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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.01 君に出会った時から俺の(昼寝)人生設計が崩れ始めた

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03 キャンプ1日目

 カケルは突っ立ったまま、ぼうっとイヴとオルタナの喧嘩を眺めた。
 いつ終わるのかなあ。
 もう周りの皆は移動を始めちゃってるよ。

「俺はこの高慢ちきな女の言うこと聞くなんて、我慢できねえ。アラクサラがリーダーなら、班から抜けさせて貰うぜ」

 離脱宣言をするオルタナ。
 彼はいかにも嫌そうな顔でイヴを見ている。

「ちょっと、この演習は集団行動を学ぶためのものよ? 貴方のその態度はどうかと思うけど」
「チッ。話にならねえ」

 正論を押し通そうとするイヴに、オルタナは舌打ちして顔を背けた。
 リーダー決めは、特にこだわりがないカケルとリリーナの様子から順当にイヴになりそうな雰囲気だったが、オルタナの抗議の声で先行きが見えなくなっている。
 イヴとオルタナの口論を放っておくと、出発前にチームが瓦解しかねない。
 危機感を持ったのか、引率担当のロンドが話に割って入った。

「……アラクサラ君、君は自分以外なら、誰をリーダーに推薦するんだい?」

 突然聞かれて、イヴは逡巡して自分の他のチームメンバーの顔を見回した。
 その視線が、オルタナとカケルを通り過ぎ……

「私はダメ!! 絶対嫌だからねっ!」

 視線が合ったリリーナは勢いよく首を振った。断固拒否の姿勢に、イヴは無理にとも言い出せず黙り込む。
 沈黙を破ったのはオルタナだった。

「俺は別にカケルでもいいぜ」

 ん? 誰がリーダーだって?
 ぼうっとしていたカケルは突然の指名に首を傾げる。
 一方、予想外の指名を聞いたイヴは眉を上げて声を荒げた。

「そんなの、彼には無理よ。考えられないわ!」
「アラクサラ君。この演習は集団行動を学ぶためのものなんだろう? 」

 先に彼女が言った台詞を引用して、ロンドが穏やかな声で窘める。
 退路を塞がれたイヴは、縋るようにリリーナを見つめたが、リリーナは戸惑ったように見返すばかりだ。意外にもリリーナは、カケルがリーダーになることに反対するつもりがないらしい。
 自分の提案通りになりそうな気配に、オルタナは口角を上げた。口の端に鋭い犬歯がちらりと覗く。

「決まりだな。リーダーはカケルだ」
「そんな……」

 イヴは弱々しい抗議の声を上げたが、このメンバーには彼女の味方はいない。

「じゃあ、頼むぜリーダー」

 オルタナは笑ってカケルの肩を叩く。
 マジですか。
 カケルは戸惑ってチームメイトの顔を見回したが、誰も彼も黙り込んでいる。ロンド兄を見上げると、黙って頷かれた。ロンド兄、それどういう意味。俺がリーダー? それでいいの。
 しかし、雰囲気的にここでカケルが引き受けないと、話が進まなさそうだ。
 仕方なくカケルは、リーダーとして皆に声掛けしようと腕を上げた。

「えーと、では出発! えいえいおー。なんちゃって…」
「……」

 当然のように誰も掛け声には応じなかった。




 こんなメンバーで良く目的地までたどり着けたわ、イヴは思う。
 お世辞にも仲が良いとは言えない。
 何かきっかけがあれば別行動になりかねないメンバーの組み合わせだ。
 しかしそのきっかけは訪れず、カケル達は気をもむロンドに引率されながら、当初の計画通りにキャンプ場に辿り着いた。

 女子のテントの中で、イヴとリリーナは服を脱いで就寝の準備をしていた。
 近くに水場はあるものの、夜中に水浴びをするのは危険なので、予め汲んできた盥の水で清拭することになっている。
 無言で準備をするイヴの背中に、リリーナが躊躇いがちに声を掛けた。

「あの、イヴ。ごめんね、今朝はリーダーの件で、その、断っちゃって……」

 謝罪の言葉を受けて、イヴは、ふぅっと息を吐く。
 振り返って答えた。

「別に……。私がリーダーになっていても、難しかったでしょうし、リリーナさんが気にしなくても良いと思います」
「そう? というか、敬語やめようよ、同級生なんだし。私のこと、リリーナでいいよ。私もイヴって呼んでいい?」

 つぶらな水色の瞳で見上げられて苦笑する。
 リリーナの態度からは裏表が感じられず、純粋な好意のみが伺えた。

「ええ、リリーナ。勿論構わないわ」
「イヴ、私たちチームで二人だけの女子なんだし、仲良くしようよ!」

 イヴだって、リリーナと喧嘩したい訳ではない。
 同じ女子として連携できればと思っている。

「そうね。リリーナ、これからよろしくね」

 友好の意思を示すため軽く微笑みかける。
 するとリリーナは何故かもじもじしながら言った。

「うん……。ねえ、イヴ、髪触っていい?」
「別にいいけど」
「やった!」

 許可を出すと、リリーナは手を伸ばして、うっとりとイヴの腰まである長い髪に触れた。

「凄い、絹みたいな手触り…。それに綺麗な色。
 金色なのに光加減でピンクにも見えて、とても綺麗……」

 手放しの賞賛に、少し気恥ずかしくなる。
 彼女は返事に迷って、女子同士で良くする褒め返しをした。女子同士では賞賛には賞賛で返しておけばだいたい間違いない。

「リリーナの萌黄色の髪も素敵だと思うけど」
「私のはよくある緑色だよ。イヴは髪だけじゃなくて、お肌もすべすべだし、私と違って身体に脂肪があんまり付いてないし、綺麗だね」

