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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.05 エスケープ!だけど、いつもの枕じゃないと眠れない

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06 危機との遭遇

 一週間以上続いた座学や訓練が終わり、陸戦科の生徒達と合流したロンド達は、いよいよ虫と戦う実戦に入った。

 偵察で下見した平原の北で、教官の指示に従ってチームごとに虫を狩る。
 初めての戦場のはずだが、蒼い竜は緊張する様子もなく、冷静に落ち着いた姿勢制御でロンドを乗せて空を飛んでいた。

火粉クラック

 ロンドは群れで飛んでいる羽虫フライの中心に、遠隔で爆破の呪術を設置する。弾けた火花が羽虫達を焼いた。

『よいしょっと…』

 蒼い竜は大きく翼を上下させる。
 巻き起こった風の波が、ロンドが起こした爆発の効果を増大させ、風で身動きが取れなくなった羽虫達を撃ち落とした。
 巨大な蚊の姿をした昆虫型モンスターは、炎に包まれて次々と地上に落ちていく。

 地上では同じチームを組んだ、ルークとスルトが待ち受けている。

「どっちが多く倒したかカウントするか?」
「却下だ。同じチーム内で競う意味が分からない」
「堅苦しい奴だな」

 獣人二人は会話しながら落ちて来た虫を狩る。

 堅苦しいと評されたルークは渋面で剣を構えた。彼の剣は、使い手の真面目な性格を表したような、長い直線的な長剣だ。髪と同じ鋼色のそれで、ルークは正確に虫の急所である頭部を狙う。

 一方のスルトは死に神の鎌のような、歪曲した刃を持った武器で、周囲の虫をまとめてなぎ払う。それは、小柄で繊細な彼の容貌に似合わない豪快な動きだった。

 二人の武器は微かに光を帯びて脈動している。
 武器は鋼牙ファングと呼ばれる獣人専用の剣だ。
 鋼牙ファングは獣人の身体能力を上げ、獣人の魔法の媒介になる。鋼牙は普通の鉄ではなく、鉱石虫メタリウム複頭虫ヒュドラから採れる素材から作られている。

 エファランは常に虫と呼ばれるモンスターに脅かされているが、逆にそのモンスターから採れる素材こそが、エファランの特産物になっていた。
 それゆえにエファランの国民は軍人でなくても、基本的に皆モンスターとの戦い方を心得ている。

 竜が突っ込んで撹乱し、人間の呪術師ソーサラーが後方から攻撃呪術を撃ち込み、前衛に獣人の戦士が立つ。エファランでは3つの種族がうまく協力して、独自の戦闘スタイルを確立していた。

「ははっ、順調過ぎて眠くなるぜ!」

 虫を蹴散らしながらスルトが哄笑する。
 スルトは素行は良くないが、教師の前では猫を被っていて、表向きは陸戦科の優等生ということになっている。ルークも、スルトとはタイプが違うが真面目な優等生である。
 成績順位は上から数えた方が早い、戦闘に秀でた二人にとって、弱い羽虫フライは物足りない敵だ。

「下の様子はどうなってるんだ?」

 上空で竜に乗っているロンドには、地上の様子はよく分からない。

『楽勝で眠いんだってー』

 蒼い竜はのんびり通訳した。
 竜の聴覚は人間や獣人とは構造が違い、聞き取り可能な範囲が広いので、地上の会話もある程度拾える。
 カケルの通訳を聞いて、ロンドは苦笑した。

「あいつらにとっては、羽虫は雑魚か…」

 自分達にとっても、羽虫は大した脅威ではない。
 風竜のカケルは風でバリアを張って、羽虫が寄ってこないようにしている。おかげでロンドは安心して竜の背から攻撃の呪術を撃てた。

『俺達の担当分はすぐ終わりそうだね』

 実習生達はチームごとに地域が割り振られ、そこで虫を狩っていた。基本的に他の地域には手出ししないルールで、その地域の虫を狩り尽くせば本日の実習は終了となる。

「カケル。今日帰ったら、いい加減、アラクサラ君と話をしろ」
『……』

 カケルがイヴと話したのは、あの陸戦科の生徒と合流した日の一回だけだ。あれ以来、カケルはイヴを避けている。
 イヴの方は実習に途中から参加する都合上、カケル達とは別行動になっている。今も、カケル達は平原の北で虫と戦っている間、彼女は基地で留守番をしていた。
 一緒に行動する機会が少ない事が、二人のすれ違いに拍車をかけている。

『…今更何を話すんだよ』
「アラクサラ君は、お前と話たがっている」

 蒼い竜は少し黙り込んだ。
 ややあって暗い声を出す。

『ロンド兄。俺、イヴに酷いこと言ったんだ…』
「酷いこと?」
『俺って最低な奴なんだよ。イヴはきっと怒ってる。怒って俺とは絶交するって言う。そういう話なんだよ』

 平原の空は快晴なのに、蒼い竜の周囲は雨が降りそうな雰囲気だ。じめじめした空気にロンドは溜息をついた。
 イヴと話したロンドは、彼女が怒っていないと知っている。
 彼女はただ、カケルが背を向けていることに悲しんでいるだけだ。カケルの推測は検討違いなのである。

