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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.03 パートナー契約?それって食べれるの(と惚けたい)

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番外編 家出

 これは、カケル達がチームを組む前。
 今を遡ること5年ほど前の話。








「兄様、何処か行くの?」

 あどけない響きの声がして、カケルはびくりとした。
 慌てて手元のものをベッドの下に蹴り込んで、何でもない風を装う。

「何言ってるんだよ。何処へも行くわけないだろう」

 振り返ってそう答えると、年齢よりも幼い表情をした紺色の長い髪の少女が嬉しそうに笑う。少女の顔の造作は、男女の違いはあっても、カケルと良く似ていた。背格好までそっくりだ。
 彼女はカケルの双子の妹だ。

「そうだよね、良かったー。兄様、大好き」

 微笑む妹に罪悪感を抱くカケル。
 天真爛漫な妹は、少しばかりおつむが足りない。幼い言動で、双子であるカケルの言葉も良く通じていない事があった。
 おそらく実験のせいだと、カケルは冷静に思う。今までは頭が良くない妹が使われていたが、呪術に適性がないと判断された今は自分の方が危うい。
 父親が顔色を変えずに、自分を処分しようかと言っていたことをカケルは知っている。
 さっさと家を出ないと今度は自分の番だ。

「分かったから、ほら、どいたどいた」

 妹を追い出して、家出の準備を進める。
 その日の深夜にカケルはこっそり家を出た。






 カケルの生まれた七司書家は、呪術の名家だった。
 呪術師のエリートばかりの家族の中で、カケルも将来は有能な呪術師になるべく英才教育を受けていた。
 しかし、途中でカケルは呪術の適性を持っていない事が判明し、掌を返したように冷たく扱われることになる。
 ただ冷たいだけなら辛抱するのだが、身の危険も感じたカケルは、家出を決心した。
 それは12歳の冬のこと。






 なるべく遠くへ。距離を稼がないと。
 自動車も電車もないこの世界で、長距離を短時間で移動するには、竜に乗るしかない。
 カケルは人気が少ない深夜の時間帯を選んで、家の倉庫に繋がれている騎竜の元を訪れた。

「カリオペイアへ」

 竜に飛び乗って合図し、余計な事を言わずに目的地のみ告げる。竜は機械的な動作で羽ばたいて宙に舞い上がった。
 この騎竜も元は人間だったのだろう。それもカケルの親族だったのかもしれない。けれど今は、心を失って人を乗せて飛ぶだけの機械だ。
 もし家出がばれて連れ戻されれば、待っているのはおそらくこの竜と同じ末路になる。もっと酷い場合は、二度とこの目で日の光を見ることはないかもしれない。

 無言の竜の背で1時間程度。
 七司書家があるアオイデという国の南、カリオペイアという国に着く。ここにはアパタイト港という、世界的にも有名な港があって、各地に船が出ている。
 カケルはアパタイトに着くと竜に戻るように言って、今度は船を探した。

 目指すべき場所はエファラン。
 七司書家の影響力が唯一届かない国。

 そこで呪術師ではなく、竜になれば、エファランの国民として受け入れて貰えるだろう。あそこは竜が中心の国だ。
 竜に乗って向かえば今日中に着くだろうが、長い時間竜を借りると、倉庫に竜がいないことで家出したことがばれるし、エファランへ向かっていることもすぐに分かってしまう。
 だからここからは海路で船を使う。

 まだ成人していない子供を親なしで乗せてくれる船は少ないだろう。それに、普通に船に乗るだけでは居場所を特定されてしまう。
 カケルは賭けに出ることにした。

 まだ暗いうちに漁業にでる漁船を捕まえる。

「すいませーん。ちょっと沖の花火島まで連れてってくれませんか」
「どうしたんだ、坊主?」
「親戚の家に遊びに来たんですけど、なんか早めに着いちゃって」

 花火島はアパタイトの沖に浮かぶ小さな島だ。
 リュックを背負って笑顔で言う少年に、漁師は不審に思わず、すぐそこだしなと気軽に頷いた。

「乗ってけ」
「わー、ありがとうございます!」

 島までの短い間、漁師に世間話ついでに質問をされたが、カケルは花火島の親戚の家に行く子供を演じて、明るく言葉に詰まらず返答したため最後まで疑われなかった。
 花火島について、礼を言って漁師と別れる。

 花火島は人口100人未満の島だ。人が少ないので皆顔見知りで、カケルが赤の他人だと見破られたりしないか恐れていたが、島の人に出くわすことは無かった。
 海岸線を散歩して、小型のボートをいくつか見つける。田舎らしく、ボートは無造作に鍵などを付けずに置かれていた。
 カケルはその内のひとつ、一定時間は自動で推進できる装置が詰まれた小型の簡易ボートを選ぶ。

「ゴメンなさい。一応費用を置いて行きますー」

 こういった便利なボートは当然高額だ。
 無断で借りる罪滅ぼしに、実家から持ち出したお金を少し置いていく。
 見つからないように、手早くボートを海に浮かべて、沖に繰り出す。
 このボートでエファランまで行くのは無理だ。
 だからわざと遭難して、エファラン国籍の船に拾って貰う。

 海で遭難している子供を見つけたら、よっぽど冷酷な人じゃない限り、拾って世話をしてくれるだろう。
 エファランに帰る船に救助してもらって、そのまま同乗しよう作戦。


 ……結論から言うと、カケルは遭難を舐めていたと後から後悔した。
 海図やエファランの船の進路やスケジュールを予め調べてきてはいたが、所詮は本の上での知識、机上の空論。
 カケルはまだまだ世界を知らない世間知らずのお子様だったのだ。

