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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える

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03 カケルの秘密

 時間を少し巻き戻して、イヴ達が捕まった日の夜。
 占領された基地では、生徒達は手枷等で拘束されて、ひとまとめに小規模の会議室に押し込められていた。基地には会議室が複数ある。
 夜の見回りを命じられた兵士達は、生徒達の様子を確認するため、部屋を見て回っていた。

「大丈夫ですか?包帯巻きましょうか?」

 兵士は生徒の声に足を止める。ちょうどその兵士は、基地の占領時に起きた戦闘で負傷していた。
 か弱そうな繊細な容姿をした、白銀の髪の美少年が、いかにも心配そうな顔をして、上目遣いで負傷している兵士を見上げる。
 美少年の中身を知っているルークは吹きそうになった。だがさりげなく足を踏まれて無表情を装う。周囲の他の生徒も、陸戦科の獣人が多いので同級生の性格を知っていた。彼等は無表情を装うので必死だ。

「お前、俺が敵軍だって分かってるのか?」
「傷付いた人に敵も味方もないじゃないですか」

 お前はどこの白衣の天使だ。
 突っ込みたいのを必死に堪えているルーク達だが、敵軍の兵士はスルトの演技を疑わない。見た目と口調を合わせれば、スルトは完璧、薄幸の美少年に見える。

「何を言ってるんだ、そんな訳ないだろう。この裏切り者め」

 壁側の上級生が吐き捨てる。
 周囲の生徒も、そうだそうだと頷いた。
 生徒達は、スルトの演技に協力するため、わざと彼を裏切り者扱いする。日頃図太いスルトに振り回された鬱憤も入ってるのか、彼等の演技は迫真に迫っていた。
 後ずさるスルト。
 敵軍の兵士には、お人よしで気弱な少年が仲間に裏切り者扱いされているように見えている。

「お前、こっちに来い」

 兵士はスルトを保護するためか、彼だけを連れて部屋を出て行った。
 部屋の扉が閉まって鍵が閉まる。生徒達は元の通り鍵の掛かった部屋に閉じ込められた。
 あちこちで溜息が漏れる。

『スルトの奴、うまいことやってくれると良いが』
『そうだな…』

 ソルダート軍の盗聴を避けるため、獣人達は念話で会話をする。もう少し念話ができる範囲が広ければ、基地のあちこちで情報交換できるし、外部に情報を渡せるかもしれない。
 しかし、獣人の念話はごく近距離に限られる。
 竜は広範囲に念話が可能だが、ソルダート側もそのことは知っているので、基地の竜は念入りに拘束された上に薬で眠らされていた。

 竜といえば、カケルは大丈夫だろうか。
 壁に寄り掛かりながら、ルークは後輩の竜の身を心配していた。未契約の竜は、契約紋を付けられてソルダートに連れていかれれば、エファランに連れ戻すのは難しくなる。







 イヴは一人だけ別の個室に監禁されていた。
 外の様子は全く分からない。
 後ろ手に付けられた枷は呪術も封じているらしく、ミカヅキを呼んでも反応が無かった。部屋には窓がないので時間が測りにくいが、もう夜中だと思われる。
 部屋は資料の保管庫だった。冷たい床に座り込んだイヴは眠ることもできず、一人で物思いに耽っていた。脱出の方法など思いつかない。また、仲間がおらず独りというのは存外に気が滅入る。良い考えが思い浮かばなかった。

「カケルは無事かしら…」

 考えるのはそのことばかり。
 獣人は頑丈だから、大概は大丈夫だ。一緒に捕まったスルトやルークの事は気にならなかった。
 何度めかの溜息を付いていると、鍵が掛かった扉から、カチャリと物音がした。

「!」

 彼女は顔を上げて扉を睨む。
 資料庫の扉は静かに開いた。ソルダートの兵士にしては静か過ぎるなとイヴは疑問に思う。
 はたして、開いた扉の向こうから現れたのは、兵士ではなく、白銀の髪の獣人の生徒だった。

