挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.04 何だか積極的になってきた君に困る俺

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

42/160

08 逃亡するカケル

 1年が終わり年が明けて、新年が始まった日、ロンドは自分の家のソファで本を読みながらぼうっとしていた。
 特に外出の予定はない。
 新年の初めに親戚の家に挨拶回りする習慣は一般的ではなく、エファランの庶民は普通、冬の祝祭の後は休み明けまで家族でゆったり過ごしている。
 神社や寺院に参ったりもしない。この世界は神様が本当にいて、神様は年明けに賽銭を要求したりしないものだから、参る必要もない。
 そのような訳で自宅でのんびりしていたロンドだが、その平穏は唐突にカケルの来襲によって破られた。

「ロンド兄~!」
「何だ?!」

 ご近所さんなので顔パスで家に上がり込んできたカケルは、ロンドの読んでいた本を無造作に押しのけて、脇にぽいと放り投げた。

「なあ、一生のお願い!」
「何をだ?」
「明後日くらいから、空戦科の4年生は虫駆除の実習行くんだろ。俺も連れてってよ」
「カケル、いきなりどうしたんだ。実習に行ったら昼寝は出来ないぞ」

 昼寝をしたいと言って憚らない普段のカケルからは想像できない台詞に、ロンドは驚いて聞き返した。

「俺をロンド兄の騎竜にしてほしいんだよ。だけど相性とかあるだろうから、実習に連れていって判断して欲しいんだ」
「……本気か?」

 いつになく真剣なカケルの様子に、ロンドは難しい顔になった。
 年明け早々にある空戦科の特別実習、それは俗に虫と呼ばれるモンスターを退治する危険な実習だ。実戦形式で、陸戦科の生徒とも途中で合流して、チームで任務にあたったりもする。
 基本は4年生以上の生徒で、戦務騎竜の資格を取りたい竜や希望者がこの実習を受ける。3年生以下や一般の者でも、必要最低限の能力を持っていれば希望者は実習に参加できる。

「ゆっくり決めなくて良いのか?」
「むしろ、今じゃなきゃ駄目なんだ!俺の理想の昼寝環境を整えるためには、今動かないといけない、そう気付いたんだ!」
「そ、そうか」

 拳を握りしめて熱く叫ぶカケルに、少し引きながらロンドは頷いた。やる気が出てきたなら結構な話だ。

「分かった」

 ずり落ちた眼鏡を上に持ち上げながら、ロンドは承諾した。
 どの道ロンドもそろそろ騎竜を決めなければいけない。
 近所で気心の知れているカケルと組むのも、選択肢としてはありかもしれない。

「実習中は昼寝はしないでくれ。命に関わる」
「はーい。でも、夜は寝て良いんだよね。ふかふか枕、荷物に入るかなー?」

 危険な実習に行くというのに、命の心配ではなく枕の心配をし出すカケルに、ロンドは大丈夫かと不安になって少し後悔をした。






 それから2日後。
 ロンドとカケルは荷物を纏めて実習に参加するために旅立った。






 学校の授業が開始される前、まだ冬休み中にイヴとリリーナは寮に戻った。それは新年が始まって一週間くらい経った頃だった。
 夏寮はしんと静まり返っている。
 まだ半数の生徒が実家でのんびりしているからだ。

「家にいるとお父さんが煩いのよ…」
「そうなんだ」

 人の少ない食堂でイヴとリリーナは寛いでいた。
 二人で冬休み中、何をしていたか情報交換していると、食堂の扉が開いて、オルタナが入ってきた。
 イヴは彼に声を掛ける。

「あら、貴方ひとりなの?珍しいじゃない」
「別に四六時中あいつと一緒にいる訳じゃねえよ」

 声を掛けられて、オルタナは不機嫌そうにしながらも立ち止まる。

「そう?貴方達ふたりでワンセットみたいだったけど」
「気色悪いこと言うな。鳥肌が立つ」

 暗にいつもカケルと一緒にいると指摘すると、オルタナは嫌そうにした。
 貴方達、友達なんじゃないの。男子の友情は、女子のイヴには分からない。イヴならリリーナとワンセットと言われたら、羨ましいかと冗談混じりに自慢するだろう。

「それで、カケルはまだ寮に戻ってないの?」
「…知らないのか」

 何故かオルタナは微妙な表情をした。
 イヴはその態度を不思議に思う。

「何よ?どういう意味?」
「いや…別に」

 オルタナは言葉を濁すと、すたすたと食堂の奥に歩いて行ってしまった。
 曖昧な返事を残して去ってしまったオルタナに、イヴは疑問符を浮かべる。そこに、食堂に来ていた寮長のセファンから声が掛かった。

