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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.01 君に出会った時から俺の(昼寝)人生設計が崩れ始めた

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06 戦場に響く歌

 土煙を割って現れた怪物。
 それは大地虫ワームと呼ばれる、虫の中でも手ごわい部類のモンスターだった。

「1匹くらいなら……」

 身構えるオルタナをロンドが制止する。

「1匹じゃない。とにかく逃げるぞっ」
「敵数は3、全て大地虫ワームと断定!」

 イヴの声と共に、後続の大地虫ワームが、岩壁の穴から頭を出す。

大地虫ワームは、装甲が固くて、半端な攻撃術式は通らない! それなりの装備を持ってくるか、竜がいればともかく、今の僕たちが敵う相手じゃない」
「けど、ここからは登りだぜ?この細い道じゃすぐに追いつかれる!」

 逃げろと叫ぶロンドに、逃げても途中で追いつかれるとオルタナが反論する。
 その間にも大地虫ワームは岩の上を這って近付いてきていた。細い登りの道なので、這い登ってくるスピードは遅いが、登りが遅いのは人間も同じだ。しかもここは足場が悪く、逃げる人間の方が条件が悪い。

 逃げるか、戦うか、迷うチームの中で、ただ一人、決然と顔を上げてリリーナが立ち止まった。
 胸に手をあてて震える声で高らかに歌いはじめる。





 ――翔け昇れ、恋焦がれた空へ

 古い世界を棄てて

 古い記憶は棄てて

 昔、人は竜になった――





 この世界は一度滅んだのだという。
 昔、人は機械の翼で空を飛び、雲を貫く鋼鉄の塔を建てていた。しかし、人が竜や獣の姿に変身できるようになった時に世界は滅び、技術も歴史も忘れ去られた。
 気がつけば人は、竜や獣の姿で暮らしていた。

 何故その姿になったのか、今はもう分からない。
 ただ、歌や伝承、古い書物の中に記憶の断片を残すのみ。


 リリーナの歌は不思議な響きを帯びていて、歌の波動が周囲の空気を震わせた。
 大地虫ワームの動きが緩慢になる。
 歌を嫌がるように、大地虫ワームは首を振る。

「これは、芸術神シーヴの、神唱歌ディバインソングか!」

 ロンドは感嘆の声を上げる。
 神唱歌ディバインソングは、法術と呼ばれる技のひとつ。呪術とは異なる体系の特殊な魔法だ。法術とは神の力を借りて実行されるものとされている。一度滅んで歴史を失った人類は、神がただ概念であった時代のことを知らない。この世界の神は実在する。人が住む地域を中心に「ダイアルネットワーク」と呼ばれる、大地と大気に張り巡らされた太古の魔法の網があり、その管理者として神は君臨していた。
 神は加護を与えた数少ない人間に、虫を退けるための力を与える。
 リリーナの神唱歌ディバインソングの効果で、大地虫ワームの動きが止まった。

 最後尾で虫の前にいたオルタナが、ニヤリと笑って「やるじゃねえか」と呟いた。

「なら俺も良いところ見せないとな!」

 オルタナの身体が一瞬光に包まれ、ぐにゃりと歪む。
 金髪を逆立てた青年の姿が消え、代わりに金色の鬣の獅子がそこに立っていた。がっしりした体躯だが、地を蹴る脚はすんなりしている。金色の体色の中で一際目立つ深紅の双眸が辺りを睥睨した。
 金色の獅子は、素早くリリーナの元に駆け寄って身を屈める。

