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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.06 何気ない約束が俺達の運命を変える

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01 パートナー

 竜と竜騎士はね、一対の翼なんだ。


 そう言って、その人は笑った。
 逆光でその人の顔は隠れていてよく見えない。


 君もいつか出逢うだろう。
 己の半身に。
 大丈夫。人は誰も欠けた心を埋めるものを探している。
 見つからないと思っても、それは気付いていないだけ。

 …ちょっと難しかったかな。


 彼は苦笑して幼いイヴの頭を優しく撫でる。
 見守っていた竜がくふんと鼻を鳴らした。彼と彼の竜は、とてもとても仲が良さそうだった。イヴは幼心に、いいなと思った。自分も凄い魔法を使えるようになって、竜に乗って戦ってみたい。自分だけの竜と、運命の出会いをしてみたい。

 運命の相手。

 女の子なら恋愛に憧れを抱く。
 竜と竜騎士の関係は特別で、異性なら生涯の番となる。普通の人間同士の恋愛よりも、竜と人間の恋愛はロマンチックだ。イヴも竜と竜騎士の恋愛に甘酸っぱい憧れを抱いていた。

 しかし、現実はそう甘くない。
 彼女の出会った竜の青年は、やたら昼寝について熱く語り、彼女に見向きもしない。

 最初は、魔力レベル高そうだし頭悪くないし協調性もなくはないようだし、と候補に入れてやろうかなくらいの気持ちだった。イヴの自尊心は、彼を気になっていると中々認めたがらない。思い切り上から目線で、パートナーになってあげてもいいわよ、と言うつもりだった。
 だがその矢先、契約するつもりがないと向こうからはっきり断られてしまう。
 彼はイヴにおもねらなかった。
 自分の最優先事項は昼寝だと明言し、イヴを遠ざけようとする。

 プライドを傷付けられたイヴは怒った。
 昼寝野郎の分際で何様のつもりよ、と思った。実際はお互い様なのだが、それはさておいて。
 だから彼に惹かれてしまったのかもしれない。
 はいはいと言うことを聞く相手なら、イヴは逆に興味を引かれなかっただろうから。

 彼女は気付きつつある。
 これが恋なの?苛々して不安定でムカついて、相手の事がどうしようもなく気になって、最悪な気分。ちっとも楽しくない。今すぐ止めたい。

 ――だけど。







 イヴは唇を噛み締めながら、蒼い竜の首元に縋った。
 竜の鱗はひんやりとして冷たい。しかし、その鱗の下からは力強い鼓動と生命の熱気を感じる。それが消えてただの冷たいモノになってしまうなんて、考えたくも無かった。

『イヴ、離れて。スルト先輩、イヴを…』
「嫌よ」

 首を振る。
 視界の隅で武器を構えたスルトとルークが困った顔をした。
 飛べないカケルを放って、イヴを連れて撤退するつもりなのだ。今ならそれが可能だから。

 夕闇の中、森の中から現れた10人程の兵士が、じりじりにじり寄ってくる。彼等は銃を構えながら同時に呪術を撃つ準備をしていた。集中放火を浴びれば、イヴの呪術では防ぎきれないだろう。

『カケル、イヴ!』

 上空からオレンジ色の竜が降りてくる。
 セファン先輩だ。
 一瞬安堵しかけたイヴだが、隣の蒼い竜はぐっと首をもたげて叫んだ。

『駄目だ、来るな!』

 蒼い竜から魔力を帯びた風が巻き上がり、上空のオレンジ色の竜を押しのけた。直後に呪術による炎が、オレンジ色の竜をかすめる。

「想定よりも範囲が広い…」

 竜の背でイリアが悔しそうに呟く。
 地上では、並んで攻撃準備をする敵の兵士達の間から、身分の高そうな白い軍服の軍人が歩み出てきた。

「マクセランの火竜だな!この蒼い竜の命が惜しければ、おとなしく降りてこい」

 敵に情報が伝わっている。
 基地を占領されているようだから、当然と言えば当然だが。
 蒼い竜は念話が相手に伝わらないよう、味方に範囲を絞ってセファンに話しかける。

『敵の目的はセファン先輩とイリア先輩みたいです。降りて来ないで、すぐに皆を連れて撤退してください』
『だがお前が…』
『ソルダートは竜を欲しがっています。すぐに殺されないでしょう』

