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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.04 何だか積極的になってきた君に困る俺

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04 猫が剥がれるのも時間の問題です

※2016/10/21 鳥取で震災の速報がありました。被災された方の無事をお祈りしています。



 一般騎竜の試験は、学校の教育で子供向けに実施されるものと、王都で大人向けに年に二回実施されるものとで二種類ある。
 ウィリアムは後者の、年二回実施される実技試験の試験官を勤めていた。彼は年配の獣人で、寄る年波にそろそろ試験官は引退しようかと考えている。

 その年、彼が試験会場で目にしたのは、滅多にない鮮やかな蒼色の竜だった。

「おやおや…」

 彼は目を細めて微笑んだ。
 こんなに素晴らしく蒼い風竜は久しぶりに見る。
 冥土の土産に良いものを見た。善哉よきかな善哉よきかな

「ウィリアムさん、あの蒼い竜を見て貰えますか」

 どうやら今回自分が担当するのは、あの風竜らしい。
 試験監督の指示に頷いて、曲がる腰を叩きながら杖をついて蒼い竜に近付く。
 身につけている試験官を示すタスキを見て、蒼い竜が話し掛けてきた。

『おじいちゃんが、試験官さんなのかな?腰は大丈夫ですか』

 声の響きからして若い男性のようだ。
 あどけなさも感じる丸い金色の瞳に、小柄な身体。
 まだ学生なのかもしれない。

「試験官のウィリアムじゃよ。今日は安全飛行で頼む」

 そう言うと、蒼い竜は『任せといて』と言って、ウィリアムが乗りやすいように地面に腹ばいになって首を下げた。
 気取らない態度と、年長者に最大の敬意を表す行動に、ウィリアムの機嫌は一層良くなった。
 この小僧が多少やんちゃをしても大目に見てやろうと思った程だ。

 しかし、竜が離陸を始めて、ウィリアムは認識を改める。
 実技試験は市街地上空を、試験官を乗せて小一時間ほど巡る内容になっている。
 他の竜達も同時に試験をスタートしていたのだが、彼等と比べても、恐ろしく滑らかな離陸だった。ウィリアムは自分が空中に上がったことに数分気付かなかった程だ。それ程までに、身体を揺らさない静かな離陸だった。

「これは…」

 この竜は違う。
 派手な色もそうだが、飛び方も他の竜と比較すると一目瞭然に違う。素晴らしく美しく優雅な姿勢制御だ。まるで不格好に羽ばたくアヒルの群れに一羽混ざった白鳥のよう。
 ウィリアムは肩の力を抜いた。
 今日は試験の事は忘れて、空からの都の眺めを楽しむことにしよう。





「カケル・サーフェス君」
「はい」
「合格だよ。いやー、どうなることかと思ったが蓋を開けてみれば君が成績のトップ、実技も筆記も一位だ!おめでとう!」
「い、一位?」

 祝福する講師の言葉に、カケルは冷や汗をかいた。
 やべー、イヴの絶交宣告がショックで手を抜くの忘れてた。
 いつもは適当に解答欄を数個空欄にしとくのに。
 まずったな。

「一位……」

 気がつくと試験会場の隅にイヴがいて、ジト目でこちらを見ていた。彼女は怒っているような、嬉しいような悲しいような、様々な感情が入り混じった顔で言う。

「何故いつもそのやる気を出さないの…?」
「こ、今回は偶然だって!あはは…」

 カケルは空笑いをした。
 もはやごまかしも限界になりつつある。最近同じチームで一緒に行動しているので、カケルが学校の試験で手を抜いていることも、イヴには薄々感づかれている。被っている猫が剥がれるのも時間の問題だ。
 イヴはふわふわ笑うカケルを凝視したが、それ以上追求しなかった。

「まあいいわ。おめでとう。これで、一緒にアルバイト出来るわね。バイトの方はサボったら承知しないから」
「うっ。分かりました、必ず行きます…」

 絶交は嫌だ。理由があって彼女と契約しないように逃げているカケルだが、絶交したい訳じゃない。
 出来ればイヴと仲良くしたいと思っているのだ。
 講習と違って、彼女との約束までサボるつもりは無かった。







 年末の学校の寮に残る生徒はほとんどいない。
 毎年オルタナは、寮に一人残って、寮の管理人さんと年末を過ごしていた。しかし、今年は帰省しようと思っている。
 帰省するとは言っても、なるべく家に長居したくないので、年末ぎりぎりまで寮にいた。

 そう、カケルが一般騎竜の資格を取った頃に、ようやく重い腰を上げて、家に帰る準備をしていたのだ。

 少ない手荷物を持って、オルタナは寮を出た。
 家は王都の西にある。
 路面電車に乗れば一時間以内につくが、オルタナはわざとのんびり徒歩で家に帰った。

 一応ソレルは陸軍のお偉いさんを代々輩出してきた家で、貴族の位も持っている。王都の西にあるソレルの家は、ちょっとした公園並の広さがあった。
 10歳くらいまで一般家庭で育ったオルタナにとっては、この広さがどうも落ち着かない。