「なあ、カケル。逃げずにアラクサラと向き合えよ。彼女にきちんとお前の本心を伝えるんだ」
『無理だよ…イヴに迷惑だろうし…』
「言いたいことは今、伝えるんだ。僕達は危険な世界で生きてるし、将来は軍人になる。伝えたいと思ったときに相手が生きているとは限らない」
『……』
「後で後悔するかもしれないぞ、カケル」

 そう言うと蒼い竜は考え込む様子になった。
 ロンドは話をしながら手早く周囲の空域をチェックする。
 羽虫はあらかた狩り尽くしたようで、ふらふらと数匹の羽虫が逃げていくのが見えた。しかし、当初、空の一角を占領していた虫の群れはもうない。
 潮時か。
 そろそろ帰投しようかと思ったとき、通信の呪術で友人から連絡が入った。

「よう、ロンド。そっちの調子はどうだ?」
「ヘンドリック」

 それは同学年で同じ空戦科の友人、ヘンドリックからだった。通信の呪術は音声のみを伝達している。
 ロンドは友人の元気そうな声に耳を傾ける。

「こちらはもう終わりそうだ」
「そうか。こっちも虫の数が少ないからもう終わりだ。手応えがないって獣人どもが煩いよ」
「どこの獣人も言うことは一緒だな…」
「さっさと帰って飯にしようぜ。ん?ありゃなんだ…」

 途中で友人の声の調子が変わったので、ロンドは不思議に思う。

「どうした?」
「虫だ…!あんなでかいのは初めて見る!いったいどうなってんだ、糞っ!」
「ヘンドリック、大丈夫か!?」

 通信の呪術を通じて聞こえて来る音声の背景に爆音が混じる。
 ぷつっと音を立てて通信は断絶した。
 通信している余裕がなくて、呪術を途中で打ちきったようだ。

『ロンド兄!なんだか様子がおかしい!』
「ああ。地上の二人を回収して、ヘンドリックの元に急ごう!」

 蒼い竜は地上に急降下する。
 予め決められている撤退のサインを送ると、ルークとスルトは地上すれすれを低空飛行する竜の背に飛び乗ってきた。

「何が起きている?」
「分からない」

 緊迫した空気を感じ取ってルークが険しい顔をする。
 スルトは楽しそうだ。

「ははっ、なんかきな臭せえな!」

 ロンド達を乗せた蒼い竜は、ヘンドリック達がいる空域に急行した。
 奇岩平原は平原だけあって見晴らしが良いが、ところどころにおかしな形をした岩が転がっている。岩のサイズは小さいものは人間の大きさで、大きいものは5階以上の建物の高さがあった。大きな岩の影になって見えない場所もある。

 向かう先には砂煙が立っていた。

 砂煙の上に茶色い竜が滞空しているのが見える。
 その竜目掛けて、巨大な蛇のような生き物が長い首を伸ばして襲い掛かるのが見えた。蛇の首の太さは大木の幹ほどあり、頭には一個だけ目が付いている。さび色の鱗はぬめりを帯びていた。

「あれは…長鱗虫ロングヘッドだ!」

 迫り来る虫の頭部を茶色い竜は辛うじて避ける。
 しかし砂煙を裂いて、もう一体別の長鱗虫が姿を現すのが見えた。

「まずい… 長鱗虫の攻撃は、上空の竜にも届く。引きずり降ろされれば、いくら竜でも…」
『ロンド兄は遠距離射撃できないの?』
「アラクサラ君ならともかく、僕は基本的には補助タイプだと言ってるだろう!」

 2匹の長鱗虫に狙われた茶色い竜は、木枯らしに舞う枯れ葉のように舞い落ちる。虫の攻撃を避けきれずに追い詰められているのだ。

「このままじゃ……」

 息を呑むロンド達の前を、黒い影が過ぎった。

『逃げなさい!』

 それは高速で移動する黒い竜だった。
 黒い竜はまばゆい電撃を放つ。
 電撃は首を交差させた2匹の長鱗虫を掠める。長鱗虫は攻撃を避けて茶色い竜から離れた。

《 実習生の皆さん、緊急事態につき、ただちに基地まで撤退してください。繰り返します… 》

 通信の呪術で、実習生全員に連絡が通知される。
 周辺の空域にいた竜達が旋回して基地の方角へ戻り始めた。

『ロンド兄、俺達も…』

 蒼い竜もUターンを始めようとする。
 しかし、ロンドが声を上げたので踏み止まった。

「まだ地上に人がいる…!」

 目を凝らすと砂煙を抜けて、虫に追いかけてられている獣人の生徒が見える。どうやら茶色い竜は彼等と同じチームらしい。地上の獣人の生徒を回収しようと、降下を始めている。

