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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.04 何だか積極的になってきた君に困る俺

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02 バイトしない?

 捕獲されたカケルは、喫茶店葡萄に連行された。

 喫茶店葡萄は王都レグルスの南にある、路地裏の小さなケーキ店、兼喫茶店だ。最近カケル達はこの喫茶店に集まって話すことにしていた。
 葡萄は子供のいない夫婦が二人で経営している店だ。店主のジョージは趣味の菓子作りがこうじて、妻で獣人のアンナと二人で十年程前に喫茶店を始めた。店は裏通りにあるのだが、甘味を求める客が噂を聞きつけて向こうからやってくるので、そこそこ繁盛しているようだ。
 店に着いてすぐにオルタナは店主にくっついて厨房に引っ込んでしまった。彼はカケルの紹介でこの店でアルバイトをしている。無骨ながらも正確に淡々と仕事をこなすので、葡萄の店主も予想外に良いバイトを雇えたと喜んでいた。

 カケルも出来れば奥に入って手伝いをしたい。
 チームメイトでルームメイトのオルタナが早々に厨房に入ったのは、女子と面倒臭い話をしたくないからだ。
 先に逃げられた…。

 イヴとリリーナの前に座らされて、カケルは断罪を待つ囚人の気持ちだった。

「ええと、俺に一体何のご用でしょうか…」
「なんで敬語なの?」
「何となく」

 イヴは神妙すぎるカケルの様子に流麗な眉を寄せて、持ってきたバッグから一枚の紙を取り出した。葡萄の蔦模様の布が被せられた円形のテーブルの上に、その紙をカケルに見えるように置く。
 紙にはポップなフォントで「サンタさん募集」と書いてあった。

「サンタ…?」

 赤い服を着た人物のイラストを、カケルは難しい表情で凝視した。

「年末に冬のお祭りがあるじゃない。プレゼントを配達する竜と配達人を募集してるのよ。一緒にアルバイトしないかって誘いに来たの」

 何を詰問されるか、説教されるかとビクビクしていたカケルは少しほっとして肩の力を抜いた。
 荒っぽい方法でここまで引きずって来たものの、イヴは特に怒った様子もなく、誘いに来たという台詞通りに、アルバイトを強要する気はなさそうだった。
 それにしても。
 カケルは赤い衣服の人物が乗っている生き物、竜のイラストをしげしげと眺めた。

「トナカイがそりを引くんじゃないの?」
「トナカイ?」
「ほら、鹿の一種というか…」
「鹿?何言ってるの?」

 イヴは訳が分からないという顔をした。
 隣でリリーナも苦笑している。

「カケル、鹿は空を飛べないじゃない」
「そうよ」
「惚けるのもいい加減にしとけよ」

 カウンターの奥からオルタナも突っ込みを入れる。
 本当はカケルが正しいのだが、普段の行動があれなので、誰もカケルの言うことをまともに受け取らなかった。
 毎年、年末に行われる冬の祭の由来について、一般の人々は詳細を知らない。カケルが知っていたのは、七司書家で古い書物を読んでいたからだ。

 チームメイトに口々に否定されたカケルは「うーん」と首を傾げた。
 サンタさんが乗るのはトナカイが引くそりじゃなくて竜?
 そうだったっけ。
 まあ、いいか、どっちでも。
 肝心なのは、アルバイトの話だ。

「…サンタさんが乗る竜のアルバイトかあ。俺、一般騎竜の資格持ってないよ」

 アルバイトの広告の隅には、一般騎竜の有資格者と、小さく但し書きが付いている。

 竜が取る資格は2つある。

 1つは一般騎竜の資格。
 市街地を人を乗せて安全に飛ぶ事ができる能力を証明する資格だ。

 2つ目は戦務騎竜の資格。上級と下級がある。
 空中戦闘ができ、竜騎士と連携できる能力があると証明する資格だ。

 両方とも、エファラン国大付属学校の4年生から、空戦科を選べば授業で資格を取れる。ただし、戦務騎竜の資格は難関なので、真面目に授業を受けていても毎年半分以上の生徒が試験に落ちる。

 カケル達はまだ3年生。
 授業で資格を取るのは4年生になってからになる。

「そう言うと思って、これを持ってきたわ」

 イヴはカケルの返事を聞くと、もう一枚、紙を取り出してアルバイトの広告と並べた。
 固いゴシック体のフォントで「一般騎竜特別講習会」とある。

「ちょうど期間的にお祭り前に資格が取れるのよ。冬休み中に、一般騎竜の資格くらい、とっちゃいなさいよ」
「ううむ…」
「先に取っておけば、4年生の一般騎竜向けの授業は免除になるわよ」

