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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える

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08 貴方から離れない

 森の中、目覚めないカケルを放り捨てて、イヴは立ち上がった。

 ソルダートは呪術中心の国で、敵の兵士は呪術を撃ってくると考えて良い。
 基本的に飛び道具を避けることは難しい。
 先に撃たれれば、防御していない限り命中する。生身の身体に命中すれば 、ただでは済まない。
 しかし、イヴはあえて防御を捨てる。
 彼女は可能な限り攻撃距離を広げ、命中精度を上げて、捨て身の攻撃に出た。

 カケルをその場に置いて一人で敵の方へ移動する。
 どうせばれているのだ。
 迷わず探査の呪術を使って敵の位置を補足。手早くその辺で一番高い木の上に登ると、ハンターさながらに敵を狙い撃つ。

紅光弾ルビーショット!」

 光の矢を呪術の弓につがえると引き絞る。
 そのまままだ肉眼では見えない敵へ的を定めた。
 ひょうと射た矢は森に吸い込まれて消える。

《 標的を一体撃破! 》

 空中を飛び跳ねる白い兎が報告する。イヴにしか見えない呪術のナビゲータ、ミカヅキだ。興奮した様子でぴょんぴょん跳ねている。
 ナビゲータの言う撃破した敵というのは、同じ人間。私はこの瞬間、人を殺している。
 胸の奥ではキャンプの事件で敵を撃った時とは違う混乱があった。あの時はロンドがいた。彼の指示で戦った。責任はロンドが負ってくれたから気が楽だった。しかし今は違う。自分の判断で敵を殺そうと呪術を使っている。
 葛藤を彼女は極力無視することにした。今は文字通り生きるか死ぬかだ。ソルダートの連中はこちらが学生だからって、今更手加減してくれないだろう。

 もう一度、光の矢を放つ。
 有利に立てたのはそこまでだった。

 攻撃に気付いた敵は防御の術を張ったようだ。一撃では倒れない。
 イヴは攻撃タイプの呪術師のため、溜めて威力を上げるか、数度連続で放てば防御を突破できる。どちらにしても撃破に時間が掛かる。敵の数は多く、じりじりと包囲されつつあった。
 3人まで撃破した。
 その頃にはイヴが有利だった間合いは終わり、敵の攻撃の範囲に入っていた。

 ドン--!!

 敵の攻撃の呪術が木に命中して足場が揺れる。炎に包まれ、燃えて倒れる木からイヴは飛び降りた。

守護シールド

 防御の術を使う。だが……

炎撃フレア
「くっ」

 オレンジ色の炎がぶつかってきて、呆気なく防御の術は弾けて消えた。イヴは攻撃タイプの呪術師なので防御は苦手だ。
 炎に煽られながら、イヴは向かってくる敵の影を睨む。
 次の攻撃は防御できない。

 ここまでか。

 あの昼寝野郎に振り回されて散々な人生だったわね。
 楽しかったけど。
 カケル……

 目を閉じた彼女の周囲で風がさざめく。

 敵の放った呪術の炎が間近に迫る。
 焼かれる事を覚悟したが、予想していた熱気が押し寄せてくる事は無かった。
 恐る恐る目を見開く。

 強い風が吹いて、炎をかき消している。
 風に揺られて頬にかかるストロベリーブロンドの髪を、イヴは邪魔にならないように手で押さえた。

「……無茶するなあ。冷や冷やしたよ」
「カケル!?」

 森の影から紺色の髪の青年が歩みでる。青年の瞳は魔力を帯びて金色に光っている。
 その足元には蒼い風が渦巻いていた。

「もっと早く起きて来なさいよ、馬鹿!」
「これでも結構頑張ったんだけど……」

 言い訳しながらカケルはのんびりこちらへ歩いてくる。
 当然、敵が放っておく筈がない。

フレ……」

 呪文コマンドを口に仕掛けた敵は、突風に吹き飛ばされる。
 イヴ達を取り囲んだ敵は次々と吹き飛ばされて木の幹に叩きつけられ、戦闘不能になった。

「ふう。これって間に合ったって事でいいよね。昼寝禁止とか言わないよね」
「何言ってるのよ……え?」

 敵を無造作に風で追い払って近付いてきたカケルが、予想外に近距離に迫った。
 えっ?と戸惑っている内に視界が陰る。
 一拍おいて、彼女は自分が正面からカケルに抱き締められていることを理解した。

