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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.01 君に出会った時から俺の(昼寝)人生設計が崩れ始めた

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02 キャンプに出発

 兄貴分のロンドのおかげで教師の説教を免れたカケルは、そのまま他の生徒と一緒に授業を受けた。
 お昼寝大好きなカケルにとって授業は絶好の睡眠時間である。
 うとうと惰眠をむさぼっていると、チョンチョンと肩を突かれた。

「ふあぁ、何?」

 目覚めると、クラスメートの少女、リリーナがカケルを覗き込んでいた。
 横目でちらっと壁掛け時計を見ると午前も終わりの時間になっている。

「進路希望のアンケート用紙の提出よ。早く出して」

 彼女はカケルと同じクラスの女子だ。
 明るい緑の髪と大きい二重の水色の瞳が印象的で、美人という訳ではないが、愛嬌のある顔立ちをしている。
 目立つ色の髪は肩口で切り揃えられて、ふんわり内巻きになっていた。

 急かされたカケルは机の引き出しを探ってアンケート用紙を取り出し、その場で記入する。

「カケルは、生産科にするの?」

 目の前で記入を始めた同級生の姿に、リリーナは苦笑しつつアンケート用紙を覗き込んで聞く。
 カケルはペンを走らせる手を止めて「うん」と肯定した。

 カケル達は現在この学校の3年生。
 4年生からは専門の学科を選ぶことになっているのだが、アンケート用紙はその希望を生徒に聞くものだった。

「リリーナも生産科だよな。これからもよろしく」

 4年生からの選択科目の内、生産科はもっとも志望者が多い科目だ。
 この世界には人間を襲って食らうモンスターの類が存在する。しかしいくらモンスターがいると言っても、積極的に命がけの戦いに赴こうとする者は限られる。戦闘にも研究にも興味を見いだせなければ、消去法で生産科になる。

 一方、戦闘科目は、名前通り活動場所で陸と空に分けられていた。この科目の卒業者は、だいたいもれなくエファラン国軍に就職する。陸戦科と空戦科は、軍人を育てる学科なのだ。

「カケル、竜になるって言ってるから、空戦科かなぁと思ったのに」

 空戦科は、竜騎士志望の人間と、戦闘向け騎竜になりたい竜が選ぶ科目だ。一般的に竜騎士と、竜騎士の騎竜は花形の職業で、竜になりたい若者は大概は空戦科を選択する。
 リリーナの疑問はこの世界の常識からすれば、至極当然のことだった。
 しかし、カケルの考えは違うようだ。

「あんなしんどそうな科目、俺が選ぶと思うか? 俺は昼寝がしたいの」
「生産科だって、昼寝できる訳じゃないと思うけど」
「画期的な安眠グッズを開発して特許で億万長者を目指すのだ。見て見て!」

 そう言ってカケルは椅子の上に放り出した鞄から、ごそごそとブツを取り出して食堂の机の上に並べた。
 木目の机の上に、ベージュのフェルト布で作られた拳より小さい縫いぐるみが並ぶ。

「これ何?」
「羊さん。可愛いでしょ!」
「可愛いけど……」

 リリーナはひとつ手にとって検分する。
 羊毛は白い綿で、小さな頭部には暗い色のビーズの瞳が飾られている。
 器用なものだとリリーナは感心した。丸っこい縫いぐるみには絶妙なバランスでパーツが配置されていて、乙女心を刺激する。

「で、これは何に使うの?」
「数える」
「……」
「来週の野外演習に持っていって、眠れない時にこれを数えるんだ!」
「へ、へえー」

 カケルは大真面目に答える。
 何と返事したものか迷ってリリーナは視線をさまよわせた。羊さんをそっと机の隅に置き、彼女は別の話題を振ることにした。

「ところで、もう竜になれたの?」
「まだ……」

 楽しそうに羊さんを並べていたカケルは、一転悲しそうな表情になる。
 彼等は18歳。種族の選択をする年齢だ。

「大丈夫? もうそろそろ皆選んで、種族が変わってるわよ。これ以上遅くなると、竜になれないかも」
「言わないで! せっかく竜の鱗のお守りを買って祈願してるのに」

 18歳前後で種族が定まるが、その時期には個人差がある。薬などで強引に種族を決めることも可能だが、身体に負担が掛かるので推奨されていない。
 18歳を過ぎて変化がなければ、人間のままになる可能性が高い。
 リリーナは既に人間という種族のままでいることを選択していた。
 人間を選ぶ場合は、他の種族に変化しないように簡単な手術を受ける。痛みもなく一瞬の作業だ。手術を受けなければ他の種族になる可能性は残るが、18歳以降で変化するケースはとても少ない。

