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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.03 パートナー契約?それって食べれるの(と惚けたい)

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05 思い出の残響

 空から少女が降ってくる。

 幼い日、父親に連れられて行った家の庭園を歩いていて、突然空から落ちてきた女の子に踏み潰された。
 その子の顔も名前も覚えていなかったのに、今、鮮やかに思い出が色を帯びて蘇る。


 火災の展望台で、2階から飛び降りたリリーナを受け止める瞬間、オルタナは奇妙な既視感を覚えていた。
 あの日の少女と出会った感覚が思い起こされ、記憶の断片がちくちくと脳を刺激する。まるで思い出せと言っているように。

 高所から落ちたリリーナを受け止めた衝撃で、力の強い獣人のオルタナも流石に尻餅をついた。身体の上に乗っかったリリーナの、柔らかい緑の髪が頬を擽る。
 あの日と同じ、水色の丸い瞳がオルタナの様子を伺った。

「お前……」

 呟いて、一瞬混乱した記憶を整理するように瞬きする。リリーナはオルタナの混乱を見通すように、くすりと悪戯っぽく笑った。

「また助けて貰っちゃったね」
「どういう意味だ?」

 オルタナは聞き返したが、先ほど助けた子供が声を上げたので、それ以上話を続けることは出来なかった。

「お母さん!」
「無事だったのね、良かった!」

 どうやら展望台近辺で子供を探していた母親と、うまいこと合流出来たらしい。
 ひしと抱き合う親子を横目で見つつ、オルタナとリリーナは身体を離して起き上がった。
 展望台を見上げると、リリーナのいた2階の窓近辺に火柱が上がっている。あれ以上2階に留まっていれば、炎に巻かれていただろう。

 火災は展望台の中心の柱を燃やしているらしく、レグルスタワーは高熱に負けて、飴のようにぐにゃりと曲がろうとしていた。
 上空には、客の救出のために出動した竜達が飛び回っている。その中には一際目立つ蒼い竜の姿があった。







 展望台が斜めに傾いで、客の間から悲鳴が上がる。
 悠長にエレベータの復旧を待つような事態でないのは明白で、空には救助に来た民間の一般騎竜達が旋回している。

「こちらの非常口から、おひとりずつ、竜に飛び乗って下さい!」

 展望台の係員が声を張り上げて避難誘導している。非常口は幅が狭く、真下には辛うじて竜一体が通れるスペースしかない。
 女子や子供を優先して、避難が行われた。
 係員は女子のイヴにも声を掛ける。

「さあ、貴女も……」
「いえ、あちらのお爺さんを優先してください」

 よぼよぼのお爺さんを指してイヴはキッパリと言う。
 言われた係員は、元気そうな少女と、今にも天国に召されそうな老人を比較して、老人を優先することにした。
 誘導に従って客達はどんどん竜に乗り込んで、展望台を脱出する。一度遠慮したイヴは、避難する客の列の最後尾についた。係員も無理に避難を勧めたりはしないので、イヴが一番最後になる。

 イヴは険しい面持ちで、避難する人々の様子を見守りながら、空を見回した。その目線が、救助に来た竜達の背後に、異彩を放つ蒼い竜の姿を見つける。

「カケル……!」

 おそらく、いや、絶対心配して見に来てくれたのだろう。
 昨日まで腹立たしく思っていた相手だが、非常事態に飛んできてくれた事は素直に嬉しい。

 もうほとんどの客は展望台から脱出し、残るはイヴと、避難誘導していた女性係員の二人になった。
 その時、展望台を支えていた柱が火災の熱に負けて、急激にバランスを崩す。直径数十メートルの円形をした、強化ガラスで覆われた展望台は、レグルスタワーの歪んだ柱の上から落下しようとしていた。
 一瞬の内に僅かに傾いていた床が急斜面に変貌し、イヴと係員は斜面を滑り落ちた。

