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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.07 休憩です。やっぱり平和が一番でしょ

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02 セファン先輩とスルト先輩のお見舞い

 カケルは元々、生産科志望だった。
 それが竜に覚醒して魔力レベルが高いと判明した途端に、半ば強制的に空戦科へ転向させられたのだ。

「当然でしょ。俺は生産科で枕を作るつもりだったんです」

 唇を尖らせて不満を口にする。
 セファンは頬を引きつらせて「枕?」と呟いた。
 隣でスルトが水が入ったコップを、バーで酒を飲むように上から持って掲げる。彼は腕を組んで斜めに顔を傾げ、口角を上げて渋い笑みを浮かべた。

「セファン……分かってやれよ。睡眠には枕が必要なんだ」
「さすが先輩……昼寝同盟の名誉会長の貴方なら分かって貰えると思ってました」
「ふっ。枕の重要性が分からない凡人共は放っておけ」
「先輩……!」

 カケルとスルトは堅い握手を交わした。
 この瞬間、昼寝同盟が名実ともに結成された。

「おい……」

 勝手に盛り上がっているカケル達の間に、ごほんと咳払いしてセファンが割り込む。

「サーフェス、お前の昼寝好きと睡眠への願望はよく分かった。だが、今お前を取り巻いている状況では、のんびり生産科という訳にもいかないだろう。実際、本当はどう思ってるんだ。嫌々空戦科に進学されたら先輩の俺達も指導する時に困る」

 セファンは真剣な顔だ。
 適当な答えを返せばこの先輩の信頼を裏切ることになる。
 カケルはふうっと息を吐いて、スルトとの握手を解き、セファンの方に向き直った。

「……俺は、覚悟を決めるべきなんでしょうね」
「サーフェス…」
「最低限、自分の身を守れる力を身に付けないと…そのためには、空戦科に進学するしかないと、そう認識しています」

 七司書家から逃げるとしても、立ち向かうにしても、力は必要だ。
 最初、カケルは呪術師になれないなら人間でいる必要はない、空を飛んで逃げられる竜になりたいと願った。それ以上のことを、竜になってからどうするかは考えていなかったのだ。
 竜になった今は、竜として生きていく方法を学ぶ必要があると感じている。
 本当は生産科で昼寝をして毎日を過ごしたい。だが、生産科に所属する竜は少ない。竜としての戦い方はやはり空戦科でしか学べないのだ。
 淡々と言うカケルを見て、厳しかったセファンの目線がふっと緩んだ。

「竜の姿に慣れてきたか?」
「それなりに」
「人を乗せて飛ぶのは楽しいだろう?」
「えっと……楽しい、かも?」
「なんで疑問形なんだ」

 セファンはおかしそうに笑う。その笑いには後輩に対する親しみが籠もっていた。

「皆、俺達のような竜を頼りにする。遠くに行くには俺達が必要だもんな。必要とされる喜び。それは竜という種族を選んだ俺達にしか味わえない」

 言われてみれば、そうかもしれなかった。
 実習の最中で三頭虫ケルベロスが出て、基地に帰らずに北の山の洞窟に避難した時。スルトに「お前は俺達の翼だ」と言われて嬉しくなかったか。

「だからこの国の竜はだいたい、人を乗せる仕事に就く。そういえばサーフェス、お前は背中に複数の人間を乗せると酔ったりしないか?」
「…酔う?」
「背中に乗せている人間の感情はどの程度読み取れる?魔力レベルの高い竜は、乗せている人間と同調しやすい。心当たりはないか」

 補足されてやっとセファンが言いたいことが分かる。
 この間はロンドやイヴと同調技を使ったばかりだ。

「人を乗せていると背中が熱い感じがして、その人が何を考えているか断片的に分かります」
「ふーん、敏感だな。おいサーフェス、獣人は別として、人間を2人以上乗せるのは止めておけよ。さっき言ったように酔っちまうからな」
「あれ?運搬を請け負ってる竜の皆さんは、沢山の人を乗せてもへっちゃらですよね」
「魔力レベルの低い竜は背中に人を乗せても何も感じないんだよ」

