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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.04 何だか積極的になってきた君に困る俺

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07 プレゼント交換

 冬祭当日もオルタナは喫茶店葡萄でバイトに勤しんでいた。
 夕方近くになって、そろそろ店じまいという時刻になって、人がいない店内に来客を知らせるベルの音が鳴った。
 店の掃除を手伝っていたオルタナはその音に顔を上げる。
 そして、店に入ってきた客を見て顔をしかめた。

「お前…」

 扉を開けて入ってきたのは、冬用にダッフルコートを着込んだリリーナだった。服装は学生服ではなく私服で、萌黄色の髪に合わせて淡いベージュや茶色のナチュラルで柔らかな雰囲気に纏めている。
 彼女はオルタナを見つけて小さく微笑む。

「お邪魔だったかしら?」
「いや……座れよ」

 オルタナは客用に取り繕った態度ではなく、仏頂面になって、ぶっきらぼうに着席を勧めた。
 入ってきたリリーナは店内の適当なテーブルにつく。
 一拍遅れて、オルタナはサービスのお茶をテーブルの上に置いた。

「何だかすっかり店員さんだね」
「うるせえ」

 黒白の清潔感のある格好をして、業務用エプロンを身につけたオルタナは、目付きの悪さを除けば普通に店員に見える。
 感心したように言うリリーナの言葉を、オルタナは照れ隠しか半眼になって遮った。

「何の用だよ」
「冬祭だしプレゼントを渡そうと思って」
「俺に?」
「他に誰がいるのよ」

 戸惑うオルタナに、リリーナは小さな白い箱を差し出した。
 受け取って蓋を開けると、中にはシンプルな男性用の腕時計が入っていた。

「作戦行動とかで時間見るときに必要でしょ」
「ああ」

 ありがとうと素直に口に出せず、オルタナは渋面になった。
 カウンターにそっと箱を置いて「ちょっと待て」と言うと、カウンターの奥に入って紙袋を持ってくる。

「……お前にやる」
「え?もしかして準備してくれてたの」
「冬祭はプレゼント交換するもんだろ。いいから、とっとと持ってけよ」

 袋を受け取ったリリーナは軽く中を覗き込んだ。
 中には有名なブランドの保湿クリームの容器が入っていた。
 気の利いた贈り物にリリーナの目が丸くなる。
 明らかに女性向けのプレゼントだ。無骨なオルタナがこんな準備をしているとは思わなかった。いったいどうしたのだろう。

 …種明かしをすると、喫茶店葡萄の店主や奥さんに、同じチームの仲の良い女の子にプレゼントを渡さないのかとせっつかれ、奥さんから押し付けられた保湿クリームを念のため取っておいたのだった。
 リリーナが来なければ渡せていたか分からない。しかし、上手く交換出来たのだから野暮な事は言ってはいけない。結果オーライだ。

「ありがとう」

 リリーナが嬉しそうに笑う。
 気恥ずかしくなったオルタナは彼女から距離を取って無言で佇んだ。心地好い沈黙が数分続く。
 お茶を飲んで一息ついたリリーナは思い出したように呟いた。

「そういえば、イヴ達はどうしてるかな…」
「ああ…カケルの奴、ミスらずに配達出来てたら良いけどな」

 カケルとイヴが一緒にバイトしていることは当然知っている。
 今頃どうしているだろうと、二人は友人達を想った。







 さて、その頃、無事に配達を完了したイヴとカケルは、事務所に戻って報告してバイト代をそれぞれ貰い、帰路についていた。

「イヴ、ちょっと渡す物があるんだけど…」

 冬祭のプレゼントについて、アロールに煩く言われて気になったカケルは一応準備していた。
 遠慮がちに誘ってみる。

「そう。実は私も貴方に渡したいものがあるの。そこまで一緒に帰らない?」

 イヴは軽く了承して、二人は途中まで一緒に帰る事になった。
 寄り道して公園に入る。
 夕暮れに照らされた木陰で、カケルは鞄から、冬祭仕様の星や蔦が描かれたお菓子の箱を取り出した。