「きゃああっ!」
「っつ!」

 女性係員が悲鳴を上げる。
 床に立っていられなくなり、イヴと係員は展望台の窓ガラスの淵まで落ちて、手近な突起を必死に掴んだ。
 幸か不幸か、展望台は非常口の側を下にして傾いているため、すぐそこに出口がある。
 しかし展望台はじりじりと落下を始めており、位置が安定しない。救助に来た竜達は、下手に近付くと展望台と翼が接触して事故が起きるので、展望台から一旦離れて様子を見ていた。

 危険な展望台の真下に、ただ一体、蒼い竜が滑らかに滑り込む。

『イヴ!』

 非常口の下で、展望台に接触しないように注意しながら、蒼い竜がホバリングして待機する。
 イヴは女性係員に手を伸ばすと、不安定な足場に苦闘しながら、彼女と一緒に非常口を目指した。
 ぐらりと揺れる展望台の非常口から、係員の女性を連れて宙に飛び降りる。

 空中に飛び出したイヴを、ふわりと風が包んだ。
 落下の軌道を風が修正して、イヴと係員の女性は無事に竜の背に着地する。
 二人を受け止めた蒼い竜は、展望台の真下から全速力で退避した。竜がその場を去るのと同時に、レグルスタワーの柱がお辞儀をするように折れ曲がる。展望台とタワーは辛うじて繋がっているが、いつ離れて展望台が市街に落下してもおかしくない。
 市街地に展望台が落ちれば、大変な被害が出るだろう。

『イヴ、冷凍フリージングは使える?』
「勿論よ! 展望台を固定しないとマズイわね」

 竜の背で息を整えながら、イヴは呪術の用意をした。
 彼女の肩の上に黒いタキシードを着た白い兎が姿を現す。

『俺のリソースも使って』

《 アカウント名、蒼風アズールウィンドから接続要請 》

 この世界は、人の住む地域を中心に「ダイアルネットワーク」と呼ばれる目に見えない魔法の網が張り巡らされている。竜も呪術師も、魔法を使う時はこの「ダイアルネットワーク」の回路を利用している。
 呪術師は回路を通じて、術式の計算の一部を他者に負担して貰うこともできる。並行で演算することで、呪術師はより規模が大きく強力な術式を実行することが可能となるのだ。
 竜は余剰の領域リソースを解放して呪術師に提供する。ネットワークを通じて相互に接触するこの処理は、余程の信頼関係が無ければ通常実行することはない。
 イヴは、カケルの提案に迷わず頷いた。

「ミカヅキ、接続許可。あのタワーの柱の中心に冷凍フリージング!」

《 了解! 》

 消火が出来るなら、最初事件が起きた時に使えばという声もあるだろうが、中途半端に術を使えば、他の客に当たるかもしれないし、本職の消防隊の活動の邪魔になるかもしれなかった。
 しかし今は、タワー内には客がいない。竜のカケルと力を合わせれば、大規模な呪術の行使が可能だ。
 イヴは遠慮なく全力で呪術を放った。

冷凍フリージング!」

 タワーの中心が急速に冷凍され、凍りつく。
 高熱で柔らかくなっていた柱が元の固さを取り戻し、展望台と接着したまま凍りついた。タワーの根本で起きていた火災も、冷気にあてられて鎮火していく。
 周囲で様子を見ていた竜達から歓声が上がった。

 無事に展望台を固定出来た事を確認して、イヴは安堵する。ついでに火災も収まりそうだ。カケルと協力して放った呪術は、思った以上の威力で、十分過ぎる成果が出ていた。
 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、彼女は呟く。

「……来てくれてありがとう、カケル」
『!』

 竜の聴力は彼女の小さな声を漏らすことなく拾った。蒼い竜は一瞬ひどく動揺したが、背中にはイヴ以外に係員の女性もいたので、動揺を押さえ込んで無言を通す。

 蒼い竜は他の竜達と一緒に地上に降りて、係員の女性を降ろし、チームメイト達と合流した。


作者「ちょっと火をつけるだけのつもりだったのに、大火災になって、展望台がヤバい!展望台落ちたら大惨事じゃん!あー、ヒヤヒヤした…」
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