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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える

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05 夜の森

 森の中は上も下も分からない暗さだった。
 ここ、アクレスの北方面の基地周辺は、虫の脅威が身近なことから人家が少なく、夜になれば真っ暗になってしんと静まり返る。人が多い場所では、夜でも微かなざわめきや明かりがあるものだが、辺境の森は人の気配が無く、聞こえてくるのは獣の息遣いや鳴き声ばかりだ。

 明かりを付けると追っ手に見つかる。
 暗闇の中、イヴは先導するスルトを見失わないように必死に歩いた。何しろ地面も見えない。何度も下生えの草木や岩に転びかける。
 時間の感覚が無くなる程歩いて、基地から十分離れた頃に二人は足を止めた。

 木々に囲まれたスペースを見つけて座り込む。
 イヴはもうへとへとだった。
 今日は朝からボス級の虫と戦い、夕方戦いが終わってやっと休めると思ったら、基地をソルダート軍に占領されていた。本当に長い一日だった。
 スルトはカケルを木の根本に寝かせると「明かりを付けて良いぞ」と言う。イヴは呪術で爪先の先ほどの明かりを燈した。
 小さな光で十分だった。こんなに暗い場所ではそれでも眩しく感じる程だ。遠くから光が見つかるかと一瞬懸念するイヴだが、二人を囲む木々や岩が、光を遮ってくれていた。

「…ここで朝まで休むか」
「ええ。カケルはいつ目を覚ますかしら」
「さあな」

 そっけなく答えるスルト。しかし実際問題、カケルの目が覚めた方が良い。風竜の翼があれば、こんな森は一瞬で越えてレグルスまで一気に戻れる。
 しかしカケルが目覚める気配はない。
 薬品によって眠らされているのか、呪術も使われているのか、イヴには判別が付かない。ソルダートのこの手の技術はエファランよりずっと進んでいる。

「お前はここでカケルといろよ」
「どこへ行くの?」
「ちょっと野暮用にな」

 ようやく休めるというのに、スルトは立ち上がって何処かに行こうとしている。イヴはもう一歩も動きたくない気分だ。さすが獣人、体力が人間とは違う。

「敵に見つかりそうになったら、俺やカケルは気にせず、お前は逃げろ」

 反論する隙を与えないまま、スルトは手を振って背を向ける。唇を噛み締めて、イヴはその背中を見送った。
 自分だけ逃げる。それがどんなに正しいことだとしても、感情的には納得できそうにない。
 今のイヴは、そんな最悪の事態にならないよう祈ることしかできなかった。







 スルトは森の茂みにイヴを隠した後、そのまま基地に近い北の方向に歩みを進めた。彼の湖の色の瞳が月光を反射して鋭く光る。獣人であるスルトには、森の木々の形や足元の岩がはっきり見えている。
 人間の姿をしていても、背を屈めて滑らかに進む様は、まるで野生の獣のようだ。
 鋭敏な聴覚が川のせせらぎの音を捉える。
 急な山の斜面を降りると、そこは川岸だった。
 前方に呪術による不自然に白い明かりがぼうっと見える。

「けっ。こんなとこに船を降ろしてやがったのか」

 川のほとり、木々に囲まれて上空から見つかりにくい場所に、白い飛行船が浮いている。
 かなりの大きさの飛行船だ。
 川の上空の空いた空間を占拠してしまっている。
 柔らかくて頑丈そうな布製の外装が、円筒形の骨格に沿って貼られていて、上半分は暗い色が塗られていた。上空から発見されないための偽装らしい。下の方に飛行制御室とエンジンやプロペラが搭載されている。
 飛行船の腹には、地上に固定させるための重りを付けた紐が何カ所かぶら下がっている。それに混じって、縄ばしごが垂れ下がっていた。

 周囲にはテントがいくつかある。
 見張りの兵士は3人ほど。
 テントの中と飛行船の上からは、十数人の人の気配がする。
 偵察としては、ここまで観察できれば十分だ。
 しかし、スルトは飛行船から垂れ下がっている縄ばしごが気になった。

「飛行船って、見たことあるけど、乗ったことねーな」

 エファランでは機械類が余り使用されない傾向にある。乗り物と言えば竜のエファランでは、飛行船など作られた試しが無かった。
 彼はちょっと考え込んだ後、影を縫いながらテントに近付いた。

「怠いなー」
「早くソルダートに帰りたいぜ」

 眠気を紛らわすためか雑談している兵士の傍を通り抜ける。
 兵士達の注意は、飛行船に向いていない。
 スルトは彼等の間を通り抜けると、堂々と縄ばしごに手をかけ、するするとよじ登った。
 意外にばれないものだ。

 ソルダートは人間ばっかりだからな。
 真正面から戦えば、エファランの獣人や竜が圧勝するのだが、ソルダートは頭を使って奇襲や化学兵器を使った卑怯な攻撃を仕掛けてくる。
 基地の占拠も、獣人や竜にも効く睡眠薬を含ませた無色の煙をばらまいて来たらしい。気がつけば捕まっていたと、スルトは基地で捕まっている同級生達から状況を聞いていた。

 エファランが平和主義だからって、いい気になって仕掛けてきやがって。
 見てろよ。

 縄ばしごを上がって、ちゃっかり飛行船内部に侵入したスルトは、エンジンルームへ向かった。
 飛行船のエンジンは船の下の方にある。低い駆動音が響いてくるので、場所はすぐに分かった。
 狭い制御室に忍びこむ。
 ぶんぶん音を立てるエンジンの前に到着する。
 目の前には飛行船の中枢が納められた鋼鉄の箱があった。

 スルトは持っている短剣でエンジンを傷付けてみようとした。しかし、さすがに簡単に傷付くようには出来ていない。
 エンジンを覆う蓋の一部を、短剣の切っ先でこじ開けてみたが、それが限界だった。

「くっそー」

 舌打ちして、次の瞬間、スルトはにんまり悪いことを思い付いたという表情をする。
 彼は短剣を脇にしまうと、着衣を緩めて、ズボンの前を開けた。

「ちょうど溜まってたんだよなー」

 じょぼぼぼーー

 この飛行船を作った技師が見たら、止めてくれと号泣するだろう。正しく悪戯小僧の発想だ。
 エンジンの内部に入るように発射角度を調整しながら、スルトは小便をエンジンに掛けた。

 ジジジ……

 心なしかエンジンに不穏な音が混じり始める。
 尿意を解放したスルトは満足した顔で着衣を元に戻した。

 目的は達成した?ので、スルトは長居は無用とばかり、その場を退散する。
 人気のない通路を通り抜け、飛行船の縄ばしごの上から飛び降りた。

「誰だっ!?」

 着地したところを呪術の明かりで照らし出される。
 見つかった。

「ま、そうそううまくは行かないわな」

 敵地のど真ん中で、スルトは不敵に笑ってみせた。
 内心は「やべえ」と思っていたが、おくびにも出さない。
 彼はそのまま兵士に突撃して、一人を短剣で血祭りに上げた。

「侵入者だ!射殺しろーっ!」

 敵の一人が絶叫する。
 その声で起き出した複数の敵が、銃を構えたのが分かった。
 一気に騒がしくなった飛行船の周囲を、スルトは背を低くして銃弾を避けながら駆け抜ける。

 まずは逃げないとな。
 イヴがいる方向に逃げるのはまずい。
 別の方向に逃げるか。

 そうすると、イヴやカケルと合流できないが、この際、仕方ない。
 あの女、臨機応変に対応して、俺達に構わず逃げてくれたら良いんだけどな。


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