「これ、喫茶店葡萄の冬祭用チョコレート。もしまだだったら食べてみて」

 素直にプレゼントを渡すのはまだハードルが高かった。
 いつもチームメンバーが集まっている喫茶店のお菓子だと言って、カケルはイヴにプレゼントを手渡す。

「ありがとう」

 イヴは鞄を開けるとカケルのプレゼントを収納し、それと入れ替えるように自分も同じくらいのサイズの箱を取り出した。

「これは私から」
「開けてもいい?」
「どうぞ」

 了解を貰ってから、包装を開けて中身を取り出す。
 イヴからのプレゼントは、拳より少し小さいくらいの透明なガラスのオブジェだった。中に小さな煉瓦の家や森が入っていて、その上に雪に見立てた銀色の粉がはらはらと散っている。
 オブジェを動かすと中の銀色の粉が動きに合わせて舞い上がり、徐々に降り積もる。

「スノードームの玩具よ。エファランでは雪は降らないけど、綺麗だから私は好き。良かったら…」
「ありがとう。すっごく嬉しいよ」

 カケルは本当に嬉しそうに笑った。
 それはいつものふわふわごまかすような笑顔とはどこか違っていた。
 その笑顔を、イヴは新鮮な気持ちで見つめた。出会ってから、まともに向き合って話すのはこれが初めてかもしれない。

「俺の故郷では雪が降るんだよ」
「貴方の故郷?貴方、エファラン出身じゃなかったの」
「うん」

 数百年前ならいざ知らず、今のエファランに他国から越してくる者は少ない。同級生のほとんどはエファランで生まれ育っている。
 イヴは、自分がカケルの事をほとんど何も知らないことに今更のように気付いた。

「雪が降るってことは、高天原インバウンドよね。どこなの?」
「アオイデ。冬になると家が埋まるくらい雪が降るんだ」
「家が埋まる…そんなに降るものなの?」
「あ、疑ってるなー。本当だよ。嘘じゃないから」
「詳しく聞かせて」

 珍しく饒舌なカケルは、雪について熱く語り出した。
 見知らぬ異国の習慣や風景を、イヴは興味深く聞いた。
 それは初めて二人で共有した楽しい時間だった。
 話し込んでいる内に陽はすっかり落ち、辺りは暗くなっていた。

「イヴ!」

 突然呼ばれてイヴはびっくりして振り返る。
 見ると、公園の入口から初老の男性が足早に近付いてくるところだった。

「お父さん!」
「なかなか帰って来ないから迎えに来たよ」
「もう、良いって言ってるのに」

 イヴの父親が心配して迎えに来たようだ。
 白髪混じりの柔和な印象の男性は、娘を愛おしそうに目尻を下げて見つめ、隣に立っているカケルにちらりと鋭い一瞥を投げた。

「心配しなくてももう帰るところよ」
「そうかい。ああ、それと母さんから買い出しを頼まれたんだ」
「買い出し?何これ、帰るのと逆方向じゃない」

 男性は買い出しメモらしい紙をイヴに渡した。
 品目を確認してイヴが顔をしかめる。

「お父さんは此処で待ってて。私、そこですぐに買ってくるから」
「一緒に行くよ」
「やめて。お父さん途中で屁理屈こねだすから、買い物が遅くなるわ」

 イヴはついて行きたそうな父親を断ると、カケルに「ゴメンね、また後で」と言って小走りで公園を出て行った。
 中途半端な状態で残されたカケルは苦笑する。
 イヴの父親との間に気まずい空気が漂った。
 先に口を開いたのは、イヴの父親だった。

「カケル・サーフェス君だね」
「はい」

 アラクサラ家の当主で、国の重鎮でもある呪術師の鋭い視線で品定めされて、カケルは居心地悪く身じろぎした。

「念のために言っておくが、うちの娘とは契約しないで欲しい。その気は無いかもしれないが、同じチームを組んだと聞いて気になってね。七司書家の内輪の闘争に娘を巻き込まないで欲しいんだ」

 冷ややかに言われた言葉に、カケルは一瞬目を見開き、しかし次の瞬間には口の端に笑みを乗せた。
 いつも通りのふわふわした表情で淡々と言う。

「大丈夫です。イヴと契約するつもりはありませんから」
「……」
「それじゃ、俺はこの辺で失礼します。娘さんを長いこと引き留めちゃってすいませんでした」

 カケルはぺこりと頭を下げると、きびすを返して公園を歩き出す。背中にイヴの父親の視線を感じた。
 歩きながらカケルはあることを決心していた。
 彼は公園の逆側の出口へ向かった。
 買い物に行って戻ってくるイヴと会わないように。



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