてもおかしくはない。しかし人間の姿で考えるとシュールな光景だ。
 仕方なくカケルは先輩が落ち着くまで、夕焼けの空をゆっくり旋回し続けた。





 しばらくして、泣き止んで落ち着いたヘンドリックと共に、カケルは寮の裏庭に降りた。
 背中から飛び降りたヘンドリックは、顔色は悪いもののすっきりした表情をしている。

「サーフェス……俺が竜騎士でいいのか?」
『嫌です』

 ちょっと前向きなったらしい先輩が問いかけてくるが、カケルは即座に否を返した。
 それとこれとは話が別なんだよ。
 ヘンドリックは予想外の答えに顔を引きつらせる。

「お、おい。俺を竜騎士にするつもりで乗せたんじゃないのか?!」
『違いますよー。俺は夏寮に戻りたいんです。夏寮には俺の竜騎士がいますから』

 先輩、自分のことでいっぱいいっぱいで、人の話聞いてませんね。
 ルルキス寮長との話で、俺は夏寮に戻りたいって、はっきり言ってるのに。

「お前の竜騎士…?」
『可愛いですよー、意地っ張りなとこが』

 さり気なく惚気てみる。
 イヴに聴かれたら殺されるかもしれない。オフレコでお願いします。

「そうか。お前にも事情があるんだな」
『……』
「ルルキス寮長と戦って、勝てるのか」
『分かりません。どちらにせよ、先輩に協力して貰わないと、どうしようもない』

 ヘンドリックの虚ろな瞳に光が戻ってくる。
 彼はしっかり頷いた。

「よし……もう日が無いが、できる限りのことはやってみよう」
『ありがとうございます』

 カケルは先輩の竜騎士に感謝の気持ちを込めて、軽く頭を下げる。
 そして心の中で密かに呟いた。


 貴方のマリアはいつかきっと、俺が取り戻してきてあげるよ。
 約束する。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