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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.04 何だか積極的になってきた君に困る俺

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01 竜の姿でお昼寝ですよ

 鱗にあたる冬の風は冷たくて気持ちが良い。
 木漏れ日がほんのり身体を暖めてくれる。

 カケルは注意深く四肢を動かして、尻尾を近くの枝に絡めた。校舎裏の森の中では大木の部類に入るこの木は、竜の姿のカケルが枝の上に寝そべっても倒れる気配がない。常緑樹のちくちくとした葉っぱが、うまい具合にサファイアのように光る蒼い竜の鱗を覆い隠していた。

 今日は絶好の昼寝日和だ。






 この世界の人間は、成人の時に自分の種族を選ぶ。
 人間のままでいることもできるし、カケルのように竜という種族を選ぶこともできる。
 人間以外の種族を選ぶと、成人を境に身体の構造が変わる。外見上の変化はほとんど無いのだが、細かいところで、食生活や身体能力が人間と異なる。

 つい最近、竜になったカケルは、しばらく身体の変化に戸惑っていた。

 まず、食事の嗜好が今までとは変わって、肉が美味しいと感じるようになった。食べる量も増えた。
 身体能力では、握力や脚力、体力が増している。カケルは元々身体を動かすのは嫌ではなく、二階の窓から平然と飛び降りたりしていたが、より軽く動けるようになった。長時間走っても息切れしない。

 後は、一週間に一回くらい、竜の姿になりたいという衝動が起きる。竜という種族は、長い時間人間の姿でい続けると体調が悪くなってしまうものらしい。
 学校の敷地がやたら広いのも、王都レグルスに公園が多いのも、竜がゆっくりする場所が必要だからだ。休日になると、王都レグルスの公園には、竜がごろごろ寝そべって昼寝している。

 カケルも定期的に竜の姿になる必要があった。しかし彼の場合、派手な鱗の色が災いして、他の竜のようにそこらの道端に寝そべる事が出来なかった。

 彼は強い風の魔力を持つ竜で、鱗の色にそれが表れていた。
 空を映したような深い蒼の色。
 蒼い鱗は光を受けると、まるで宝石のサファイアのように鮮やかに輝く。
 そのため、人前で竜の姿になると、珍しい色の竜に見物客が集まってくる。
 道端で昼寝出来ない。

 竜になってからずっと、カケルは良い昼寝場所を探して、あちこちをうろうろしていた。
 そしてやっと先日、校舎裏の森の中で、竜が上に乗っても倒れなさそうな大木を見つけたのだ。






 今日は授業が午前中で終わりだった。
 天気も良いし、風も気持ち良いし、カケルはちょうどいいと、学校の校舎裏の森に来て、木に登っていた。

 竜に変身して、大木の中心の幹を斜めに囲うように身体をくるりと巻き付ける。大きな翼はコンパクトに両脇に折り畳んだ。竜の身体は猫のような柔軟性があり、身体を丸くして、尻尾をくわえることもできる。

 この尻尾という奴がまたくせ者だとカケルは思う。
 人間には尻尾が無い。翼も無い。
 にも関わらず、竜の姿になると尻尾と翼がつく。

 翼はまだいい。飛ぶのに必要だし、肩辺りの感覚は容易に把握できる。
 問題は尻尾だ。
 尻尾の役割は、身体の重心を制御する事なのだが、飛んでいるときはともかく、地上にいるときは邪魔なものになる。意識していないと、いや意識していても、長い尻尾をあちこちにぶつけてしまいそうになる。

 尻尾さん。どうか俺の睡眠中は、じっとしててね。

 うまいこと枝に絡んだ尻尾を見ながら、カケルはうとうと微睡む。夢の中で彼は友達の獣人に、昼寝の良さについて語っていた。君も昼寝同盟に入らないか。
 ふーん、いいかもな。と返事されて夢の中のカケルは喜ぶ。やった、昼寝同盟のメンバーが増えた!
 ……彼がちょっとばかり阿呆の子であることを、筆者も否定できない。

「ここなの?」
「ああ、そうだよ。だからその虫捕り網をこっちに向けんな」
「イヴ……虫を捕る訳じゃないんだから」

 ん?

