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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる

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04 初めてのキス

 待ったのは5分くらいだろうか。
 そんなに長く経った気はしなかった。

『イヴ!』

 突風が吹き抜けて、夜の明かりの下でもはっきり分かる蒼い色の竜が上空から舞い降りる。竜は建物に引っかからないように翼を折り畳んで器用に着地した。

『どうしたのこんな時間に』

 竜は小首を傾げる。黄金色の瞳が彼女を覗き込む。
 カケルの声はいつも通りのフワフワした様子で、緊張していたイヴは少し安心した。

「お父さんと喧嘩したわ」
『え?!』
「ひとまず私を寮まで送りなさい」

 偉そうに命じる。
 蒼い竜は『しょうがないなあ』と言って、イヴが乗れるように態勢を変えた。
 後ろ脚の段差を取っ掛かりに、イヴはひょいと竜の背中によじ登る。彼女が肩の間に座ったことを確認すると竜は翼を広げて、助走もそこそこに空に舞い上がった。
 相変わらず快適な乗り心地だ。
 飛ぶのが下手な竜はもたもた助走したり、姿勢が安定しなくて搭乗者が乗り物酔いになることがある。その点カケルは最初から飛ぶのが上手かった。彼の背中で不安を感じたことはない。
 振動が少ない竜の背中では、それほどスピードを出しているように見えないが、実際蒼い竜は高速で飛んでいた。あっと言う間に寮の建物が見えてくる。

「ストップ。手前で降りて歩きたいの」
『注文が多いよ』

 不満の声が脳裏に響くが、怒っている気配はない。
 蒼い竜は寮まで歩いて数分の大通りに降りる。昼間は往来が多いので竜の発着は邪魔になり取り締まりの対象になるのだが、今は夜で人通りが少ないので誰も気にしない。
 イヴが背中から降りると、カケルも人間の姿に戻った。
 寮で寛いでいるところを出てきたのか、彼は運動着のようなよれたシャツとズボンにパーカーを引っ掛けただけの格好だった。

「貴方それで寒くないの?」
「エファランの冬は全然寒くないよ」
「そういえば、貴方は雪国の出身だったわね…」

 厚い外套を着込んだイヴより薄着なのに、カケルはまるで寒さを感じていないようだ。
 遠目に寮の窓から漏れる明かりを眺めながら、二人は立ち止まった。

「お父さんと喧嘩したって?」

 いつも通りのフワフワした調子でカケルが聞いてくる。
 イヴは唇を尖らせて答えた。

「そうよ!それもこれもあんたのせいよ」
「俺のせいなのー?」

 八つ当たりされていることに気付いているのか、カケルは眉を下げる。
 迎えに来させたり、八つ当たりしたり、子供じみたことをしている。
 だけど私は知りたいのだ。
 どこまで貴方が私を赦してくれるのか。

「私の父が貴方を冬寮に移動させたのよ。知ってたの?」
「……知らなかった」
「父は貴方を騎竜にするのは許さないって」
「あはは。俺って成績悪いからねー」
「笑いごとじゃないわよっ!」

 叫ぶと、カケルは少し神妙な様子になった。

「なんで抵抗せずにあっさり寮を移る訳?しかも同じチームの私達に説明もなし!せめて、パートナー組んでる私には一言あっていいんじゃない?!それでも、貴方は……貴方は本当に私のことを好きなの?」

 好きだと言って、何故そんなに簡単に離れられるの?
 私はこんなに毎日苛々して不安なのに。貴方はいつも通り間抜け顔で笑って。不公平よ。

「……ぷっ」

 まくし立てると、カケルは呆気に取られた顔になった。
 一呼吸置いて彼は吹き出して笑い出す。

「くふふっ…」
「何がおかしいのよ?!」

 怒るとカケルは笑いながら答える。

「いや、イヴは俺の気持ちが気になるのかと思って。なんか熱烈な告白を聞いた気分」
「なっ!!」

 何を言ってるのよ、この男は。私は貴方が誠実じゃないから怒ってるのよ。頭の中に花でも咲いてるの?

「イヴ、君が言いたいことは、ここで区切りを付けて俺達は別れようってことじゃないの?」
「何言ってるのよ馬鹿!」

 この男は卑怯にも、私に言わせようとしている。
 それなら言わせてもらうわよ。

「本当に好きならちょっとは努力しなさいよ!何もしない内から諦められるなら、その程度の想いなんじゃないの?貴方は逃げるだけの卑怯者よ!」

 激情のままに言い放つ。
 心臓のあたりが熱くなって目尻に涙が滲む。
 こちらを見つめるカケルの姿が滲んだ視界で揺らめいた。彼は何故か苦しいような嬉しいような、複雑な表情をしている。


「……イヴは俺を煽るのがうまいなあ」

 とん、とカケルが距離を詰めてきて、イヴは街路樹の幹を背に追い詰められる。
 彼は木の幹にイヴを押し付けてさりげなく動きを封じると、頬に手を伸ばしてきた。
 暖かい吐息と共に彼の顔が間近に迫る。
 唇が重なった。

「……!」

 驚いて硬直する。
 カケルはすぐに唇を離すと、彼女を見下ろして妖艶に笑った。
 はしばみ色の瞳の奥に、金色の光の欠片が見え隠れする。

「努力して、こういうこともしていいのかなー?」

 おどけた口調。
 イヴは口元を手で覆うと真っ赤になった。

「そっ、それは……順序ってものがあるでしょ!いきなり何するのよ?!」
「順序守ったらいいの」
「いえ、そもそも許可を取りなさいよ!」
「面倒くさいなあ」

 言い争いながら、イヴは疑問に思った。
 いったいさっきまで何の話をしていたっけ。いつの間にか煙に巻かれてしまった気がする。もはやどちらが主導権を取っているか分からない。

「……分かったよ」
「え?」
「俺は夏寮に戻る」

 唐突にカケルはそう言った。
 話の急展開に付いていけずにイヴは目を白黒させる。

「戻るってどうやって…」
「考え中」

 近くにあった温もりが遠ざかる。
 カケルは後ずさって彼女から身を離すとあっさり背を向けた。

「じゃあ眠いので帰って寝ます」

 手を振って歩き始める。彼はどこまでもマイペースだ。
 その後ろ姿にイヴは声を掛ける。

「さっさと戻って来なさいよ、この馬鹿!」
「はーい」

 つくづくふざけた返事だ。
 イヴも木立の間に見える夏寮に向き直った。
 二人は互いに背を向けて歩き出す。
 まだ春は来ていない。けれど彼女の心には希望の芽のようなものが芽生えつつあった。


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