「よお」
「スルト!?…貴方どうやって…」

 しいっと指を口にあてて合図するスルトに、イヴは慌てて声を潜める。

「…ルーク先輩は大丈夫なの?」
「あいつなら平気さ。それより、もっと心配な奴がいるんだろ。一緒に探しに行くか」

 不敵な笑みを浮かべるスルト。
 イヴは誘いの内容を理解すると、ゆっくり頷いた。
 スルトは無駄口を叩かず彼女の後ろに回り込むと、手にしたナイフをどう使ったか、手枷をこじ開けて外してしまった。魔法のような早業だ。
 自由になったイヴは、立ち上がってスルトに続き部屋を出た。スルトは元通りに部屋の鍵を閉める。これでしばらくは脱走がばれないだろう。

 暗い通路を先導して歩くスルトに、イヴは黙って付いていった。呪術が使えるようにはなっているが、探査の呪術で辺りを確認したい気持ちをぐっと堪える。探査の呪術を使えば逆探知で引っ掛かる可能性があるからだ。

 二人は見回りの兵士を避けながら基地の隅の倉庫に向かう。

 倉庫では、人間の姿の竜が何人か鎖に繋がれて眠っていた。竜の姿だとスペースを取るので、人の姿を取らせているようだ。ソルダートには、竜から強制的に人間の姿に戻す呪術があると聞いている。
 慎重に倉庫の中を確認したが、何故かカケルの姿はそこには無かった。

「別なところか。それとも…」

 何処に囚われているのかと、倉庫の前で考えこんで立ち止まる二人。その時、ちかりと光が見えた。スルトとイヴは慌てて建物の陰に隠れる。
 呪術の光を燈してソルダートの軍人がやってくる。
 捕まった時に会った、ササキ・ライブラだ。

 イヴとスルトは目を見合わせた。
 ササキが何処に行くか気になる。
 二人が見守る中、ササキは倉庫の近くにある、武器保管庫に入って行った。
 武器保管庫は二階建ての建物になっていて、裏口がある。イヴとスルトは足音を忍ばせて裏口から直接、保管庫の2階に上がった。

 どうやらササキが用があるのは1階のようだ。
 イヴ達は、階段の陰から1階の様子を覗き見る。呪術の白い明かりがゆらゆらと武器の群れを照らし出した。
 武器に囲まれて、倒れている人間の姿が垣間見える。
 まさか……

「起きろ」

 ササキは倒れている人間に近寄って何かした。
 少しして身じろぎする物音がする。

「っ……誰?」

 カケルの声だ。
 イヴはぎゅっと拳を握りしめた。心臓が早鐘のように鼓動を打ちはじめる。イヴ達の位置からはササキの身体の一部しか見えない。会話の声だけが聞こえてくる。

「私をお忘れですか……カケル様」

 ササキの口調が慇懃になった。
 対するカケルの返答はそっけない。

「会ったことあるの?悪いけど知らない」
「ササキ・ライブラですよ」
「ライブラ…ああ、七司書家か。第二の名前が無いってことは分家じゃん。俺、分家の顔と名前なんていちいち覚えてないよ」
「……」

 カケルの回答に、ササキが気分を害したのが雰囲気で分かった。
 会話を聞きながら、イヴは今までの疑問の一部が氷解するのを感じた。
 カケルが七司書家の血を引いていることは、魔眼があるので気付いていた。しかし、七司書家の血を引く家は無数にある。魔眼も別に七司書家の直系専用ではない。だからイヴは、七司書家の親戚の何処かがカケルの実家なのかなと思っていた。
 だがササキとのやり取りを聞く限り、カケルは七司書家の親戚や分家の生まれでは無いようだ。