 カケルは大人しく捕まるつもりだ。
 上空でセファンは首を振ったが、上昇を始めた。

『必ず迎えに行く!』
『期待してます。……イヴ、離れて。俺なら大丈夫だから。俺と一緒にいると、イヴの方が危険なんだよ。頼むから、離れてくれ』

 懇願するようなカケルの声に返事せず、イヴはただ前を見据えて動かなかった。
 竜でも獣人でもない彼女は、念話で返事が出来ない。ただ聞くことしか出来なかった。口に出せば敵にも話が伝わってしまう。口をつぐんで竜の鱗から手を離さない。

「やれやれ、しょうがねえな。お姫様おいて、俺ら逃げられねえだろ」
「だな」

 ルークとスルトが進み出て、竜とイヴを守るように前に立つ。
 上昇するオレンジ色の竜と、撤退を始めた上空の竜の部隊を見上げて、敵の白い軍服の男が舌打ちした。

「ちっ。せっかく魔力レベルAの竜が手に入る良い機会だったのに。だが…」

 白い軍服の男はイヴ達に向かって歩いてくる。

「もう一つの目的は達成出来そうだ」

 男は銃を構えた兵士を背景に笑った。

「武器を捨てて投降したまえ。大人しくするなら命の保証はしよう」

 軍人の男達は冷たい目をしている。
 本当に命の保証をしてくれるか定かではないが、イヴ達に選択の余地は無かった。スルトとルークは顔を歪めて武器を降ろす。
 イヴ達は、留守の間に基地を占領していた敵国ソルダートの軍隊に捕まってしまった。






 武装解除されたイヴ達は、手枷されて基地の中に連行される。竜のカケルは薬を打たれて昏睡したところを、倉庫に引きずられて行く。
 スルトとルークは別の場所に引っ立てられ、イヴだけは会議室に連行されて、指揮官らしい白い軍服の男と向き合っていた。

「君の名前は?」

 白い軍服の男は問い掛けてくる。
 素直に答えて良いものか、イヴは迷った。しかし、名前はちょっと調べればすぐ分かることだ。

「イヴ・アラクサラよ…」
「ほう、君はアラクサラの縁者か。私は、ササキ・ライブラ。七司書家に連なる者だ。会えて嬉しいよ」

 嬉しいという言葉と裏腹に、ササキの瞳は冷酷な光を孕んでいた。彼は藍色の髪と瞳をしていた。高天原インバウンドの北国アオイデ出身者に多い色だ。

 そういえばカケルも紺色の髪だったな。
 ふと、イヴはカケルについて連想して、引っ掛かるものを覚える。彼の持つ魔眼は、どこかで七司書家の血を引いている証。紺色の髪はアオイデ出身者に多い。アオイデは、そういえば七司書家の本拠地があると、何処かで聞いたことがある。
 思考が脇に逸れたイヴだが、ササキが話し出したので、現実に立ち返った。

「イヴ・アラクサラ。あの蒼い竜と契約しているのか?」
「…ええ、そうよ」

 一瞬戸惑ったが、イヴは嘘を答えた。
 フリーの竜は狙われる。契約していることにしていれば、お互いに安全なのだ。
 しかし、ササキはイヴの嘘にすぐに気付いた。

「出鱈目を。あの竜には契約紋の反応が無かった」
「……」

 もう調査済みなら聞かないでよ、とイヴは思う。
 それと同時にぞっとする。
 未契約の竜は、呪術師に契約紋を無理矢理付けられて、操られてしまうことがある。
 カケルが危ない。

「これから契約する予定だったか。残念だったな。あの蒼い竜は我々の方で有効活用させて貰おう」
「止めて!竜をモノみたいに言わないで!彼も私達と同じ人間なのよ!」

 無駄かと思いつつそう訴えると、ササキは冷笑した。

「分かっているさ。君達以上にね…」

 どういう意味か。意味深な言葉に呆気に取られていると、ササキは近くにいた部下に命じる。

「彼女を連れていけ。他の生徒と混ぜないで、別室にするんだ。後で使うかもしれないからな」
「はっ」

 敬礼した兵士に引きずられて、イヴは会議室を後にした。
 何が、俺なら大丈夫、よ。
 貴方の方が絶対危ないじゃない。この馬鹿!



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