 門番のいる立派な玄関を通り抜けて、広大な庭というか森を抜けて本宅に辿り着いた頃には、もう寮に戻りたくなっていた。

「オルタナ、帰ってきたのか!」

 今日は早めに帰宅していた父親が、オルタナを見つけて嬉しそうに叫んだ。軍人が定時で帰れるのは国が平和な証拠だ。
 オルタナの父親は筋肉に覆われた逞しい身体付きをしている。年齢的にもうそろそろ体力が落ちるのだが、若い者には負けられないと日々トレーニングに勤しんでいるらしい。

「成人してから手合わせしていなかったな。どうだ、夕食前に一汗流すか?」
「……」

 ソレルの男は皆、脳筋だ。
 家にいたときは毎日のように稽古や、稽古と称して父親と兄と取っ組み合いさせられた。
 成人して、獣人になってからは父親と喧嘩していない。獣人になったので昔よりも膂力が増している筈だ。とは言っても、ソレルの男は獣人ばかりなので、ようやく体力が父親や兄に追い付いたという程度だろう。
 暑苦しい父親に、一瞬拒否しようかと考えたオルタナだったが、考え直した。ちょうど聞きたい事があるし、自分の戦闘能力がどれだけ父親に近付いたのかも興味がある。

「…分かった」
「よし、庭に行こう!」

 承諾したオルタナに父親はご機嫌になった。
 親子は庭にある武術の訓練用のスペースに移動する。
 そこで素手で武術の稽古を始めた。

「はっはっは!成人したからにはもう手加減しなくていいな!」

 獣人の父親は馬鹿力でかつ、とても俊敏だった。
 オルタナも獣人になってパワーアップしているのだが、やっぱり技術や経験の差はいかんともしがたい。

 こてんぱんにのされた。

 だから家に帰るのは嫌なんだ。喧嘩しても父親や兄には勝てない。彼等は腕力にものを言わせて強引に暑苦しく絡んで来る。
 さっさと寮に戻ろう。オルタナは密かに決心する。
 肩で息をしながら休憩していると、父親が声を掛けてきた。

「そんなに嫌そうな顔をするな。お前くらいの年齢なら上出来な方だ。これなら、リリーナ様を安心して任せられる」
「リリーナ…?」

 オルタナは顔を上げて、笑っている父親を睨んだ。
 そう、ちょうどそのことを聞きたいと思っていたのだ。

「俺とリリーナを一緒の班にしたのは、わざとかよ」
「そうだな…お前には学内での護衛の役割を期待していた」
「聞いてねー」
「言おうと思っても、お前はいっつも逃げるし、家にいないじゃないか」

 父親は年甲斐もなく拗ねたように言う。
 しかし、リリーナについて、疑問はそれだけではない。

「護衛って…今までリリーナは何度も危ない目にあってんだぞ。どうしてもっとまともな護衛をつけないんだ?」

 あのキャンプの時も、先日の展望台の火災の時も、リリーナには命の危険があった。
 それを言外に指摘すると、父親は真顔になった。

「ちゃんと万が一の場合に備えている。基本的に、お前達で間に合いそうな時は手を出さない方針なのだ」
「へーえ」
「同じ班にアラクサラの娘もいるしな」

 大人達の勝手な思惑に、オルタナは顔をしかめた。
 イヴはこの事を知っているのだろうか。勘だが、あいつも知らない気がする。

「お前の役割はもう一つある」

 続けられた父親の言葉は意外なものだった。

「…カケル・サーフェスの監視だ」
「!」
「奴をアラクサラの娘と契約させるな」

 オルタナは予想外の言葉に驚き、不快感もあらわに問い返す。

「どういう事だよ?」
「マクセランは違う考えのようだが、我々はリリーナ様に悪影響を与える可能性は極力排除したい。奴は害悪になるかもしれん」

 勝手な言葉に胸がむかむかする。
 確かにキャンプのチームは大人達が勝手に決めたものだ。だけど、その後、カケル達とチームを組んだのは、大人達に決められたからではない。自分の意思だ。

「知らねー…」
「オルタナ?」
「知らねーよ、お前らの考えなんか。勝手にしろよ。俺は勝手にさせてもらう。カケルは俺のダチだ」

 オルタナは汗を拭うと、父親に背を向けて歩き出した。
 背後で父親が悲しそうにしている気配を感じたが、知ったことか。もう明日にでも、寮に戻ってやる。

 …冷静に、何故カケルが害悪なのか聞き出せば良かったと思ったのは、寮に戻ってしばらくしてからだった。



兄「どうしたんだ、親父。なんだか家の中が暗いけど」
父「オルタナが久しぶりに帰ってきたんだ」
兄「へえ!良かったじゃないか。で、オルタナはどこなんだ?」
父「すぐに寮に帰っちゃった…」
兄「……」
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