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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる

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05 企むカケル

 迷いはまだある。けれど今はそれを考えるべきじゃない。
 彼女の側にいたい。一緒に空を飛びたい。
 今はそれだけで十分だ。

 放課後、カケルは職員室に顔を出した。

「すいませーん、3年の学年主任のパレアナ先生いますかー?」

 呼ぶと、他の教師と雑談をしていた女性教師が振り返る。
 彼女は太い眉を上げて微笑した。

「どうしたんだい、サーフェス君。君からここに来るのは珍しいじゃないか」
「あはは。いつも補習すれすれで呼び出されてますもんねー」

 他人事のように笑うとパレアナ女史は呆れた顔をした。

「君は本当は出来る癖に変な計算をするからだ。それで今日は何の用かな。まさか成績の相談じゃあるまい」
「ちょっとご相談がありましてー」
「場所を変えよう」

 パレアナ女史は立ち上がって先導する。
 二人は職員室の近くにある生徒指導室に移動する。
 カケルが相談内容を話すとパレアナ女史は難しい顔になった。

「……そううまくいくかな?」
「後でうまく通らない可能性があります。なんで、パレアナ先生のお力をお借りしたく」
「ふむ。私は高いぞ?」
「えーそれですが、守護シールドの術式の改良バージョンのご提供でどうでしょう。持続率を一割増し程度で」

 伊達に七司書家の出身ではないのだ。カケルは呪術については専門家と同程度の知識を持っている。
 一般の呪術師は、呪文コマンドを唱えれば呪術が発動するということが重要で、呪術の裏側にある、呪術を構成する術式についての知識は浅い。術式を改良できることすら知らない呪術師も多い。

「カケル・サーフェス君」
「何でしょう?」
「君は何でもないように改良した術式を提供すると言うが、それが出来る者は世界でも少ないんだぞ」
「分かってます。だからこっそりお渡しします」

 ふわふわ笑うカケルを、パレアナ女史は複雑な表情で眺める。

「呪術学を専攻をするなら今からでも研究科に推すぞ。君はその才能を役立てたいと思わないのか」
「研究科で呪術学をやるくらいなら空戦科でいいです」

 どれだけ知識を持っていても呪術が使えないのだ。
 幼少の頃に経験した、周囲の大人達の落胆した面差しと冷えた視線を、カケルは忘れられなかった。当然のように呪術師になると思っていた。夢を打ち砕かれ、周囲に裏切られた記憶は、今もカケルの中で古傷のように疼く。
 術式の呪術文字を見る度に痛みを思い出す。

「……だが、アラクサラの娘と歩むつもりなら、君は呪術を無視できなくなるぞ。マクセランは君を竜として扱うだろうが、アラクサラの者達は君を七司書家出身者として見るだろう」
「……」

 パレアナ女史の指摘は鋭かった。
 その指摘にカケルはまだ答えを持っていない。
 沈黙を返すと、パレアナ女史はふうっと息をついた。

「分かった。出来る限りのバックアップを約束しよう。私は君の味方だ」
「ありがとうございます」

 交渉が成立したので、カケルは一礼して生徒指導室を出た。
 前準備は済んだから次は先輩のところへ行こう。





 夕方の食堂にはほぼ全ての寮生が集合する。
 お目当ての先輩が壁際の席に座っていることを横目で確かめて、カケルはいそいそと寮の女王様ルルキスの前に進んだ。

「先輩~、寮長~、ルルキス先輩~」
「そんなに連呼しなくても聞こえているわよ」

 語尾を伸ばしてふにゃふにゃ呼ぶと、ルルキスは鬱陶しそうに振り返った。

「何の用よ?」

 カケルは眉を八の字に下げ、瞳をうるうるさせて言った。

「やっぱり無理です。ヘンドリック先輩は冷たいし、俺、冬寮でやっていける自信ありません。夏寮に戻して下さい~」
「はあ?今更何言ってるのよ」

 女王様はブリザードのような視線をカケルに送る。

「我慢しなさい。どうしても無理だったら寮監に相談するけど、まだ来て一週間も経ってないでしょう」
「どうしても駄目ですか~」
「君は本当に情けない男ね。それでも本当に竜なの?」
「ルルキス先輩が駄目なら先生に相談しようかな~」
「私の話を聞いてるの」

 ルルキスの額に青筋が浮かぶ。
 寮長を飛ばして教師に相談されれば、ルルキスの寮長としての面目は丸潰れだ。
 彼女は極力冷静にカケルを説得しようとした。

「ヘンドリック、ちょっと来なさい!」

 壁際で黙々と食事していた男子生徒が不機嫌そうに立ち上がる。
 ヘンドリックは嫌そうにルルキスの近くまで移動した。

「何の用だよ」
「サーフェスは君の後輩でしょう。同じチームなんだし、面倒をみなさい」
「承諾した覚えはないぞ」
「君は後輩の竜が一人で寂しそうにしてるのを放っておくのね。マリアはどう思うかしら」
「……」

 寮長の指摘はヘンドリックの良心を刺激したらしい。
 彼は苦い顔をして黙り込んだ。

「…ルルキス先輩、俺とヘンドリック先輩が組んで戦えるって、本当に思ってるんですか?」

 カケルは先輩の間に割り込んで発言する。
 女王様は眉を潜めた。

「そんなのはやってみなきゃ分からないでしょう」
「そうですね。だから試して頂けませんか?」

 ヘンドリックは顔を上げて訝しげに後輩の横顔を見る。

「サーフェス?」
「ルルキス先輩に空戦の申し込みをします。俺とヘンドリック先輩で本当に戦えるか、寮長の目で判断して欲しいんです」
「!」

 聞いていた寮生達が息を呑む。
 ルルキスも目を見開いて驚愕した後、好戦的に微笑んだ。

「へえ、君、良い度胸をしてるじゃない」
「ちなみに俺とヘンドリック先輩が勝ったら、俺のお願いを叶えて下さいよ。俺を夏寮に戻して下さい」
「いいわよ」
「寮長、サーフェス、そんな勝手に…」
「この私に勝てるなら、ね」

 事態が思わぬ方向に進んで、間に挟まれたヘンドリックは慌てる。
 二人の前で、海の色の瞳を細めて、ルルキスが自信に満ちた笑みを浮かべた。
 カケルもふわふわ笑う。

「ふふふ…俺って魔力レベルAの風竜らしいですよー。ルルキス先輩と同じですよね。だから手加減してくれなくても大丈夫ですよ」
「……魔力レベルAだと?!」

 食堂にいた寮生達がざわめく。
 ルルキスは一瞬眉を上げると、近くのテーブルで食事中のロンドを睨んだ。
 サラダを食べていたロンドはカケルの宣言にあんぐり口を空けて硬直する。手に持ったフォークから青葉がポロリと落ちた。しかし、寮長の視線を受けて我に返る。

「た、確かにカケルは魔力レベルAの風竜ですが……おいカケル、自分から宣伝するなんて何を考えてるんだっ」
「んーどうせその内バレるだろうし、いいかなーと思って」

 ロンドは頭を抱える。
 女王様は吹き出して笑い出した。

「あははっ!面白いじゃない、カケル・サーフェス!魔力レベルが同じってだけで良い勝負が出来ると思ってるの?格の違いを思い知らせてあげるわ!」
「よろしくお願いしますー」
「何故だっ?!俺の承諾無しにもう勝負する事が確定してる?!俺は認めてないぞー!!」

 ヘンドリックは絶叫し、女王様の周囲の野郎共は喝采し、勝負をネタに賭け事をしようと声掛けを始める生徒もいる。
 冬寮の食堂は大混乱に陥った。


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