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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.03 パートナー契約?それって食べれるの(と惚けたい)

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07 なんで逃げるの?

 喫茶店葡萄でのティータイムの後、カケル達は一旦解散した。カケルは店の近くの叔父の家に帰ると言い、イヴも王都の北にある自分の家に帰るため、近くのタクシー業をしている一般騎竜に頼んで送って貰う。
 この世界では、自動車や飛行機は竜が代わりとなっているが、船や電車は一部存在する。大量の荷物や人を、一定期間で送る仕事は竜は不向きだ。王都レグルスでは東西南北を路面電車が走っている。
 しかし多くの場合、電車より竜の方が便利だ。イヴが電車ではなく竜にタクシーを頼んだのも、その方が速いからである。

 リリーナは寮に寄ってから家に帰るつもりのようだ。
 思うところがあって、オルタナはリリーナと一緒に寮へ戻ることにした。

 夕焼けに染まる道をリリーナと並んで歩きながら、オルタナは話をどう切り出して良いか悩んでいた。
 普段は話すことがない二人なので、どこかぎこちない沈黙が続く。
 無言のまま寮の近くまで帰ってきて、公園の側を通った時、ふと強い花の匂いが香った。

「……金木犀の花ね。良い匂い」

 リリーナが呟いて立ち止まる。
 オルタナも合わせて立ち止まりながら、意を決して話を切り出した。

「お前、どこかで会ったことがあるか? 学校以外の場所で」

 時と場合によってはナンパと受け取られかねない言葉だ。オルタナは言い出しておいて、自分の言葉を撤回したくなった。
 リリーナが振り向いて笑う。

「あるわよ。もう、ずっと気付かないかなぁって思ってた。同じチームになっても知らんぷりだし」
「悪い」

 ではやはり、あの時、空から落ちてきた少女はリリーナだったのだ。オルタナは微かな記憶を手繰り寄せて、彼女とどんな話をしたか思いだそうとした。
 難しい表情をするオルタナに、リリーナは苦笑する。

「やっぱりその様子だと、あの時私と何を話したか、覚えてないよね」
「ああ」
「私はね、あの時、家庭教師の先生の授業が嫌で、こっそり抜けだそうとしてたの。貴方も無理矢理親に連れられてうちに来たって愚痴ってたから、二人で館を抜けだそうって盛り上がって……」

 そういえばそんな話をしたかもしれない。言われてみると、ぼんやりとした記憶が浮上する。

「一緒に逃げようって言ってくれたよね、忘れてるかもしれないけど。ふふっ、乙女心に響く台詞だったわ、あれは。私は忘れられなかった」
「……」
「ここまででいいわよ、迎えが来たみたいだから」

 リリーナの向こうに、背の高い男性の姿が見える。
 その見覚えのある姿にオルタナは目を見張った。

「兄貴」

 陸軍の制服ではなくラフな私服をした兄が、公園の数メートル先に佇んでいる。
 唐突にオルタナは目の前の少女の正体を理解した。
 リリーナは法術が使える。神の加護が必要な法術を使える者は少なく、エファランで神の加護を持つのは王族と一部の貴族だけだ。
 そして、ソレルの家は、エファランで最も尊い血族に仕えている。

「ねえ、オルタナ」

 水色の瞳が黄昏れの光に切なく揺れる。
 リリーナは微笑みながら軽い調子で言った。

「もし今私が逃げたいって言ったら、あの時と同じように、一緒に逃げようって言ってくれる?」

 オルタナは返す言葉が無かった。
 突然の問い掛けに混乱したせいもあるが、彼女の正体を悟った今は、軽々しく逃げるように言えない。
 それに、もし逃げるとしても、彼女を守って逃げるだけの力が自分にあるのだろうか。

「冗談よ、気にしないで。じゃあまた学校で」

 こちらの逡巡を見てとったのか、リリーナは手を振って背を向けた。迎えにきた、おそらく護衛だろうオルタナの兄の元へ足早に歩いていく。
 その背中を無言で見送って、彼女達がいなくなってから、オルタナは溜息をついた。

「……情けねーな、俺」

 リリーナの問いに真面目に答えることも、茶化して気の利いた言葉を返すことも出来なかった。
 いつかリリーナの問いに何らかの答を出すために、そろそろ将来について真剣に考えた方がいいかもしれない。







 週末はハプニングがあったものの、特に大きな怪我をすることなく終わり、また平日で学校の授業の日々が再開する。
 展望台の鎮火の件で学校に感謝状が来たが、表彰されたのは何故かイヴだけだった。別に目立ちたい訳ではないので、オルタナもカケルも特に不満という訳では無いのだが。

 イヴだけ表彰というのは、わざとなのだろうとオルタナは思う。大人達はイヴ以外は目立たせたく無いと考えているのだろう。

 リリーナの正体を考えれば、カケル達チームメンバーの選択が大人達の故意であることは明白だ。
 エファランを守護する名家、知のアラクサラ、空のマクセラン、陸のソレル。チームメンバーにはこの内2つの家の子供が入っている。
 イヴはアラクサラ、オルタナはソレルの家の子供だ。将来的にもリリーナと関わっていく可能性がある。

 だとするとカケルは?

