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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.07 休憩です。やっぱり平和が一番でしょ

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03 オルタナとリリーナのお見舞い

 熱に浮かされながらカケルは束の間の夢を見ていた。
 実家で妹と遊んでいる夢だ。

 カケルには双子の妹がいる。双子と言っても、男女の差がある上に、妹は発育不良の状態で背も低く幼く見えるため、一見普通の兄妹のようだった。
 妹とは仲が良かった。
 七司書家は呪術師の貴族で一夫多妻であったため、他にも母親が違う兄弟がいたが、彼等とは仲が良いとは言えない。その頃のカケルは当主である父親に目を掛けられ、兄弟達に妬まれていた。母親は既に他界していて、父親はカケルを次期当主として教育することしか考えていない。カケルにとって家族と言えるのは妹のフウカだけだ。

 12歳までは、出来の良い兄と出来の悪い妹という関係であった。
 しかし、運命のあの日を境にその関係は逆転する。
 カケルは呪術師になれず……フウカは呪術師の器があったのだ。

 妹を実家に残して、カケルは家を出た。
 一緒に連れ出さなかったのは、自分と違い呪術師になれた妹が羨ましかったからだ。呪術師の貴族の家に生まれて、呪術師になるよう教育されてきたカケルには少なからずプライドがあった。可愛い妹でも、おめでとうとは素直に言えなかった。

 ――カケル兄様

 夢の中で妹があどけない表情で首を傾げる。

 ――どこへ行くの?置いていかないで

 それはカケルの胸の奥底に残る罪悪感。
 七司書家が居心地の良い家ではないと知りながら、唯一の家族を、妹を置いてきてしまった。

 フウカ、ごめん……。







 目が醒めたカケルは上体を起こして目元に残る涙を拭った。
 ぼんやりしている内に夢の残滓は消えていく。自分が何の夢を見ていたか、すぐに忘れてしまった。
 玄関の呼び鈴が鳴る。

「はいはーい」

 今度は誰だろうと思いながら腰を上げる。
 横目で時計を見ると夕方の時間になっていた。学校では3年生の授業が終わっている頃だ。玄関を開けると予想通り同級生の姿があった。

「よお」
「カケル、寝込んでるって聞いたけど大丈夫?」

 謎のでかい荷物を背負ったオルタナと、同級生の女子リリーナだ。
 会いたいと思っていたチームメイトの登場にカケルは目を輝かせて歓迎する。

「オルト、リリーナ!」

 率先して家の中に招き入れる。
 居間に入った途端にオルタナが背負っていた荷物をこちらに押し付けてきた。

「ほらよ」
「わっ、こ、これは……」

 荷物を受け取ったカケルは感激のあまり声を上げた。

「俺の快眠抱き枕、試作5号のイルカさん!!」

 リュックの中から水色のイルカさんの頭部が顔を出す。
 ふかふかの綿が詰まった胴体は抱きつくのにちょうど良いサイズだ。

「うわごとでイルカがどうこう言ってたから、こいつの事かと思ってな」
「ありがとう、オルト!心の友よ~」
「邪魔なんだよお前の枕。片付けろよ…」

 イルカさんに頬をすりすりしているカケルは、後半のオルタナの文句は聞いていない。ポップなイルカさん枕を抱えた成人男子の姿にリリーナは引き気味だ。

「やたら大きい荷物だから何かと思ったら。オルタナ、貴方カケルを甘やかし過ぎなんじゃ」
「こいつは阿呆で昼寝してるくらいがちょうど良いんだよ。その方が世界が平和になる」
「確かに、カケルが真剣になってたら不吉よね…」

 イルカさん抱き枕に夢中のカケルを放って、オルタナとリリーナは適当に居間の椅子に腰掛けた。見回すとエファランでは一般的ではない調理器具や雑貨がいくつか見受けられる。カケルも叔父も高天原インバウンド出身なので、この家の中は異文化の気配が漂っている。
 2人はカケルに聞こえるように話を始めた。

