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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる

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01 冬寮への入寮

 冬寮の自分の部屋は随分久しぶりのように感じる。
 カケルは寮の自室をぐるりと見渡した。作りかけの枕やら、調理器具やらが散らかっている。ベッドの横のサイドテーブルにはうっすら埃が積もっていた。
 時間が経ったように感じるのも当たり前だ。
 冬休みに入った後、カケルはそのまま実習に出掛けた。都合2カ月程度、この部屋を留守にしていたのだ。

「よいしょっと…」

 私物をぽいぽい鞄に放り込んでいると、後ろの扉が開いた。

「…冬寮に移んのか?」
「オルト」

 振り返って友人の顔を見る。
 いつも通りの仏頂面だが、少し苛立っているようだ。ここ数ヶ月の友人付き合いで、カケルにも表情の差が分かるようになっていた。

「俺の後に入る人いないみたいだし、当分オルト一人で広く使えるよ。良かったね」
「ふん」

 彼は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、足元に転がっていたウサギさんの形のクッションを拾い上げた。

「ああっ、それは試作品のふかふかクッション…」
「慰謝料代わりに何個か置いてけ」
「えー?!」

 ブーイングしてもオルタナは気にせず、転がっているクッションをいくつか自分の部屋の方へ放り投げた。
 彼は部屋の出入り口で仁王立ちしてカケルを睨む。

「……戻ってこないつもりか」
「それは俺の決めることじゃ」
「てめえ次第だろ。大人しく奴らの言うこと聞いて移動しやがって。どういうつもりだ?」

 どういうつもりかと聞かれてカケルは苦笑する。
 まだ先のことについては考え中で、明確な答えを返せそうになかった。
 曖昧に笑っていると、彼は舌打ちする。

「長くは待たねえからな……」

 それでも、待っていてくれるという、それはある種の約束だった。

「ああ」

 それにカケルは口角を上げて首肯する。
 どの道を選ぶとしても、この友人をそこまで待たせるつもりはない。






 カケルは纏めた荷物を持って夏寮から一番遠い冬寮へ歩いた。寮の建物は学校を中心に、通学徒歩30分圏内の地区に建っている。
 どの寮も同時期に建設されているので、見た目も中身も似た構造だ。
 冬寮の玄関ではロンドが待ってくれていた。ロンドはカケルより1つ上の学年なので、一年以上前に実家を出て冬寮で暮らしている。

「よく来たな……ところでその頭はなんだ?」
「枕だけど?」

 カケルはリュックを背負っているのだが、そのリュックの上に枕が乗っていた。ちょうど頭の後ろに枕を背負っているように見える。

「ふふふ……これでいつでもどこでも昼寝できる!最近開発した特製携帯枕だよ!」
「頭痛がしてきた…」

 ロンドは頭に手をあてて悩ましげな様子だ。
 無理もない。

「大丈夫ー、ロンド兄。睡眠足りてる?枕あげようか?」
「結構だ」

 すげなく断ったロンドは、冬寮の中へカケルを案内する。
 割り当てられた部屋は一人部屋だった。荷物を置いて、まずは寮長に挨拶するように言われる。部屋で荷物を降ろしたカケルは、ロンドと一緒に寮長が待つという階下の食堂へ向かった。

「寮長ってどんなひと?」
「女性の竜だ。魔力レベルAの水竜で、夏寮のセファンのライバルと言われている」
「へえー」

 水竜って初めて会うなあ。
 カケルののんびりした返事に、ロンドは顔をしかめつつ説明を続ける。

「お前も魔力レベルAの竜だからピンと来ないんだろうが、魔力レベルAの竜は滅多にいない。今の在校生徒で魔力レベルAなのは、お前を含めて4人だけだ。地水火風の4属性の魔力レベルAの竜が全て揃うのは珍しいらしいぞ」
「へえー」
「……魔力レベルAの竜は変わった性格の奴が多いのかもしれないな…」
「?」
「会えば分かる」

 立て付けの悪い食堂の扉をガタッと開ける。
 食堂にたむろしている学生の視線が集中した。彼等の視線は冬寮では見慣れないカケルに向いている。カケルはそ知らぬ顔でロンドにくっついて食堂の奥へ進んだ。
 奥のテーブルでは数人の上級生がカケルを待っていた。
 彼等の中には、一際目立つ長身の美女がいる。
 流れる滝のような独特の透明感のある銀髪に、深い海のような色の瞳。流麗という言葉が似合う威厳と気品溢れる美人だ。
 彼女はカケル達が充分近付いたことを確認すると、形の良い唇を開いた。

「……イーニーク、それが新しく冬寮に入ってきた子?」
「そうだ」

 ロンドが脇に一歩ずれてカケルを前に押す。
 進み出て自己紹介する流れらしい。

「ええと、カケル・サーフェスです。よろしくお願いします」

 カケルは美女の前に出てぺこりと頭を下げる。
 美女はカケルを値踏みするようにじろじろ眺めた。

「ふーん。中々魔力の高そうな竜ね。私はルルキス・イエーロ。空戦科の5年生でこの冬寮の寮長をしているわ。カケル・サーフェス……まずは私に跪きなさい!」

 は?

「ああ、その強気な姿勢、さすが僕等の女王様!」
「痺れるぜ!」
「踏んで下さい!」

 カケルは思わずロンドを見上げる。ロンドは明後日の方向を向いて無言だ。
 美女の発言に食堂にいた野郎共が喝采している。
 なんだろう、俺、跪かなきゃいけないの?
 面倒くさいから寝ていいかなー。



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