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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.07 休憩です。やっぱり平和が一番でしょ

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05 ロンド兄のお見舞いと不穏な気配


 寝ているカケルの頬を、柔らかな指先が撫でた気がした。

 イヴ……?

 その温もりを追い掛けるように目を開ける。
 部屋は暗く、時刻は夜のようだ。家の中にはカケル以外の人の気配は無かった。見舞いに来ていたイヴはとうに帰ってしまったらしい。
 枕元に明かりを付けて起き上がりながら、カケルは眠る前の会話を思い出して憂鬱になった。

 契約する気はないと、カケルの方からイヴに断ったのだ。
 彼女を誘ってチーム結成したのは自分なのに。酷い矛盾だ。
 今まで逃げ回って彼女と話をして来なかったのは、終わりの時が来るのを恐れてのことだった。彼女と一緒にいると楽しい。本当はずっと一緒にいて、彼女を乗せて空を飛びたい。
 しかし、それはもう不可能だろう。

 彼女が望む通りに、真正面から向き合って話をした。
 それは避けていた終わりの時が来たことを意味していた。
 イヴがどんな答えを出しても自分はそれを受け入れなければならない。
 彼女が大切だからこそ、カケルは彼女の手を放すのだ。

 頭を抱えて溜め息をついていると「ぐう」と腹が鳴った。
 倒れてからまともな食べ物を食べていない。
 育ち盛りの男子のカケルには死活問題だ。

「うう……ご飯が食べたいよお」

 よろよろ立ち上がって台所へ向かおうとすると、玄関ががらりと開いた。

「……お邪魔します。カケル、大丈夫か?」
「ロンド兄!」

 玄関に立つ長身の青年に、カケルは目をウルウルさせて腕を広げ抱きつく。

「ありがとう~天の助け~!お腹が空いて死にそうだったんだよ~!」
「こ、こら離れろっ。分かった、飯を作ってやるから!」

 この家で炊事ができるのはカケルだけ。そのカケルが頼りにできるのは近所のロンドだけだ。ロンドも一通り家事ができる。

「仕方ないな…」

 ロンドは台所の状況を見て取ると、手早く片付けて卵粥を作ってくれる。
 しょっちゅうお互いの家を行き来していたので、余所の台所でも器具の場所に迷うことはない。
 ふうふう冷ましながら粥を頬張っていると、ロンドが話し掛けてきた。

「明日、起きれそうなら学校に来い。告別式がある」
「告別式……?」
「実習中にソルダートに基地を占拠された事件で、戦死した教師や生徒を弔うんだ」

 カケルが竜に覚醒したあのキャンプの事件とは違い、今回は死者が出た。また、ソルダートも公式にエファランを脅してきた。
 二国間の緊張は高まっている。

「僕の知っている奴でも死んだり、ソルダートへ連れて行かれたのか行方不明の奴がいる」
「……」
「カケル、お前が無事に帰ってきてくれて本当に良かった」

 ロンドが後ろから肩を抱いてカケルの頭を撫でてくる。
 肩口から伝わってくる温度が嬉しくて、悲しい。

 独りで生きてきたつもりだった。
 だけどいつの間にか、カケルの帰りを待ってくれる人達ができていたのだ。セファンもスルトも、オルタナもリリーナも、心配してカケルの顔を見に来てくれた。エファランを出て行くと言ったカケルを、ここにいろと引き止めてくれる。
 彼等の気持ちに応えるにはどうしたら良いのだろうか。







「……君。もう二度と帰らぬ君の御霊みたまに最後の別れを申し上げなければいけないことが、今もって信じることができません。笑って実習に行ってくると、そう言った君と永の別れになるとは思ってもみませんでした……」

 壇上に立った男子生徒が嗚咽混じりの声で粛々と弔辞を読み上げる。
 戦没者専用の墓地で関係者を集めて告別式は開催された。
 軍人は軍服で、学校の生徒は制服を着て式に参加している。
 遺体を墓地に埋める本当の葬式は、死者の家族が個別で実施することになっていた。
 犠牲者の名前が読み上げられ、死者の友人が別れの言葉を述べる。軍の幹部が最後の締め括りに演説し、黙祷をして式は終わった。

「結局、誘拐された竜達を取り返せるか、明言されなかったな……」
「糞、ソルダートの奴らめ……」
「このまま泣き寝入りするしかないのか……?」

 ひそひそと交わされる会話はどこか不穏な空気を孕んでいる。

「っく……」
「ヘンドリック、どうしたんだ?」
「お前の竜は無事だったんだな……俺のマリアは帰って来なかったんだ……」
「!」

 ロンドと話しているのは、彼の友人で空戦科の生徒だ。
 彼の言う「お前の竜」はカケルのことだ。途中からイヴと一緒になったが、当初カケルはロンドと実習に参加していた。
 カケルが聞いているのを知ってか知らずか、彼等はそのまま感情的に話をつづける。

「俺は学校を辞めるよ。辞めてソルダートへ行ってマリアを取り戻すんだ……」
「ヘンドリック、早まるな。今、エファランが国をあげて交渉してるって話だろう?待つんだ……」
「はっ!浚われた奴が戻ってきた試しがないじゃないか。どうせ今回も……」

 エファランは平和主義を掲げているので、他国に強硬な姿勢で押し入ったりしない。しかし、それがソルダートを強気にさせる理由の一端になっていた。
 カケルはぎゅっと拳を握り締める。

「カケル……?」

 リリーナがこちらの様子に気付いて呼び掛けてくる。
 内心を気取られないようにカケルは努めていつものように笑おうとした。

「何でもない…」
「サーフェス」

 会話に割り込むように、教師がカケルを呼んで手招きする。

「話がある」

 呼ばれたカケルはリリーナ達から離れて教師に近付いた。
 男性教諭の表情は険しいが、深刻と言う程ではない。何か困っているような雰囲気を感じてカケルは戸惑った。

「寮の件でお願いがあるんだ」
「お願い?」
「今回の事件で学生の人数が減って、冬寮に空きが出てね。寮の対抗戦もあって各寮に均等に学生を割り振る必要があるから、冬寮の学生を増やしたいんだ」

 話の行き着く先が何となく分かって、カケルは目を見開いた。
 イヴと別れ話をした矢先にこれか。
 タイミングが良いのか悪いのか。

「サーフェス、夏寮を出て冬寮へ移ってくれないか。チームも作り直しになると思うが、まだ結成して数ヶ月だし大丈夫だろう。よろしく頼むよ」








 Act.07 休憩です。やっぱり平和が一番でしょ 完

 Act.08 まだ途切れない。だから君は絆を手繰り寄せる へ続く




どんどんシリアスになってますが、基本的にこの物語は勇気を貰うためのお話なので、もの凄く暗くなることはありません。ご安心下さい。
今回は短い話になりました。カケル君休憩なエピソードでしたね。
次回からは新しいキャラクターも登場して盛り上がる予定です。
じわじわ深くなっていく風竜ワールドをこれからもどうぞよろしくお願いします。

※2017/1/18 各章のタイトルを変更して各話にタイトルを付けました。
 混乱した読者の方がいらっしゃったら申し訳ありません。
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