 授業が免除と聞いて、カケルの心は揺れた。
 学校の授業は面倒臭い。
 この講習で資格を取って授業をエスケープできるなら、それも良いかもしれない。けど、この講習が万が一、授業より面倒臭かったらどうしよう。

 考え込むカケルの様子を、イヴは上機嫌で観察していた。
 ここ数日で逃げるカケルを追いながら、彼女は獲物を逃さない方法を考えていた。
 強引に押し付けるだけだと、カケルは逃げる。
 下手に嫌がられる事をして本気で逃げられたら終わりだ。
 今こうして話を聞いてくれているのは、僅かでもイヴに好意を抱いているからこそ。その僅かな好意をキープし続けなければいけない。
 飴と鞭でうまいこと誘導してやろう。
 …今のところ彼女の目論みはうまく行っている。

 広告の紙を挟んで向き合っているカケル達のテーブルに、喫茶店の店主が近付いてきた。

「おや、カケル君。一般騎竜の資格を取るのかい?」
「友達に勧められて…」
「ソウマさんが喜ぶんじゃないか。たまに仕事で遠出するとき、気兼ねなく乗せて貰える竜がいたらって言ってたよ」

 ソウマさん、とはカケルの叔父の名前だ。
 店主の言葉にカケルはコロッと態度を変えた。

「そうですかー。叔父さんのために資格とっちゃおうかなあ」
「それがいいと思うよ。カケル君なら楽勝だろう」
「あはは…」

 あれれ?イヴは眉根を寄せた。
 事態は彼女の思い通り進んでいる。
 しかし何故だか非常に面白くない。
 私が煩く言っても動かない癖に、叔父さんのためなら主義を変えるってどういうこと。

 実はイヴが考えている以上に、カケルは義理堅く誠実な性格だった。興味が無い事はオルタナ同様とことんスルーしているが、受けた恩は忘れない。
 家出してきたカケルを受け入れてくれた叔父と、世話になった近所の人を、カケルは大切に想っていた。
 気になっている異性で、絆の相手であるイヴの言うことは勿論無視しないが、彼女よりもずっと世話になった叔父の方が優先度が高い。

「…資格取るってことでいいのね?アルバイトの方も申し込んでおくわよ」
「うん、よろしくー」

 念押しするイヴに、カケルはあっさりOKする。
 これまでの攻防は何だったの…。イヴは肩透かしを食った気分だった。

「冬休みは、皆家に帰るの?」

 話の区切りがついたと判断して、リリーナが聞く。
 もうすぐ学校は冬休みだ。
 だいたいの生徒は年末を家族と一緒に過ごしている。
 チームメンバー全員に向けた問い掛けに、一番に答えたのは隣に座るイヴだ。

「そうね、私は家に帰るわ。冬のお祭りはカケルとバイトすることになるでしょうけど」

 一般騎竜の講習は最後に試験があって、合格しないと資格が貰えないのだが、もう受かった前提で話している。
 試験前にカケルの様子を見て、必要なら勉強させようとイヴは考えていた。真面目な彼女は、カケルが実は勉強は得意だけど学校では手を抜いている事を知らない。

「俺も家に帰るよ。この一般騎竜の講習会には参加するけど」

 カケルはのんびりと言う。
 このチームのメンバーは地方から出てきている者がおらず、全員、王都に家がある。学校があろうが無かろうが、会おうと思えばいつでも会える近さだ。

「今年は…俺も帰るかな」

 カウンターでオルタナが気が乗らなさそうな様子で呟いた。
 学校の寮に入ってから帰省を避けてきたオルタナだったが、今年は気になることがあるので、家に帰ってみようと考えていた。気まずければ、早めに寮に戻ろうと思っている。

「リリーナは寮に残るの?」
「いいえ、帰るわ。けど、なんだかんだで皆といると騒がしくて、日常があっという間に過ぎるから、家に帰ると寂しくなりそうだと思って」

 はにかみながら言ったリリーナに、カケル達は顔を見合わせた。
 最初は互いに相性が良くないと思って、同じチームになるつもりも無かった。しかし、いつの間にか一緒に行動する内に、それなりの連帯感や仲間意識が生じていたことを、リリーナの台詞で気付いたのだ。

「オルトは年末も葡萄でバイトするんでしょ。暇だったらここに来ればいいんじゃない。きっと誰かいるよ」
「カケル…」
「冬休み中にまたどこか遊びに行きましょうよ。今度は私が良い場所を調べておくわ」
「ありがとう、イヴ」

 リリーナは嬉しそうに微笑む。
 外は冬の風が吹いていて寒かったが、この店の中は暖炉もないのに暖かかった。


カケル「じんぐるべーる、じんぐるべーる~」
イヴ「さっきから何なのその歌…」
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