 空のマクセランとは関係がなさそうだ。苗字も違うし、副寮長のイリア・マクセランと比べても似ているところは無い。
 だが、育ちの良さを感じるし、時折見せる鋭さや戦略的な行動は、彼が一般人とは違う生まれ育ちでは無いかと思わせる。

 そこまで考えて、オルタナは思考を放棄した。
 面倒臭い。そのうちに奴の正体も分かるだろう。

 それに、話していると疑うのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
 何せカケルは阿呆だ。

「オルト、俺は思うんだ!」
「はあ。何を?」
「やっぱり竜になったからには、竜の姿で昼寝するのが良いんだよ。それが人類究極の夢……」

 こないだ、普通に人間の姿で昼寝すればいいじゃないか、とオルタナが言ったことに対する表明らしい。
 寮の食堂で夕食を食べつつ、隣で力説するカケルの話を適当に聞き流す。
 どうせまた、くだらない事を考えているのだろう。

「だけど地上で寝ると人が集まってきて眠れない。……だったら空で寝れば良いんじゃないか!!」

 やっぱり馬鹿だ。

「問題は羽ばたきながら姿勢を維持して快眠する方法だ……あ、セファン先輩!」
「ん?」

 近くを通り掛かった寮長のセファンに、カケルは目を輝かせて質問する。

「セファン先輩! 俺に空を飛びながら寝る方法を教えて下さい!」
「……」
「気にしないで下さい、寮長。こいつ、阿呆なんで」

 余りに突拍子の無い質問に、セファンは思わず無言になる。
 オルタナは後ろからさりげなくフォローした。
 寮長のセファンは、後輩にどう答えたものか思案している。彼が答える前に、食堂の扉が開いて、イヴとリリーナが入ってきた。その気配を感じるのと同時に、カケルは突然身を翻して机の下に逃げ込む。

「おい……」

 そろそろカケルの奇行に慣れてきたオルタナも、机に隠れるという余りに子供じみた行動には呆れる。

「お前、この前は馬鹿女に無視されたとかで、落ち込んでたんじゃねーのかよ」
「そ、それはそれ。だって最近、イヴの視線が怖いんだもん」

 机の下に隠れたカケルがぼそぼそと返す。
 どうやら無意識にイヴの標的になっていることは気付いているらしい。
 質問してきたかと思えば、突然、机の下に潜り込む後輩に、セファンは困った顔をしている。

「相変わらず……お前達のチームは何かしら問題があるな」
「そんな深刻な問題じゃないんで、放っておいて貰っても大丈夫っすよ、先輩」

 大丈夫か?と目線で問うセファンに、オルタナはそっけなく答える。本当にくだらない問題で揉めているだけなので、真面目に聞かれると同じチームとして若干恥ずかしい。
 食堂に入ったイヴは、見回してオルタナの姿を見つけると、ストロベリーブロンドの髪を翻して近付いてくる。

「ソレル。カケルは?」
「さあな」

 オルタナは真面目に答えるのも馬鹿馬鹿しくなって、適当に返事をした。
 それで離れていくかと思いきや、イヴは勝手に椅子をひいて、オルタナの向かいの席に腰掛ける。

「ちょっといい?この冬のイベントの話だけど……あれ?」

 話しだしたイヴは机の下で何かを蹴った気配に眉を寄せた。
 何を蹴ったか確認しようと、椅子を引いて机の下を覗き込む。

「カケル……貴方何やってるの……?」
「ひゃっ!」

 机の下に隠れていたカケルは、見つかって、慌てて机の下から這い出し、一目散に食堂の外へ走り出す。

「待ちなさい、カケル! 貴方に話が……ちょっとなんで逃げるのよ?!」

 追いかけるからじゃねーか。
 口には出さずオルタナは思うだけに留めた。
 逃げ足だけは一級のカケルはあっという間に姿を消す。イヴは怒りに震えた。

「こうなったら絶対捕まえて、言うこと聞かせてやるんだから! 覚悟しなさいよ、カケル!」










 Act.03 パートナー契約?それって食べれるの(と惚けたい) 完

 Act.04 何だか積極的になってきた君に困る俺 へ続く



次のページで番外編入れてから、冬のイベントの話に移ります。
クリスマスをネタにした話になる予定。
少しずつ、カケル達の友情や関係性が深まっていきます。
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