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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える

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10 剣戟

 歩きながら、カケルが何故かじいっとオルタナの姿を眺める。

「オルト、武装してる?」
「いちいち疑問形で聞くんじゃねえよ。敵地で武装すんのは当たり前だろ」

 2人の会話を聞いてイヴもちらりとオルタナを見る。
 言われてみると彼は腰の両脇に鞘に入った剣を下げていた。

 片方が短くて、片方は長い。長いと言っても長剣サイズではない。両方とも短剣の一種のようだ。学生服の上からベルトを通して装備している。オルタナの歩みに合わせて武器が揺れるが、その動きは最小限だ。カチャリとも音が出ていない。
 特に武装して構えているといった感じではなく、まるで武装が普段着の一部のように自然だった。カケルに言われるまで目に入らなかった程だ。

「スルト先輩は手ぶらなんだ」
「わりーな。俺の鋼牙ファングは没収されてるんだよ。今日はソレルに任せた。俺は援護という名の応援係だ」
「応援だけっすか」
「ははっ!心強いだろ」

 男子達の会話は緊張感が無い。
 大丈夫かしら。イヴは彼等の後ろを歩きながら探査サーチの術式を実行する。
 そして前方の食堂手前に人がいることに気付いた。

「……前方10メートルくらい先に敵の反応があるわ。数は3」

 そう報告する。カケル達は顔を見合わせた。

「通り過ぎるのを待つか」
「迂回しないと鉢合わせするわよ」
「遠回りする時間が惜しいなー」

 言っている間にも敵が近付いている。
 オルタナがちっと舌打ちして腰の剣に手を伸ばし、親指で軽く鞘から抜き出して元に戻す動作をする。剣の抜き差しについて確認したらしい。
 キンと澄んだ音が鳴る。
 黒っぽい鞘から現れた刃は、片方はダガー、もう片方は細身の剣だった。二つの剣の峰には発光する線が走っている。二本とも特別製の鋼牙ファングらしい。

「……向こうも止まったわ」

 ソルダートの兵士はほとんど呪術師だ。向こうも探査か索敵をしているのなら、不意打ちは難しい。

「よーし。イヴはオルトに守護シールド、俺と先輩は適当に援護するってことで。オルト、頑張って!」
「後で殴っていいか」
「あんたに指示されなくても、それくらいしてあげるわよ」

 ふわふわ笑って指示するカケル。オルタナとイヴは不満を表明したが、文句を言われてもカケルは笑うばかりだ。ともあれ、交戦は避けられない。
 イヴはオルタナに守護シールドの術をかける。
 援護をするにも遠くからは出来ないので、一行は全員で敵側に向かって歩みを進めた。
 角を曲がって廊下の突き当たりに敵の姿が見えた時点で、オルタナが走り出す。
 後を追うようにスルトも駆け出した。中距離から援護するつもりらしい。
 姿を視認した途端に敵側から呪術の攻撃が飛んでくる。

「散れ!」

 カケルの声と共に追い風が吹く。
 敵の呪術師が放った氷の礫が風に吹き散らされる。
 風に背を押されたオルタナが両手で武器を抜いて敵の陣中に踊り込んだ。

 銃撃で応戦しようとした後ろの1人の兵士に、スルトが投げたナイフが命中する。
 接近されて狼狽えている兵士2人の内、1人の胴体にオルタナは剣を突き刺した。鋼牙ファングは兵士に掛かっている守護シールドを呆気なく突破する。己の胸に突き刺さった剣を見て兵士は愕然とする。動きの止まった兵士を脇に蹴飛ばしながら、オルタナはその反動で剣を引き抜いた。
 最後の1人は銃剣を持っていた。必死の形相で武器を振り回す兵士と距離を詰める。銃剣に右手の剣を叩きつけて取り落とさせると、そのまま左手のダガーで敵の首を撫でた。
 吹き出した鮮血を姿勢を低くして避け、後ろに飛びすさる。

