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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える

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02 その頃のオルタナとリリーナ

 休み明けの学校の授業は眠くて仕方ない。

 たりーな。

 オルタナは頬杖をついて窓の外を眺めた。
 眠気で欠伸を殺す彼の耳には、外の小鳥がさえずっている声が聞こえている。朝からピーチクパーチク騒々しい。
 窓ガラスに映る自分は、ところどころ跳ねた濃い色の金髪をしていて、紅い瞳を半眼にしながら欠伸している。口元から鋭い犬歯がちらりと覗いた。

 新年始まって早々、ルームメイトは何故か妙なやる気を出して、実習のため遠くへ旅立ってしまった。寮の同じ部屋で寝食を共にする仲だ。カケルは同じ部屋でいるときは騒がしくしない。それでも、彼がいない部屋はがらんとしていて、違和感があった。
 口うるさいイヴ・アラクサラもカケルを追って実習に行ってしまった。平和な毎日だが何処か張り合いがない。

 なんか起きねえかな。
 不謹慎にもそんなことを考えていたオルタナだったが、実際にことが起きたら起きたで面倒臭いということを、数時間後には知ることになる。








 朝一番の授業が終わって教師が出て行った。

「オルタナ。ちょっといい?」

 休み時間に机にかじりついてぼうっとしていたオルタナは、呼ぶ声に反応して上体を起こす。
 見ると、明るい緑色のショートボブの女子生徒が、教室の入口で手招きしていた。
 彼女はリリーナという。オルタナのチームメイトであり、つい最近実は幼なじみだったと判明した。性格は大人しく真面目で、破天荒で個性的なチームの面々の良きメンターとなっている。他のメンバーのような戦闘能力はないが情報通で、オルタナが頭が上がらない唯一の女子だ。

 別のクラスなのに、わざわざ何の用だろう。
 オルタナは立ち上がると、彼女の後をついて教室を離れる。
 人気のない一階の中庭前まで来ると、彼女は足を止めて振り返った。
 リリーナはどうしてか厳しい顔をしている。

「今情報が入って来たんだけど、カケル達が実習に行った、アクレス北の基地が、ソルダート軍に占領されたらしいの」
「は?!マジかよ…」

 オルタナは彼女の厳しい表情の理由を理解した。
 これは大事だ。ソルダートとは表立って戦争をしていない。小さな小競り合いはしょっちゅうあるが、ここまで明確に侵略をかけて来るのは珍しい。

「この前のキャンプといい、奴ら頭湧いてんのか」
「うーん、どうやらソルダートの鉱山や油田が虫に襲われて使えなくなってるらしいの。
 ほら、ソルダートはエファランと違って人間中心で、科学兵器を量産するのに熱心だから。資源が足りなくて焦ってるのね。虫を倒すのも兵器いるし。
 それでウチの国から竜をさらおうとしてるみたい」
「自分とこで何とかしろよな…」

 そうか、普通に頭を下げて助けてくれと言えば、エファランからも軍を派遣するのに。
 しかしソルダートはそういったエファランの常識が通用しない国だ。

「基地を占領したソルダートは、基地を解放して欲しければエファランの鉱山がある土地をよこせと言ってきてるわ。奴らはうちの国の竜だけじゃなく、土地も奪うつもりよ。」
「強盗じゃねえか」
「ええ、そうよ。状況説明はここまで。私と貴方にとって問題なのは、カケルとイヴが基地で奴らに捕まってることなの」
「!」

 そいつは良くない知らせだ。
 オルタナも険しい表情になった。

「あいつら無事なのか?」
「分からない。カケルの方は攻撃を受けて怪我を負って捕まってるようよ。自分では逃げられない状態みたい」
「ちっ。あいつ下手うったな」
「イヴは無傷だけど、基地で捕まった後の情報がないわ」

 思った以上にチームメイトは窮地に陥っているらしい。

「エファランはどう対応するつもりなんだ…」

 そう聞くと、目の前のリリーナとは別の人物から回答があった。

「それは僕が説明しよう」
「兄貴」

 中庭の木の影から出てきたのは、オルタナの兄のエイドだった。兄は陸軍の深緑の軍服を着崩している。オルタナと同じ紅い瞳は鋭く光っていた。
 兄は密かにこの国一番の貴族の血を引くリリーナの護衛をしている。いつもは校外のみの仕事なのだが、今日は学校まで来ていたらしい。

「エファランは強盗に竜も土地も渡すつもりはない。基地内部の情報を入手し次第、迅速な制圧作戦を実行する」

 つまり人質がいても攻撃すると言っているのだ。
 死者が出るかもしれない。
 地上の制圧は陸軍の精鋭の仕事になるだろう。犠牲者が出るかは彼等の仕事次第だ。

「オルタナ。頼みがあるの。カケルとイヴの様子を見に行ってくれない?」
「見に行くって……そりゃ見に行きたいのは山々だけどよ。基地への潜入は兄貴達の仕事になるんじゃないか」