 ただ、七司書家も、普段は頭の良いカケルが、まさか自分から遭難しに行くとは思っていなかったので、そこは意表をついた形になる。

 ただ延々と広がる海原を、日よけも疎かに、少ない食糧で漂うなんて自殺志望者のすることだ。
 真面目に遭難しかけた。
 いや、遭難するために行ったのだから、真面目も糞も無かったのだが、救助された時のカケルはかなり衰弱していたとだけ言っておこう。
 運良く当初の目論み通り、エファラン国籍の船に助けて貰った時には精根尽き果てていた。白い星型の花に竜が描かれたエファランの国旗を見て涙ぐんだくらいだ。

 一方、船長の赤い髪の獣人マイクは、ちょっとピクニックに行きますという格好で漂流していた子供の姿に不審を感じた。
 助けて貰ったというのに、何かに怯えるように震えている子供に、こいつは何か訳アリだなと直感する。

「坊主、どこの子だ?」
「……エファランへ。親戚がいるのでエファランに連れていって欲しいんです」

 カケルは船長の男に不審に思われたことが分かったが、咄嗟に良い説明が思いつかず、本当に思ったことだけを言った。
 余裕があれば、つじつまの合うストーリーを笑顔で説明していただろう。だが初めて本格的な生命の危機に遭遇した彼には、もはや取り繕う余裕が失われていた。

 折しもその時、船に積んである通信装置から、カリオペイアからの緊急連絡が入ってくる。

「12歳くらいの紺色の髪の少年がいたら、保護してカリオペイアに送り返して欲しいそうですよ、どうします?」

 やはり、探されていたのだ。それも大規模に。
 カケルは自分の価値を理解していた。生まれつき持っている魔眼は、そこらの七司書家の傍流の血を引くものに現れるものではなく、七司書家直系の特別なもの。呪術師にはなれなかったとはいえ、七司書家秘蔵の書物を読まされていたし、門外不出の知識や技術を知っている。
 外に出して機密が漏れることを懸念されて当然だ。

 本当はそれを逆手にとって、交渉できるかもしれないと考えていた。エファランに受け入れてくれるなら、七司書家の機密事項を話すと言って。
 しかし、現実にカケルができたことは、連れ戻されるかもしれない予感にガタガタ震える事だけだった。

 船長のマイクは、無言で怯えて震える少年に憐憫を感じた。
 ここでもし、カケルがさかしらに喋って、七司書家のことを持ち出して交渉しようとすれば、マイクは遠慮なくカケルをカリオペイアに引き渡していただろう。
 しかし、年端もいかぬ子供が衰弱して、酷く怯えている様は、マイクの気持ちを動かしていた。そう、カケルが哀れで恵まれないただの子供に見えたからこそ、マイクは心動かされたのだ。
 彼は問題を抱えているだろう少年を助けるリスクと、自身の正義感や義侠心を秤にかけて、後者を選んだ。

「……心当たりが無いって伝えろ。うちの船に子供は乗ってないってな」
「了解です」

 船長の判断に周囲は特に反対しなかった。
 周りの大人も、怯えるカケルを引き渡すのは可哀相だと感じていた。

「坊主、お前の名前も事情も詳しくは聞かない。ただ、エファランには連れていってやる。本当に親戚がいるなら、そいつのところへ行け」

 訳ありの子供の名前や事情を知って、問題に巻き込まれることをマイクは避けたかった。保身のためではなく、船長として、部下や家族を守るためだ。
 突き放した言葉の中に、確かな思いやりや慈しみを感じて、カケルは呆然とした。
 七司書家で冷たく利己的な大人と、丁々発止のやり取りをしながら生き延びてきたカケルにとっては、船長が示した優しさは感じた事の無い種類のものだった。
 彼はこの時まで、自分の身は自分で守ろうと頭脳を武器に大人達と戦ってきた。しかし、ここでは無力な子供でいてもいいらしい。
 それは新鮮な驚きと気付きだった。






 それから数日間の海の旅を経て、船はエファランに到達しようとしていた。

「なんだ、眠れないのか」

 夜半に船を見回っていた船長のマイクは、甲板の隅で星空を見上げるカケルを見つけて声をかけた。

「船旅は初めてで……」

 初めての旅で、しかも追われているカケルは、明るい未来が思い描けず不安に押し潰されそうになっていた。
 夜も不安で考え込んでしまってよく眠れない。

「そうか。まあ、そのうちに慣れるさ。人生まだまだこれからだ。もっとキツイことも山ほどある」

 マイクは少年の事情は分からないものの、少年が今感じている不安の正体を感じ取っていた。それは人生の分岐点に立った時に感じる迷いや不安、恐れや苦しみだ。この困難を乗り越えれば、苦しい時間は少年のかけがえのない経験になるだろう。
 不安そうに空を見上げるカケルの頭に手を置いて、くしゃりと撫でる。

「この辺からはもうエファランの領海だ。ほら、あれが海岸線だ」

 船長が指した先に、暗闇の中にうっすら陸の線が見え、ぽつぽつと人家の灯りが星のように瞬いていた。
 カケルはそれをじっと見つめた。

「……ようこそ、エファランへ。この国が君の第二の故郷になったらいいな」

 観光客にも言う台詞を冗談めかして言うと、船長は「身体を冷やさないように」と注意して、その場を去った。
 徐々に明らかになるエファランの国土をカケルは食い入るように見つめた。
 今日からこの国がカケルの故郷になる。






 
双子の妹だって!?と思ったそこの貴方、お察しの通り、カケルの妹さんは将来に猛烈に絡んできます。と言っても大分先になりそうですが。
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