「無事で良かったあ……イヴ」

 ふうっと青年の吐息がイヴの耳元をくすぐった。
 何これ。嫌じゃないの、私?
 心拍数が上がる。それと同時に、背中に回ったカケルの腕や手が冷えていることに気付く。散々寝ていたと言っても敵の呪術のせいで、そういえばカケルは竜の状態で怪我を負っていたのだった。竜から人間に変身することで軽い傷は癒えるのだが、傷の深さや場所によっては変身後の身体にも影響する。

「ちょっと、カケル……」

 イヴは遠慮がちに身をよじって青年の腕から抜け出そうとした。
 病み上がりのカケルに実力行使するのは気が引ける。それに抱き締められて心地好く思う自分がいて、力一杯振り払えなかった。

「あ……ごめん」

 軽い抵抗を受けたカケルは我に返ったように、彼女を拘束する腕を解いて後ろに下がる。それを名残惜しく感じて、イヴは内心混乱気味だった。

「……もう、なんなのよ全く。身体は大丈夫なの?」
「んー平気」
「飛べそう?飛べるならアクレスまで戻りましょう」
「いや」

 何故かカケルは困った顔をした。

「もうすぐスルト先輩がここに来るから、イヴは先輩と先に戻ってよ」
「どういうこと?」
「ちょっと確かめたいことがあって……」

 言葉を濁す。
 ここまで来て別行動したいらしい。
 イヴは腹が立ってきた。どこまで私を振り回したら気が済むの。

「却下よ却下!あんたは私と一緒にアクレスに戻るの」
「ええ、そんな強引な」
「うるさい。こちとらあんたのせいで昨日から何も食べてないのよ!」

 ぎゃんぎゃん喚くイヴに、カケルは嫌そうな顔をする。その表情を見てイヴは更に機嫌が悪くなる。
 先ほどまで感動の再会シーンだったのに、今は喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。
 幸いなことに途中で割り込みが入って、2人の口論は長続きしなかった。

「なんだよ目が覚めたのかよ。俺達の出迎えは必要なかったか」
「スルト先輩!それにソレル」
「俺はついでかよ」

 茂みを掻き分けて、獣人の生徒2人が姿を表す。
 「あー2人の逃避行を邪魔しちゃったかー」などとふざけるスルト。後ろに続く、金髪で目つきの悪い獣人の同級生オルタナは面倒くさそうにしている。

「陸軍は基地の制圧作戦を開始してる。俺達はアクレスの街に戻るぞ」
「制圧作戦?陸軍の人達、あれに気付いてるかな。不安だなー」

 首を傾げてカケルが悩み出す。
 イヴ達は彼が何を言っているか分からず困惑した。

「カケル……?」
「やっぱり俺は確かめに行くよ。オルト、悪いけど一緒に来てくれないか。スルト先輩はイヴと一緒に先に戻って下さい」

 頼みを聞いたオルタナとスルトは少し迷う様子を見せたが、頷いた。

「いいぜ。ここまで来たついでに付き合ってやるよ」
「しゃーないか。俺は元々そのつもりで来たんだしな」

 男子2人はあっさり了解する。
 こうなるとイヴは納得がいかない。

「嫌よ」
「イヴ……」
「絶対嫌。梃子でも動かないわよ!」

 カケルの指示に反対するイヴに男子3人は顔を見合わせた。
 口には出さないが、女子を危険な場所に連れて行きたくないという思いで3人は一致していた。

「だいたい、私とあんたは」

 彼女はびしっと指先をカケルに向ける。

「契約はしてないけど、一応パートナーを組んでるのよ!違う?」
「違わないけど……」
「ならあんたは私の竜よ!別行動で勝手をするなんて論外だわ!」

 声に力を込めて言い放つ。
 断言されてカケルは間の抜けた顔でぽかんとする。
 話を聞いていたスルトが腹を抱えて笑い出した。

「はははっ、こりゃいい。お姫様の言う通りだな」
「スルト先輩」
「ここまで言われたら連れてくしかねえんじゃねえか。何かあっても、お姫様は自分で責任取るんだろ?」
「当然よ」

 スルトの念押しに彼女はきっぱり頷く。
 決意の込めた眼差しを受けてカケルは渋々折れた。

「分かったよ!もう。しょうがないなあ」

 そういうことになった。
 成り行きでスルトもくっついてくるらしい。ここからは4人で一緒に行動することになる。イヴは自分の意見が通ったのは当然だとふんぞり返った。

「しょうがないって何よ。なんであんたに指示されなきゃいけないの」
「なんでって。俺って一応リーダー……だったような?」
「そこは断言しろよ…」

 オルタナが面倒くさそうに突っ込む。
 一行は移動を始めた。


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