挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.04 何だか積極的になってきた君に困る俺

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

40/160

06 バイト中にお邪魔虫が…

 エファランでは冬祭の日にプレゼント交換をする習慣がある。王都レグルスで一番大きい百貨店では、毎年プレゼントを購入した客に冬祭当日の配達を請け負っていた。
 カケルとイヴの応募したのはこの百貨店のバイトだった。

 プレゼントを配達するアルバイトは、冬祭の当日日中に実施される。
 冬祭当日、カケルとイヴは百貨店の前で待ち合わせて、一緒に事務所に入った。事務所には同じようにバイトに来た学生達が並んでいる。このバイトは竜と竜に乗る配達員のペアで応募できるので、竜騎士と騎竜を目指す学生に人気なのだ。

 説明を受けた後、配達員担当はサンタさんイメージの赤いコスチュームに着替える。
 控え室から出てきたイヴを見て、カケルは目を丸くした。
 女性用のサンタさんコスチュームは下がスカート状になっている。白い綿を丸くした飾りが胸元で二つ揺れていた。服の赤い色は、明るくてはっきりしたイヴの容姿に合っている。

「イヴ、かわ…」
「さすがアラクサラ君、とても可愛いよ」

 感想を口にしようとしたカケルを押しのけて、突然現れた背の高い赤銅色の髪の男子生徒がさらっとイヴを褒めた。

「…デュオ先輩」

 イヴは嫌そうな顔をする。
 彼は学校の同じ寮で5年生の先輩のデュオだ。平均以上の能力を持つ火属性の竜で、そこそこイケメンなのを鼻にかけ、あちこちの女子に言い寄っているらしい。最近は「自分の竜騎士になってほしい」とイヴにしつこく言い寄っている。

「同じバイトなんですか?」
「ああ。ここで君と一緒にバイトできるなんて奇遇だな。どうだい、俺と組んでみないか。君のためなら最速でレグルスの空を飛んであげるよ」
「結構です」

 性懲りもなく誘いをかけるデュオに、イヴはきっぱり断りの返事をする。こちらの意思を無視して強引にアプローチしてくるデュオに、イヴの中での彼に対する好意は日々下降していた。
 相対するデュオとイヴの背景で、途中で押しのけられたカケルがぽかんとしている。

「デュオ、アラクサラ君は嫌がってるよ。いい加減にしないか」

 後ろからサンタさんの格好をした男子生徒が割って入った。
 デュオと組んでいる竜騎士志望の5年生アステルだ。
 人の好さそうな下がり気味の眉に、力仕事が苦手そうな細い体格をしている。軍人を育てる空戦科を志望する男子は、そこそこ好戦的な性格が多いのだが、彼は例外のようだ。

「うるさいアステル、邪魔をするな」
「邪魔するよ。そろそろ準備をしないと…」
「俺はお前なんかゴメンだ。アラクサラと組む」
「やだなあ。君みたいな根性悪な竜と組むのは、僕くらいなもんだよ。ねえ、アラクサラ君?」

 気の弱そうなアステルが平然と笑いながら毒舌を吐いたので、イヴはびっくりして返事に迷った。
 そうですねって言っていいの?

「ぐぬぬ…」
「さあ、倉庫に行こう。僕らは毎年ここでバイトしてるから、新しく来た人に仕事を教えてるんだ」

 不満そうに唸るデュオを無視して、アステルは手招きして先に立って歩き出す。
 イヴは戸惑いながらアステルについて歩き出した。
 デュオとカケルも続く。
 向かった先は百貨店の裏にある業務倉庫だった。

