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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる

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06 天岩戸

 氷の女王様ルルキスとの空戦が決定した翌日、カケルは授業をサボって屋根の上を歩いていた。
 今日は良い天気だ。
 いまだ冬空は澄んで冴え渡っているが、日光は暖かく、風は緩く吹き寄せていて、春の気配がしていた。寒さに強いカケルには絶好のお昼寝日和である。
 屋根をするすると伝って3階の上に移動する。
 時計台の上に登ろうとすると、先客がいた。

「よう」
「スルト先輩」

 白銀の髪の美少年が時計台の上に寝転んでこちらを見下ろしている。
 湖の色の瞳は半開きで今にも眠りそうな様子だ。
 カケルは先輩に場所を取られたので、別の場所を探そうと思った。

「……うまいことルルキスと空戦の約束を取り付けたらしいじゃねえか」
「地獄耳ですねー」

 話掛けられて、その場を去ろうと背を向けていたカケルは足を止めて振り返る。

「ふふふ、空戦、俺が勝ったら先輩にお願い聞いて貰えるんですよー」
「勝てるのかよ。ってか、そもそもヘンドリックが乗らねえんじゃねえか」
「そうなんですよねー。ヘンドリック先輩、出てきてくれないんですよねー」

 ヘンドリックは、カケルとパートナーを組むとは了承していないと叫んで、部屋に閉じこもってしまった。
 授業には出席するが、放課後は他の寮生達と絡まずに部屋で独りでいるようだ。友人達はそんな彼を心配しているのだが、夕方の食堂に引きずり出すのがやっとである。
 夜もよく眠れないらしく、目の下に隈を作って、夢遊病者のように廊下を徘徊するヘンドリックは、誰が見ても病的な気配がしていた。最初は同情的だった周囲も、徐々に遠巻きにしつつある。

「ヘンドリック先輩にやる気になってもらうには、どうしたら良いですかねえ」
「俺が知るか」

 スルトは猫のように伸びながら欠伸し、気のない返事をする。
 段差の上で頬杖をついてカケルはうーんと唸った。

「眠れないみたいだし、やっぱり枕の差し入れが有効でしょうか……」
「……」

 返事はない。横目で見上げると先輩は目を閉じて寝ているようだった。
 先輩が寝ているのを良いことに、カケルは小声で呟いてみる。

「俺が夏寮に戻ったら、スルト先輩、俺のチームってことで良いですよね。お昼寝同盟だし」
「……いいぞ」

 聞いていないと思って適当に宣言したのだが、意外な返事が返る。
 カケルは眉を上げた。今のはちょっとびっくりしたよ。

「戻れたらな」

 ですよね。
 正直、結構難しいのだ。普通は寮の指定は学校の指示で、学生の事情は斟酌されるが絶対ではない。今回はアラクサラの当主の意向もあるので、寮監の上の方で握りつぶされる可能性もある。
 それでも出来る限りの事をやってみるつもりだ。





 放課後、カケルは枕を抱えてヘンドリックの部屋を訪ねた。
 手土産の枕は水鳥の羽根が入った白い標準サイズの枕である。ひよこさん枕にしようかと思ったが止めた。カケルも初心者?に配慮するくらいの気遣いは持ち合わせているのだ。

「先輩ー!サーフェスですー!差し入れですよー!先輩ー!」

 ご近所さまに遠慮せずガンガン扉を叩く。
 どうせ周囲の学生は事情を知っている。ある程度は甘く見て貰えるだろう。
 いっかな反応が無いのを気にせず呼び続けると、根負けしたらしく、扉が開いた。

「……うるさい」

 険のある表情のヘンドリックが睨む。
 彼の身体の向こうに見える部屋の中は、綺麗好きなカケルには信じられないくらい散らかって荒れていた。

「何の用だ」
「差し入れですよー」

 枕を押し付けると、ヘンドリックはそれをひったくって部屋の中に放り込み、すぐに扉を閉じて引っ込んでしまった。
 うーん。枕を受け取って貰えただけ良しとすべきなのかな。

「ヘンドリック先輩。先輩はなんで竜騎士を目指してるんですか?空に戻りたくないんですか?」

 扉の向こう側に問いかける。
 寮の壁は薄い。聞こえている筈だ。

「先輩……」
「……うるさい!!」

 ドアを蹴る音と感情的な叫び。
 これ以上は逆効果かな。
 カケルは溜め息をついてヘンドリックの部屋から離れた。





 何故、竜騎士を目指しているか、だと。
 ヘンドリックは手で顔を覆って壁にズルズルもたれかかる。
 進路を選ぶきっかけは、とても些細なことだった。

 --ねえ、リック。一緒に空を飛ぼう!

 無邪気に笑って、いざなう少女。
 心を重ねて大空で共に夢を追い掛けた日々。

 君がいなくて、どうして空を飛ぼうと思えるだろうか。
 君は俺の理由だったのに。


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