「まあ、貴方にとってはそうでしょうね。お会いしたのはまだ幼い頃でしたし」
「昔話は結構だよ。何の用?俺を七司書家に引きずって行く前に、何か聞きたいことがあるのか」

 珍しくカケルの声は棘を含んでいる。
 いつもふわふわ笑っているカケルの、こんな真面目に不機嫌そうな声を聞くのは初めてかもしれない。

「さすがに話が早い。カケル様、呪術書アーカイブの場所をご存知ないですか?」
呪術書アーカイブ…?」

 話題が呪術書に及んで、イヴは眉を潜めた。
 呪術書は世界に12冊しかない特別なアイテムだ。呪術書は神が作ったとされ、呪術の根幹となる知識と技術が記されている。

「惚けないでください。我等、七司書家は呪術書を管理する一族。カケル様、貴方は呪術書を管理するメンバーの一人だった」
「はあ?俺は子供だよ。子供にそんな大事なものを管理させないでしょ」
「普通はさせないでしょうね。しかし貴方は違う。呪術学の天才である貴方は、管理に携わることを許されていた」
「……」

 今度はカケルの方が少し沈黙する。

「…ササキさんはどうして呪術書が欲しいの。内容は分析されて一般公開されてるじゃん」
「七司書家で上に行くには呪術書が必要なのですよ。呪術書には、まだ我々の知らない使い途があるかもしれない」
「…ふっ」

 突然カケルはおかしそうに吹き出した。
 くっくっと笑うカケルにササキは顔をしかめる。

「何がおかしい」
「いやー、これが笑わずにいられるかな。てんでおかしいよ」
「何だと?!」

 声を荒げるササキに、カケルの笑い声が止まる。
 次の言葉は静かだった。

「貴方は余りにも知識が無さすぎる。これは忠告だよ、ササキ・ライブラ。その程度の知識で七司書家の上に行くなんて、止めておいた方がいい。世の中には知らない方が幸せなことが山ほどあるんだよ」

 その声音は不思議な落ち着きと威厳があった。
 ササキは一瞬気圧されたようだ。しかし、すぐに我に返って詰問する。

「やはり貴方は管理者だったのか。今すぐ知っていることを話せ。話すのなら、七司書家の本家には連れていかずに、私が貴方を匿ってやろう」
「結構だよ」

 即座の拒否。
 カケルは微塵も揺らがなかった。

「どうせ俺に契約紋付ける気なんでしょ。なんで今すぐ話さなきゃいけないの。めんどくさー」
「くっ!」

 どさっと音がした。腹立ち紛れにササキはカケルを蹴ったらしい。

「その態度を後で後悔させてやる」
「楽しみにしてるよ」

 余裕の返事をするカケルの上にササキが屈み込む。
 ふと、イヴは頬を風がくすぐるのを感じた。

『…スルト先輩、イヴをお願いします』

 カケル…?!
 思わず声に出しそうになって、すんでのところで自制する。
 見ている前でササキはカケルに何かした後、どすどす足音を立てて武器庫から出て行った。
 辺りが暗闇になる。

 イヴは呪術で小さな明かりを付けた。
 光が外に漏れないように、足音を立てないように慎重に階下に降りる。スルトは止めなかった。
 武器に囲まれて倒れるカケルは動かない。眠らされているようだ。

「脱出するぞ」
「他の皆を置いて?」
「後で助けに来る。今は情報を外の奴らに渡さねえと」

 続いて降りてきたスルトが脱出を提案する。
 その言葉を一理あると認めたものの、イヴは迷った。

「さっきカケルの奴が脱出経路について情報を送ってきた」
「え?いつの間に…」
「お願いしますってのはそういうことだよ。あいつ、情報は渡すからお前を連れてってくれと俺に頼んだのさ」

 そろそろ脱走がばれる頃合いだとスルトが急かす。
 苦しそうに眠るカケルを見下ろして、イヴは数分動かなかった。
 ややあって彼女は顔を上げる。その瞳には決意の色があった。



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