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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる

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02 まだ断ち切られてはいない

 冬寮の寮長は女王様であった。
 跪けと要求されたカケルは、ことんと首を傾げる。

「なんで?」

 ルルキスの美貌が微かに引きつる。

「何故も何もない。私の寮では私の命令が絶対なのよ!」
「ふーん。あ、部屋に戻って寝ていいですか?」
「君、私の話を聞いているの?!」

 聞いていない。
 衆目の視線を集めながら、カケルは女王様を無視してロンドを見上げた。

「ロンド兄ー、俺、さっさと荷物片付けて寝たいよー」
「お前は本当にマイペースだな…」

 ロンドは困ったように眼鏡をいじる。

「なるほど…ロンドが連れてくるだけあって、図太い新入生だな」

 女王様の隣の黒髪の青年が感心したように呟いた。
 寮の中ではラフな私服の生徒が多い。だらしのない私服の生徒達に混じって、彼だけは堅苦しいベストを着込んでいる。そのストイックな格好はまるで女王様に仕える執事のようだ。
 次の彼の自己紹介で、カケルは執事という印象は間違っていなかったと知る。

「僕はルルキスの第一の下僕で、この寮の副寮長のクリストルさ。サーフェス、冬寮で平穏無事でやっていきたいなら、彼女の言うことを聞いておいた方が良いぞ」
「クリストル先輩は、イエーロ先輩の竜騎士なんですか?」
「ふっ。僕は彼女に最も近しい崇拝者なだけだ」

 副寮長というのもそうだが、ルルキスと彼は距離が近いように感じた。竜騎士か聞いてみたが否定しないところを見ると、案の定彼等はパートナーのようだ。
 気取った調子で嘯くクリストルに、カケルはうんうんと頷いた。

「先輩達、仲が良さそうですもんねー」
「……」

 女王様は視線を逸らし、少し頬を赤く染めた。
 クリストルが苦笑する。

「サーフェス、彼女に跪いて赦しを乞え。今なら無礼を許して貰えるぞ」
「えー。竜が跪く相手は自分のパートナーの竜騎士だけですよねー?皆さん俺を試してます?」

 ぐるりと周囲を見回すと、何人かはにやにや笑っていた。
 竜になって日が浅いカケルだが、パートナーを組んでいる相手以外から指図されるのは嫌だと思っている。先日のセファンとの話で、それが竜の一般的な性質なのではないかと気付いた。人間と違って、竜には竜ならではの習慣や性質があるらしい。
 イヴにだったら跪いてもいいけどさー。
 同じ竜のルルキスさんに踏まれて喜ぶ趣味はないよ。

「…同じチームのパートナーを放って冬寮に来るくらいだから、どんな子かと思ったけど。どうやら一端いっぱしの竜のようね」

 ルルキスの言葉は、カケルを試していたと証明するものだった。
 表情には出さないが、カケルは内心どきりとする。
 夏寮での素行を調査されていたようだ。確かに傍目から見ると、カケルは授業をサボって昼寝三昧だわ、パートナーのイヴを蔑ろにして実習に行くわ、酷い奴である。その辺は言い訳は出来ない。自業自得なのは自分でも分かっている。
 女王様はカケルを見る目を少し和らげた。

「冬寮へようこそ、カケル・サーフェス。急で申し訳ないけど、あなたにはひとまず、冬寮のチームの1つに入って貰うわ。ヘンドリックのチームは竜が不足しているから…」

 ガタンと音を立てて、食堂で食事をしていた生徒の1人が立ち上がった。
 逞しい身体付きで無精髭を生やして、年齢の割によれた格好をしている。濃い灰色の髪に、暗い緑の瞳。目の下には隈がある。
 憔悴した面持ちの彼は、ロンドの友人でたった今話題に上がったヘンドリックだった。

「ちょっと待ってくれ。俺のチームにはマリアという竜がいる」
「今はいないでしょう」

 ルルキスは氷のような表情でヘンドリックの言葉を否定する。
 彼の竜のマリアは、先の事件でソルダートに誘拐されて今はいないのだ。
 食堂に緊張感が走った。

「貴方には竜が必要だわ、ヘンドリック」
「俺はマリア以外と組むつもりはない!放っておいてくれっ!!」

 立ち上がったヘンドリックは激情も露わに叫ぶ。
 そのまま彼は、友人達が引き留めるのを振り切って、足音も高く食堂を出て行った。


 バンッ!


