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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.03 パートナー契約?それって食べれるの(と惚けたい)

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06 コーヒータイム

 事故防止のためとはいえ、派手に呪術を使ったので、カケル達は王都レグルスの警備組織に事情聴取をされた。
 とは言っても悪い意味ではなく「エファラン国学の生徒さんだね。協力を感謝します。後日学校に感謝状を送りますね」という内容だった。
 警備組織の事情聴取担当者は、概ねイヴ達に親切だった。
 この世界では呪術という魔法があり、魔法の使い手の数は多いが、大規模な火災を一発で鎮火できるような術者は少ないのだ。イヴの名前を聞いて、あのアラクサラの娘さんか、なるほどな、と警備組織の面々は思ったものである。

 カケルが無資格で救助に割って入ったことも不問になった。
 実は、竜が人を乗せて空を飛ぶには、国で定められた資格を持っている必要がある。
 キャンプの時は非常事態だったし、学校の敷地内は教育のためということで許されている。しかし、本当は無資格で市街地上空を人を乗せて飛ぶのはNG。
 今回も非常事態で人助けのためなので、無資格で飛んだのは大目に見てもらう。

 資格といえば、実戦で攻撃性の呪術を行使するのも資格がいるのだが、優秀なイヴは学生ながら三級戦務呪術師の資格を持っていたので問題無かった。

 事情聴取が終わって解放されたのは日中だったが、カケル達は疲れ果てていた。

「ああ、もう何なの!? せっかくの休日で、せっかく展望台に気分転換に来たのに! 甘いものを食べてゆっくりする予定だったに」
「そうだね…」

 愚痴るイヴにリリーナが同意する。
 女子の歎きに、カケルが首を傾げながら言った。

「イヴ、甘いものを食べたいの?」
「ええ、そうよ」
「今からでも行けばいいんじゃない? 俺、良い店知ってるけど……」
「なんですって?!」

 鼻息荒く詰め寄るイヴにカケルはたじたじとなる。
 咄嗟に、さっさとその場から離脱しようとしていたオルタナの腕を掴んで引き止めた。

「オルト、俺を置いて行かないでよ~」
「……今回だけだからな」

 懇願されて、オルタナは渋々その場に留まる。

 カケル達は王都を南に移動して、路地裏にあるケーキ店、兼喫茶店の「葡萄」という店に入った。
 「葡萄」は子供のいない夫妻が二人で経営している小さな喫茶店だ。
 妻のアンナは獣人で、怪我で前線を退いた退役軍人である。優しくて菓子作りの得意な人間のジョージにプロポーズされ、結婚して仲良く一緒に店を営んでいる。
 この近所には、カケルがお世話になっている叔父の家がある。また、イヴ達は知らないが、カケルの成人のお祝いに叔父が買ってきたケーキは、実はこの店のケーキだった。

「なかなか良い感じの店じゃない」

 落ち着いた内装の店内を見回して、イヴがコメントする。
 たまたま客の入れ替わる時間なのか、店内に客はイヴ達だけだった。

「いらっしゃい……おや、カケル君、友達を連れてきてくれたのかい?」
「はい。この間はお祝いありがとうございました」

 カケルがエファランに来た当初から、カケルのことを見知っている店主のジョージは親しそうに声を掛ける。近所の人達は、カケルの実家のことは知らないのだが、カケルが何か深刻な事情があって家出して、はるばるエファランの叔父の家に転がり込んだ事は承知している。
 何せ、いきなり子供の世話をすることになってカケルの叔父は混乱したし、カケル自身も実家には帰れないので、なんとか新しい環境に適応しようと必死に周囲とコミュニケーションを取ったのだ。
 そういったドタバタの中で、葡萄の店主には世話になっていたので、カケルはこの店主には素直に真面目に対応する。
 成人祝いのケーキの礼を言うカケルに、店主はボソリと言った。

「ああ、成人おめでとうさん。そういえば、ご両親は君の成人の事は……」
「あなた、そういうことは聞いちゃ駄目よ」

 店主の妻のアンナが、途中で店主の脇を突いて台詞を止める。
 彼女は昔の怪我が原因で時折体調を崩すので、カウンターの奥で動かずに作業していることが多い。
 カケルはふわふわ笑った。

