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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.01 君に出会った時から俺の(昼寝)人生設計が崩れ始めた

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05 戦闘開始

 谷に降りていくにあたって、イヴが警戒の役目を申し出た。
 彼女は竜騎士を目指している。
 竜騎士を目指すものは必ず人間の呪術師になる。空の上から遠距離攻撃するには、魔法の一種である呪術を扱えた方が便利であり、3つの種族の内、人間だけが呪術を扱うことができるからだ。

 イヴは己のナビゲータを呼び出して呪術の準備をした。
 彼女のナビゲータは白い兎の姿をしている。
 拳の二倍程度の大きさの兎は、洒落た黒いタキシードを着て二本足で立ち、彼女の肩の上に乗っている。しかし、ナビゲータはその呪術師でないと見えないため、可愛らしい姿は残念ながら他の者には見えていない。

「ミカヅキ、探査サーチをお願い」

《 了解だよ! 》

 白い兎は胸を張り、リボンタイを引っ張って身繕いする。それと同時に、彼女の視界に周辺数メートル範囲のおおまかな地図が描き出され、地図上にイヴ達人間が緑の光点で表示された。
 敵の羽虫フライがいれば、この地図に表示される。
 谷底に降りて少し歩くと、地図の端に敵を示す赤い光点が複数表示された。
 赤い光点は入り乱れて動いている。
 オルタナと先頭を歩いていたイヴは足を止めた。

「見つけたのかい? なら、僕に座標を転送してくれ」

 立ち止まったイヴに、後ろからロンドが要請する。
 呪術による地図の表示は、実行している本人にしか見えないため、情報共有にはそれなりの手順が要る。

「どうするんですか?」
「近付く前に先制攻撃さ」

 眼鏡をくいっと指で持ちあげてロンドが言う。イヴは言われた通り、座標を転送した。

「サーフィン、この座標に遠隔で火粉クラックを設置、合図をしたら実行してくれ」

《 了解なのだ 》

 マンボウの姿のナビゲータは、空中でゆらゆら浮かびながら術式を展開する。
 ロンドはイヴから渡された情報を元に、自分も呪術で地図を表示して、赤い光点が一箇所に集まるタイミングを測った。

「今だ!」

火粉クラック発動 》

 合図の直後に、前方でバーンと爆発音が上がり、火花と煙が上がる。

「敵の反応消失を確認」

 イヴが探査の術式の結果を報告する。
 地図上で表示されていた、赤い3つの光点は次々と消えていく。呆気ない幕切れに安堵仕掛けたその時。

「イヴ、危ない!」

 カケルが叫んで彼女の腕を引っ張って、強引に伏せさせた。
 ブーンという羽音と共に羽虫フライが上空から襲いかかり、イヴの頭上を通過する。
 伏せながらカケルはオルタナに声をかけた。

「オルト!」
「飛んで火に入る虫だぜ!」

 一行の真ん中に飛び込んで来た羽虫フライを、オルタナが喜々として迎え撃つ。
 彼は恐れることなく、羽虫フライに向かって踏み込み、拳を固めて虫の胴体を殴り飛ばした。

 高速で飛ぶ羽虫フライだが、獣人の胴体視力なら捉えられないことはない。

 横殴りにされた羽虫フライは近くの岩壁にぶつかって転げ落ちた。追ったオルタナが、地面に転げてジタバタする虫の頭を容赦なく踏み潰す。
 ベシャッと気持ち悪い音を立てて、虫の頭部がへしゃげて体液が流れた。

「うげ……」

 リリーナが虫の死体に顔をしかめる。
 危険が去ったのを確認して、カケルはイヴと共に立ち上がった。
 彼女の肩の上でナビゲータのミカヅキは心配そうに言った。

《 大丈夫?》

 平気だと返事しようとしたイヴだが、その前にカケルが口を挟む。

「へえー、イヴのナビゲータは兎さんなんだ。可愛いなあ」
「!」

 イヴは驚愕した。
 前述した通り、ナビゲータの姿は通常、呪術師本人にしか見えないものだからだ。

「ミカヅキが見えてるの?」
「アラクサラ君、こう見えてカケルは、僕たち呪術師の呪術やナビゲータを見ることができる魔眼の持ち主なんだ」

 脇からロンドが淡々と解説する。
 イヴは驚いて目を丸くした。魔眼という能力があることは知っていたが、実際に会うのは初めてだ。それくらい希少な能力なのである。
 後ろで聞いていたチームの面々は各々感想を漏らした。