「うう……早く竜になってお昼寝したいよお」

 カケルは切実な様子で呟いた。
 お昼寝はともかくとして、リリーナは少し同情する。望んだ種族になれなければ、将来の職業も考え直さなければならない。それはこの世界の若者にとって結構大変なことなのだ。




 それから数日後。
 カケル達は学校の行事で野外演習に参加していた。

 演習の舞台となるユルグ峡谷は、エファランの北西部に位置する辺境の地だ。
 カケル達の学校はエファランの王都レグルスにあるが、そこからは遠く距離が離れている。少なくとも、一日や二日歩いた程度では辿り着けない距離だろう。竜に乗っても半日は掛かる。
 飛行機や自動車がないこの世界の交通手段は、竜だ。
 学校に雇われた運送業をやっている竜逹はユルグ峡谷まで生徒や教師を輸送する。
 学生や引率の教師を乗せた一般の騎竜達は、列をなして谷の上に次々と舞い降りる。付近は木々が少なく、蛇行する川が深い絶壁を築いていた。見渡す限り深い谷がうねうねと大地を割って続いている。

 学生達を降ろすと、緊急時のために2体の竜が残って他はUターンした。
 3年生全員あわせて80名余りの生徒を前に、教師が演習開始の宣言をした。

「これから3日間、野外演習を行う。
 決められたチームごとにこの地図の目標地点に行くように。
 ではチーム分けを発表する!」

 教師がチーム分けが書かれている紙を手に点呼し始める。
 カケルは中々名前が呼ばれないなと思いながらぼうっとしていた。
 他の生徒達がまとまって移動を始めた頃、よく知っている声がカケルを呼んだ。

「カケル」
「あれ、ロンド兄?」

 そこにはカケル達3年生より一学年上で、本来ここにいる筈のないロンドの姿があった。

「どうしてここにロンド兄がいるの?」
「引率が足りないとかで駆り出された」

 苦虫をかみつぶしたような顔でロンドは説明する。
 彼は手にした紙をひらひら振った。

「お前はこっちだ、来い」

 手招きされてカケルはロンドの元に近寄った。
 だが、行く先には先客がいた。

「……最後のメンバーは彼ですか?」

 凛々しい眉をしかめて言ったのは、カケルの密かな天敵、イヴ・アラクサラだった。空色の瞳には刺々しい光がみえる。彼女を初めとして、顔見知りの数人がロンドを取り囲んでいた。

 不満そうに口を尖らしながら、肩で切り揃えられた髪の毛をいじっている同級生で同じクラスのリリーナ・アルフェ。

 隣には派手な金髪を逆立てた目付きの悪い青年が立っている。
 彼はよく校舎裏で喧嘩していることで有名な生徒だった。名はオルタナ・ソレル。
 カケルとは友人という訳ではないが、何かの機会に喋ったことがある程度の知り合いではある。

 同級生たちは、どう贔屓目に見ても受け入れに友好的でない目でカケルを見ている。
 彼等、彼女達の不満を代表したのか、口火を切ったのはイヴだった。

「なぜ私と、この授業をサボってお昼寝ばかりしている彼と」

 彼女はカケルに目線をやり、次にオルタナを見た。

「喧嘩ばかりで落第寸前の彼が、同じグループなんですか。いささか悪意を感じるのですが」
「悪意などないよ。ただバランスを重視した結果、こうなっただけだ」

 どこかで聞いたようなお題目で弁解するロンドに、イヴはくって掛かった。

「バランスより結果でしょう。優秀な者同士集めれば、スムーズに演習できるのに、こんな極端なメンバーを集めてうまくいく筈がありません。
 理想主義の行き過ぎか、私の成績を妬んだ誰かの嫌がらせとしか思えないわ」

 イヴの訴えを聞いたオルタナが鬱陶しそうに呟く。

「……自信過剰じゃねーの」
「なんですって?」

 振り返ったイヴがオルタナを睨む。
 二人の間で火花が散った。

「やー、なんだか楽しそうだなぁ」

 睨み合う二人を諌めるでもなく、また見下されていることに腹を立てるでもなく、カケルはふわふわと笑った。
 その時、カケルの背負っている鞄からポロッと何かこぼれ落ちる。
 拳より小さいそれは、例の安眠グッズ、羊さんの縫いぐるみだった。

「本当に持ってきたの?!」
「うん」

 羊さんの縫いぐるみを見たリリーナは思わず突っ込んだ。
 笑顔で頷くカケル。
 とことんマイペースなカケルと、睨み合っているイヴとオルタナ。
 同級生の様子を確認したリリーナは嘆いた。

「何なのこのメンバー! 普通の生徒は私だけなの!?」


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