「飛行船は結局落とせなかったのか」
「ええ。ソルダートの領空まで逃げ切られてしまったわ。4人程エファランの竜が連れていかれた」
「!」

 枕を撫でていたカケルの動作が止まる。

「こちらは基地に残っていたソルダートの兵士を捕らえているから、彼等と人質交換の交渉中よ」
「交渉は…その様子だと、うまくいってないんだな」
「こちらが捕らえたソルダートの兵士は、ソルダートにとっては価値の無い連中だったようよ。せめて指揮官クラスを捕まえられたら交渉のカードに出来たんだけど」

 リリーナが溜め息をつく。
 聞いていたカケルは、自分が倒れた後の状況について知る。リリーナ達はわざと話題にして、状況を説明してくれているのだ。

「……ソルダートは俺については何か言ってきた?」
「カケル、国家交渉の場に貴方の名前なんて出る訳ないでしょ」
「リリーナは俺の事情を知ってるんだよね」

 振り向いたカケルはリリーナと視線を合わせて言う。
 それは断定する口調だった。

「七司書家は俺を手元に戻したいと考えてる。ササキ・ライブラ経由でソルダートと交渉すればエファランの人質を取り戻せるかもしれない。もし交渉のカードに使えるなら、使って……」

 台詞の途中でオルタナが投げたスプーンが額に当たる。
 ぽかっ。
 カケルは額を抱えてイルカさんと一緒に床にうずくまった。

「痛い…」
「馬鹿にしてんじゃねえよ。てめーなんか交渉のカードに使えるか。思い上がってんじゃねえ。兄貴達を舐めんな」
「オルタナの言う通りね」

 床に屈んで痛みに震えるカケルを見下ろしてリリーナが苦笑した。隣でオルタナが仏頂面でフォークを片手でくるくる回している。失言したら次はフォークを投げるつもりらしい。刺さるぞフォークは。
 リリーナは額を撫でているカケルに追い討ちを掛ける。

「聞いたわよ。学校を卒業したら、エファランを出るって。カケル貴方、エファランを出て何処へ行くつもりなの?」
「それは…」
「ソルダートは論外。残るは高天原インバウンドのどこかだけど、高天原は基本的に七司書家の支配圏内よね」

 そうなのだ。
 この世界のほとんどの国は何らかの形で七司書家と繋がっている。
 例外はエファランだけ。

「寝言言ってないでエファランで生きていく事を考えなさい。せっかくマクセランが貴方の後ろ盾になってくれてるんだから」

 ぐうの音も出ない正論に、カケルはうなだれて首肯するしかない。

「はーい……」

 実際、カケルがエファランに受け入れられたのはマクセランの力によるところが大きい。空軍を統べるマクセランは優秀な竜を欲しがっている。カケルが竜になるならと、影で色々便宜を図ってくれたのだ。
 七司書家で大人達の政治の世界が綺麗事でないことを学んでいるカケルは、素直にマクセランの支援を喜べないのだが。

「じゃあエファランを出ていかないわね?後でイヴにもちゃんと説明しなさいよ」
「リリーナから話したりしないの?」
「私からは何も言わないわ。私とオルタナは貴方の事情を少し知ってるけど、それでも肝心のところは貴方の口から直接聞きたいの。きっとイヴもそうだと思う」
「……」

 カケルは胸が熱くなった。
 この国に越して来てから、周囲の人達や環境に馴染むようカケルなりに努力してきた。しかし七司書家の事を相談出来る相手は限られているし、カケル自身が抱える秘密については叔父にも、エファランの誰にも話していない。
 独りで生きていくしかないだろうとずっと思っていた。
 けれどこの仲間達にはいつか話せるだろうか。

「分かった。イヴには俺から話すよ」

 思えば、あの三頭虫ケルベロスとの戦闘中に「後で話そう」と約束していたのだった。ハプニング続きで延び延びになっていたけれど。
 正直、どう話すか、何を話すか、決めかねている。
 カケルは可愛いイルカさん枕の胴体をぎゅっと抱き締めた。

「そうして。それからイヴと話す時はイルカさん枕は無しにしてね」

 リリーナがにっこり忠告する。
 あれ、駄目?これ力作だし、ふわふわしてて可愛いんだけどなぁ。

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