「アラクサラ、ちょっといいか」
「はい」

 手招きされて、他の生徒達から離れた食堂の隅の席に移動する。
 寮長のセファンは空戦科の5年生の竜だ。空のマクセランと名高い竜騎士の家系の少女イリアと組んで、学内の戦務騎竜ランキングの上位にランクインしている。
 オレンジ色の髪をした彼は、普段はその明るい色の髪と同様に気さくな言動で明るく、同級生を笑わせることに全力を注いでいる。しかし、今は笑顔を消して真剣な表情をしていた。

「お前、知ってるか?サーフェスがロンド・イーニークと一緒に4年生以上の特別実習に行ってること」
「!…今、知りました」

 特別実習のことは、イヴも空戦科志望なのである程度は知っている。確か、年明け早々から一ヶ月くらい現地に行ってモンスターと戦う危険な実習だ。新年の学校の授業を一週間ほど欠席することになるが、それは仕方がないということで成績面では出席扱いになる。
 あの昼寝優先のカケルが、いったいどうしてそんな実習に行く事になったのだろう。

「ロンド・イーニークの騎竜としての参加だ。あの実習はパートナー選びの側面もある。もしかすると、イーニークとそのまま組んじまうかもな」
「え…で、でも私と同じチームですし、それは…」
「チームの編成は別に固定じゃない。そういう可能性もあるってだけだ」

 このまま同じチームで、カケルと組んで戦うつもりだったイヴはセファンの言葉に戸惑った。
 柳眉を寄せて混乱しているイヴを眺め、彼は嘆息する。

「はぁー、どうしたもんかな。お前ら、傍で見てると仲良いのか悪いのかさっぱり分からんし、俺がどこまで首を突っ込んでいいもんか…」
「仲は…悪くないと思います」
「お前を放って、勝手に実習に行っちまったのに?」
「……」

 セファンの指摘が鋭く胸に刺さる。
 カケルはイヴと契約するつもりはないと宣言していた。あれから、肝心なことは何ひとつ話せていない。表面上で仲良くしているだけで、大事なことを話せるような関係には至っていなかった。
 返す言葉もなく沈黙するイヴに、セファンは少し躊躇いながら言う。

「これは言わないつもりだったんだが……あの入寮歓迎会の後、デュオの奴からお前を助けたのは、俺じゃなくてカケルだ」
「え……?」

 思わぬ種明かしにイヴは呆然とした。
 寮長のセファンが助けてくれたと聞いて、彼女は何の疑問も持たずそれを鵜呑みにしていたのだ。

「何故、カケルじゃなくて、寮長だと…」
「本人に頼まれたんだよ。言わないでくれって」
「どうして…」
「俺も知らん」

 どうして自分が助けたと言わなかったのか。
 どうして試験で手を抜くのか。
 どうして…私から逃げるの?

 冬祭の夕方、雪について話していたカケルと確かに心が通じたような気がしたのだ。彼は自分を嫌ってはいない。それは確信に変わっていた。
 しかし近付いたと思ったら、彼はするりと逃げていく。
 事情があるのかもしれないが、カケルは突飛な行動が多すぎて、その事情を推察するのは困難だ。

 ここまで訳の分からない、読めない相手と付き合うのは彼女にとって初めての経験だった。
 真面目に話そうとしても中々捕まらないし、捕まえたと思えば例のふわふわした笑顔でうまくかわされてしまう。強引に迫れば嫌がって遠ざかる。

 思考の迷路に迷い込んだイヴを余所にセファンは話を続ける。

「サーフェスの奴は、わざとお前を放って実習に行ったんだろう。奴はお前を遠ざけようとしている、何故かは知らんけどな。
 正直お前らの関係は分からん。お前が、チームメイトのことはどうでも良いって言うんなら放っておくつもりだったが…。仲良くしたいと思ってるなら、何も知らないのは不公平だと思ってな」
「……」
「俺は応援で、実習に途中から参加する予定だ。イリアと一緒に参加する予定だったが、あいつは用事があるらしい…」

 物思いに沈んでいたイヴは、最後の台詞に顔を上げた。
 見返すとセファンは悪戯っぽく口の端を吊り上げて笑う。

「どうする?一緒にくるか?」

 イヴの答えは――










 Act.04 何だか積極的になってきた君に困る俺 完

 Act.05 エスケープ!だけど、いつもの枕じゃないと眠れない へ続く



第三章、第四章とあまーい恋愛話でしたが、次は学校の外で空戦バトルなど戦闘シーンが入り、やや切ない話になります。
お楽しみに。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