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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.05 エスケープ!だけど、いつもの枕じゃないと眠れない

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10 告白

 平原の空はうっすら雲がかかっていた。
 陽光を遮っている雲を切り裂いて、蒼い竜が流星のように降ってくる。
 イヴはその流星を凝視した。

「カケル!」

 蒼い竜は背に誰も乗せていないようだった。
 身体を斜めに傾け、翼をたたんで空気の抵抗を軽くしている。
 竜は一瞬で流れ星のように、三頭虫ケルベロスに肉薄して飛翔した。
 三頭虫ケルベロスは蒼い竜の素早すぎる飛行に反応が遅れた。一拍置いてから、首を回して蒼い竜を追いかけようとする。

火粉クラック

 懐に飛び込んで飛び回る蒼い竜を、うるさげに振り払おうとした三頭虫の頭部に、呪術による爆撃が命中する。
 三頭虫の向こうから、黒い竜が姿を現した。
 その背中には眼鏡を掛けた背の高い青年が乗っている。

「ロンド先輩!」

 竜の背でロンドが手を振る。
 黒い竜は空戦科教師のステラだ。黒竜は滑らかに虫を避けながら回り込んできて、セファン達と合流した。

『全員無事か?』
「おかげさまで」

 セファンの確認に、ロンドは短く答える。
 お互いに距離があるので、通信の呪術で回線を繋げての会話だ。
 イヴは無礼を承知で会話に割り込んだ。

「カケルは、あいつは何をやってるんですか?」
「何って…とりあえず突っ込ませて囮にしているが」

 ロンドは困惑したように答えた。

「呼び戻してください。私、彼と話したい事があるの」
「アラクサラ君、今はそんな場合じゃ…」
「こんな時だからこそよ!」

 叫ぶイヴ。
 彼女は三頭虫ケルベロスの頭部の周囲を飛び回る蒼い竜を見据えた。

「ミカヅキ、射程距離を伸ばして」

《 了解! 》

紅光弾ルビーショット!」

 肩の上で白い兎が飛び跳ねる。
 空中に光の弓が描き出される。
 イヴは竜の背で膝立ちになって、弓に矢をつがえた。

「何をするんだ、アラクサラ君!?」

 驚くロンドに構わず、イヴは照準を飛び回る蒼い竜に合わせた。

「撃ち抜いてやる…!」

 光の弓を引き絞ると、イヴは気合いと共に矢を放った。

『うわっ!』

 紅い光の矢は蒼い竜の尻尾をかすめて、こっそり下から伸び上がって来ていた長鱗虫ロングヘッドの頭に命中する。

 蒼い竜は驚いて姿勢を崩した。
 三頭虫が追撃するが、そこは風竜、姿勢は崩しても無茶苦茶な動きで虫の攻撃をかい潜る。
 彼は一旦、三頭虫の攻撃範囲から離脱すると、全速力でこちらに飛んできた。

『危ないじゃないか!俺じゃ無かったら当たってたぞ、今の!』

 セファンの前まで飛んでくると彼は猛烈に抗議する。

「当てようと思ったもの」
『イ、イヴ!?』

 動揺する蒼い竜。
 イヴはふんと鼻を鳴らすと、立ち上がった。
 そして、そう大きくないオレンジ色の竜の背で数歩脇に進み、そのまま空中へ飛び降りる!

『!』

 投身自殺と紙一重の行動に、周囲は唖然とした。
 カケルも一瞬驚いて棒立ちになる。
 しかし、すぐに我に返って落下するイヴの下に回り込み、彼女を受け止めた。

『イヴ、大丈夫?!』

 蒼い竜は背中のイヴを覗き込んでわたわたする。
 落下の衝撃を、自身の呪術で相殺していたイヴは、特に怪我はない。彼女は蒼い竜の背で答えた。

「それはこっちの台詞よ!」
『!』
「貴方が帰ってこなくて、私だって心配したのよ。私は本気なんだから。本気で真面目に貴方とパートナーを組んでるの!いい加減な事を言って、逃げられると思ったら大間違いよ!」
『イヴ…』
「お願いだから逃げないで。いなくならないでよ…」

