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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.04 何だか積極的になってきた君に困る俺

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05 本当は離れたくない

 冬の祭を前に、王都レグルスは浮かれた雰囲気に包まれていた。そこかしこに金色の星や、球体のオーナメントが飾られている。
 イヴとの約束の、サンタさんのバイトは明日だ。

 カケルはお祭りモードの街を北に向かって歩いていた。
 北の大通りに面した、高級な雰囲気の喫茶店に入る。
 待ち人は喫茶店の隅で優雅に茶を飲んでいた。

「…お待たせしてしまってすいません」
「そんなに待っていないさ。久しぶりだね、カケル君」

 待っていたのは、銀色掛かったブロンドの髪に、青灰色の瞳をした年齢不詳の男だった。若そうなのだが、独特の落ち着いた雰囲気があるので年齢が分かりにくい。

「父は忙しいので、私が代わりに来た。前にも会ったね。アロール・マクセランだ」

 彼は名乗って軽く微笑む。
 それはキャンプが敵国ソルダートに占領されたとき、最後に助けに来てくれたエファラン特務隊の竜騎士の名前だった。
 カケルは彼の向かいの席に座る。
 喫茶店の店員がお茶を運んできた。

「さて…聞きたいことと言うのは、チーム分けのことかい?」

 アロールは店員が離れるのを待って、直球で本題を切り出した。
 カケルは頷く。

「はい。何故、俺をイヴ達と同じ班にしたんですか」
「不満なのかな?」
「まさか…」

 静かな青灰色の瞳に見つめられて、カケルは居心地が悪そうに座り直した。
 迷った末に、本音を言う。

「俺みたいな、厄介な奴をイヴの騎竜にするなんて、本気で考えてないですよね?彼女が可哀相です」
「アラクサラ君は君を拒否したのかい?」
「違いますけど…」

 カケルは唇を噛んだ。

 最初の班分けは、学校に決められたもの。けれど次はカケル自身で呼びかけてチームを作った。何となく好感を抱いているイヴを誘って、予想外にチーム結成が上手くいってしまってから、カケルは気付いたのだ。
 これってイヴと契約って流れじゃね…でも俺の事情に彼女を巻き込むのは危険だ。どうしよう。

 もう、チームは出来てしまった。

 イヴは俺みたいな不良な生徒を相手にしないだろうと思っていたのに。いつの間にか、イヴに追いかけられている。
 うまいこと彼女を傷つけずに別れるにはどうしたらいいのか。

 いや、本当は別れたくない。
 離れたくないのだ。

 向かいの席で葛藤している青年の様子を、アロールは注意深く観察した。
 彼は穏やかに言う。

「そんなマイナス方向に考えるのは良くない。まだ何も決まっていないじゃないか。だいたい、決めるのはイヴ・アラクサラだ」
「……」
「彼女が嫌いじゃないなら、受け入れてはどうかな。いざとなったら、君が彼女を守ればいい」
「守れる自信がありません」

 カケルは弱気な台詞を吐いた。
 青年の後ろ向きな台詞に、アロールは苦笑した。エファランから外に出たことのない者なら、カケルの逃げの姿勢に憤っただろう。けれど、アロールは仕事柄、要人の護衛でエファランの外に出ていた。
 国際情勢を知っているから、カケルの実家である七司書家が、いかにエファラン以外の国で大きな影響力を持っているか知っている。
 単純にカケルの台詞が臆病だと笑う事は出来なかった。

「確かに七司書家は強大だ。…しかし、君はもう、無力な子供ではないんだよ」

 穏やかなアロールの声に、カケルは顔を上げる。

「これから力を付ければ良い。そのために、私達は君を、ソレルやアラクサラに引き合わせたんだ」
「……」
「エファラン建国の歴史については知っているね」

 不意に、アロールは話題を変えた。
 知っているかと聞かれて、カケルは戸惑いながら黙って頷く。

「700年程前まで竜や獣人と、人間は敵対していた。両者の友好関係を築こうと、私達の先祖が作った国、それがエファランだ。私達の目指しているものは、単純な勝ち負けや武力解決よりもっと先にあるものだ」
「もっと先…」
「今、また世界は2つに分かれようとしている。
 呪術を武器に竜や獣人を従えようとする高天原インバウンドとソルダート、それを影から支配する七司書家。
 そして竜や獣人が中心の我が国エファラン、呪術を万人に使えるようにしたアラクサラ家」

 平和なエファランの中では分からないが、エファランの外では不穏な空気がある、とアロールは言う。
 カケルは実家の倉庫に鎖で繋がれて飼われている竜を思い出した。
 もし高天原インバウンドの援助を受けて、ソルダートが攻めてきたら。そして、エファランが負けてしまったら、竜や獣人が家畜のように扱われる世界になってしまうだろう。

「衝突は避けたい。戦争はもっと避けたい。私達はぶつからずに済む方法を探し続けている」
「…俺は、七司書家に何の影響力もありません」
「それでもいい。君とアラクサラの関係を見守りながら、私達は希望を見出だそうとしているんだ」

 遠大な夢を語られて、カケルは困惑した。
 イヴとの関係について悩んでいるだけなのに、次元の違う話になってしまった。しかし、七司書家に生まれ、英才教育を受けてきたカケルには、アロールの言いたい事は少し理解できる。
 自分達は国や世界に影響のある家に生まれてしまった。
 望む望まざるに関わらず、家の名前は一生ついて回る。

「…なんてね。気取ってはみたものの、君の言う通り、アラクサラの娘との契約は、なかなかにリスクがある。様子を見て、君が望むなら、マクセランから相性の良さそうな竜騎士を紹介しよう。それでいいかな?」

 沈黙するカケルに考えを変えたのか、アロールは主張を一転させた。
 しかし、イヴと離れた方が良いと考えているものの、踏ん切りが付かないカケルは、アロールの提案に素直に頷けない。

「すいません…もう少し考えさせてください」
「勿論だよ。学生の間にゆっくり考えてくれ」

 アロールは笑って頷いた。
 カケルは冷めてきた茶を飲む。

「そういえば、アラクサラとサンタクロースのバイトをするそうだね」
「…なんで知ってるんですか」

 話はこれで終わりかと思っていたら、最後にアロールは世間話を振ってきた。

「一般騎竜の試験に、珍しい綺麗な蒼い竜がいたと話題になっていてね。しかも試験の成績トップだったとか」
「うっ。目立っちゃってすいません」
「なんで謝るんだい。別に目立たないようにわざと試験を手抜きしなくていいんだよ。それで困った時はマクセランで何とかしてあげるよ」

 それが嫌なんだよ。
 これ以上マクセランに借りを作りたくない。叔父さんは同じ七司書家出身だし、気兼ねなく甘えられるけど、マクセランは後で何を要求されるか分かったもんじゃない。
 カケルは曖昧に笑った。

「それで君、イヴ・アラクサラに渡すプレゼントは用意したのかい」
「え?」

 惚けるカケルを、アロールは今までになく真剣な顔で睨んだ。

「その様子だと、まだだね」
「えーと…」
「駄目だよ君。紳士たるもの、冬の祝祭のプレゼントを怠っては。試験なんかよりそっちが重要だ。プレゼントを貰って喜ばない女性はいないんだよ」
「……」
「そもそもプレゼントは…」

 説教は長く続いた。
 最初の話が目的だったはずなのに。おかしいな…

 この後、アロールから数時間に渡って、プレイボーイの心得と贈り物の選び方についてレクチャーされたのだった。




 
カケル「アロールさん話長すぎるよ~。今からプレゼントって、どうすればいいんだよ?!うわーん」
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