『乗れ!』

 獅子の姿に目を丸くしたリリーナだが、歌を止めないまま、獅子の背中におそるおそる跨がった。
 その様子を確認しながらイヴが呪文コマンドを唱える。

「ミカヅキ、狙うわよ! 紅光弾ルビーショット!!」

《 照準の補正は任せて! 》

 タキシード姿の兎は空中で胸を張った。
 イヴの前の空中に、紅い光の弓矢が現れる。イヴは弓に矢をつがえると、腕を伸ばして弦を引き絞った。

「行けっ」

 掛け声と共に矢を放つ。
 見ていた他のチームメンバーは、彼女が大地虫ワームを狙ったのかと考えたが、違った。

 紅い光の矢は大地虫ワームを逸れて、岩壁に突き刺さる。数瞬後に爆音が響き、岩壁が音を立てて崩れ落ちる。
 崩れた岩は真下の大地虫ワームに向かって落ちはじめた。

「さすがアラクサラ君、見事だ。今の内に」

 歌いつづけるリリーナを乗せて、獅子が登り道を駆け登って行く。弟を乗せたラウン青年もその後に続いた。

『カケル、しっかり着いてこいよ。遅れたら置いていくからな!』
「うわ、オルト、ひどいなー!」

 オルタナの言葉にカケルが苦笑して、獣人達の後を追って走り始める。ロンドとイヴも身を翻して後を追った。







 大地虫ワームの追撃を振りきった頃には、辺りが夕闇に包まれようとしていた。

「なぁー、ロンド兄、キャンプ地はまだ?」
「あと少しだ」

 疲れた顔で聞くカケルに、ロンドは地図と現在地を照らし合わせる作業をしながら答える。
 予想外のハプニングで道を逸れたため、通常の順路から少し外れたところにカケル達はいた。
 流石に虫との戦闘で体力を消耗したのか、一般より体力があるオルタナとイヴの顔にも疲労の色が見える。

《 定期連絡はしなくて良いのだ? 》

「そうだったな。パレアナ女史に繋いでくれ」

 上空を短いヒレを動かして泳ぐマンボウ、サーフィンの問い掛けに、ロンドは「状況が進展したら連絡する」と言った自分の言葉を思い出した。
 サーフィンに通信の術式を実行させるが、コール音が続くばかりでパレアナ女史からの応答がない。

「おかしいな……」

 渋面で呟くロンドの制服の裾を、カケルが引っ張った。

「ロンド兄! 見て、あれ!!」

 一行はカケルが指差す空の方向を見上げた。

 ちょうど夕焼けの空を、2体の騎竜が横切るところだった。騎竜は背中に鞍を着けていて、腹にベルトが見える。ベルトには、太陽を追いかける狼の紋章が提げられていた。

「なんてこと……! あれは、ソルダートの竜騎兵だわ!!」

 イヴがそう叫んで絶句する。オルタナも「マジかよ」と呟いた。

 カケル達の属する国エファランと、敵対関係にある向かいの国、ソルダート。
 その国章は太陽を追いかける狼の姿を描いた紋章だ。

 ソルダートは軍事国家で、エファランとは戦争とまでは行かないものの、たびたび小競り合いを起こしている。高天原インバウンドの国が中間に立った、無血条約と休戦協定を結んでいるが、隙あれば領地を奪おうと侵攻してきていた。
 カケル達、エファランの住民にとっては、ソルダートは事あるごとに諍いを起こす無神経で乱暴な隣人で、目の上のたん瘤のような存在だ。

「あいつらの向かった先って、俺らのキャンプ地じゃねえか」

 オルタナの発言に、一行はぎょっとする。
 ロンドは真剣な顔をしてイヴに言った。

「アラクサラ君、通信の術式を起動してくれ。連絡が取れる知り合いはいるかい?」
「確認します。ミカヅキ!」

《 アドレス帳確認。全員オンラインだけど、応答なし。ジャミングの可能性があるね 》

 ミカヅキが神妙に告げる。
 通信妨害を受けているらしいと気付いた、2人の呪術師ソーサラーのただならぬ様子に、一行に緊張感が走った。

「外部と連絡が取れないって、ヤバくねえか」
「このままキャンプ地に向かうのは危険そうな気がする」

 顔をしかめるオルタナに、カケルが同調して言う。
 後輩たちの懸念は、ロンドも考えていたことだった。彼は腕を組んで目を閉じ、少しの間、考え込んだ。
 カケル達は黙ってロンドが話し出すのを待っている。

 数分の黙考の後、ロンドは目を開けて腕組みを解いた。

「キャンプ地の様子を僕が見に行こう。君達はこの近くで野営出来そうな場所を探してくれ。
 ソレル、僕と一緒に来てくれるか? 呪術で連絡が取れないが、獣人の嗅覚があれば無事に合流出来るだろう」

 ロンドの決定に、反対する者はいなかった。
 オルタナは頷いて賛同し、カケルは信頼を込めてロンドを見上げる。

「いいぜ、一緒に行こう」
「ロンド兄、気を付けて」
「ああ、お前達も気をつけろ。まだ虫がその辺にいるかもしれないからな」

 カケル達は二手に別れて行動を開始した。


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