「はい、これが地図と配達先リスト。上から順に配るといいよ」

 レグルスの市街地の地図と、20件程の顧客の住所が一覧に記載された紙を受けとる。地図は親切に配達先の住所に赤丸がついていた。

「どちらが先に全て配達できるか勝負しないか?」

 地図と住所を確認しているイヴに、デュオが話しかけてくる。どうせろくな勝負ではないだろうと思ったイヴはうんざりした。

「…意味が分かりません」
「その色だけ派手な風竜より、俺の方が良いと証明しよう」
「結構です」
「ふふ。君に勝利というプレゼントを届けよう!」

 聞いちゃいない。
 デュオは勝手に話を進める。

「配達が終わった時間を記録していてくれ。俺が勝ったら、プレゼントを渡させて欲しい」
「プレゼント…?」
「それくらいは許してくれるだろう」

 思いの外、真剣な顔をしてデュオが言ったので、イヴは戸惑った。後ろでカケルが顔をしかめているのに彼女は気付いていない。

「こいつ根性悪いけど、君への好意は本物だよ。許してやって。嫌だったら勝負に勝てばいいし」

 アステルがにこにこして相棒を擁護しているのか、けなしているのか分からない事を言う。

「俺達はこのバイトの経験があるから有利になってしまう。君達が先に行くといい。君達が出た後で俺達も出るよ」

 公平な勝負をしたいらしく、デュオ達はハンデをおうと言う。イヴは勝負をするかどうかはともかくとして、ここは先に行かせて貰おうと思った。

「じゃあお先に」

 イヴはカケルを供なって、倉庫前の荷物積み込み口に進んだ。竜の発着口を兼ねているので、かなり広いスペースが取られている。
 荷物を受け取って準備をする。
 竜の姿になってとカケルに頼もうとすると、何故か彼は微妙な表情をしていた。

「どうしたの?」
「まさか、本当に上から順に配るとか、考えてないよね」

 言われてイヴは地図と配達リストを比較した。

「近い順に書いてあるように見えるけど…」
「効率が良いとは限らないよ。だいたい上から順に配るルールじゃない」

 カケルがきっぱり断言したので、イヴは疑問に思った。

「何故そう思うの?」
「優先順位があるなら、何時までに配れって書いてあるでしょ」
「確かに…」

 配達リストは住所と顧客名と配達品目、備考欄で構成されていた。また、3件の住所の備考欄に小さな黒丸がついている。
 この黒丸は何を意味しているのだろう。
 今更デュオ達に聞きに戻るのも気恥ずかしい。
 配達順について悩んでいると、脇からカケルが手を差し出した。

「ペンを貸して」

 何をするのだろうと思いつつ、ペンを渡すと、カケルは地図にペンを走らせて、配達先住所の赤丸を一筆書きで線で結んだ。
 20箇所近くある赤丸を、迷う事なく途切れない線で結んだカケルに、イヴは驚く。
 実際やってみれば分かるが、複数ある点を重複させずに線で結ぶのはちょっとした頭の運動になる。カケルはこの短時間で、一回でやってしまったが、普通はもう少し迷って書き間違えるところだ。

「カケル、貴方…」

 実は頭が良いのではと思っていたが、思っていた以上らしい。何故普段の学校の試験ではやる気を出さないのだろう。

「備考に黒丸のある住所は一番最後にした方がいいよ」
「どうして?」
「うーん。何となく」

 曖昧な事を言って、カケルはふわふわ笑った。
 その様子にイヴは追求を諦める。
 うるさく言うと、カケルは離れていく気がする。

「分かったわ、これでいきましょう」

 イヴは頷いて立ち上がった。
 竜の発着口でカケルは竜に姿を変えて、荷物が載せやすいように屈み込む。
 二人はプレゼントを積み込むと、配達のために飛び立った。






 配達の仕事は順調に進んだ。
 プレゼントは受けとる人がいれば手渡しするし、配達先に誰もいなければポストに入れたりする。どうしても手渡ししなければいけない品物もあって、不在で後で届け直すものもあったが、それでも黒丸以外の配達はすんなり終わった。
 ここまでスムーズだったので、残り時間に余裕がある。
 あとは黒丸の配達だけだ。

 黒丸は3件。

 備考に黒丸が付いた1件目は、いきなり怒った男性に配達が遅いと怒鳴られた。
 イヴが真摯な態度で謝ると、今度はコロッと態度を変えて柔和になる。男性はサンタさんコスプレ中のイヴに鼻の下を伸ばして、あの手この手で引き留めようとした。
 あれこれ言い訳をして何とか男性を振り切る。

