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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる

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03 貴方に会いたい

 週末、イヴは休みの間だけ実家に帰ることにした。
 イヴの両親が住む家は、王都レグルスの北の高級住宅街にある。アラクサラ家はエファランでも古くからある血筋で、代々優秀な呪術師を排出してきた。現在の当主であるイヴの父親は、エファランの呪術師を管理する星翼協会エクセラードの代表でもある。
 忙しい父親だが、家族を大切にするため、週末は自宅で過ごしている。
 イヴの特徴であるストロベリーブロンドは母親からの遺伝である。父親は茶色の髪と明るい空色の瞳をしている。最近白髪混じりになってきて、腹も出てきたと残念がっていた。

「お父さん、話があるの」

 居間のソファで寛いで、宙に視線を彷徨わせていた父親は、イヴの声に瞬きした。
 きっと父親の肩には、彼のナビゲータの梟がとまっているのだろうとイヴは思う。呪術師が見ているものは他人には見えない。然るべき手順を踏まなければ、同じものを見ることは出来ないのだ。父親が自分の持っている術式をナビゲータと一緒に確認していたとしても、傍目で見ているイヴには何をしているか分からない。
 呪術師はえてして空中を睨んでぶつぶつ呪文を唱える変人に見える。

「何だい?学校で何か困ったことでもあったのかな」

 父親はイヴにはとても優しい。
 職場で厳しい顔をしていることを知っているので、少し戸惑ってしまう。
 父親の瞳はイヴのことが可愛くて仕方ないように細められ、視線には慈愛が込められている。

「私のチームの竜のことだけど……彼を冬寮に移動させたのは、お父さん?」

 率直に聞くと、父親は深刻そうな表情になった。

「勝手なことをしてすまない。しかし彼は素行が悪いし、お前を放って実習に出掛けた。そんないい加減な竜を可愛い娘の傍に置く訳にはいかない」

 ではカケルを移動させたのは、父だったのだ。
 余計なことを。あいつ喜んで逃げ出しちゃったじゃないの!

「お父さん。私達の関係は私達で決めるわ。勝手にお父さんが決めないで」

 憤りを隠せないまま父親を睨む。
 睨まれた父親は困った顔をした。

「イヴ、お前はあんな竜と契約するつもりなのかい?」
「あんな竜って……。お父さんは彼のことを知らないのよ!カケルは阿呆だし、どうしようもない昼寝野郎だけど、やるときはやるし、いざとなったら出来る奴よ」

 説明しながら、イヴは説得力ないなと思った。
 それもこれもカケルが実力を隠しているせいだ。イヴだって、あのキャンプでカケルと一緒に行動するまでは、彼のことを軽蔑していたのだ。内情を知らなければ、彼はまともで優秀な竜には全く見えない。

「それに、あいつは魔力レベルAの竜よ。魔力レベルの高い竜が少ないことくらい知ってるでしょ」
「だとしても、駄目だよイヴ。彼は信用できない。信用できない竜と絆を結んでしまえば、今は良くても将来大変な苦労をする」
「信用できないって……まさか、お父さん、彼が七司書家出身だからじゃないよね?」

 頑なな父親の姿勢に、ついイヴはそう聞いてしまう。
 口に出してから、出身についてはカケルの秘密なのではないかと後悔した。しかし、父親は既に知っていたようだ。

「……そうだ」

 父親は姿勢を正して、真剣な表情でイヴを見た。

「イヴ、彼が七司書家出身だということは、どこで聞いたのかな?彼から直接聞いたのかい?」
「え、ええ」
「七司書家はね、イヴ。我々の真の敵なのだよ。ソルダート及び高天原インバウンドを影で支配しているのは、七司書家だ。そして最近のソルダートの侵攻は、七司書家が噛んでいるらしい。彼の境遇は多少聞いているし、同情もするが、彼が七司書家のスパイである可能性も否定できない」
「そんな訳ないわ!あいつは昼寝のことしか考えてないわよ!」

 イヴは声を荒げて抗弁したが、父親の態度は揺るがない。

「別にマクセランが彼を竜として使う分には、私は文句を言わないよ。だが、私の娘とは契約させられない。七司書家に関するごたごたに巻き込まれるのが目に見えているからね」
「お父さん!」
「イヴ、この話はここまでだ。彼と友人として付き合うならともかく、彼を騎竜にするのは認められない」

 それははっきりとした宣告だった。
 これ以上口論しても父親の意見は変わらないのだろう。
 イヴはギリギリと唇を噛んだ。

「分かったわ……」
「イヴ?」
「お父さんがその気なら、私だって勝手にさせてもらうわよっ!」
「ちょっ、ちょっと待ちなさい」

 何でもお父さんの言うとおりになんか、する訳ないじゃない。
 私は、私よ。

「イヴー、お夕飯食べていかないのー?」
「お母さん、お弁当にして。寮に持って帰って友達と食べるわ」

 慌てる父親を後目に、母が用意した食事を弁当箱に詰めて、鞄の底に入れる。

「イヴ!まさか、あの竜と駆け落ちする気じゃないだろうな!お父さんは断じて許さないぞ!」
「駆け落ちなんかする訳ないでしょ。契約はするかもしれないけど」
「それこそ駄目だ!頼むから止めてくれ!私の言うことを聞きなさい!」
「嫌よ」

 玄関から出ようとしたイヴを引き止めようと父親が焦っているようだが、母親が「まあまあ落ち着きなさいよ」と宥めている。母親はイヴの味方をしてくれるようだ。
 イヴは夜の街に飛び出した。





 まだ春は来ていない。
 雪は降らないものの、エファランの夜は寒かった。
 寮までは距離がある。歩くと少なくとも一時間以上掛かる距離だ。
 かじかむ両手をすり合わせて暖めながら、ナビゲータを呼び出した。
 タキシードを着たユーモラスな格好の白い兎が空中に忽然と姿を表す。イヴにしか見えないナビゲータだ。いや……魔眼を持つ彼には見えていたか。そう思うと、無性に彼に会いたくなった。

「ミカヅキ、通信の呪術を起動。ロンド先輩に繋げて」

了解ラジャー

 ミカヅキは空中で軽くジャンプする。
 少し待つと程なくロンドに繋がる。若い男性の落ち着いた声が、イヴにだけ聞こえるように空中から響いた。

「もしもし……アラクサラ君、どうしたんだい?」
「ロンド先輩、夜分にすいません。ロンド先輩は冬寮で、そこにカケルもいますよね?彼に迎えに来て欲しいんですが」
「……」

 思い切って頼むと、ロンドは少し沈黙した。
 いきなりすぎたかなとイヴは密かに反省する。こんなに気安くものを頼める関係かどうか、分からない。カケルが言った「君のことが好き」という言葉だけが頼りだ。
 ドキドキしながら待っていると、返答があった。

「……どこに行けば良い?…だそうだ」

 台詞の前半は、カケルの返答らしい。
 イヴは緊張しながら、待ち合わせ場所の目印になる建物を伝えた。
 用が済んだので通信の呪術を切ってミカヅキを送還する。
 街灯の下に立って、彼女は迎えを待った。

ロンド「お前に呼び出しだぞ」
カケル「えー、ルルキスさんとか面倒だしやなんだけど」
ロンド「アラクサラ君だ」
カケル「すぐに参ります」
ロンド(躾が行き届いてるな…)
+注意+
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