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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.05 エスケープ!だけど、いつもの枕じゃないと眠れない

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02 竜についての考察

 連れて来た竜が、ストレスでハイテンションになっているようだと同級生に愚痴ると、笑われた。

「ははっ!何それ」
「笑い事じゃない。夜は夜で枕を抱えて愚図りだすし、子供の面倒を見る保父さん気分だ」

 同級生のヘンドリックは、ロンドの愚痴に爆笑した。
 彼は既にパートナーを決めた竜騎士志望の空戦科4年生だ。背の高いロンドと同じくらいの背丈だが、ヘンドリックの方が横幅が広くがっしりとした身体付きをしている。わし鼻の上の緑の瞳は明るく茶目っ気を帯びて光っている。真面目なロンドとは対照的に、彼は楽天的な性格をしていた。

「竜って、基本、阿呆だよなー!純粋って言うかさー」
「そうなのか?」

 家族は獣人ばっかりだったので、竜の生態についてはそんなに詳しくない。首を傾げるロンドに、友人は説明してくれる。

「竜になる奴ってさ、空を飛びたい!とか、そういう頭の軽い事考えてなる奴が多いんだよ。だから、明るくて純粋で夢見がちな性格が多い」
「ほう」

 言われてみると、そうかもしれないとロンドは頷く。
 ロンド自身は種族の選択の時は、自分は血の気の多い獣人には向いてないし、竜になりたいとも思わない、ということで、あっさり人間を選択した。
 竜になる目的と言ったら、ヘンドリックの言う通り空を飛ぶことだろう。獣人もたまに翼がある者もいるが、8割がた猫系に変身する者ばかりだ。

「俺のとこも、我が儘だぜ。竜の姿の時は特にな。俺たまに、動物飼ってる気分になる」
「それは…」
「竜ってさ、でっかい猫だよな。つんとしてると思ったら、ごろごろ擦り寄ってきたり」

 猫を飼った事のないロンドには、その例えはよく分からない。ただ、そう宣うヘンドリックの鼻の下が伸びていたので、殴りたくなった。
 彼のパートナーは可愛い女の子の竜だ。

「契約相手が異性なら、結婚前提、か…」
「同性でも行くとこまで行っちまう奴はいるけど、少数派だな。大抵は同性なら、熱い友情か家族の愛情だよ」

 もしカケルと契約するとなれば、行き着く先は家族の愛情の方だろうか。ロンドにとってカケルは、友達ではなく、血の繋がっていない弟のようなものだ。
 カケルは優秀な竜だし、ロンドとカケルは協力して戦えるだろう。気心も知れているし、何の問題もない。
 そう思っても、カケルを騎竜にしている自分を想像すると、現実味が薄い。どこか実感が湧かず、しっくりこない。

 カケルの方はどうなのだろう。
 あいつは本気で、イヴ・アラクサラを諦めて自分と契約するつもりなのだろうか。







 実習は、エファラン西部にあるアクレスという街の北の、奇岩平原と呼ばれる場所で行われた。
 開拓中の場所なので人は住んでおらず、殺伐とした平原に虫食いのように穴が空いた岩が点々と転がっている。

 実習の最初の数日は訓練にあてられた。
 この実習はカケルのような3年生や、一般の応募者も参加する。指導する側にとっては参加者の能力が分からないので、まずは各人の能力を把握して、戦いにほうり込んで大丈夫か確認する必要がある。
 そのために飛行訓練をしたり、実地講義をしていた。

 空戦科教師のステラは、実習生相手に淡々と講義する。

「…まず大前提ですが、呪術師に攻撃タイプとそれ以外の補助や防御に秀でたタイプがいるように、竜にも戦い方のタイプがあります」

 ロンド達の目の前には、巨岩に貼付けた黒板代わりのボードがあった。ステラはその前で説明を続ける。

「例えば火の属性の竜は、これは間違いなく攻撃タイプでしょう。火竜のブレスは中近距離で有効です。
 問題は騎乗する呪術師との相性です。
 攻撃タイプの竜と攻撃タイプの呪術師の組み合わせは、防御に決定的な弱点を抱えることになります。
 可能であれば、竜と竜騎士は別のタイプが望ましいです。その方が戦い方の幅が広がります」

 これは空戦科の授業で教わる話なのだが、3年生のカケルは初めて聞く話だろう。横目で見ると、興味津々といった感じで聞いている。座学は寝て過ごすカケルにしては珍しい。

「はいはーい、じゃあ俺は睡眠タイプ…」
「カケル・サーフェス。貴方は風竜なので、防御もしくは補助のタイプに属する竜です」

 手を挙げて何を言い出すかと思ったら、カケルはどうでも良い冗談を飛ばした。しかし、ステラは眉ひとつ動かさず、カケルの台詞を途中で遮る。
 カケルは頬を膨らませて不満そうだ。

「先生、竜は属性的に火竜が多いんですよね?」

 別の生徒が手を挙げて質問する。

「そうです。竜の半分は火属性、次いで多いのは水属性です。地竜と風竜は数が少なく、地竜はそもそも戦いに向いていない者がほとんどです。
 火と水は攻撃に有利な属性で、地と風は防御や補助に向いた属性です」

