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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える

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07 夢の中

 太陽は中天に差し掛かっていたが、イヴはまだ森の中で立ち往生していた。
 移動したくてもできそうにない。
 目が覚めないカケルを引き摺って森を歩くなんて、考えるだけで疲れる。だいたいこの森は辺境で通る人も少なく、道らしい道は無いのだ。あるのは獣道ばかり。 倒木や沼など、行く手を阻む障害は文字通り山ほどある。自分一人だけでもまともに歩けるか怪しい。
 獣人なら獣の姿に変身すれば普通に抜けられる森でも、人間のイヴには難しい。
 カケルが起きるのを待つしか無かった。
 しかし、眠らされてから半日以上経つのに目覚める気配はない。

 これは 薬品だけでなく呪術も使われているな。
 竜は薬の類に高い抵抗力がある。薬だけならもう目覚めていてもおかしくない。
 カケルの不自然に深い寝息からは呪術の気配がした。だがイヴには解呪は出来ない。彼女は攻撃タイプの呪術師だ。こういった特殊な術の解呪は、補助タイプの呪術師の範疇になる。

 もうそろそろ限界だった。
 ポケットに忍ばせておいた菓子類は尽きたし、寒くて固い地面の上では落ち着けない。じっとしているのは性分的に辛すぎる。
 しんどい。それもこれも、まんまと敵に眠らされているカケルのせいだ。

「起きたら覚えてなさいよ…」

 昼寝野郎の分際で私を振り回してんじゃないわよ!
 苛々していると、 突然バサバサと鳥の群れが羽ばたく音がした。
 低い機械の駆動音が聞こえてくる。

 何事だろう。

「ミカヅキ、探査をお願い」

《 了解 》

 探査の呪術を使うと逆探知される可能性がある。
 しかしこの時のイヴは疲労のため我慢の限界に達していた。状況を確認したいというただその一心で後先考えずに、呪術を実行した。

《 約1キロメートル近くに飛行船の反応あり。移動してるみたいだよ 》

 呪術の補助をしてくれるナビゲータ、白い兎の姿をしたミカヅキは、空中を跳ねながら報告する。

「飛行船…?」

 イヴは森の中の飛行船の存在を知らなかった。
 ちょうど先刻、敵の指揮官のササキは飛行船を基地に移動するよう命じていた。飛行船と兵士の一団は、基地に向かって移動しているところだった。
 彼等はササキの指示で、呪術で広範囲を索敵しながら進んでいる。
 その索敵に、彼女の呪術は引っ掛かってしまった。

《 イヴ、気付かれたみたいだ! 》

「くっ!逆探知されるって分かってたのに、私としたことが」

 視界に表示された呪術による地図表示に、こちらに向かってくる敵が光点として表示されている 。 数十分以内には此処に辿り着くだろう距離だ。
 やってしまったと彼女は後悔する。
 大人しくしていればもう少し時間を稼げたかもしれないのに。

「それもこれも、あんたのせいよ!」

 彼女は逆ギレした 。
 眠っているカケルの襟首をひっつかんで揺さぶる。

「起きなさい!今すぐ起きるのよ!起きないと、学校の規則に昼寝禁止を追加して貰うんだから!」

 眠っている青年は 揺さぶられるままだ。相変わらず目覚める気配がない。

「カケル!!」

 呼び掛ける声に応えは無かった。
 イヴはドサッと木の根本に青年の身体を投げ捨てる。
 彼女は戦意に満ちた表情で立ち上がった。

「こうなったらやれるところまで戦ってやる!ただでは済まさないわよ!」







  ……カケルは夢の中にいた。







 夢の中でカケルは12歳の少年になっていた。
 彼は実家の広大な書架の中に閉じ込められていた。
 壁の上の方まで十段以上本棚が続いていて、床にも本が積み上げられている。明かり取りの窓は遠く、 部屋は薄暗かった。カケル以外の人の姿はそこにない。

 俺は何をしてたんだっけ。

 夢の中だからか思考が曖昧だ。
 背伸びして上の段の本を取ろうとして、数冊の本を床に落としてしまう。
 12歳のカケルの背は低く、家の外に出て運動する機会が少ないので、小さな手や細い腕には肉が付いていない。重い本を拾おうとして、その重さに顔をしかめる。

