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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.05 エスケープ!だけど、いつもの枕じゃないと眠れない

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01 ステラとの出会い

 父と兄の葬儀は降りしきる雨の中で行われた。



「せいせいするわ」

 母はそう言って何度もハンカチで目元を拭った。
 彼女は荒々しく吐き捨てる。

「年に数回しか帰ってこないし、いつもいないんだから、今更いなくなったって一緒よ!」

 ロンドの父と兄はエファランの陸軍所属の獣人だった。王都の勤務ではなく、遠方で虫駆除などの任務にあたることが多く、滅多に家に帰ってこなかった。

 そして、そのまま帰らぬ人になってしまった。

 気の強い母は、帰ってこなかった父と兄を怒り、なじる。親戚の人や祖父母はそんな母の人柄を分かっていたので、黙って慰めていた。
 父も母も気が強い。兄も活発な性格だった。
 そんな家族の中で唯一、ロンドは大人しい性格だ。だからなのか、ロンドは家族を失った悲しみをどう表現していいか分からなかった。不思議なもので、母がヒートアップするほど冷静になってしまうのだ。

 王都の近くにある墓地は土葬で、細かい雨に打たれながら、業者が掘った穴に柩を埋めた。
 辺りは霧雨で白くこごっている。
 悲しみに沈む母や親戚の人々から一歩引いて、ロンドは冷静に周囲を見回した。
 そして少し離れた場所で、墓に花を供えている女性を発見する。

 それは菫の花のような印象を受ける女性だった。
 14歳のロンドよりずっと年上のようだが、背が低いので若い学生のように見える。傘の隙間から見える手足は細く、短い黒髪の間から白いうなじが覗いていた。

 何となく気になっていて見つめていると、その若い女性に別の年配の女性が近寄って声をかける。

「また来てたの?もう来ないでって言ったでしょ」

 その辛辣な言葉にロンドはびっくりした。
 年配の女性は険悪な調子で続ける。

「そんな何度も謝ったって、あの子は帰ってこないのよ!あんたさえいなければ、あの子はいなくならなかったのに!」
「……すいません」
「帰って!もう二度と来ないで!」

 一方的な糾弾に言い返すことなく、若い女性はうなだれて歩き出した。
 今の話はどういう経緯だったのだろう。
 遠ざかっていく女性の背中を眺めながら考えこんでいると、母の声がした。

「可哀相ね」

 いつの間にか母は涙を拭いて平静な顔になって、ロンドの視線の先を追っていた。

「片翼になればつらいのは当人でしょうに。一途で純粋な分、竜の方が痛いと思うわ」

 母の言葉は謎かけのようだった。
 状況からすると、責められていた女性を擁護しているようだ。
 この時のロンドにはその意味がよく分からなかった。





 それから3年後、学校の授業でロンドは、空戦科教師のステラ・ノクターンと再会した。
 そして、あの時の母の言葉の意味を知る。




 片翼とは、竜と竜騎士のペアの内、片方がいなくなってしまって、取り残された方を指す。
 彼女は自分の竜騎士を失ってしまった竜なのだ。
 だから若いのに前線に立つ仕事ができず、学校の教師をしている。

 学校での彼女は、薄い紫の瞳に硬質な光を宿していて、周囲との間に透明な壁を作っているようだった。

 出会った場所が場所だったし、一方的にロンドが知っているだけなので、積極的に話しかけに行ってはいない。
 ただ何となく彼女の事が気になっていた。

 4年生からの選択で空戦科を選んだのは、父や兄が死んだ場所を見てみたいという理由からだったが、彼女の事が頭に無かったと言えば嘘になる。





 5年ほど経った現在。
 ロンドは空戦科の4年生として、虫駆除の実習に来ている。

 視線の先には、先を飛ぶ黒い竜の姿があった。
 黒い竜はステラだ。
 彼女は数少ない雷の属性を持つ竜だ。竜になっても彼女の美しさは損なわれず、手足や尾はすんなりと細く、翼は柔らかい曲線を描いていた。頭部から伸びる二本の角は、上品な金色をしている。優雅な手足から伸びる鋭い爪も金色。
 ステラは夜空と星を体現したような竜だ。

『なーに見とれてんの?』
「カケル」
『昼寝するなって言ったの、ロンド兄でしょ。俺、寝ないで頑張ってるのにー』

 ぶうぶうと不平を漏らす念話が脳裏に響く。
 ロンドは我に返って苦笑した。

「そうだったな」

 滑らかで冷たい蒼い鱗を「偉い偉い」と軽く撫でてやる。
 今ロンドが乗っている蒼い竜は、近所に住んでいる弟分のカケルだ。あの父の葬儀のちょうど後くらいに、彼は近所に越してきた。
 ロンドの家は父と兄が死んで、ロンドと母の二人だけとなっていた。そこに、近所に住む独身の呪術師の男性が、子育てってどうすればいいの!?と困って駆け込んで来た。急に親戚の男の子を引き取って育てる事になったらしい。
 それがカケルだった。
 お互い年齢の近い子供を抱えていて、パートナーや頼れる人がいない事から、二つの家族は急接近した。

『うわあ、褒めらて撫でられると眠くなるー』
「どういう体質なんだ、お前は」

 冗談なのか本気なのか、今一つ分からない。
 しかし、惚けた回答に反して竜の飛ぶ速度は落ちない。
 教師として先導して飛んでいるステラの後ろにぴったり張り付いている。他の竜達は脱落したり、後ろの方を飛んでいる事を考えると、よく頑張っている。

 ステラが急速ターンしたり急速上昇したりしても、カケルは落ち着いて姿勢を崩さずに追尾していた。
 上に乗っているロンドは順調過ぎて脇見する余裕があるくらいだ。

 さすが風竜。

 飛ぶことにかけては他の竜の追随を許さない。

『羊が一匹、羊が二匹……羊が……ふふ、これが終わったら終わったら暫く寝て過ごすんだ!開発中の抱き枕のイルカさんと寝るんだ!』
「カケルお前……」

 残念過ぎる。
 この睡眠にかける異常な情熱が無ければ、普通に優秀な竜なのに。

『イルカさん、待っててねー!』
「……」

 もはや突っ込み所さえ見つからず、ロンドは沈黙する。
 昔からカケルには、変にテンションが上がって妙な事を言い出す時があった。実はそういう時は、何か彼にとって腹の立つ事や、悲しい事があったときなのだとロンドは知っている。
 自分から実習に行きたいと言い出す時点でおかしいとは思ったが……今度は何に落ち込んでいる事やら。

 まだ実習が始まって数日なのに、このテンションは痛い。
 どこかでカケルに息抜きさせてやった方がいいだろうか。



カケル「羊が98匹、99匹、100匹…101匹!…ロンド兄、101匹ワンちゃんだよ!」
ロンド「羊を数えていたのに、何故途中で犬に…カケル、とうとう寝不足で頭がおかしくなったのか…?」
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