「初めて知ったよ……」
「なんつーか、豚に真珠、猫に小判ってか」
「えっへん!」

 胸をはって得意げなカケルに、オルタナがぼそりと呟き、リリーナが「褒めてないから」と冷たく突っ込む。
 イヴも驚愕から醒めると冷静に呟いた。

「オルタナの言う通りね。呪術師じゃなきゃ、魔眼を持ってても大して役に立たないもの」

 魔眼は呪術師に付随する能力として知られている。その使い道は、魔眼で目視した相手の呪術を解析し、自分の呪術に取り込んだり、相手の呪術を打ち破ったりすることが主だ。
 ロンドもうんうんと頷く。

「そうだぞ、カケル。竜なんぞ目指したら、せっかくの魔眼が宝の持ち腐れだ。人間の呪術師じゃないと、意味がないんだぞ」
「え~。俺、呪術師になんかならないよ。竜になるんだから」

 しかしカケルは口を尖らせて自分は竜になるのだと主張する。
 イヴは眉をひそめた。

「なぜそんなに竜になりたいの? ロンド先輩の言う通り勿体ないじゃない」
「俺は竜になって道端でお昼寝するんだ!」

 カケルは拳を握って叫んだが、聞いた面々の反応は冷たかった。

「……。何言ってるのか、意味不明だわ」
「先進もうぜ」

 無視されてカケルは「えー?」と不満の声を上げたが誰も取り合わない。
 空からの強襲があったので警戒は持続しつつ、彼等は川辺に降りていく。
 川にたどり着くと、ラウン青年はジャガーの姿で水に潜り、弟を乗せて泳いで戻ってきた。
 ジャガーの背にしがみつく少年は青ざめた顔でぐったりしている。

「弟君は大丈夫?」
『少し調子が悪いようです』

 心配そうにイヴが聞くと、ジャガーは首を逸らせて弟の様子を確認した。竜や獣人は姿を変えると発声器官が人間と違うので話せないが、代わりにテレパシーのような念話で会話ができる。
 自分で歩けそうにない弟を背に乗せて、ラウン青年はジャガーの姿のまま、移動することにしたようだ。

 一行は元いた道を引き返して、学校が指定したキャンプ地に向かうことにした。
 今日のキャンプでは、学生と教師が集合するため、同行している保健の教諭も来ている筈だ。体調不良のラウンの弟は、一番近い医者である保健の教諭に診せるのが良いように思われた。

 沢沿いに登って行く途中で、ロンドが羽虫フライを纏めて撃破した地点まで戻って来た。
 岩の上に点々と、バラバラになった虫の死骸が散らばっていて、リリーナが気持ち悪そうに目を背けている。
 歩いている途中でロンドが難しい顔をして、声を上げた。

「待て、この反応は――」

 ミカヅキに命じて、引き続き探査サーチの術式を広げていたリリーナも顔を強張らせる。
 何処からか、岩壁の向こうから低い地響きが聞こえてきた。

「これは羽虫フライ? いえ、それにしては大きい……」
「アラクサラ君、こいつは大地虫ワームだ!」

 ロンドが叫んだ瞬間、一行の後方の岸壁が大きな音を立てて崩れて、砂埃が上がった。
 砂埃の中から、高さが3メートル以上あるイソギンチャクのような口を開けたモンスターが姿を現した。ぽっかり土管のように開いた口の内側には、鋭い棘のような歯がぎっしり並んでいる。眼も鼻も無い頭部からは、不気味な触手がそれ自体別の生き物のようにゆらゆらと動いている。謎のねばついた透明な液体が口元から滴り落ちていた。
 太ってだぶついた襞のある、蛇のような胴体は堅そうな鱗に覆われている。

 怪物は土色の長い胴体をズルズルと引きずって、こちらに近付いて来た。
カケル「マンボウ君、昼寝同盟に入らない?」
サーフィン《 ブクブク(泡をはきながら)ワタシ、ニンゲンノコトバ、ワカリマセーン 》

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