 元通りにしないと、父さんに怒られる。

 本の並びには規則がある。適当に直すと怒られるのだ。
 きちんと元通りにして。
 それで作業の続きをする。
 父さんに言われた内容を調べて、纏めて……それで?
 いつまでこの作業を続けるんだ。

 カケルは身震いする。

 床に落ちた本はうっすら埃が被っている。
 不意に、この本と自分は同じもののような気がした。
 同じようにこの部屋に閉じ込められて、埃を被って、生きているか死んでいるか分からない。意志があるというだけで、自分は物と同じだ。家に管理されて、この部屋から出ることは永遠に叶わない。

 本当に?

 停滞した空気がほんの少し揺れる。
 ふわりと風が吹く。



 ――君はもう、無力な子供ではないんだよ。



 誰かがそう言って励ましてくれた気がする。
 誰だっけ。

 カケルは明かり取りの窓を見上げた。
 何か音が聞こえたような気がする。
 窓の向こうから微かに声が聞こえた。



 ――起きなさい! 起きるのよ!でないと……



 高い少女の声。
 とても懐かしく、カケルの胸を強く揺さぶる。



 ……起きないと、学校の規則に昼寝禁止を追加して貰うんだから!



「え!?それは超困るんだけど!」

 昼寝が生きがいなのに。酷いよイヴ!
 イヴ……?


 それは、12歳の少年の時には知らなかった人の名前だ。
 カケルは我に返った。


 18歳の青年の記憶が一気に蘇る。
 意識がはっきりしたのと同時に、12歳の少年の姿が18歳の青年の姿に変化した。

「単なる夢じゃないのか……?」

 立ち並ぶ書架を見渡してカケルは呟く。
 普通なら夢から覚めても良い頃合いなのに、意識がはっきりしたまま、まだ幻の書架の間に立っている。手を伸ばして床の本を拾い上げる。
 少年のカケルには重かった本が、 軽々と持ち上がった。

「こんなに狭くて小さな部屋だったんだな」

 実家の書架は青年の目線から見ると狭かった。
 カケルは数歩歩いて、書架の扉の前に立つ。ノブに手を掛けて扉を開けようとしたが、妙に固くて開かない。

「呪術か」

 自分が眠らされる前後の記憶から、カケルは状況を把握する。
 どうやら自分は呪術で眠らされているため、この半端な夢から出られないらしい。

「んー」

 解呪されるのを待ちたいが、のんびりしてるのはまずい。
 イヴの声は切羽詰まっていたし、起きないと昼寝禁止ときた。
 何とか自分で起きるしかないな。

 呪術の解除かあ。ふむ。

 これでも呪術の最高峰である七司書家の本家にいたのだ。それにカケルは、本人も忘れがちだが、実は魔眼を持っている。魔眼は、表に出る現象としての呪術の裏にある、呪術文字の織りなす術式を解析して肉眼に映し出す能力のことだ。
 呪術を解析する能力。
 通常は呪術師でなければその能力を100%使いこなせない。解析した後、解析した結果を元に敵の呪術師に侵入ハッキングして、術式を書き換えるのが本来の使い方だからだ。
 しかし、今回は侵入ハッキングする必要はない。敵の術式は、自分の中に仕掛けられているのだから。

「……解析アナライズ、起動」

 カケルは、自分が唯一使える呪術の呪文コマンドを口にする。
 夢の景色がぐらりとゆがむ。
 本の隙間から呪術文字の羅列が飛び出した。一般に使われている文字とは違う、幾何学的な文字と数式の群れがカケルを取り囲む。

「粗い術式だな。これなら何とかなるかな」

 呪術師でないカケルは、自分の身体の外で通常の呪術を扱うことはできない。しかし七司書家直系の特別な魔眼の能力により、呪術の詳細な解析だけは可能だ。そして、自分の内部であれば術式を書き換えることも出来る。

「ササキ・ライブラだっけ。あんな奴のこんなレベルの低い術式に捕まるなんて、我ながら間抜け過ぎるよ」

 浮遊する呪術文字に手を伸ばして、書き換えていく。
 作業はすぐに済みそうだ。
 ようし、こんな埃臭い書架とはさっさとおさらばして、現実世界でまったり昼寝してやるぞ。昼寝万歳!




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