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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える

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06 波乱の夜明け

 夜が明けた。
 冷たい草むらの間で凍えそうになりながら、イヴはうたた寝から目覚めた。外套の裾を手繰り寄せて白い息を吐く。
 死にそうにお腹が空いている。
 ポケットの中から飴を取り出して舐めながら、傍らに横たわる紺色の髪の青年を見つめた。朝日の元で様子を確かめたが、カケルは未だ、深い眠りの淵にあるようだ。

 スルトは戻ってこない。
 何となく、トラブルが起きていて、ここには戻ってこないような気がする。彼は夜の森もへっちゃらな獣人だ。道に迷っているとは考え難い。戻って来れるなら、もう戻って来ていても良い頃だろう。

 何かトラブルが起きていると仮定して。
 自分より背が高いカケルの身体を見る。これを引きずって移動するのは無理だろう。
 こうなったら、カケルの目が覚めて貰わないと困る。
 自力で歩くか飛ぶかしてくれないと、移動出来ない。ここまで連れて来た以上、彼を置いて逃げるのは論外だ。
 困った。

「カケル……ふざけんのもいい加減にしてよね。起きなさいよ!」

 声を潜めつつ、叩いて揺さぶってみたが、応答はない。
 寝息は重く低い。自力で起きられる状態ではなさそうだった。
 イヴは頭を抱えてうずくまる。彼女は途方に暮れた。

「どうしよう……どうしたらいいの。お願いだから起きてよ、カケル……」







 イヴが森の中で悩んでいた頃、オルタナは学校を兄と一緒に出たところだった。
 ソルダートが基地を占領した次の日。
 エファランの国の上層部は一晩掛けて状況を把握し、解決に向けて準備を進めているところだった。遅いと言うなかれ。大勢の人が集まって、1つの事を意思決定するのは大変なのだ。
 一晩、何もしていなかった訳ではない。
 軍はセファン達と合流して、アクレスの街に集合し、対応策を練っていた。
 オルタナとエイドも彼等と合流する予定だ。

 エイドの部下の陸軍の獣人達は、オルタナに興味津々だった。
 これが噂のソレル家の腕白小僧か。
 学生にしてはできるようだが、子供を現場に連れていって大丈夫なのか。
 上司のエイドが余りにも平然と学生服のオルタナを連れて歩くので、彼等は困惑していた。

 陸軍の兵士達は空軍の運搬部門の竜に乗せて貰って、アクレスの街に着く。
 アクレス上空は、基地に囚われた同僚を心配する彼等の気持ちを表すようにどんより曇っていた。

「スルト先輩」
「よお」

 アクレスでオルタナを出迎えたのは、捕まったと聞いていた獣人の先輩だった。
 彼は片腕に包帯を巻き付けていて、あちこち傷だらけになっている。

「どうしたんすか?」
「ちょっとしくじった」

 スルトは頭を掻いてあははと笑う。

「何やらかしてきたんすか……」

 誤魔化すような笑いを不審に思って質問する。

「はっはー、奴らの飛行船のエンジンに小便引っ掛けてきてやったぜ!」
「それは…」

 自慢げに宣うスルトにオルタナは呆れる。
 ソルダートの連中も災難だな。

「あと、イヴとカケルを森の中に置いて来ちまったよ。いやーあっはっは、すまんなー!」
「何言ってるんすか!ってか、それを先に言え!」

 オルタナは舌打ちした。
 事態は思っていたより混乱しつつある。基地の中に囚われているよりましなのかどうか。森の中って一体どこだ。
 笑っていたスルトはふと真面目な顔をする。

「迎えに行くんだろ。俺も一緒に行く」
「……体は大丈夫なんすか?」
「こんなのは掠り傷さ」

 結構ボロボロに見えるが、オルタナは突っ込まなかった。スルトなりに、カケルやイヴを心配してくれている事は分かっている。先輩が大丈夫と言っているのだから、その言葉を信じるだけだ。
 学生2人で喋っていると、後ろからエイドが口を挟んだ。

「森に飛行船が降りているんだったな。手段はともかく、敵の足止めが出来ているならいいが。竜を積んで逃げられると厄介だ」
「スルト先輩が余計なことしたから、警戒してるかもな」
「てめっ、余計な事とは何だ!俺は後の事を考えてだな……」
「小便したかっただけじゃないすか」
「それもある」

 エイドがごほんと咳払いした。睨まれて二人は視線を逸らす。

「……ともかく、スルト君の脱走がばれている事は確実だ。すぐにでも強襲作戦を開始する。その間にオルタナとスルト君は、その森に残っているという学生を迎えに行け」
「分かった」
「了解」

 エファランの軍人達は、スルトの情報を元に作戦を立て始める。
 オルタナとスルトは軽く準備をすると、すぐにイヴとカケルがいるという森へ向かった。







 基地を占領中のソルダート軍の指揮官ササキは怒っていた。

「船が飛ばない?!修理にどのくらい掛かるんだ」
「今、予備の部品に交換して調整中です」

 部下の技師はぺこぺこ謝る。
 スルトの放尿は飛行船のエンジンに密かに大ダメージを与えていた。エンジンから変な音が鳴っていると、技師が気付いた時には既に遅し。内部に水が入ったことにより、エンジンがショートして部分的に損傷していた。
 状況を報告する技師の男は気が小さいのか、背を屈めていて声が小さい。
 ササキは苛々した。

「何が原因だ?」
「エンジンに、そのう、水が……」
「はっきり言え!」

 一喝された技師は背筋を伸ばした。
 その瞬間だけ無駄にハキハキと回答する。

「はっ。昨夜侵入した敵が制御室で粗相をしたようであります!エンジンに掛かりまして……」
「何だと?!」

 ササキは余りに下品な原因に驚愕し、顔を歪めて吐き捨てた。

「エファランの奴らめ。前から動物以下だと思っていたが、とうとう行動まで動物以下になったか。猫だって決めた場所にするというのに!」

 ソルダートの肩を持つ訳ではないが、スルトの行動は動物的過ぎて否定できない。
 それにしても酷い偏見だ。
 エファランではあり得ないことだが、ソルダートでは竜は騎乗動物、獣人は密かにペットにされている。この世界の人間は種族を選べるので、ソルダート人でも人間以外の種族が選べるのだが、選ぶ者は少ない。
 ササキのような見方がソルダートでは一般的だ。

「いつ飛べるようになる?」
「夕方までには……」
「遅い!午後には飛べるようにしろ!」

 怒鳴られた技師は命令を受領すると飛ぶように去って行った。
 その後ろ姿を見送ってササキは憂鬱になる。

 カケルとイヴが逃げ出したことも今朝判明している。
 予定は大いに狂いつつあった。
 本当ならもう飛行船を離陸させて本国へ向けて出発している筈だったのに。
 逃げ出した学生がエファランの軍に保護されているとすれば、そろそろエファランが攻めて来てもおかしくない。
 彼は部下に指示する。

「探査の術式を広範囲に広げておけ。飛行船は基地内に移動。抗戦に備えて一ヶ所に守りを集中するのだ。……それと、あれを用意しておけ」
「あれですか」
「そうだ」

 ササキは不気味に笑った。



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