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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.07 休憩です。やっぱり平和が一番でしょ

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01 叔父さんの励まし


 風邪を引いたことは数える程しかない。
 高熱で寝込むのは随分久しぶりだ。
 実習で事件に巻き込まれて、色々無理をしたカケルは、アクレスに着いた途端に熱を出してぶっ倒れた。竜専門の医者の診断では、竜の姿の時に負った傷を回復させようと、身体が過剰反応しているらしい。自分では大丈夫かと思っていたけれど、初めての実戦で同調技まで使って戦った影響もあるそうだ。

 医者に薬を処方されて……覚えているのは、そこまで。
 気がついたら王都レグルスの叔父さんの家で布団にくるまっていた。

「大丈夫か」

 叔父のソウマが心配そうにカケルを覗き込む。
 布巾を額に載せてくれる手は冷たかった。叔父の藍色の髪と瞳を見ながら、カケルは何となく基地で会った親戚を思い出していた。

「ササキ・ライブラに会ったよ」

 叔父の手が止まる。

「俺、アオイデに帰った方が良いのかなあ」

 誰かに迷惑を掛けるくらいなら。
 熱に朦朧として、思考が定まらない。自分が何を言っているかも分かっていなかった。

「馬鹿な事を言うな。お前の帰る場所はアオイデじゃなくて、このエファランだろう」
「そうかな…」
「目が覚めたなら、何か食べたらどうだ。体が弱ると気持ちも弱るものだ。風邪の時はお粥がいいんだっけな」

 カケルの横たわる寝台を離れて、叔父は台所に行ってごそごそし始めた。

 ドカン!ポカッ!

 台所の方から料理の音とは思えない異音が響いてくる。
 カケルは不安になった。

「叔父さん…」
「おおカケル、もうすぐ用意するからな!……ところで、米はどこにあるんだ」

 叔父は料理ができない。
 頭痛をこらえてカケルは布団から這い出した。

「俺が作るよ」
「しかし…」
「叔父さんは仕事があるんだろ。俺に気にせず行ってきてよ。別に熱くらいで死なないし、大丈夫だから」

 そう言うと、叔父は「たまには父親らしいことにトライしたい」などと少し抵抗する姿勢を見せたが、結局鞄を持って職場に出勤して行った。
 叔父が出て行って、家にカケル一人の状態になる。
 カケルは熱でふらふらしながら台所に向かう。
 台所は調理用具がひっくり返されてあちこちに落ちている状態だった。

「はあ…」

 調理用具を拾って元の場所に戻していく。
 そのうちに体力が尽きたカケルは、その辺に置いてあった果汁ジュースの瓶を抱えて寝台に引き返した。
 寝台に横たわって目を閉じるとあっと言う間に眠りに落ちた。








 ピンポーンと玄関の呼び鈴の音が鳴る。
 繰り返した響くその音にカケルは目が覚めた。
 来客だろうか。
 眠る前よりは熱が収まっているのか、意識がはっきりしてくる。
 自分の格好を見下ろすと、いつの間にか実習中に着ていた灰色の学生服から、ゆるゆるの紺色のシャツとズボンに着替えさせられていた。人前に出るのは心許ない格好だが、病人ということで勘弁して貰おう。
 適当な上着を引っ掛けて玄関の前に立つ。

「はーい、どちら様ですかー」
「サーフェス?俺だ、寮長のセファンだ。見舞いに来た」

 よく知った頼もしい先輩の声だ。
 カケルは玄関の扉を開けた。

「どうも…セファン先輩と……スルト先輩?」

 自分より背の高い寮長を見上げた後、自分より背が低い白銀の髪の少年の姿に気付く。

「その視線の移動はムカつくな…元気そうじゃねえか、サーフェス」
「おかげさまで」
「上がっていいか?」
「どうぞー」

 お邪魔しますと先輩2人が靴を履いたまま家の中に入ってくる。エファランは家の中も土足の文化だ。生まれ育ったアオイデは、玄関で靴を脱ぐ文化なのでカケルはいつも玄関で違和感を覚える。
 散らかった雑貨を脇に寄せて、居間のテーブルまで案内する。

「そうだサーフェス、これは見舞いの品だ」

 椅子に座る前にセファンが手に持った紙袋を渡してくる。

「わあ、ありがとうございます」
「イリアが用意した。マクセラン家特製、疲れた竜も飛び起きて元気になる療養食らしい」

 マクセランと聞いて嫌な予感を覚える。しかし、食料の差し入れなら欲しかったところだ。何しろ倒れてからジュースしか飲んでいない。
 紙袋からタッパーを取り出す。
 蓋を開けると酸っぱい臭いと共に激しく赤い謎の物体が姿を現した。
 見なかったことにしたい。

「……ま、まあ体調が悪いなら無理に食べなくて良いぞ」
「後で頂くということで…」

 カケルは作り笑いを浮かべてタッパーを棚の奥へ押し込んだ。
 ほとぼりが覚めた頃にこっそり捨てよう。
 スルトはテーブルの上のコップを取って、水差しから勝手に水を注ぐ。好きにやってくれ。体調の悪さを理由に接客を放棄する。もっとも通常の状態の時でもお茶を出すようなことはしなかったかもしれない。

「マクセランと言えば、あのミレーヌって娘は一体なんなんですか」
「ああ…彼女はお前たちより1つ下の学年で、マクセランの三女だ。イリアの妹だな」

 もの凄い勢いで飛び乗ってきた少女を思い出してカケルは顔をしかめる。
 同じ学校なのか。ということは、学校で顔を合わせるんだな。
 ついで、イヴの怒った顔を思い出す。もしあの2人の少女が顔を合わせたら…波乱が容易に想像できる。恐ろしくて学校に行きたくない。

「そうだ、見舞いついでにお前に話がある」
「何ですか?」
「お前は元々、生産科志望だったそうだが、今でも生産科に行きたいと思っているか」

 真面目な顔をしてセファンが問う。
 カケルは目を見開いた。


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