「獣人なんか、放っときゃいいのに」
「そういう訳にはいかないだろう」
「いや、スルトの言う通りだ。我々獣人なら、変身して獣の姿になれば虫から逃げられる」

 獣人は放って逃げたら良いと言うスルトとルーク。
 地上に降りようとした茶色い竜に、長鱗虫が再び襲い掛かる。ロンドは確かにスルトとルークの言う通りだと認めざるをえなかった。
 茶色い竜は助けに行こうとして、逆に窮地に陥っている。
 カケルとロンドは援護をしたいと思ったが、共に補助タイプなので何もできずにいた。ロンドの得意な火粉クラックは設置型の爆破攻撃で、移動する敵に当てにくい。カケルは風竜なので、風を起こすしか攻撃手段がない。

 蒼い竜は上空で旋回して様子を見守る。

「ステラ先生…」

 地上で獣人を回収しようとして、無防備になっている茶色い竜を、黒竜のステラが援護する。彼女は電撃を周囲に放って、近寄る虫をなぎ払っていた。
 黒竜の援護もあって、茶色い竜はなんとかチームメイトを回収する。

『ありがとうございます、もう大丈夫です、先生--』

 茶色い竜が上空へ舞い上がりながら、ステラに謝意を伝えたその時。
 突然真下の地面が盛り上がり大きく弾けた。土くれを撒き散らしながら伸び上がった怪物の口が、生徒を庇った黒竜の翼を掠める。

『先生!?』

 その怪物にはステラの電撃が効いていないようだった。
 地響きと共に、辺りの地面一帯が丸く円を描いて盛り上がる。巨大な怪物の全容が明らかになった。
 背中に平原の草木を載せた怪物の全長は、ちょっとした公園規模の大きさだった。胴体はお椀を被せたように円形で中央が盛り上がっている。山のように盛り上がった胴体から、雲に届きそうな長くて太い首が立ち上がってきた。首の太さは長鱗虫の数倍あり、頭は目も耳もなくのっぺりして、鋭い歯が並んだ口だけがある。

 その怪物の頭は3つあった。
 3つの頭部は、わらわら動いて黒竜を追跡する。

『ステラ先生、翼が…』

 黒竜は生徒を庇ったときに翼を負傷したらしく、動きがおかしい。飛行スピードが落ちている。

『私の事は気にせず、貴方達は逃げなさい!』

 ステラはわざと怪物の鼻先を飛んで、敵の注意を引き付けている。
 茶色い竜は躊躇いながらも回頭して基地へ戻り始めた。

「俺達も戻るか?」
「先生が…」
「ここにいたら、俺達も危ないぜ」

 スルトが笑みを消して真剣な顔で警告する。
 こうしている間にも長鱗虫がカケル達目掛けて、首を伸ばしてきている。カケルは風竜だけあって、軽やかな動きで長鱗虫の攻撃をうまく避けているが、これが続けばどうなるか。

 危険な状況にも関わらず、撤退するか、ロンドは判断を迷っていた。
 彼の視線の先には、不安定な姿勢で飛ぶ黒竜のステラの姿がある。

 もし、彼女が戻って来なかったら……

 どんなに強くても、経験があっても、人は運が悪ければ簡単に死ぬ。強いと思っていたロンドの父親と兄が、呆気なくいなくなったように。

 このチームのリーダーはロンドだ。
 ルークもスルトも、チームメイトを乗せて飛ぶカケルも、黙ってロンドの判断を待っている。
 迷っている間に、3つの頭を持つ怪物の首が黒竜を叩き落とした。怪物の首は大木を数本纏めたように太く、そのあぎとは竜を飲み込めそうな程に大きい。
 落下する黒竜を喰らおうと、怪物は首を回して待ち構えている。

 駄目だ。見ていられない。
 彼女を放って撤退などできない。
 僕は彼女を助けたいんだ。いったいどうしたら…

「…先生っ!!」


 くるぅぅおおおおおん--


 蒼い竜がエコーを帯びた不思議な音色で咆哮する。
 魔力の強い竜は、搭乗する呪術師の意思や感情と同調し、奇跡を起こす。
 竜の魔法が発動しようとしていた。

 ステラを助けたいというロンドの強い意思に反応して、蒼い竜の周囲に魔力を帯びた激しい風を巻き起こる。それは一瞬で竜巻のような風の渦になって、落下する黒竜を包み込んだ。

 風の壁は一時的に怪物の首を押しのける。
 黒竜は風に押されて浮上する。
 渦の底でステラは危機を脱して体勢を立て直した。

 窮地を逆転し、奇跡を起こす竜の魔法。
 それは発動すれば起死回生のチャンスとなるが、発動には幾多の条件があり、発動後も効果が強力なだけに持続時間が短い。

「カケル…」
『この魔法は長く続かないよ、ロンド兄』
「十分だ!ステラ先生っ」

 傷付いた翼で羽ばたきながら、ステラが渦の中を上昇してくる。

『ありがとう。助かったわ』

 二頭の竜は風の渦の中を翔け昇る。
 虫達の攻撃の届かないどこまでも高い空の上まで--。



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