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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える

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11 もうそろそろ限界です

 巨大な爆弾の前で、タイマーに繋がった赤と青のケーブルのどちらを切るか、言い争っていたイヴとスルト。しかし、カケルが「切らなくていいよ」と発言した。

「どういうことよ!?」
「え?別に今解体処理しなくても凍らせとけばいいんだよ。という訳でイヴ、冷凍フリージングをお願いします」
「凍らせれば止まんのか?!」
「タイマーの電子部品は凍ったら電流が流れないし、温度が上がって火が付かないと、爆弾はただの不発弾になる」

 イヴやスルトが無知という訳ではない。エファランでは機械類があまり作られていないので、電子部品と言って理解できるのは研究者や専門家だけだ。爆弾の存在自体、一般人は噂で聞く程度しか知らない。
 詳しい理屈は分からないが、カケルの説明を聞いて冷凍することで爆発を阻止できることは分かった。まったく。さっさと先にそれを言いなさいよ。
 言い争うのも馬鹿らしくなったイヴは、爆弾に向き直って呪文コマンドを唱えた。

冷凍フリージング

 霜が降りて黒い爆弾の表面が白っぽくなる。
 氷結したタイマーの表示は一瞬点滅した後、暗く消灯した。
 どうやら停止したようだ。

「……凍結を防止する構造にしてたり、凍結防止の呪術が掛けられてたら駄目だったんだけど。うまくいって良かったねー」
「自信満々に解説しといて、今更何言ってるのよ…」

 一気に空気が弛緩する。
 危機を乗り越えて、イヴは安堵すると同時に猛烈な空腹を感じた。
 そろそろいい加減休ませて欲しい。
 爆弾の前で言葉もなくしゃがみ込む。カケルがそんな彼女を見て心配そうに何か言いかけて、口を噤む。
 廊下を駆ける足音が聞こえてきて、食堂の扉が開いた。
 しゃがんでいたイヴはよろよろ立ち上がる。
 一瞬緊張したが、カケルやオルタナは平気そうな顔をして動かない。はたして、食堂に入ってきたのは敵では無かった。

「……君達は……オルタナ、何故ここに?!」
「兄貴」

 茶髪に紅い瞳の軍人の男を先頭に、エファラン陸軍の軍服を着た男達が入ってくる。
 先頭の男はオルタナの兄らしい。言われてみると瞳の色や面差しが似ている。

「遅い到着だな、兄貴。爆弾は止めといたぜ」
「ソルダートの奴ら、爆弾を設置していたのか。途中からその可能性もあるかと思って特殊部隊を呼んだところだったが……」

 オルタナの兄、エイドはつかつかと食堂の真ん中に鎮座する爆弾まで歩み寄ると様子を確認する。

「凍結か……適切な処理だ。一体誰が…」

 彼は目を細めて爆弾の状態を確かめた後、こちらの顔触れを見回した。
 オルタナとスルト、イヴを見てから、視線がカケルの上で止まる。

「君がカケル・サーフェスか。凍結について提案したのは、君か?」
「……そうですが」

 エイドの視線は鋭い。功労者に感謝する雰囲気では無かった。むしろ邪魔な事をしてくれたと言い出しそうな表情だ。

「君なら知っていても不思議では無いな。だが感謝すべきかどうか……一体いつまでこの国にいるつもりだ?」
「……」
「君は厄介事の種になりかねない」

 不穏な空気にイヴは戸惑った。何故エイドが初対面のカケルを攻めるのだろうか。武器保管庫で聞いた会話から、カケルの出自について分かりかけてはいたが、事情を全て理解するにはまだ情報が不足している。
 険悪な視線を受けたカケルは少し黙り込んだが、意を決したように口を開きかけた。しかし、オルタナが会話に割って入る。

「取り消せ、兄貴」

 オルタナは低い声で言って、一歩前に出た。
 目に見えない怒気が彼の身体から立ち上っている。

「出身がどうでも、今のこいつはエファランの竜だ」
「オルタナ……」

 弟の言葉にエイドは眉を下げて困った顔をした。
 カケルも目を見開いた後、ふっと苦笑する。

「ありがとう、オルト。でも、オルトのお兄さんが言った事は俺の問題でもあるんだ。エファランは厄介者の俺を受け入れてくれた。これ以上、迷惑を掛けたくないんだよ」
「……」
「オルトのお兄さん。余計な事をしてしまってすいません。学校を卒業したら、この国を出ます。それまでは大目に見て貰えませんか?」
「カケル!」

 イヴは思わず声を上げた。そんなの聞いてない。
 胸を突くような痛みと共に、彼女は理解した。

 だからカケルはいつも試験で手を抜く。試験の点数など、この国で働くのでなければ意味が無いから。
 だからカケルは彼女と契約しないと言う。イヴと一緒にこの国で生きていくつもりがないから。

 いつの間にか彼に気を許し始めていた。当たり前のようにずっと一緒にいると、少なくとも同じエファランの中で、近くにいるだろうと漠然と思っていた。うまく説得して、自分の竜になってもらおうと、甘い画策まで始めていたのだ。
 彼女は少なくないショックを受けていた。