 オルタナの生まれたソレルの家は、代々エファランの陸軍の将校を輩出している。オルタナの兄のエイドも既に陸軍の幹部であった。
 陸軍の仕事の邪魔になるのではないか。
 そう思ってちらりと兄の顔を見ると、案の定苦い顔をしている。

「リリーナ様。オルタナを連れて行くのは構いませんが、やはりサーフェス優先になるのは困ります」
「ふふっ。私はイヴとカケルを連れ戻して欲しいから、オルタナに行って欲しいの。貴方達、陸軍の軍人はイヴとカケルだけを優先してくれないでしょう」
「そりゃそうです。しかし、アラクサラはともかく、サーフェスは……」

 兄は不機嫌そうな顔で続ける。

「彼を返せと高天原インバウンドから密かに圧力が掛かっています。高天原インバウンドと揉めるくらいなら、返してしまった方が良いのでは…」
「それがソレルの考えかしら?」
「いえ…一般的な意見です」

 どうやらカケルについての話題らしい。
 詳細が分からないオルタナは、口を挟まずに会話の成り行きを見守った。

「今回の侵攻も、目的の一つにカケルの回収が含まれているかもしれない。彼をこのまま返したら、煩く言われる事は無くなるかもだけど…その後はどうなるかしら。
 彼が本国でどう扱われるか、エイド、貴方まさか、彼が本家の後継ぎだったから歓迎されて大事にされるなんて思ってないわよね」
「……」
「エファランは竜と獣人と人が共存するための国。私達の祖先は、自由に生きたいと願う人々を守ろうと国を作った。一度受け入れた者を、重荷だからと言って適当に放り出したら、ご先祖様はどう思うかしら」

 リリーナの言葉には重みがあった。
 それでも兄は複雑な顔だ。政治的に色々ややこしい問題がありそうである。オルタナにとってはその辺はどうでも良いことだ。チームメイトの友人の正体には全く興味が無い訳ではないが、基本的には正体がお化けだろうが何だろうが「ああそうか」と言ったところだ。それで友人関係が変わる訳でもない。

 頭の中で話の内容を纏める。
 周囲に反対されても、リリーナはカケル達を助けたいらしい。おそらく国の対応に任せたら後手に回るからだろう。それに今の話だと、兄や父親、ソレルの一族はカケルを良く思っていない。
 陸軍に任せると、カケルをそのまま体よくソルダートに引き渡しかねない。リリーナの懸念はそこなのだろう。

 では自分はどうする?
 決まっている。迷う必要はどこにもない。やりたいこととすべきことが一致しているのなら。

「分かった。俺が代わりに行って来てやるよ」
「オルタナ…」

 何故か兄が驚いた顔をした。

「お前が望むなら、俺にできることはしてやるよ」

 その重荷に堪えかねて逃げだしたいと言っても、聞いてやれないかもしれない。けれど一緒に背負ってくれと言うなら背負ってやる。それがあの時のお前の問いに対する答えだ。

「ありがとう」

 リリーナはふんわり微笑む。
 背後でエイドが諦めたように溜息をついた。

「ではリリーナ様の望む通りに。…オルタナ、来い」

 手招きされてオルタナは兄に続いてその場を離れた。
 すぐに準備して現地に向かうらしい。兄は保護者代理として学校に、家の事情で本日は休みだと伝えてくれた。退屈な授業を合法的にサボれて、願ったり叶ったりだ。

「基地にはクラスタ家のスルト君がいるようだ」
「スルト先輩が?また捕まってるのか」

 あの人も運悪いなとオルタナは呆れる。スルトはキャンプの事件の時も人質の中にいた。

「彼が基地内にいるのは不幸中の幸いだ。クラスタは潜入や特殊捜査が得意だからな。お前はスルト君と連携して動けるな?」
「まあ、な…」

 ソレルの一族とクラスタの一族は仲が良い。しかし、オルタナとスルトはお互いの家の事は知らずに、喧嘩の中で出会った。お手てを繋いで仲良くするような関係ではなく、いわゆる喧嘩友達だ。
 しかしながら、スルトは数少ない、オルタナが背中を預けられる相手の一人でもある。

「可能ならスルト君に情報を貰おう。それにしても…」

 兄は小さく呟く。

「やはり、絆の相手か」
「?」

 オルタナは疑問に思ったが、兄のエイドはそれ以上説明しなかった。




カケル「オルト、俺達親友だよね!」
オルタナ「そんな訳あるか」
カケル「えー。仲良くしようよー」
オルタナ「勝手に俺の部屋から枕を盗んでいきやがって…」
カケル「睡眠と枕の関係性を研究してたんだよ、怒らないで。グレードアップしてフリルを付けて返すから」
オルタナ「殴るぞ」

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