「気にしないで下さい、うちは放任主義なんでー」

 その言葉の裏にある冷えた実家との関係を感じ取って、ジョージとアンナは眉を下げた。
 会話を聞いていたイヴは、カケルの事情を知らないまでも、何か家庭に問題があるのかと怪訝に思う。
 沈んだ雰囲気を払拭するように、カケルは明るく言った。

「それより、友達連れて来たんで、サービスしてくださいよ」
「よし任せとけ…と、言いたいところだが、裏に洗い物と移動させなきゃいけない重いものが溜まってるんだ。手伝ってくれないかい?」
「分かりました。…オルトごめん、一緒に手伝ってくれる?」

 店主に手伝いを頼まれたカケルは、慣れた様子で引き受ける。オルタナも「しゃーねーな」と言いつつ、店主とカケルに続いてカウンターの奥に入った。
 奥さんがにこにこしながら、イヴとリリーナに声を掛ける。

「どうぞ、席についてメニューを見てて下さいな」
「私達も手伝いましょうか?」
「ありがとう。今は大丈夫よ」

 空いたテーブルを勧められて、イヴとリリーナは席に座ってメニューを広げる。
 流れるような筆記体で書かれた、数種類のケーキやお茶の名前をなぞりながら、イヴはリリーナにだけ聞こえるように、声を潜めた。

「ねえ……カケルは私の事、嫌いって訳じゃないよね。リリーナから見てどう思う?」
「そうね、嫌いじゃないと思うわ。だって、嫌いな相手を背中に乗せて戦ったりしないでしょう。竜によっても違うけど、仕事は別にして、やっぱり親しい人じゃないと乗せるのは嫌って聞いたことあるわよ」
「そうよね。じゃあ何故、あそこまでキッパリと私と契約しないって言ったのかしら」
「イヴ……」
「確かに、私に昼寝について煩く言われるのが嫌ってのは分かるわよ。だけど別に、私だって四六時中起きてろとは言わないわ。普通に考えて、話し合いで解決できる範囲よね」

 ここまで一緒に戦ったり行動をする中で、イヴもカケルの性格が段々わかってきた。いつもふざけて、惚けたことばかり言っているが、きちんと考えているし、戦略的な思考ができる。
 ふわふわしている時と戦いの時のギャップが酷い。天然な部分もありそうだが、ここまで来ると、わざとそう振る舞っている部分があるとイヴも理解し始めている。
 そうすると、お姉さん云々で契約をしないと言った言葉も、裏があるかもしれないと気付く。

「決めた。私、その内に機会を見つけて、なんで私と契約出来ないか、本当のところを聞き出してやる。理由次第では、私の騎竜になってもらうわ」
「さすがイヴ、積極的で良いと思う。ガンガン攻めちゃえ」
「そうよ! ここまで来て中途半端はなしよ。とことんやってやるわ!」

 女子二人は盛り上がった。
 実際のところカケルは女子から見て優良物件だ。別に不細工ではないし整った顔立ちのすらりとした青年で、昼寝を優先して奇妙な行動をするものの実は能力が高く、優しくて誠実な性格。しかも、ピンチの時に飛んできて、格好よく助けてくれたら、イヴでなくても女子なら当然好きになってしまう。

 本気でイヴと契約するつもりがないなら、さっさとチームを解散してイヴを冷たく突き放せば良かったのだが、そうできないところがカケルの美点であり、非常に阿呆な点であった。

 厨房で皿を洗っていたカケルは何故か背筋に悪寒を感じる。

「どうかしたかい?」
「い、いえ……」

 小麦粉や調理器具が入った棚を移動させていたオルタナは、カケルの様子を横目で見て嘆息した。

「竜は人間の時は、俺達ほど耳が良くないんだっけか…」

 獣人のオルタナには女子の会話が筒抜けだった。
 ターゲットロックオンされたことに、チームメイトは気付いていない。しかし、教えることに意味を感じなかったので、オルタナはイヴ達の会話について伝えなかった。
 どうせ、そのうちに分かることだ。

「お待たせしました」

 やがて、店主はイヴ達の注文のケーキをお茶と一緒に運んでくる。
 イヴはチョコレートケーキと柑橘類のフレーバーティー、リリーナは果実のクリームケーキとハーブティーだ。