 そういうものなのか。
 カケルは竜になってから慣れてきた、人を乗せる感覚について再確認する。

 人を乗せるというのは不思議な感覚だ。乗り物の代わりになっているのだから、ある意味道具扱いされている訳で、人間としてどうかとも思う。指図されてその通りに動かないといけないなら、フラストレーションが溜まるだろう。
 しかし、基本的にこの国では竜に指図することはない。どこへ行くかだけ依頼されれば、どのように飛ぶかは竜の自由だ。
 例外は竜騎士と一緒に戦闘するとき。
 一瞬の判断が明暗を分ける戦闘中に話し合っている時間はない。よって竜は竜騎士に主導権を渡し、その判断に身を委ねる。

「俺やお前みたいな魔力レベルの高い竜は、複数人や客を乗せて飛ぶ運搬業は出来ない。俺達は戦務騎竜になることが決まっているようなもんだ」

 セファンは肩をすくめた。

「竜騎士との相性は重要だ。背中に乗せて不快感を覚えるような相手は、間違ってもパートナーに選ばない方が良い。戦務騎竜は、一般の騎竜と違って、竜騎士の命令に従うことになる。嫌な相手の命令は聞きたくないだろう?」
「はい」

 頷きながら、カケルは複雑な思いを抱いた。
 竜の姿でイヴを背中に乗せると、イヴの存在から熱気が放射されているように感じる。熱さがイヴが座っている肩甲骨の辺りから、その下にある心臓の方までじわじわと染み込んできて、やがて身体全体に広がる。それは全然気持ち悪くは無い。むしろ逆だった。
 彼女の命令に従う事に快感すら覚える。
 竜の本能は彼女が自分の竜騎士だと訴える。
 しかし、カケルの理性はそれでは駄目だと、竜の本能を抑えようとする。カケルは竜である前に七司書家出身の、なり損ないの呪術師だ。一族の秘密である呪術書アーカイブの事もイヴには話せない。彼女を巻き込んで危険な目に合わせる訳にはいかなかった。

 急に浮かない顔になったカケルを、セファンは心配そうに見た。後輩が何に悩んでいるか、うっすら察してはいる。イヴの名前を出して決断を迫るにはまだ早いようだ。

「あーあー、竜は面倒くせーな、パートナー選びとか!俺は気楽なフリーでいいぜ」

 重くなった空気を振り払うように、スルトが伸びをする。

「スルト、お前は獣人だから別にパートナーを選ぶ必要はないと思うが、そろそろチームを選べよ。……そうだ、サーフェスのチームはどうだ?お前達は話が合うみたいじゃないか」

 セファンが話題の矛先をカケルからスルトへ移す。
 腕を上げて伸び上がっていたスルトが、驚いて目を丸くした。

「はあ!?」
「スルト先輩なら歓迎だよー!うぇるか~む!」

 ふわふわ笑ってカケルは歓声を上げる。
 セファンもにやにや笑ってスルトを見る。

「なんで俺様がお前らのチームに入る話になるんだ!お前らみたいな訳アリ連中の面倒みるなんて有り得ねーよ!」
「サーフェス、こいつは限りなく自由な奴だが、お前達と一緒なら大丈夫だろう。…そもそもお前達はスルトより自由で頭が痛いんだがな」
「ふふふ、うちのオルトも喜ぶよー」
「話聞けよ!」

 スルトがガタッと立ち上がる。「帰る!」と一言言い放つと玄関に歩き出した。セファンも苦笑して席を立つ。

「病人に長話させるのも悪いから、そろそろ俺達はお暇するよ。サーフェス、ゆっくり寝ろよ。まだ顔色が良くない」
「お見舞ありがとうございました」
「おう」

 先輩2人は手を振って玄関から出て行った。
 扉を閉めるとカケルは寝台に引き返す。
 先ほどまで気分が良かったのだが、また頭が重くなってきていた。布団に潜り込んで眠りが降りて来るのを待つ。それにしても、食欲は無いけどお腹減ったな。誰か食べられるもの持って来てくれないかな……



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