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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.01 君に出会った時から俺の(昼寝)人生設計が崩れ始めた

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04 トラブルは忘れた頃に起こる

 演習が始まった当初はこのメンバーで大丈夫かと思われたのだが、意外にも和やかな雰囲気になっている。
 イヴとオルタナが角を突き合わせて喧嘩をしかける度に、リリーナとカケルが気の抜くような事を言うのだ。イヴとリリーナ、オルタナとカケルはそれぞれ仲良くなっていて、双方で友人が爆発しないよううまく抑えていた。

 今はもう2日目の午後。
 3日間の演習も折り返し地点だ。
 このまま何事もなく終わって欲しいと、ロンドは切に願った。
 しかし、彼の思いとは裏腹にハプニングは起こる。

「なんだ、あれ」

 オルタナが目の上で片手をかざしながら言う。
 彼の視線の先には、崖を飛び越えて近寄ってくる動物の姿があった。

「ヒョウ?」
「いや、似てるけど違う。ありゃジャガーの一種だな」

 猫科のすらっとしたシルエットに、イヴは豹かと思ったがオルタナが否定する。
 一行は立ち止まって、その動物が近寄って来るのを眺めた。

 この世界には獣に変身できる獣人という人種がいる。普通の獣より一回り大きいジャガーの動きには知性が感じられた。カケル達は、彼が野生の獣ではなく、獣人だと悟っていた。

 ジャガーの獣人は何故か慌てた様子で、ところどころ岩を踏み外しながら、息を切らせてカケル達の前に飛び込んできた。
 彼はカケル達の前に来ると、一瞬でラフなシャツにズボンを着た背の高い青年に姿を変える。やはり獣人だったらしい。獣人は変身するときに服を失うことはない。獣から人の姿に戻るときに真っ裸で狼狽することは無かった。便利である。
 青年はジャガーの面影を残した精悍で野性味の帯びた身体付きをしていた。服の裾から見える手足は、健康的に日に焼けている。

「頼むっ、弟を助けてくれ! この先で羽虫フライに襲われて……!」

 ジャガーが変じた青年は、必死の体でカケル達に懇願した。

「なんだって!? この辺の虫の駆除は済んでいる筈なのに」

 ロンドは予想外と言った様子で呻く。
 彼等の言っている虫とは、人間を食らうモンスターの一種のことだ。この世界には、昆虫の姿に酷似した奇怪なモンスターが野に跋扈していた。一般的に「虫」と一括りに呼ばれているが、その形状は様々で生態には謎が多い。確かなのは、虫が存在するせいで、人類の生存圏が限られているということだ。
 人類が世界の主ではなくなって長い時間が経つ。虫を駆除した土地でなければ、安穏に住みつづけることは叶わない。この演習の舞台であるユルグ峡谷も、何十年も前に虫駆除が終わり、人が住める土地と認定されていた筈だった。
 状況を把握したイヴは、青ざめて膝をつく青年に向き合う。

「弟さんは何処にいるの?」
「アラクサラ君?!」

 青年を助けようという意思を滲ませたイヴの言葉に、ロンドは制止の声を上げた。

「僕たちは学生で、演習の最中だぞ! ユルグ近郊の駐留部隊に通報して、彼等に任せるべきだ!」
「一刻を争うかもしれないのよ! そんな悠長な事を言ってる場合ですか?」

 イヴがロンドに正面から反論する。
 その様子にオルタナがニヤリと笑って言った。

「糞真面目で規律重視かと思ってたが、アラクサラも良いことを言うじゃねえか」
「ソレルまで!」

 彼はジャガーの青年に近寄って「どっちだ?」と聞いている。このチームは実質イヴとオルタナで動いているので、ロンドにも後輩たちの行動を止めるのは不可能だった。
 カケルがロンドを見上げて言う。

