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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.05 エスケープ!だけど、いつもの枕じゃないと眠れない

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05 そう簡単に捨てられる筈がない

 カケルは寝癖が付いた頭はそのままに、内心ぐるぐる考えこんでいた。
 どうしよう。なんでイヴがここに。
 同じチームでパートナーを組んでいる彼女を放って実習に来たという自覚はある。いくらカケルが阿呆で常識に疎くても、自分が非常にまずいことをしているということは分かっているのだ。

 思い詰めた表情のイヴと、無言のまま基地の隅の人気のない場所に移動する。
 辺りに誰もいないことを確認すると、彼女は静かに口火を切った。

「…本気で、ロンド先輩と契約するつもり?」

 真っすぐにこちらを見る彼女の空色の瞳は、カケルの胸に突き刺さるような痛みを与えた。しかしカケルはそれを表には出さないように気をつけて、努めて軽く言った。

「どうかなー。考え中」
「馬鹿にしてるの?この前はお姉さんと契約したいって言って、今度はお兄さん?」
「優しく撫で撫でしてくれるお兄さんもいいかなー、なんちゃって…」
「ふざけないで!」

 イヴは感情的に叫んだ。
 激情に駆られている彼女の目元に、滲む涙の欠片を見つけてカケルは堪らなくなった。本当は君をこんな風に傷付けたくない。でも何故だろう、口に出して言ったのは自分でもおかしいくらい冷酷な言葉だった。

「別にふざけてないよ。前にも言ったとおり、君とは契約するつもりはないから。俺が誰と契約しようが、君には関係ないだろう」
「っ、私達のチームはどうするつもりなのよ!?普通は契約したもの同士でチームを組むのよ」
「どうするも、こうするも、解散するんじゃない?だいたい最初はイヴも俺達のチーム編成には乗り気じゃなかったじゃないか。ちょうどいいだろう」

 信じられないと言った目でカケルを見つめるイヴ。
 彼女の声音は僅かに震えていた。

「貴方が作ったチームじゃないの…」
「……」
「貴方が私達の仲を取り持って、私達を前に進めてくれていた。私も、ソレルも、リリーナも、もう気付いてるのよ…。どうして、本当のことは何も言ってくれないの?」

 張りぼてチームは、いつの間にか居心地が良いチームになっていた。喫茶店葡萄に集まって、じゃれあったり、一緒にバイトをしたり。
 とても楽しかった。
 イヴの言うとおり、チームを作ったのはカケルだ。
 だからチームを壊すのもまた、カケル自身なのだろう。

「本当のこと?何言ってるの。イヴもさあ、せっかくこの実習に来たんだから、自分の騎竜を見つけたら?俺なんかに構ってないでさ」

 へらへら言ったカケルに、イヴはつかつかと歩み寄って手を上げた。

「馬鹿っ!!」

 強烈な平手打ち。
 カケルは避けなかった。
 彼女は唇を引き結ぶと、滲む涙も拭わずにきびすを返した。

 去っていく彼女の後ろ姿を見ながら、カケルは、終わったなと思っていた。

 俺って最低な奴だ。

 女たらしで有名なデュオよりも、自分の方が性が悪いかもしれない。あいつはイヴをこんな風に傷付けないだろう。
 でもこれでいい。
 俺と深く関わると絶対苦労することになる。取り返しが付かないことになる前に、こうするべきなんだ。

「顔を洗って寝よ…」

 カケルは赤くなった頬に手をやった。
 最低な俺には傷付く資格すらないよな。








 熱くなった頭と、ぐちゃぐちゃになった感情を持て余しながら、イヴは宿舎の中をずんずん歩いていた。
 暗雲を背負って行進するイヴに、すれ違った学生達がぎょっとして飛び退く。

「また……」

 また逃げられた。まともに話ができなかった。
 イヴは敗北感と悔しさでいっぱいだった。

 先ほどの話し合いで、カケルが本気で言っている訳ではないことはイヴも何となく気付いていた。
 同じチームで過ごした日々、一緒に飛んで戦ったとき、カケルは決して嫌がっていなかった。同じ楽しい時間を確かに共有していたのだ。
 それをあんなにあっさりと…捨てられる筈はない。

 しかし現実にはカケルは自分の責任を放棄する発言をした。
 そうさせたのはイヴだ。
 追い詰めれば彼は逃げると分かっていながら、我慢ができなかった。

 本当はどう思っているか。
 何故自分を避けるのか、知りたかった。

「もう、これで終わりなの?終わらせるつもりなの、カケル……?」







 午後のステラの座学に出たのは、ロンドとルークだけだった。
 スルトは例によってサボりで何処かをうろついている。
 これはいつものことなので、ロンド達は気にしていない。

 問題はカケルの方だ。
 イヴ・アラクサラと話し合うため出て行ってから姿を見ていない。ここまでの実習は真面目に参加していたので、ロンドは気になった。
 座学が終わった後、隅の方で暗い顔をして座っていたイヴに気付き、ロンドは近寄って声を掛ける。

「どうだった?」
「逃げられました……」

 それだけでお互いに話が通じた。
 滅多にない虚ろな様子をしたイヴに、ロンドは同情する。
 あいつは最悪に馬鹿だな。
 女の子をこんな風に傷付けて逃げるなんて。

「カケルの奴は……」

 ロンドは迷いながら口を開いた。

「5年程前に、エファランに一人で来たんだ。家出してきたらしい」
「家出?」

 イヴは顔を上げてロンドを見返した。

「そう、家出。訳は僕もよく知らない。でも、もう戻れないんだと言って、あいつは僕に家事や洗濯の仕方、一人で生きていくにはどうしたら良いか、聞いてきた」


 --叔父さんは料理とかできないみたい。
   俺が料理できたら、居候しても負担にならないよね?
   ロンド兄、俺に炊事洗濯を教えてよ。


 まだ小さかったカケルの真剣な眼差しを、ロンドはよく憶えている。その一生懸命さにほだされて、カケルを弟のように可愛がって面倒を見るようになったのだ。

「いつも阿呆な事言ってるあいつからは、想像できないだろう?」
「ええ……」

 ふわふわ笑っているカケルの顔を思い出して、イヴは戸惑いながら頷いた。

「あいつは実は意外と真面目なんだ。そのあいつが逃げるのは、自分の手に負えないと判断した時だ。
 僕の勝手な推測だけど、アラクサラ、カケルは君の事を真面目に考えているからこそ、君とうまくやっていく自信が無くて逃げているのだと思う」

 チーム結成前の、カケルの事を知る前なら、ロンドの言葉の意味が分からなかっただろう。
 しかし、この半年でカケルの事をいくらか知ったイヴは、ロンドの説明に納得した。

 ああ、そうだったのか。

 時折カケルが見せる真剣さと、普段のふわふわした笑顔が、イヴの中でかちりと噛み合う。
 真面目過ぎて、突き抜けちゃってるのね…
 本当に馬鹿。

「アラクサラ、君にも聞きたい。君はカケルと契約するつもりなのか?」
「……」

 その馬鹿を追いかけて、ここまで来てしまった。
 いつの間に、好きになっていたのだろう。
 そう、欠片でも好意を抱いていなければ、実習まで追って来なかった。そして、あの馬鹿に手酷く振られたのに、諦めきれていない自分がいる。

「私は…カケルをパートナーにしたいと思っています」

 酷い言葉も、おかしな行動も、不思議と赦せる気がする。
 貴方が笑って傍にいてくれるなら。



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