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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.04 何だか積極的になってきた君に困る俺

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03 ごめんなさいサボりました

 年末も近くなり、学校は休みになった。
 学生達の大半は寮を出て自分達の家に帰る。
 カケルも叔父の家に帰ってきていた。

 エファランの冬は雪が降らない。気温が低くなり、乾いた冷たい風が吹くだけだ。
 北国アオイデ出身のカケルにとっては、どうってことない寒さだ。このくらいなら半袖でもいい。アオイデは冬になると雪に閉ざされていた。冬になるとカケルは故郷の雪景色を思い出す。
 雪も程々ならいいんだけどなあ。
 外に出るのも億劫になるくらい積もられると困る。でも、柔らかくてキラキラする白い物体が空から落ちてくるのは、不思議に胸が躍る。あと、積もった雪でかまくらを作ったり、雪の上に熱い飴や蜜を落として固めて、お菓子を作ったりするのも楽しい。
 あの頃は勉強で外に出て遊ぶ暇が少なかった。今なら楽しいことを思い切り出来るのに、雪が降らないとは残念だ。

 家でのんびり惰眠を貪りながら、雪について回想していたカケルは、ピコンと間の抜けた音に起こされた。
 居間の四角い装置から紙が吐き出されている。
 四角い装置は異世界仕様のFAXだ。
 この世界の人間の大半は魔法使い、もとい呪術師で、彼等は通信の呪術でリアルタイムに連絡が取り合える。しかし、呪術の使えない竜や獣人は、こういった機械的で原始的な連絡手段に頼らざるをえない。
 呪術が使えなくて、多少生活が不便でも、竜や獣人はそんなに気にしていない。
 単純な性格の者が多いということもあるが、空を飛んだり、獣の姿で地を走る爽快感は、呪術が使えない不便さを上回るアドバンテージなのだ。

 カケルは送られてきた紙に目を走らせて渋面になった。


 --明日からの講習、きちんと出席すること。
   イヴ・アラクサラより


 そういえばそんな約束してたっけ。
 面倒臭い。

 溜息を吐くと、もそもそと筆記用具を入れた鞄を引っ張り出す。
 少なくとも最初の日くらいは、真面目に出席する必要があるだろう。次の日からサボるとしても。…イヴが知ったら、何故次の日からサボること前提なの?と突っ込みそうだ。
 この講習会は試験を受ける騎竜のみ参加で、イヴが来ることはない。彼女の目の届かないところで、既にカケルは講習をサボタージュする気満々だった。






 講習会初日。

 会場は王都レグルスの南にある、市民会館の一室だった。講習は国の費用で賄われ、希望者の参加費用は無料となっている。
 来ている竜は、カケルのような学生から、壮年の男性まで、年齢にばらつきがある。一般騎竜の資格は学校で取得できるのだが、家庭の事情などで学校に行けなかった竜が、大人になってから必要に迫られて取得しに来ているのだ。

 やがて講習開始の時間になって、講師が現れ、教科書を配って説明を始めた。
 カケルは配られた教科書に目を通す。

 ・市街地を飛ぶ時は、建物から最低5メートル離れて飛ぶ

 ・立入禁止の空域には標識があるのでよく見ること

 ・空中ですれ違う時は、北に向かう竜が優先

 ・一般人を乗せる時は急速上昇や宙返り禁止

 …などなど。

 細かくあげればきりのない規則が、それぞれカテゴリごとに整理されて、イラスト付きで掲載されている。
 講習はこれから5日間掛けて、この教科書の内容をじっくり終日講義するらしい。
 実技の方は訓練場で、各自好きな時間に練習するのだとか。
 最初の説明だけでカケルのただでさえ少ない忍耐は限界だ。
 あと5日間も椅子に座ってただ講義をじっと聞くなんて、耐えられない。実技も、知らないおっさんを乗せて言うことを聞くなんて嫌だ。煩くても、乗せるならイヴの方が千倍良い。

 最初の講義が終わった後、カケルは何食わぬ顔で、講師に話し掛けにいった。

「先生、ちょっとお伺いしたいんですが」
「何でしょう」
「俺、ちょっと家の都合で時間がないんですが、講義受けるのって必須なんですか?」

 講師は、不安そうな表情の真面目そうな青年が「家の都合で時間がない」と言うのを聞いて、家業が忙しいのかなと勝手に想像する。
 もとより、様々な事情がある竜向けの講義だ。