 空戦科を目指すイヴは武術の稽古も行っているので、身体が引き締まって適度に筋肉が付いている。
 しかし彼女からすれば、リリーナのように丸みを帯びて、出るところが出ている柔らかい身体が少し羨ましい。一般的な男子はおそらく自分のような男勝りの女性より、リリーナのような柔らかい女性を好むだろうと思う。

 リリーナは賞賛しながら、髪から手を離そうとしない。放っておくとそのまま撫でつづけそうな雰囲気に、イヴは困惑しながら言った。

「リリーナ、そろそろ」
「あ、ゴメン! じゃあ寝ようか」

 それとなく促すと、リリーナは髪から手を離した。
 二人はここに来た当初より打ち解けた雰囲気で、場所を譲り合いながら着替えを終える。
 寝袋を広げながら、イヴは今朝から引っ掛かっていたことをリリーナに質問した。

「リリーナ、今朝のリーダー決めの話だけど、本当にサーフェスで良かったの?」

 リリーナは質問を受けて水色の瞳をパチパチと瞬きさせた。

「え、別に良いと思うけど。カケルは確かに馬鹿だし、変なことするけど、他人に無茶なこと押し付けたりはしないよ?」

 確かに成績や素行は良くないが、カケルは害の無さそうなお人好しな青年だ。しかし、オルタナの望み通りになって癪な気持ちもあるので、彼女は何となく釈然としないまま寝袋に横になった。





 一方、男子のテントでは。

「カケル、こっそり夜這いしにいかねえか?」
「夜這い?!」
「しぃっ、声がでかい」

 オルタナはひとさし指を口の前に立てる。灯りの光を反射して、彼の赤い瞳がキラリと輝いた。その瞳の瞳孔が縦に割れていることに気付いて、カケルが疑問を口にする。

「オルトって、もしかして獣人?」
「おおよ。って、今ナチュラルに俺の名前を省略しやがったな」

 自分の提案を無視された上に、違うことを聞かれてオルタナは顔をしかめた。しかも、いつの間にか名前を省略したあだ名で呼ばれている。

「てめえとダチになった覚えはねえぞ?」
「いいじゃん別に。ほら、これから夜這いを一緒に行く仲なんだし」
「確かに夜這いに行こうって提案したのは俺だけどよ…」

 犬歯を剥き出しにして凄むも、動じた様子もないカケルに彼は威嚇するのも馬鹿らしくなって嘆息した。
 そんなオルタナを興味深く見つめてカケルは言う。

「いいなー。オルトはもう獣人になってるんだ。俺、竜になりたいんだけど、まだなんだ」
「へえ、遅いな」
「やっぱり遅いと思う? あー、そろそろちょっと焦る」

 うつむいて自分のつま先を見ながら愚痴るカケルに、オルタナは欠片程度の同情を感じた。彼は目の前の青年に新鮮さを感じていた。
 喧嘩上等で尖った雰囲気を出しているからか、オルタナに話しかける同級生は少ない。しかもこんなふうに普通に話しかけて、開けっぴろげに会話をしてくる同級生は初めてだった。

「……まあ、気にせずにいたら、その内に竜になってるんじゃねえか」
「本当?!」

 カケルは顔を輝かせる。
 ちょうどそこに、見回りに出ていたロンドが帰ってきた。

「ただいま。何の話をしてたんだ?」
「おかえりロンド兄! オルトが女子のテントに夜這いに行こうってさ」
「正直に言う奴があるか、馬鹿!」

 主人公の帰りを出迎える子犬にように、目に見えない尻尾を振ってロンドに報告するカケルに、オルタナは呆れて頭を抱えた。
 その様子を気の毒そうに眺めながら、ロンドは咳ばらいする。

「あー、僕の立場では夜這いはお勧めできないな。明日も早いし、今日は早く寝た方がいい」
「ちぇー」

 唇を尖らすカケルに、もはや文句を言う気力も失せる。
 彼は無言でどさっと寝袋に身を投げた。ロンドの言う通り今夜は就寝する他無さそうだ。

「ソレルは獣人だし、夜目がきくな?
 もう明かりは消すぞ。カケルも諦めてさっさと寝ろ」

 言いながらロンドが明かりを消す。
 消灯されたにも関わらず、寝袋の前でごそごそとカケルが鞄を探って何か取り出していた。夜目がきくオルタナには、同級生が何をしているか確認できた。
 カケルは何故か拳大の縫いぐるみを取り出して、枕元に行儀よく整列させている。
 ……見なかったことにしよう。

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