 黒丸2件目は玄関に犬がいた。
 吠えて威嚇する犬はイヴを通すまいと必死だ。
 カケルが後ろから首を伸ばして『ワンちゃんだ。ふふふ、可愛いなぁ』とのんびり覗き込むと、何故か犬は尻尾を巻いて大人しくなった。

 ここまで来ると黒丸が何を指しているか、イヴにも分かった。
 毎年配達で何らかのトラブルが勃発する家を、さりげなくマークしているのだろう。おそらく、本来は配達前に先輩のバイトが黒丸について教えてくれるルールなのかもしれない。
 教えなかったのは絶対わざとね。
 イヴはやっぱりデュオ達は信用ならないと改めて思った。



 黒丸3件目は年配の女性で、引き留められて世間話に付き合わされた。

「今年の冬は野菜の値段が高くてね~」
「そうですね…」

 玄関先で立ち話をしていると、デュオ達がやってきた。
 デュオの竜の姿は、赤銅色の鱗をした大型の竜だ。身体が大きいので道を塞いでしまっているが、運よく道を通る人が少ないので誰も文句を言わない。大きくて立派な体格の竜の上にちょこんと座りこむアステルは、サンタのコスプレをしていることもあって、何かのマスコットのようだ。

『まだこんなところにいるのかい?俺達はとっくに配り終えたよ』

 赤銅色の竜は自慢げに言う。
 イヴは配達先の女性に断って、デュオに向き直った。

「私達もとっくに配り終えましたよ」
『何?』
「…随分前に荷物を頂いたわよ~。早く終わったからおしゃべりに付き合って貰っていたの~」

 客の年配の女性が後ろから補足する。

『何時何分だ?』

 イヴは記録しておいた配達完了時間を告げる。
 配達完了時間は僅差でイヴ達の方が早く終わっていた。

『くそっ、何故だ?!リストの一番上から順に配らなかったのか』
「やっぱりわざとだったんですね…」

 イヴは呆れて嘆息した。
 赤銅色の竜の上でアステルが「ごめんよー」と全く悪気なさそうな顔で謝っている。
 勝負はイヴ達の勝ちになった。
 しかし、デュオは懲りずに違うことを言い出す。

『だが!やっぱりプレゼントくらいは受け取ってくれ!アステル…』
「はいはい」

 アステルは小さな箱を持って、竜の上から飛び降りてきた。
 箱は状況からすると、デュオからイヴへのプレゼントらしい。彼はその箱をイヴに差し出そうとした。

「これはデュオの奴から…」

 その時、突然の強風が吹き、何処からか水色のバケツが飛んできてアステルにぶつかった。

「あっ!」

 小箱はアステルの手を離れて地面を転がり、道の脇にあった水路にぽちゃんと音を立てて落ちる。

『……』

 予想外の展開に、その場に沈黙が降りた。
 赤銅色の竜はわなわなと震えながらうなり声を上げる。

『…サーフェスゥ~!!』
『俺じゃないよ。風さんの悪戯だよー』

 蒼い竜はしれっと明後日を向いてうそぶいた。
 そのやりとりでイヴも、強風を吹かせたのは誰か分かった。
 くすぐったいような愉快なような気持ちになる。
 カケルの真意は分からないが、どの道デュオにプレゼントを貰っても困るだけだったからちょうどいい。

「それじゃ、そろそろ事務所に帰りましょう。失礼しますね」
「また来年もおいで~」

 デュオ達のやり取りの一切合切を無視して仕事の完了を宣言すると、客に挨拶して竜に飛び乗る。客の女性はにこにこして手を振ってくれた。
 デュオとアステルも仕方なく話を切り上げて撤収する。
 こうしてバイトは無事に終わった。


カケル「一昨日来やがれ」
イヴ「キャラ変わってるわよ」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