 怒られているのか、懇願されているのか、分からない。
 けれど、言葉にならない想いを背中から感じ取って、カケルは身震いした。

 彼女は命を掛けて自分の本気を示した。
 カケルはただ、慌てて彼女を受け止めるのに必死になった。この前まで、彼女と距離を取ろうとしていたのに。もう関わるまいと思っていたのに。おかしいな…。
 まったく。
 君には敵わないよ。


『…俺は、君が好きだよ、イヴ』


 それは春風のように軽やかな告白だった。
 悲壮感に顔を歪めていたイヴは驚いて目を見張る。

『この前は酷いこと言ってごめん。ああ言えば、君は諦めるかなと思った』

 蒼い竜はそのまま軽やかに続ける。
 雪が溶けて水滴に変わるように、乾いた大地を穀雨が潤すように、その言葉はイヴの心にそっと染み込んでいく。
 傷付いていた気持ちが、欠けていた心が癒える。
 蟠りは解けて、消えていった。

「本気じゃなくて、適当に言ってるのが丸わかりなのよ。馬鹿…」
『うん。自分でも超適当だと思ったよ』

 ふふっと竜は笑う。

「もし私と契約できない理由があるなら、きちんと話して。納得できる理由なら、私も諦めるから」
『分かった。後で話そう』

 蒼い竜は確かに約束する。
 その言葉に安心したイヴは、戦場に意識を戻した。
 三頭虫ケルベロスが近付いて来つつある。

『痴話喧嘩は終わったか?』

 上空でオレンジ色の竜がやれやれと長い首を振った。

「セファン先輩」
『カケル、さっきの調子でいいから三頭虫に突っ込め。奴のでかい頭の付け根にちっこい眼がある。それが奴の弱点だ』

 イヴは目を皿のようにして三頭虫を見つめたが、眼らしきものは見当たらない。

『相当小さいから、ここから見ても分からんだろう。近付かないと狙えない位置だ』

 説明しながらセファンは火を吐いて、ついでのように長鱗虫を追い払う。

『奴の攻撃範囲に入って無事に離脱できるのは、カケル、風竜であるお前だけだ。そして、小さい的を正確に射抜くことができるのはアラクサラだけ。お前達が頼りだ』
「眼を攻撃すれば三頭虫の動きは止まります。そこを私達で一気に叩きます」

 上空からセファンとイリアが言う。
 イヴは頷くと、蒼い竜の鱗を軽く叩いた。

「行くわよ!」
『任せといて!これが終わったら昼寝祭だ!』

 後半の台詞は余計だ。
 ともあれカケルの意気は高い。
 イヴも不安や悩みが解決した後なので、気分が高揚するのを感じた。もう後はあいつを倒すだけ。
 大丈夫。どこまでだって飛べる。
 貴方と一緒なら。


 風向きが変わる。
 曇天を吹き散らして、蒼い風が吹きはじめる。


 支援用の特殊同調技、蒼風加速界ワールウィンド







 地上で戦っていたスルトは顔を上げて、空気の匂いを嗅いだ。

「なんだ…?」

 空気が変わった。
 冬の乾いた風に、冷たくても柔らかい魔力を帯びた風が混じる。その風は戦闘で熱くなった身体をするりと撫でた。
 意識がはっきりして、動きやすくなる。

「スルト!」

 ルークの呼ぶ声に、空を見上げてよそ見をしていたスルトは、戦闘に意識を戻した。間近に迫っていた大地虫ワームの頭を、鎌で切り飛ばす。

「そろそろ長鱗虫ロングヘッドを片付けようぜ!」

 身体が軽くなって素早く動けるようになっている。おそらく上空の味方の竜の魔法によるものだろう。
 今の内に竜の天敵である長鱗虫を倒すのだ。

 長鱗虫は蛇のように長い頭部と胴体は、攻撃しても余りダメージを与えられない。ぬるぬるした表面は火竜のブレスや呪術の攻撃をいなしてしまう。しかも、倒しても時間をおけば頭部が生えてくる。
 完全に倒すには、地上で足の部分を切る必要があった。
 長鱗虫の本当の頭は、地面に接する足にあるのだ。