 一方のエイドはどう答えるか迷っていた。

 彼は高天原インバウンドから逃げ込んできた少年について噂で知っているだけで、良い印象を持っていなかった。しかし、弟とアラクサラの娘がカケルを庇う様子を見て、またカケルの素直な言葉を聞いて、カケルの人柄について理解する。
 優しくお人好しな青年だ。育ちが良いからだろうか、災いの種となる前に自ら去ろうとしている。一見それは美徳に見えるが、見方を変えれば弱く臆病なだけだ。

「……君は本当にそれでいいのか」

 小さく苛立ちを込めて呟く。
 その言葉を聞いてカケルは何か気付いたように瞬きした。
 呟きについて聞かれる前に、エイドは声を大きくしてカケル達に言った。

「爆発物についてはこちらで処理する。君達はアクレスに戻れ。後は私達の仕事だ」

 オルタナは兄からの謝罪が無いので不満そうだ。
 指示を受けたカケルは、今度は素直に頷く。

「分かりました」
「おいカケル」
「オルトのお兄さんの言う通り、俺達はここまでだよ。さあ、帰ろう。イヴは疲れてるみたいだし」

 ふわふわ笑ってカケルは退出を促した。
 確かにもうくたくただ。促されるまま、イヴ達は食堂を出る。
 中庭まで戻って、竜に姿を変えたカケルの背に登る。蒼い竜は羽ばたいて基地の上空へ飛び立った。
 空を見回すと、いつの間にか飛行船の姿は無くなっている。
 空軍の竜達の姿もなくて、オレンジ色の竜だけがカケル達を待ち構えていたように近寄ってくる。並行して飛ぶセファンが声を掛けてきた。

『目的は果たせたか?』
『なんとか。空軍の皆さんは飛行船を落とせたんですか?』
『いや。逃げられた。今は追撃をかけているところだ。俺はお前達とアクレスの街に戻る』

 セファン達も学生だから帰れと言われたようだ。
 二頭の竜は肩を並べてアクレスを目指した。
 竜の背でイヴはカケルと話がしたいと思っていた。
 しかし、空腹と眠気と戦っていた彼女は、振動が少ない竜の背でいつの間にかうたた寝をしてしまい、その機会を逃してしまった。







 アクレスの街に竜は舞い降りる。
 街の片隅にある竜の発着場で、イヴ達を出迎えたのは意外な人物だった。

「やあ」
「アロールさん?!」

 イヴは目を丸くする。
 そこにいたのは、キャンプの事件の折に世話になった空軍特務隊の竜騎士アロールだった。彼は銀に近い金色の髪に、年齢不詳な見た目をしている。
 アロールは手を振って歩いてくる。
 その彼を追い越して、学生服を着たクリーム色の髪の少女がこちらに走ってきた。

「カ・ケ・ル・さーん!!」
「えええっ、ぐはっ--」

 凄い勢いで突っ込んできた少女にカケルが押し倒される。
 突然の出来事にイヴ達は唖然とした。これは一体何事だ…

「ちょっ、ちょっと貴方何やってるの?!」

 目を白黒させているカケルに乗っかった少女にイヴは声を掛ける。

「何って……押し倒してますがそれが何か?」
「見りゃ分かる」

 オルタナが眉間に皺を寄せて突っ込んだ。
 追い付いてきたアロールがのんびり彼女を窘める。

「こらこらミレーヌ、淑女が公衆の面前で乗っかりにいくんじゃない。そういうのは2人だけの時になさい」
「はーい」

 注意された少女はカケルの上から降りる。彼女はミレーヌというらしい。
 いまだにポカンとしているカケルがアロールを見上げて訪ねる。

「アロールさん……なんですか彼女は?」
「僕の妹のミレーヌだ。可愛いだろう。君の竜騎士にどうかと思って」

 アロールの答えを聞いたカケルが青ざめる。
 顔を引きつらせながらふわふわ抗議した。

「そ、その話は考えさせて下さいって……」
「うんうん、学生の間にゆっくり考えると良い。うちのミレーヌの竜になることをね」

 話を聞いていたイヴは不快感を込めてカケルを睨んだ。

「カケル……いったいどういう事かしら。説明してくれるわね……?」
「イヴ……ぐは……俺もう無理……」

 カケルは泡を吹いて倒れる。
 釈明を待っていたが、そのままいつまで立っても起き上がってこない。眉を寄せてイヴは目を回しているカケルを覗き込んだ。

「……昼寝……昼寝が足りなーい……ばたんきゅー」

 意味が分からない。
 オルタナがひょいと屈み込んでカケルの額に手をあてた。

「すげえ熱」

 いつもに増して訳が分からないと思ったら、真面目に体調を壊して倒れてしまったらしい。さすがのイヴも病人に鞭打つつもりはない。屈んで手を伸ばし、軽くカケルの肩を揺らす。

「カケル……ちょっと大丈夫なの?」
「……」

 へんじはない。ただのしかばねのようだ。










 Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える 完

 Act.07 休憩です。やっぱり平和が一番でしょ へ続く




やっと恋愛の雰囲気が出てきたのに、カケル君は落ちてしまいました…。
長い実習も終わったので少し休憩を入れます。
+注意+
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