 聞き覚えのある声に、カケルは夢から現実に戻ってきた。
 ヤバい、逃げないと。

 覚醒したカケルはわたわたと身体を動かした。
 竜の動作にあわせて、枝葉がぎしぎし揺れる。
 そうだった、竜の姿は目立つんだ。
 人間の姿にならないと。

 冷静に考えれば、竜の姿で飛んで逃げた方が早いのだが、寝ぼけていたカケルはそこまで思いつかなかった。

 慌てて人間に姿を変えると同時に、目の前の幹にざくっと弓矢が突き刺さる。
 殺す気かよ!?
 動揺したカケルは、枝を踏み外して落下する。
 竜が上に乗っても大丈夫な大木だ。結構高さがある。

「うわあっ!」

 体勢を崩しつつも、なんとか受け身をとって地上に着地する。その頭上に、超でかい網が被せられた。

「何?!」

 ぎょっとして振り返ると、でかい虫捕り網をカケルに被せて、仁王立ちしている女子生徒と目があった。ストロベリーブロンドの長髪を脇で一括りにして、腕まくりした手に虫捕り網を持っている。
 彼女はカケルのチームメイトであり、暫定でパートナーを組んでいる竜騎士の、イヴ・アラクサラだ。
 イヴの背後には、何ともいえない表情をした同級生が呆れた様子で立っていた。
 緑の髪をした大人しい雰囲気の女子生徒はリリーナだ。その横に立っている制服を着崩した目つきの悪い男子生徒は、先ほどの夢でも登場したカケルの友人のオルタナである。

「捕まえたわよ。今日こそは真面目に話をさせて貰うわ!」

 鼻息荒く言い放つイヴに、カケルは冷や汗を流した。
 ここ最近、彼女と話さないようにして、逃げ回っていたのだ。明確な理由は無いが、何故だか捕まったら終わりのような気がしていた。
 カケルの逃亡はうまくいっていた。
 獣人ほどでは無いが、それなりに勘が鋭い竜であるカケルは、イヴの気配を事前に察知して素早く移動できる。それに、同じ寮に住んでいても女子のイヴは、男子の住む階には入ってこれない。
 学校の校内と、寮の食堂でさえ顔を合わせなければなんとかなると思っていたのに。

「なんで俺の昼寝場所を知ってるの……まさかオルト」

 友人を見つめると、オルタナはあからさまに視線を逸らす。
 獣人で勘が良いオルタナはカケルの昼寝場所を把握していてもおかしくない。

「酷いオルト! 君は昼寝同盟の仲間だと思ってたのに!」
「入ってねーよ」

 夢と現実を混同したカケルの台詞に、オルタナは冷たく的確な返事をした。

「さあ、観念なさい! これ以上逃げるなら……」

 イヴは虫捕り網の柄の部分を足で地面に固定すると、背負った矢筒から演習用の矢を取り出して、弓につがえた。
 本格的だ。若干命の危険を感じる。

「明日にしない?」

 カケルの提案に、イヴは無言で矢を放つ。
 ヒュンと音を立てて、矢が頬をかすって地面に突き刺さった。
 大変危ない。良い子は真似してはいけない。

「す、すいません。どうか命だけはお助けを……」
「分かれば良いのよ」

 土下座して謝るカケルに、イヴは鷹揚に頷く。
 傍で見ていたリリーナとオルタナは、主旨が違ってなくないかと思った。いったい何のための捕獲作戦なのだ。
 よく分からないままにカケルは捕獲される。
 嫌がるカケルを引きずって、イヴ達は移動を開始した。



リリーナ「昼寝同盟って何なの?」
オルタナ「さあな」
+注意+
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