「ひゃっほうっ」
「おい、スルト!あんまり突っ込み過ぎるなよ」
「今やらないでいつやるんだよ!」

 慎重なルークは自分から突っ込むことはしない。
 スルトはわざと邪魔な他の虫をルークの方に追い立てて、自分は長鱗虫の足元に突っ込んだ。
 地面に空いた穴から伸び出ている長鱗虫の足、あるいは尻尾の部分を鎌でかっさばく。
 長鱗虫は身体を捩るが、空に伸びている頭部と違って、足元は自由に動かせない。足を移動するには、一旦頭部を地面まで引き戻さないといけないからだ。

 スルトは片っ端から長鱗虫ロングヘッドの足に鎌を打ち込んでいった。それはまるで、森に挑む木こりのようだ。
 最初は単身で長鱗虫の森に挑んでいたスルトだが、途中から基地から来た他の獣人が来て、同じように足を切り始めた。

 魔力を帯びた風の効果で、獣人達は勢いづく。
 長鱗虫は次々と足を切られて倒れていった。






長鱗虫ロングヘッドが少なくなってる…」
『地上で獣人達が切ってくれたのでしょう』

 ロンドは周囲を見回して一息ついた。
 長鱗虫が減ったせいで、竜達は回避に専念しなくても良くなって、余裕が出ている。
 攻撃に転じた竜達は、雑魚の虫達を順調に葬り去っていた。

「後はボスの三頭虫ケルベロスを倒すだけか」

 三本の首を振り回す三頭虫に、蒼い竜が近付いていく。
 上手くやってくれ。
 健闘を祈っていると、オレンジ色の竜が横に並んできた。

『アラクサラが眼を射抜いて隙が出来たら、俺達で一カ所に集中して攻撃するんだ。先生は雷竜ですよね。合わせて頂けますか』
『適当に合わせるから、好きに攻撃なさい』
『助かります』

 黒竜はセファンに続いて、三頭虫にゆっくり近付いて距離とタイミングを測った。カケル達に合わせて、すぐに攻撃できるように、なるべく近付いておく必要がある。






 高速で飛ぶ蒼い竜は、三頭虫ケルベロスの周囲を縦横無尽に翔け回った。

『おめめはどこでしょー?』
「ちょっと、真面目にやりなさいよ」

 口では窘めてみたものの、カケルがはしゃいでいるのは調子が良い証拠なので、本気で黙れとは言わないイヴだ。
 彼女は目を凝らしながら三頭虫の巨体を分析していた。
 三頭虫は数キロ四方の亀のような胴体の真ん中に、三本の長くて太い頭がついている怪物だ。
 その首の付け根を重点的に、呪術も利用しながら捜索していく。

「カケル、三本の首の真ん中通れる?」

 首の周囲を回ってみたものの、それらしき突起を見つけられなかった。弱点なので、攻撃しにくいところにあるのかもしれない。
 三本の首は三角に並んでいて、中央が一番確認しにくい場所だ。

『はーい。危険だからちょっと揺れるかも』
「いいからギリギリまで寄って頂戴」

 蒼い竜は軽やかに飛んで、襲ってくる首を高速でかわしながら、三本の首が囲む中心地点に降りていった。段々三本の首が寄ってきて、空間が狭くなっていく。

「……見つけた!」

 三本の首の付け根の中心に、ぬめりと光る瞳を見つけて、イヴは呪術の矢を構えた。

紅光弾ルビーショット!」

 紅く光る矢は、拳大の眼球に的中した。


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