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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える

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04 運命の分岐点

 イヴは顔を上げてスルトを睨んだ。

「分かったわ。けど、カケルは連れていけない?」
「無理だ」
「じゃあ私はここに残るわ」

 スルトが困惑した顔をする。
 我が儘を言っているのは自分でも分かっている。でも、ここに置いて行くと、何故か、もう二度と会えない気がした。

 まだ、理由を聞いていない。
 後で話そうと、そう約束したのに。

「後で助けにくるって言ってるだろうがっ」
「それでも嫌よ」

 頑なに首を縦に振らないイヴ。
 頑固な彼女の姿勢にスルトは舌打ちした。

「勝手にしろ」

 ぶっすりした顔で言って、スルトは背を向けて歩き出す。
 イヴは静かにその背を見つめる。
 彼は数歩歩くと立ち止まった。

「……本気か?」
「本気よ」
「糞っ!」

 頭痛を堪えるようにスルトは頭を抱える。

「マジかよ。さっきカケルにお前のこと頼まれたんだぞ。見捨てたら俺の少ない良心が痛むじゃねえか」
「少ししか痛まないなら放っていっていいわよ」
「そういう問題じゃねえ!」

 じゃあどういう問題なのよ。
 決断を待っていると、スルトは嫌そうな顔でぶつぶつ言った。

「動けねえ奴抱えて隠密行動なんて普通できねえよ」
「出来ないの?」
「俺様に不可能は無い」
「良かったわ。この鎖切れるかしら…」
「お前ちったあ俺の話聞けよ…」

 二人はカケルを覗き込んで、拘束している鎖等を切る。スルトは昏睡状態のカケルを背負った。
 武器保管庫から出ると、二人は暗い夜道をソルダートの兵士を避けながら、基地の外へと歩き出した。







 ソルダートの軍人であるササキ・ライブラは、まだイヴ達の逃亡には気付いていない。
 しかし彼は優秀で冷酷な軍人である。
 武器保管庫から基地の司令所へ戻った彼は、信頼する部下を呼んで話をした。

「捕まえた竜の紋入れの進捗はどうだ?」
「はい。ご指示通り、未契約で抵抗率の低い竜に先に契約紋を入れました。現在1頭が使える状態です」

 未契約でフリーの竜は、契約紋を入れて操ることができるが、すぐにそれができる訳ではない。竜は呪術に気合いで抵抗してくるため、契約紋を強引に入れるのは時間が掛かる。少なくとも竜一体につき一日は必要だ。
 基地を占領して一日も経っていないのだから、1頭でも手に入れたなら上出来である。
 ササキは計画が順調に進んでいる事を確認して口角を上げた。

「よし、ではその1頭を飛ばせて、残りの竜は飛行船に積み込め。私とお前と、お前の部隊は明日の明朝に本国へ出発する」

 急な命令に部下は目を白黒させた。
 予定が違う。事前に受けた命令では、基地の占領を長期間続け、あわよくばエファランへの侵攻の前衛基地として利用できるようにする指示を受けていた。

「え?!ササキ様、基地を放って帰るのですか?」
「エファランの奴らも馬鹿じゃない。人質を気にせず攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。この基地で人質になっているのは、軍事関係者と、陸軍、空軍志望の学生だ。一般人の人質と違って奴らは遠慮しないだろう」
「……」
「そして、学生と言えど軍人の卵だ。ずっと大人しく人質になっていてくれるかどうか。
 損害を被るのは現場の我々だ。上の命令を大人しく聞く必要はない。使い捨てにされる前に本国に帰投するぞ」

 ササキの説明を聞いた部下は、話を理解すると頷いた。

「承知しました。ちょうど手柄を立てたいと焦っている者もおりますし、基地の支配はあいつらに引き継ぎましょう」

 基地を占領している部隊は、ササキの派閥と、ササキと敵対する派閥に分かれていた。ササキの部下は、敵対する派閥の者に基地を任せるつもりだ。
 後を任された者は知るだろう。エファランの基地を占領し続けるのは、労力の割に旨味のないことに。だがそれを知った時にはもう遅い。ササキと彼の派閥の者は確実な利益を確保して、ソルダートに凱旋している筈だ。