「わあ……」

 女子二人は美味しそうなケーキに歓声をあげる。
 余談だが、この世界はチョコレートの原料のカカオを栽培できる地域が限られていて、お菓子に欠かせない砂糖も地球より入手が難しい。チョコレートケーキはお菓子の中でも値段が高かった。

「オルタナ君は甘いものは好きじゃなさそうだから、普通の食べ物を用意させて貰ったよ」
「お、ありがとうございます」

 手伝いが終わった男子二人に、店主のジョージはポテトとベーコンのパンケーキをお茶と一緒に出した。獣人と竜である二人を考慮して、ベーコンは多めにしている。
 カウンターの近くの適当な席に座り、ちょうどお腹が減っていたカケルとオルタナは喜んでパンケーキを馳走になる。

「あと、これは試作品のチーズケーキだ。良かったら…」

 ジョージはケーキの欠片を盛りつけた小皿を運んできて、イヴ達の前にことりと置く。そして、言葉を続けた。

「実は、カケル君の友達の君達に、お願いがあるんだ。うちのケーキが気に入ったなら、定期的に試作品の味見をしてほしい」
「それは全然構わないですけど……」

 イヴとリリーナは顔を見合わせた。
 この店のケーキは美味しいし、試作品をタダで食べられるならお得な話だ。

「あと、うちの連れ合いは最近体調が悪くて、人手が足りてなくてね。オルタナ君、力仕事と給仕を手伝ってくれないかい?」
「はあ」
「やってくれるなら、バイト代は払うよ」
「考えさせてください」

 返事を保留にしたが、オルタナは内心乗り気になっていた。家に帰っていないオルタナは親から小遣いを貰う機会が無く、自由になるお金をあまり持っていない。これを機会に独立資金を貯めても良いかもしれない。

「そうだ!」
「どうしたの、リリーナ」

 何か思いついたように突然声をあげるリリーナ。
 イヴが驚いてケーキを掬う手を止める。

「私達のチームが集まる目的は、このお店に協力することにすれば良いんじゃないの? 目的があればいいんでしょう?」

 イヴは視界の端で、カケルがほんの少し口の端を上げて微笑むのを目撃した。注意しなければ気付かなかっただろう。
 そうか。前面には立たず、それと気付かれないように皆を誘導して、リリーナの望みが叶うようにしたのね。

「お勉強とかお遊戯のために集まるよりかはいいけどな。小隊の対抗戦の話はどうすんだよ」
「だから、この店に定期的に集まって、必要なら話をすれば良いんじゃないの。普段からベタベタするのは嫌なんでしょう」

 面倒臭そうに指摘するオルタナに、リリーナが言い返す。
 イヴはチームの面々の顔を見回したが、オルタナは口で言う程嫌そうな感じではなさそうだった。
 この店に定期的に集まる提案に、誰も反対する空気ではないので、強引に纏める。

「リリーナの言う通りにしましょうか。一応私達チームを組んでる訳だし、この店を目的にさせて貰えば、共通の話題で話せるでしょう」
「てめえが仕切んなよ。リーダーはこっちのカケルだろうが」
「ふえ?」

 ふわふわ笑って見ていたカケルだが、指名されて首を傾げた。

「俺……リーダーだったっけ?」
「またそれかよ。この間決めただろうが」
「やー、イヴかオルトの方が適任だって」

 口ではそんなことを言っても、本当はカケルが仕切っていることに、イヴ達は気付き始めていた。
 決して上から命令するようなリーダーではないが、チームメンバーの願いを叶え、ばらばらなメンバーを纏めて一つの方向に導いている。
 それは我が強いイヴやオルタナには真似できない事だった。

 ふわふわ笑うばかりのカケルはさておき、店主も交えて話すうちに、オルタナが週に何日かバイトすることになり、二週間に一度ほど、皆で週末に喫茶店葡萄に集まることが決定したのだった。



オルタナ「お前、女子に甘すぎんぞ。そのうちに奴ら、付け上がって好き放題言い出すんじゃねーか」
カケル「大丈夫だよー。その時はオルトを囮にして逃げるから」
オルタナ「……(黒いな、寝不足か)」
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