挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.05 エスケープ!だけど、いつもの枕じゃないと眠れない

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

50/160

08 反撃開始

 実習中に緊急事態が起きたらしく、基地は慌ただしい雰囲気になった。教官達が通信の呪術で、実習中の他の教官と連絡を取り合っている声が響く。
 基地の飛行場には、次々と竜が列を為して着地していた。実習生達が戻ってきているのだ。

 イヴは飛行場の端に立って情報収集に努めた。
 漏れ聞こえてくる教官達の話から、実習中に中位以上のランクの虫が出たという事が分かった。長鱗虫ロングヘッドという単語を聞いて、イヴは戦慄する。

 長鱗虫はその長い首を上空まで伸ばして、竜に攻撃できる。基本的に地を這う虫は竜の敵では無いのだが、中位以上の虫は様々な攻撃手段を持っていて、油断すると竜でも倒されてしまう。

 カケル達は大丈夫なのだろうか。

 帰投してきた実習生達の中に、イヴはカケル達の姿を探す。
 しかし、どんなに待っても彼等が姿を現すことは無かった。

 彼女は通信の呪術を実行して、ロンドと連絡を取ろうとした。通信の呪術は、地球で言う携帯電話の役割を担っている。

《 駄目だよ。通信が繋がらない 》

 白い兎の姿をしたナビゲータは首を振る。
 ミカヅキは、イヴの命じた呪術の実行結果を教えてくれる。その答えは彼女の望んだものでは無かった。

「ロンド先輩は無事なの…?」

《 分からない。通信が繋がらない原因が、連絡先の呪術師がいないからか、繋がりにくい場所にいるからか、現段階では不明 》

 人里から離れると、通信の呪術は繋がりにくくなる。
 これは通信の媒介と増幅に神樹が大きな役割を果たしているせいだ。神樹は街の中心や各地の公園の森に混じって生えていて、人間の住環境や呪術の利便を整えてくれていた。この世界の魔法の根底となる「ダイアルネットワーク」は神樹を基点として構成されている。

 結局、夜になってもカケル達は帰って来なかった。
 イヴは不安な気持ちを抱えて基地内を行ったり来たりする。

 暗くなった基地の廊下を歩いていると、セファンがイヴを呼び止めた。
 セファンは彼女をこの演習に連れてきてくれた、空戦科の5年生の竜だ。イヴやカケルが世話になっている夏寮の寮長であり、頼もしい先輩である。
 彼は教官に呼び出されて話をしていたらしく、状況を教えてくれた。

「今、ロンドから連絡が入った。あいつら、平原の北の山に避難してるらしい」
「どうしてそんなところに…」
「実習の最中にボス級の三頭虫ケルベロスが現れたらしい」
三頭虫ケルベロスですって!?」

 カケル達が無事だと聞いて、イヴは少しほっとした。だが、続いてボス級の虫が出たと聞いて顔を強張らせる。
 まだ非常事態が続いていることを悟ったからだ。

「今、教官達が対応を協議中だ。俺も打ち合わせに出るよう要請があった。お前も来い」
「いいんですか?」
「カケル達のことが心配だろう。大丈夫、俺が文句を言わせないさ」

 セファンは胸を叩いて請けあう。
 その頼もしい態度に、イヴは彼の提案に甘えて会議に参加させて貰おうと考えた。

 二人は常にない事態にざわめく基地を横断して、教官達の元へ向かう。
 会議室は基地の北側の奥にある。
 イヴはセファンに続いて入室する。

「失礼します」

 居並ぶ教官達は、セファンの後ろのイヴをちらりと見たが、何も言わない。それどころではなさそうだった。

「…聞いての通り、三頭虫ケルベロスが平原に出現した。今や平原は虫の巣窟と化した。実習の継続は不可能だ。実習生は学校に返して、基地には我々が残って虫の動向を監視する」

 関係者全員を集めて、決定事項を説明しているらしい。
 中心になっているのは現役空軍の軍人のパルコだ。
 彼は一同をぐるりと見回した後、入室したセファンに顔を向けた。

「セファン、まだ学生の君に頼むのは申し訳ないが、基地に残って監視に力を貸してくれ。ボス級の虫に対抗できる、魔力レベルAの竜は、この基地には君ひとりだ」

 協力を頼まれたセファンは、オレンジ色の頭髪を掻きながら、イヴをちらりと見た。

「勿論、協力はしますけどね…。逃げ遅れて平原の北にいる実習生はどうするんです?」

 暗にロンド達のことを聞く言葉に、イヴは固唾をのんで教官の言葉を待った。

「彼等を助けに行く戦力は、我々にはない。できれば彼等には自力で帰ってきて欲しい。迂回ルートを確認中だが、逃げ遅れた実習生のいる場所は通信が不安定なようで、情報を送ることもままならない。手は尽くすが……」

 パルコは努力すると言う。しかし、その声には諦めと消極的な響きがあった。
 教官達の合理的で冷酷な判断に、イヴは悔しくて唇を噛む。

「あいつらを見捨てると?」
「そうは言っていない。手を尽くすと言っただろう」

 セファンは冷ややかな笑みを浮かべて教官と睨み合う。

「軍がそんな逃げの姿勢でどうすんだよ。俺達の背後には実習生だけじゃない、アクレスの街があるんだぜ。ボス級の虫が街に南下したら…」
「君はどうしたら良いと思うんだね?」
「決まっている。虫を倒せば良い」