「仕方ないんじゃない? ロンド兄、ちょっと学校の先生達に遅れるって伝えてよ」
「あ、ああ」

 普段はふわふわしているカケルの、珍しい的を射た提案にロンドは戸惑って頷いた。
 この世界に電話や携帯はない。その代わりに遠距離通話には魔法の一種である、呪術ソーサリーが用いられる。
 ロンドは己のナビゲータを召喚した。水色の光と共に、ロンドの肩辺りに彼のナビゲータが実体化して浮かんだ。

「サーフィン、学年主任のパレアナ女史まで繋いでくれ」

《 承知したのだ 》

 のっそり頷いたのは、一抱えほどの大きさをしたマンボウだ。
 ナビゲータは呪術師それぞれについている、呪術を補佐する妖精のような存在である。呪術師以外にはその姿は目視できず、ナビゲータの声はその呪術師にしか聞こえない。
 ロンドは通信の術式をナビゲータに実行させる。
 数回のコール音の後に、女性にしては低めのメゾソプラノの声で応答があった。

「こちら学年主任のパレアナだ。ロンド君、調子はどうだい?」
「それが少し予定より遅れそうで……」

 ロンドは簡単に状況を説明する。

「そうか、分かった。私の方でユルグの駐留部隊に通報しよう。救出に向かうのは許可するが、3年生の子達には命の危険があれば撤退するように君からうまく説得してくれ」
「申し訳ありません。私の言うことを聞くかどうか」

 説得の自信がなく言いよどむロンドに、パレアナ女史は快活な声で答えた。

「ああ、君のところは個性的な子が揃ってるからね。だから普通なら3班で引率1人のところを、人数を少なくして、君1人にしたんだが、荷が重いか?」

 学年主任の言いようだと、このチームメンバーの選択は故意のようだ。
 苦々しい思いを噛み締めながらロンドは返事をした。

「少々……」
「そうか、面倒を掛けてすまないな。君の班のメンバーは個性的で手を焼くだろうが、優秀な子達だ。君は最悪見張るだけでいい。後少しの間、頑張ってくれ」
「分かりました。状況が進展し次第、連絡を入れます」
「頼む」

 簡潔な指示の後、通信はすぐに切れた。

「優秀……?」

 目の前ではカケルが岩に足を引っ掛けて転びかけている。イヴとオルタナは、既に獣人の青年を供なって随分先に進んでいた。リリーナは先行組とカケルを見比べて、右往左往している。
 イヴはともかく、自分の聞き違えかもしれない。




 カケル達は、道すがらジャガーの青年の事情を聞いた。

 ジャガーの青年はラウンと名乗った。
 ユルグ峡谷の入口の村の子供で、年下の弟と魚を捕りに峡谷に来ていたのだと言う。
 今日はいつもの場所で魚が捕れなかったので、違う場所を探そうと歩いていたところ、羽虫フライと遭遇してしまった。

「一匹くらいなら僕も見たことあるんですけど、数匹まとまった群れで……これはヤバいなと思ってすぐに逃げました」

 羽虫フライは、1メートル程度の体長の、巨大な蚊の化け物だ。人間を襲って血を吸う。吸われた人間は、吸われた血の量によっては死に至ることもある。

 兄弟は虫から必死に逃げて川に飛び込んだ。目前が川だったのと、水の中まで追ってこないだろうと考えたからだ。水の中を泳いで、川が岩を削って出来た小さな洞窟に避難した。洞窟の出入口は水が塞いでいて、羽虫フライは追ってこなかった。

 ラウン青年は弟をその洞窟に置いて、自分は一人引き返して助けを呼ぶことにした。
 まだ小さい弟は普通の人間なので、羽虫フライに襲われたらひとたまりもないが、ラウン自身は獣人なので羽虫フライに襲われても逃げきれる自信があったらしい。

「弟君は何歳?」

 イヴの質問にラウンは神妙に答える。

「12歳です」
「まだ小さいのね。早く助けてあげないと」

 一行は警戒しながら崖を下り、虫に襲われたという谷底に降りていった。
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