 竜のほとんどは攻撃タイプだ。その竜に乗る呪術師は、防御や補助寄りのタイプが多いのだから、世の中はうまいことバランスが取れている。
 隣のカケルが声を潜めて聞いてくる。

「そういやロンド兄って…」
「僕は基本的には、補助タイプだ。攻撃系の呪術も苦手じゃないけどな」

 つまり、カケルとは相性が良くない。
 戦いでは守ってばかりでは勝てないので、どうやっても攻撃する必要が出てくるのだが、カケルとロンドでは両方とも強い攻撃力を持っていないのだ。

「イヴ・アラクサラは攻撃タイプの呪術師だったな…」

 そう言うと、カケルは明後日を向いて聞こえなかったふりをした。アラクサラと喧嘩でもしたのだろうか。

 ロンドから見ると、カケルとイヴは竜と竜騎士として能力的にバランスのとれた組み合わせで、性格的にも合っている。ふわふわしているようでいて、カケルも結構負けず嫌いで好戦的なので、強気なイヴと実は気が合うのだ。

「ごほん」

 こそこそ話をしていると、咳ばらいの声がした。
 ステラが半眼でロンド達を睨んでいる。

「ロンド・イーニーク、カケル・サーフェス。この講義が終わったら私の所へ来なさい」
「はーい」
「すいません…」

 授業中の私語を咎められたのかと思って、ロンドは謝罪した。カケルは全く反省していない様子で生返事をする。

「竜と竜騎士にも能力に相性があることは分かりましたね?それでは、戦闘における結界の重要性、撤退の判断の仕方について……」

 ステラの講義は続いた。
 2時間程の座学の講義が終わった後、ロンドはカケルの首根っこを捕まえて、ステラの元に出頭した。

「先ほどは授業中に話をしてしまって、申し訳ありませんでした。以降、慎みます…」
「?…イーニーク、私は別に注意するために呼んだ訳ではありませんが」
「え」
「ロンド兄の早とちり。先生別に怒ってる感じじゃなかったから、違うと思ってたんだよー」

 後ろからカケルが他人事のように言う。
 気付いてたら言ってくれれば…しかしカケルに忠告されても信じなかっただろう。自業自得とはいえ、少しばかりカケルに腹が立つ。
 気を取り直すために眼鏡をくいっと持ち上げ直す。

「…では、僕達を呼び出したのは?」

 注意でないなら、何のために呼び出されたのだろう。

「明日、私を始めとした少数で部隊を組んで、現場の様子を空から偵察しに行きます。貴方達も同行しますか?」
「偵察?そんなところに素人の僕達が同行していいんですか」

 ロンドは驚いて聞き返した。

 虫駆除の作戦において一番重要なのは、現地調査だ。
 考えてもみて欲しい。いくら竜は圧倒的に虫に強いと言っても、虫の大群に囲まれればさすがに命の危険がある。まして今回は戦いに慣れていない実習生だ。予想外の事態が起きれば、命を落としかねない。

 従って虫の種類や数、生息している場所を把握して綿密な計画を立てる必要があるのだが、それはベテランの竜や竜騎士の教師や、実習に協力しているエファラン国軍の竜騎士の仕事になる。
 間違ってもまだ仕事が分かっていない実習生に任せたりしない。

「普通は実習生を偵察に参加させることはありませんが、貴方達は特別に許可します」
「…それって、俺が風竜だからですか」

 後ろからカケルがどこか不満そうな様子で言う。
 ステラは淡々と肯定した。

「そうです」
「……」
「風竜は属性的に偵察に適した竜です。軍に入れば、偵察を任される機会は多いでしょう。今のうちに経験を積んでおいて損はありません。…風竜が偵察に適している理由は分かりますね?」
「全ての属性の竜の中で最速で空を飛ぶ風竜は、敵地に素早く忍び込み、相手に捕まらずに離脱することが可能だから、ですか」

 嫌そうな顔をして黙ってしまったカケルに代わって、ロンドはするすると答えた。

「その通りです」

 頷くステラ。
 往生際悪くカケルは後ろで文句を言い出した。

「やだよー。軍に入るってまだ決まった訳じゃないのに、そんな面倒臭い練習したくないよー」
「カケル…お前、何しに演習に来たんだ。あんまり馬鹿な事を言ってると僕も怒るぞ」
「そんなこと言ってもさー」

 ぶうぶう不平を漏らすカケルを窘めていると、ステラは無表情に言った。

「別に参加は強要ではありません。お好きになさい。
 …鍛練が足りずに戦場で大切な人を失ったとしても、それは貴方自身の責任です」

 冷たい声音にロンドはひやりとした。
 彼女の事情を知っているロンドには、その台詞がどれだけ重い感情を持ったものか推測できた。カケルも教師の厳しい言葉に何かを感じたのか、ばつが悪そうに黙り込む。

「参加させてください。お願いします」

 ロンドは真摯な態度で頭を下げて頼んだ。後ろ手にカケルも引っ張って頭を下げさせる。
 生徒の答えを聞いたステラは頷いた。

「…それでは明日の朝4時ちょうどに、この場所に来てください。」

 

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