 食堂の扉が閉まる音は、ヘンドリックの気持ちを表しているかのようだ。
 沈痛な雰囲気と、気まずい沈黙が食堂を包んだ。

「……えーと、俺はロンド兄のチームじゃ駄目なの?」
「僕のチームには竜がいるんだよ、カケル。竜は1つのチームにつき1体という決まりになっている」

 ロンドが申し訳なさそうに告げる。
 正面でルルキスが何事も無かったかのように言った。

「そういう訳で、君はヘンドリックのチームで頑張って頂戴」
「やー、さすがにそれは無理なんじゃ」
「カケル・サーフェス。この冬寮では私がルールよ」
「……」

 どうやらこれは断る事が出来ないらしい。

「は、はーい」

 とりあえず良い子な返事をする。
 うーん。冬寮の皆さんはカリカリし過ぎじゃない?睡眠足りてるのかなあ。






 よく眠れなかった。
 イヴは溜め息をつく。
 彼女の悩みは夏寮から冬寮へ移動した昼寝野郎こと、カケルに関するものだ。

「あの馬鹿、また私に黙って勝手に出て行ったわね…」
「イヴ、抑えて。ペンが折れてしまうわよ」

 手前に座っているリリーナが窘める。
 イヴとリリーナはその日の放課後、夏寮の食堂で二人で勉強していた。
 食堂の机と椅子は壊さない限り学生の好きに使っていいので、食事の時間以外にも学生が食べ物や飲み物を持ち込んで、自主勉強や打ち合わせに使っている。
 教科書とノートを広げながらも、イヴの頭の中は勉強のことではなく、勝手に出て行ったカケルへの怒りでいっぱいだった。

 私を好きだって言ったのに、その私から離れるってどういうこと?!
 あいつ逃げるにもほどがあるわ。
 いっそのことすっぱり縁を切ってやろうかしら。

 しかしこちらから縁を切れば、カケルは嬉々としてそれを受け入れるだろう。それもまた腹が立つ。忘れ去ってしまえたら楽なのにと思いながら、ここ数日彼女は考え込んでいた。
 このままチーム解散して、別の竜を探そうか。
 別の竜って……あいつ以外に、一緒に戦える竜が見つかるのかしら。

 悔しいことにカケルは竜としては一級ものだとイヴには分かっていた。魔力レベルAの風竜は、カケル以外にはいない。風竜自体が珍しいので、その風竜の中でも特に珍しい魔力レベルAの竜は、文字通り100年に一度生まれるような竜だ。
 竜としてのスペックが高い上に実は頭も良い。戦闘中はこちらの考えを読んで的確に動いてくれる。
 そして何より、彼は信頼できる。
 ぼけぼけした外面に騙されそうになるが、さりげなく周囲に気遣いしていて、本当はとても優しい。イヴが窮地の時は身体を張って助けてくれた。それに、契約しない理由も、イヴに迷惑を掛けたくないということだった。
 切なくなるほどに彼は優しく誠実なのだ。
 こんな竜、他にいる?

 彼が側にいれば、どんな困難だって乗り越えられる気がするのに。一緒にいると楽しい。ワクワクする。そう、私はカケルが欲しい。

「イヴ……」

 憂鬱そうな顔で溜め息をつくイヴを、リリーナは心配そうに見た。
 表面上では、カケルが冬寮へ移ったことで、既にカケル達のチームは解散しているように見える。
 しかし、カケルとイヴの繋がりはまだ切れてはいない。
 か細い糸のように残っている。
 皮肉なことに、カケルが何も言わずに出て行ったからこそ、カケル達のチームも、イヴとの関係もまだ終わっていないのだ。

「しけたツラしてんなー」

 唐突に声が掛かって、イヴは声の方向を振り返った。
 振り返った先には、行儀悪くテーブルに腰掛けた白銀の髪の獣人が、手に持ったスルメをかじっている。

「スルト…」
「先輩って言えよ。俺はお前らより年上だぜ」
「先輩なら先輩らしく振る舞ったらどう?あんたなんか呼び捨てで充分よ」

 イヴはストロベリーブロンドの髪を苛立たしげに肩の後ろに追いやった。
 呼び捨て続行が決まったスルトは、不平を言った割にはそれを気にしている様子はない。彼はひょいと肩をすくめて見せた。

「やれやれ…。やっぱりお偉い家のお姫様は言うことが違うな。俺なんかが逆らったら、サーフェスみたく、アラクサラの親父さんの口出しで島流しにあいそうだ」
「……それってどういう意味よ?……まさか私の父が何か…」
「あー怖い。じゃあ俺はこの辺で!」

 スルトはわざとらしい口調で言うと、ひらひら手を振って去っていく。
 後に残ったイヴは唇を噛み締めた。
 もし父がカケルの移動に噛んでいるなら……問題は私の方にもある。

男性は上下関係大事にしますよね。
カケル君もオルタナも基本的にスルトを先輩付けて呼んでます。
+注意+
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