「すぐに手配してくれ」

 深夜ではあるが、今すぐ動くように指示する。
 おそらくエファラン側は、基地占領を知って対応を練りはじめている頃だ。早ければ明日中に攻撃があるかもしれない。攻撃を受ける前に、竜を積み込んで帰国するのだ。

 ササキの行動は素早かった。
 彼の読み通り、夕方にセファン達から基地占領の報告を受けたエファラン側は、閣僚を集めて対応を協議し始めたところだった。リリーナとオルタナが動くのは次の日になる。
 この予定通りにいけば、エファランが竜を救出することは叶わない。

 ……筈だった。
 イヴが我が儘を言って、カケルを連れて逃亡しようとしなければ。

 彼女の予感は正しく的中していた。
 もし、スルトに説得されるまま、基地を逃げ出していたなら、それはカケルとの永遠の別れとなっていただろう。
 武器保管庫での決断は運命の分岐点だった。

 一人の少女の恋心が、自分の計画を台なしにしてしまうとは、この時点でササキは夢にも思っていなかった。






 暗い基地の通路を、イヴは気を失っているカケルをおぶったスルトと共に進んでいた。
 基地の東には森がある。
 身を隠しやすい森の方へ抜けて、逃走するつもりだ。
 時折、呪術の光を掲げたソルダートの兵士と行き違う。

 基地は虫の攻撃を防ぐため、高い塀に囲まれている。
 出入口は、正面と裏口、それと目立たない場所にもう一カ所非常口が設けられている。
 イヴ達は非常口を目指した。

 非常口の前には兵士が1人立っている。
 そいつは退屈そうに欠伸をしていて、隙だらけだった。
 こんなときは、ソルダートが人間至上主義で良かったと思う。これが獣人や竜なら、陰に潜むイヴ達にも気付いただろうから。
 スルトは、カケルを地面に降ろすと、武器保管庫で調達した短剣を抜く。
 彼は無言で「ここで待っていろ」と合図をすると、足音を忍ばせて、影を縫って兵士に近付いた。
 スルトが兵士の死角に回り込んだことを確認すると、イヴは小石を拾って、兵士の前に投げる。

「ん?」

 目の前に跳ねて転がってきた小石に、兵士は首を傾げる。
 その背後にスルトが音もなく降り立った。
 短剣で兵士の首筋を斬る。

「ぐはっ」

 兵士が出そうとした悲鳴を、背後から口元に布を押し当てて阻害する。膝から崩れ落ちる兵士の腕を掴んで、倒れる時に音が出ないようにした。
 一連のスルトの動きは滑らかで、一点の迷いもない。
 敵がいなくなったと見て、イヴはカケルの身体を引きずりながら、非常口に移動した。

「容赦なく殺すのね」

 スルトが余りにもあっさり敵を殺したので、イヴは眉を潜めた。
 指摘を受けたスルトは、顎をしゃくって基地内の通路の一角を示す。

「見ろよ」

 彼が指す方向には、通路に臥して動かない人影があった。
 暗くてよく見えないが、エファランの軍服を着ているようだ。

「死んでる。ソルダートの奴ら、基地を占領する時、何人か殺したらしい。ふんっ、今更手加減してられっか」

 スルトの声は険悪だった。
 彼の声には仲間を殺された憤りが滲んでいる。
 死者が出たと知って、イヴの胸にも怒りが込み上げる。イヴだって、キャンプの事件の際は人に向けて呪術を撃った。人が死ぬのを見慣れている訳ではないが、戦いで人を殺す覚悟がない訳ではない。
 彼女はそれ以上、スルトを責めなかった。

 再びカケルを背負い込むと、スルトは非常口に手をかけた。
 ギイーっと音を立てて扉が開く。
 二人は基地の塀を越えて、黒々とした夜の森へ足を踏み出した。



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