「必須ではないですよ。最後の試験さえ合格点を取れば良いです。講義の中で、合格のコツを話したりするから、講義を受けていた方が安心だけどね。」
「そうなんですか。なるべく出席したいですけど、来られなかったら申し訳ないですー」

 出席する気がないのに、カケルは心にもないことを言う。
 知らない人が聞けば不審な点のない会話だ。
 講師は特に疑うことなくカケルの説明を受け入れた。

「試験前に相談してくれれば、最低限必要なところは教えるから、言って下さいね」
「ありがとうございますー」

 かくしてカケルは講習を初日以外全てサボることに成功したのだった。





 イヴが気付いたのは偶然だった。
 ちょうど講習の4日目、彼女はふと思いついて会場を尋ねてみたのだ。何となく、カケルは真面目にやってるのか気になった。
 昼休みの時間だったので、部外者のイヴが会場に近付いても問題ない。会場を見回してみたが、弁当を広げている竜達の間にカケルの姿は無かった。

「すいません、カケル・サーフェスって学生が来てるはずですけど、彼はどこでしょう」

 会場を出て行こうとした講師は、イヴの疑問に答えてくれた。

「ああ、彼ならお家の都合で初日以外の講習は欠席してるよ」

 家の都合?そんなもの、あるわけない。
 十中八九間違いなく、面倒臭いから逃げてるだけだ。
 素直に言うことを聞いて講習に行くと言うから、油断した。

「…カケル、貴方って竜は!」





 首尾よく講習をサボったカケルは、毎日だらだら寝て過ごしていた…訳ではなく、家事をしていた。
 年末も仕事の叔父に代わって、家の大掃除をする。
 毎日疲れて帰ってくる叔父のために夕食を作ったり、風呂を入れたり、主婦のような事をやっていた。これは居候させて貰っているのでカケルなりの恩返しだ。
 しかし、家事は当然そんなに時間が掛かる訳ではなく、それ以外の時間はやっぱり昼寝していた。

「カ~ケ~ル~!!」

 サボりに気付いたイヴが押しかけてくるまでは、平和な時間だった。玄関の外で、地獄から響いてくるような恨めしい声で呼ばれたカケルは、瞬時に逃亡を選択した。
 2階の窓から屋根に登って、屋根伝いに裏通りに降りて逃げだそうとする。
 屋根から家の裏に飛び降りて、その動作が途中で止まった。

重力場ウェイト

 急に体重が重くなって、身動きが取れなくなる。
 振り返ると呪術を行使しながらイヴが歩いてくるところだった。彼女の肩の上に黒いタキシードを着た小さな白兎が乗っている。兎は、通常呪術師本人にしか見えないナビゲータだ。

「や、やあ。イヴ、久しぶり~」

 カケルは引き攣った顔で挨拶した。
 イヴは険しい表情だ。

「講習に出ていないそうね」
「う、うん。忙しくて…」
「そんなに忙しいなら手伝ってあげるわ。いったい何をやってるのかしら」

 問い詰められてカケルは早々に白旗をあげた。

「ごめんなさい、サボりました…」

 重力場を形成する呪術を解くと、イヴは嘆息する。
 この同級生に真面目に授業に出て貰うことが、いかに難しいか思い知ったのだ。彼女は苛立ち半分に問い掛けた。

「…試験、合格できるんでしょうね?」
「頑張らせて頂きます」
「これで落ちるようなら、貴方とは絶交よ」

 厳しい宣告にカケルはショックを受ける。
 絶交。それはちょっと、いやかなり痛いかもしれない。
 落ち込んだカケルを眺めて自分の言葉の効果を確かめると、イヴは言うだけ言ってすっきりしたので、固まったカケルを放置してその場を後にした。


 
カケルの叔父「どうしたんだカケル。今日のご飯はなんだかしょっぱいぞ」
カケル「なんでもないから、放っておいて…」
叔父「……(遅い反抗期か?育児は分からんなー)」
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