 数分の間に勝敗は決していた。
 いつの間にか敵の背後に回っていたスルトが、倒れた敵にとどめを刺している。

「おお、こええー。さすがソレル、初陣とは思えない鬼畜っぷり」
「先輩には負けるっすよ」

 2人は軽口を叩く。オルタナは血の付いた剣を布で軽く拭って鞘に収める。後処理をしておかないと、血が固まって剣が抜けなくなる。後処理をする彼の手が僅かに震えていることにスルトは気付いていたが、見なかった振りをした。
 軍人の家の子供として覚悟出来ている部分はあるが、それでもまだ学生なのだ。

 戦いが終わったと見て、カケルとイヴは彼等に近付く。

「大丈夫?」
「返り血だ。こっちは無傷だぜ」

 仲間の無事を確かめてイヴはほっとする。足元で死体となっているソルダートの兵士には悪いが、仲間の命の方が大事だ。
 障害は排除した。
 食堂はもう目と鼻の先だ。

 動かなくなった兵士の死体を乗り越えて、イヴ達は食堂に足を踏み入れた。
 基地で実習をしていた時は賑やかだった食堂だが、今は緊張を孕んで閑散としており、まるで別の部屋のようだ。
 押しのけられたテーブルや椅子の真ん中にそびえ立つように、黒い円筒形の物体が鎮座している。

「やっぱり……」

 カケルが呟いて無造作に黒い物体に近寄った。
 彼の脇からイヴも黒い物体を観察する。
 物体の大きさは食堂の扉から入るギリギリの大きさだ。運び入れるときに使ったらしいキャスターが足元に残っている。円筒形のお尻から何本かケーブルが伸びていて、タイマーが付いた四角い装置と繋がっている。

「何これ?」
「知らないのか、時限爆弾ってやつだよ」

 首を傾げるイヴにスルトが説明する。

「ここに表示されてる時間がゼロになったら、大爆発すんだよ!サーフェスが言ってただろ、基地が吹っ飛ぶぞ!」
「ええ?!」
「ソルダートはエファランと違って機械類が好きだからねー。基地を爆発させる規模の呪術を設置するには、ベテランの呪術師が必要だ。時と場合によっては、爆弾設置する方が早くて安上がりなんだよ」

 カケルがふわふわと補足した。
 大変な事を言っている割には緊張感がない。

「ちょっと!この基地にはまだ自分ところの国の兵士が残ってるじゃないの!」
「大事の前の小事だと思ってるんじゃないの。エファランの陸軍精鋭も纏めて吹っ飛ばせるなら、エファランに大打撃を与えられる。犠牲にも意味があるとか……」
「冗談じゃないわよ。ソルダートの奴ら、頭がおかしいんじゃないの!」

 イヴはカケルを押しのけて爆弾の前に立った。
 タイマーは5分を切っている。

「あと5分?!これ、どうやって止めればいいの?」
「あー、確か、ケーブルを切るんじゃなかったっけ…。でも間違ったら爆発するらしいぞ」

 スルトが答えた。
 彼は美少年顔を歪ませて深刻そうな表情をした。

「爆発物の処理は、エファランの陸軍でも特殊部隊の仕事なんだよ。俺らが下手に弄って爆発したら目も当てられねえ」
「じゃあ特殊部隊の人を呼んで来て…」
「近くにいねーよ!」

 言い合うイヴとスルト。
 ヒートアップしている2人を前に、押しのけられたカケルはぽけっとしている。オルタナは面倒くさそうに明後日を見ていた。

「じゃあどうすればいいのよ?!」
「糞っ、こうなったら俺達でなんとか……。このケーブル、青と赤があるぞ。どっちかがダミーだ」
「あのー」
「適当にどっちか切ってみれば?」
「簡単に言うなよ!間違ったら俺達全員、あの世行きだぜ!」
「もしもし」
「「 なんだよ!? 」」

 イヴとスルトは声を合わせて、後ろからおずおずと割って入ろうとするカケルを振り返った。睨まれたカケルが怯えたように後ずさる。

「ええと、盛り上がってるところ悪いんだけど……。別にケーブル切らなくてもいいよ?」
「……は?!」

 すっかり二択の気持ちになっていたイヴとスルトは呆然とした。
 後ろでオルタナが「はあ」と溜め息をついてやれやれと首を振った。



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