 簡単に言ったセファンに、教官達は嫌な顔をする。
 その顔には「子供が、簡単に言いやがって」と書いてあるようだ。

「…セファン。確かに君は優秀な竜だ。しかし、世の中には不可能なこともあるんだよ。ボス級の虫を倒すには、最低でも魔力レベルAの竜が二頭以上、優秀な竜騎士が騎乗して、援護する部隊も必要だ」
「その条件を満たせば良いのですか?」

 会議に凛とした女性の声が割って入った。
 部屋にいた全員が振り返って、部屋の入口を見る。
 そこには声の出所である、銀に近い金髪を三つ編みをした女子生徒が立っていた。

「イリア・マクセラン……」

 教官達がざわめく。
 イリアはセファンのパートナーの竜騎士であり、空軍を取り纏める名家マクセランの次女だ。まだ学生とはいえ、空軍の軍人なら彼女の発言を無視できない。
 背が低く幼く見える彼女の全身から、その容姿に反する重厚な威圧感が漂っている。
 彼女は部屋の中に進みながら淡々と言った。

「今セファンの言ったように、私達の背後にはアクレスの街があります。悠長に監視している間に、虫が勢力を増して南下すれば、途方もない犠牲が出る。
 私はマクセランとして、この事態を見過ごすことはできません。責任は全てマクセランが取りましょう」
「…無謀な突撃をされれば、マクセランが責を負うだけではすみませんよ」

 教官の一人が彼女の威厳に押されながらも、忠言する。
 イリアはほのかな笑みを浮かべた。

「無謀ではありません。ここにはご存知の通り、魔力レベルAのセファンがいる。そして、逃げ遅れた実習生の中の一人、カケル・サーフェス、彼は魔力レベルAの風竜です」

 教官達はポカンとする。
 年明けから急遽、ロンドにくっついて参加したカケルのことは、教師のステラ以外は知らない者が多かった。

「魔力レベルAの竜が二頭。それに、経験豊富な教官や教師の皆様方がこんなに沢山……さあ、どうですか?これでボス級の虫を倒すことが不可能だとは言わせませんよ」







 虫打倒に及び腰だった教官達は、イリアの言葉をきっかけに方向転換して、抗戦に積極的になった。
 魔力レベルが高い竜は特別なのだと、イヴも知る。
 希少な、生まれながらに魔力レベルAの竜は、奇跡を起こして戦況をひっくり返すことができる。また、他の魔力の低い竜にない、特殊な能力をいくつも持っている。

 魔力レベルAの竜が数頭いるなら、何とかなるかもしれない。最悪でも、実習生を撤退させる時間稼ぎはできるだろうと、教官達は作戦を立て始めた。

 会議が終わった後、イヴはイリアとセファンに頭を下げた。

「ありがとうございます、セファン先輩、イリア先輩」
「おう」
「顔を上げてください、イヴ。まだ何も解決していないですよ。感謝は無事に合流できてからで良いです」

 イヴは顔を上げる。
 細い銀縁の眼鏡の奥で、青灰色の瞳を細めてイリアは微笑んでいた。

「これからですよ。イヴ、貴女は彼の竜騎士になるんでしょう?」
「それは…断られてますし…」
「理由は聞きました?」
「いえ」

 つい感情的になってしまって、理由を聞けずじまいだった。
 反省するイヴに、イリアはアドバイスする。

「これは私の持論なのですが…彼が自分の騎竜なのだと心のどこかで感じたならば、諦めないことです。私のセファンも最初は断ってましたからね」
「え?」
「はぁー。勘弁してくれよ、イリア」

 円満に契約した訳ではなかったのか。
 疑問に思って見上げると、セファンは苦い顔をした。

「まずは理由を聞いて、納得できる理由なら諦めれば良い。大丈夫です。背中に乗せてくれて指示に従ってくれる竜なら、たいてい脈ありですから」

 竜は純粋で気ままな生き物だから、嫌な相手を背中に乗せて指示に従ったりしないと、イリアはにこにこして言う。

「そんなもんでしょうか」
「そんなものです」

 そう断言されると、なんだか大丈夫なような気がしてきた。
 イヴは頷いて気持ちを切り替える。

「作戦内容をカケル達に説明しなくていいんですか?」

 会議では何パターンかの作戦が立案されたが、連絡が取りづらい状況のため、カケル達には簡単な指示のみを伝達することになっている。
 セファンは軽い調子で答えた。

「あー、いいんだよ。臨機応変で。奴らならなんとかする。というか、通信が不安定でじっくり話すのは無理だ」
「ぶっつけ本番になりますが…合流して逃げるだけなら、何とかなるでしょう。先ほどはああ言いましたが、ボス級の虫は手強いので、倒すのは無理かもしれません。
 今回は無理して倒さなくても、ここは人のいない平原ですから大丈夫です」

 しれっと言うイリア。会議ではアクレスが危ないからどうのと言っていたが、どうやら教官達を動かすために、大袈裟に話をしたらしい。
 凄い度胸だ。
 先輩達の平然とした様子に、イヴの胸にも少しずつ明るい気持ちが沸いて来る。

 ここで引き下がるなんて私らしくない。
 絶対にカケルを連れ戻してみせる。
 決意を胸に拳を握るイヴを前に、セファンは軽やかに宣言した。

「…俺はあいつらを、同じ夏寮の仲間を信じている。必ず無事に合流して、生きて帰ってくるさ」

 口の端を吊り上げて、彼は不敵に笑う。

「さあ、反撃を始めようぜ」


カケル「反撃って虫への反撃だよね。俺への反撃じゃないよね」
イヴ「よく分かってるじゃない。あんなに馬鹿にされて、私が黙ってると思ったら大間違いよ!」
カケル「ぎゃおす」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